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「あきちゃんの不動産お役立ちコラム」の記事一覧(112件)

不動産暦50年のあきちゃんが神戸市北区の皆様に不動産に関するお役立ち情報をお届けします。

箕谷を選ぶ人が最近増えている理由
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報  / 投稿日付:2026/08/16 09:15

こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。

今日は、箕谷のお話をします。神戸電鉄有馬線で、谷上のひとつ鈴蘭台寄りにある駅です。

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正直に申し上げます。私が若い頃、箕谷というのは「通り過ぎる場所」でした。

お客様に「箕谷はどうですか」と言っても、ほとんどの方が「もう少し街のほうがいい」とおっしゃった。田んぼがあって、山があって、駅前に何もない。そういう場所でした。

ところが、この5年ほどで空気が変わりました。箕谷を見に行きたい、とおっしゃる方が明らかに増えています。

今日は、なぜそうなったのかを書きます。そして、その裏側にある弱点も、隠さず書きます。


結論から申し上げます


箕谷が選ばれている理由は、たったひとつです。

電車と車の両方が、まともに使えるからです。

はっきり申し上げます。北区で、この2つが同時に成立している場所は、実はほとんどありません。

電車が便利な場所は、たいてい駐車場が付いていないか、付いていても1台がやっとです。車が使いやすい場所は、たいてい駅が遠いか、バス便です。

箕谷は、そのどちらでもありません。谷上の隣で、新神戸トンネルの入口があって、そのうえ家に車が2台停まる。

これは断言できます。箕谷の価値は、風景でも駅前の便利さでもありません。動き方の選択肢が多いこと、これに尽きます。


1. 谷上の隣、という位置の意味


まず、位置を整理します。神戸電鉄有馬線を鈴蘭台側から見ると、北鈴蘭台、山の街、箕谷、谷上、と並びます。

箕谷は、谷上のひとつ手前です。電車でひと駅、時間にして数分です。

ここで一歩立ち止まってください。谷上という駅が、この10年で何をしたか、という話です。

谷上は、北神線が市営地下鉄になって運賃が大きく下がりました。三宮まで10分ちょっと、乗り換えなし。北区の駅で、これができるのは谷上だけです。

その結果、どうなったか。谷上の物件が、上がりました。とくに駅から歩ける範囲が上がりました。

私のところに来られるお客様も、まず谷上を見られます。そして、多くの方が同じところでつまずかれます。予算です。

谷上の駅近で、駐車場が付いて、家族が住める広さ。これを探すと、予算がひとつ上のところに行ってしまう。

そこで「もうひと駅、外に出てみましょうか」となる。その、もうひと駅が箕谷なのです。

50年やってきて分かったことがあります。人気の駅の隣は、必ず後から動きます。人気の駅が高くなると、はじき出された人がそこへ流れるからです。箕谷は今、まさにその位置にいます。


2. 新神戸トンネルという、もうひとつの入口


ここが、箕谷の一番の武器です。箕谷には、阪神高速の箕谷ランプがあります。新神戸トンネルの北の入口です。

車に乗って、トンネルに入って、抜けたらもう新神戸です。三宮まで、混んでいなければ15分ほどです。

これは、北区の他のエリアと比べると、かなり特殊です。

大池や神鉄六甲から車で三宮へ行こうとすると、有馬街道を下りるか、高速を乗り継ぐことになります。鈴蘭台から車で三宮へ出るのも、山越えです。

箕谷は、家を出て数分で高速の入口です。このひとつで、車の使い勝手がまったく変わります。

そしてもうひとつ、これは意外と知られていません。箕谷には、パーク・アンド・ライドの駐車場があります。

車を停めて、三宮行きのバスに乗り換える。昭和50年代から続いている仕組みで、全国的にも早い時期に始まった例です。

雨の日、雪の日、あるいは飲みに行く日。車を置いて、バスで三宮に出られる。

これは覚えておいてください。箕谷にお住まいの方は、電車、車、パーク・アンド・ライドのバス、この3つを使い分けておられます。

3つあるということは、ひとつが止まっても困らないということです。神戸電鉄が止まっても、車があります。雪で山越えが厳しくても、電車があります。

この安心感を、住んでみて初めて分かったとおっしゃる方が多いのです。


3. 車が2台停まる、という当たり前でないこと


3つ目です。ここは地味ですが、非常に大きい。箕谷のあたりの一戸建ては、駐車場が2台取れる家が珍しくありません

なぜか。土地が広いからです。

箕谷から山田町にかけては、山を段々に削って作った団地ではなく、もともと谷筋の平らな土地や、農地だった場所に家が建っている区画が多くあります。ですから、1区画が広い。50坪、60坪、70坪という土地が普通に出ます。

はっきり申し上げます。これは、これからの北区で効いてきます。

今、40代50代のご夫婦で家を探しておられる方は、ほぼ全員が車をお持ちです。そして、お子さんが大きくなれば2台目が要ります。ご両親が来られれば来客用も要ります。

ところが、駅近の物件ほど駐車場が狭い。1台分で、しかも軽自動車がやっと、という物件を私は何十件も見てきました。

月極を借りればいい、とおっしゃる方がおられます。北区でも駅に近いところは、月に1万円前後かかります。1年で12万円、10年で120万円です。

この差は、家の値段に換算すれば数百万円分です。見落とされがちですが、大きな金額です。


4. 実際にあった3つの話


ここからは実例です。細かいところは変えていますが、金額と流れはそのままです。

まずMさんご夫婦です。ご主人が43歳、奥様が40歳。お子さんが2人。ご主人は三宮の会社、奥様は西区の職場に車で通っておられました。

最初、Mさんは谷上でお探しでした。条件は、駅から歩けること、駐車2台、4LDK、予算は3,000万円台の前半。

はっきり申し上げました。「谷上のその条件は、出ないことはありませんが、出たら数日で決まります。そして予算を超えます」と。

実際、Mさんが見に行かれた谷上の物件は3,780万円でした。駐車は1台。悩んでおられるうちに、2週間で売れました。

そこで箕谷をご覧いただきました。築18年、敷地62坪、4LDK、駐車2台、箕谷駅まで歩いて9分。値段は2,880万円でした。

Mさんは、こうおっしゃいました。「谷上より900万円安くて、駐車場が1台増えて、土地が20坪広いんですか」と。

そのとおりです。ひと駅外に出るだけで、これだけ変わります。

ご主人は、朝は箕谷から電車で谷上へ、そこから地下鉄で三宮へ。雨の日や遅くなる日は、車でトンネルを抜けて行かれます。奥様は、車で西区へ。箕谷ランプから北神戸線に乗れば、下道より早く着きます。

入居されて4年目に、こうおっしゃいました。「谷上で無理をしなくて、本当によかったです」と。

次はNさんです。当時36歳の男性で、独身のときに買われた方です。Nさんは、大阪にお勤めでした。

Nさんが選ばれたのは、箕谷駅から徒歩14分、築25年、敷地55坪の一戸建てで1,650万円でした。

ここは正直に申し上げます。私は、少し止めました。

独身の方が、駅から14分の一戸建てを買われる。もし転勤があったら、もし結婚して住む場所が変わったら、その1,650万円がすぐには現金に戻りません。

Nさんは、こうおっしゃいました。「10年住んで、1,000万円で売れたら、家賃だと思えば安いものです」と。

そのお考えは、悪くありません。実際、Nさんは7年住まれて、結婚を機に売られました。売値は1,480万円でした。売却期間は4か月です。

これは断言できます。北区で、築30年を超えた一戸建てが4か月で売れるのは、早いほうです。

なぜ早かったか。駐車2台、平坦、そして箕谷ランプが近い。この3つを気に入って買われた方が、県外からの転勤の方だったのです。

申し上げたいのは、買うときに「出口」を見ておられたということです。Nさんは、7年後に自分が売る側になることを想定して、売りやすい条件の家を選ばれました。

最後にOさんです。当時71歳の女性で、箕谷にお住まいでした。ご主人を亡くされて、お一人になられた方です。

Oさんは、車の運転をやめられました。そして、山田町の奥のほうにあるご自宅から、駅前の生活へ移りたいとお考えになりました。

ここで、はっきり申し上げます。同じ箕谷でも、駅から歩ける場所と、車が前提の場所では、値段がまったく違います。

Oさんのお宅は、箕谷駅から車で8分、バスの本数が少ない場所にありました。敷地は88坪と広く、庭も立派でした。

Oさんは「土地が広いから、2,000万円にはなりますよね」とおっしゃいました。私が申し上げた金額は980万円から1,200万円でした。

Oさんは、驚かれました。「こんなに広いのに」と。

ここが、箕谷を語るうえで一番大事なところです。箕谷が今、選ばれているのは、駅とトンネルの近さがある区画です。同じ箕谷でも、そこから外れた区画は、他の郊外エリアと同じ値段になります。

結局、Oさんのお宅は1,050万円で売れました。期間は7か月です。

売れないわけではありません。ただ、駅前の家より倍の時間がかかった。それが現実です。


5. 業界の裏側を、隠さず書きます


箕谷は今、値段が動いているエリアです。そういう場所には、必ずよくないやり方が出てきます。全部書きます。

ひとつ目。「谷上エリア」という書き方です。

箕谷の物件が、広告で「谷上エリア」「谷上まで1駅」と書かれることがあります。嘘ではありません。実際、ひと駅です。

しかし、そう書いてある広告に限って、最寄り駅の徒歩分数が小さく書いてあります。そして、その物件は箕谷駅からバスだったりします。

必ず、最寄り駅の名前と、そこからの徒歩分数を確認してください。そして、その分数は不動産の広告では80メートルを1分として計算します。坂があっても、そこは加味されません。

ふたつ目。「箕谷インターすぐ」という言葉です。

これも嘘ではありませんが、意味を確認してください。「すぐ」と書いてあっても、その家から高速の入口まで、車で何分かかるかは書いてありません。

それから、これも申し上げておきます。高速の入口が近いということは、幹線道路が近いということでもあります。です。

夜、窓を開けたときにどう聞こえるか。これは昼間の内覧では分かりません。必ず、夜にもう一度、現地に行ってください。

三つ目。駐車2台の見せ方です。

「駐車2台可」と書いてある物件で、実際に行ってみると、縦に2台並べる形だった、ということがよくあります。

縦列というのは、奥の車を出すのに手前の車をどけないといけません。ご夫婦で出る時間が違うご家庭では、毎朝これをやることになります。

図面に「2台」とだけ書いてある物件は、必ず現地で幅を測ってください。メジャーを持って行って、実際に測る。これをやる方は10人に1人もおられませんが、やるべきです。

四つ目。市街化調整区域の話です。

箕谷から山田町にかけては、市街化調整区域が広く含まれます。

ここは大事なので、はっきり申し上げます。市街化調整区域の土地は、原則として新しく家を建てられません。

今建っている家に住むことはできます。しかし、建て替えができるかどうかは、条件によって変わります。

そして、こういう物件は住宅ローンが通りにくい。ローンが通らないということは、現金で買える方しか買えないということです。

「安いですね」と思われた物件が、この理由で安いことがあります。契約の前ではなく、見に行く前に「この土地は市街化区域ですか、調整区域ですか」とお聞きください。

五つ目。囲い込みです。

箕谷のように、今動いているエリアの物件は、囲い込みが起きやすい。

他社から「お客様が興味を持っています」と連絡が入っても、「今、商談中です」と断る。そして自社のお客様に売って、売主と買主の両方から手数料をもらう。両手というやり方です。売主さんには「まだ反応が薄いですね」と伝わります。

防ぎ方を申し上げます。媒介を結ばれるときに、「他社からの問い合わせが何件あったか、毎回書面で教えてください」と言ってください。

この一言を最初に言っておくだけで、まずやりません。言わない売主さんが、狙われます。


6. デメリットを全部書きます


いい話ばかりでは嘘になりますから、弱点を並べます。

  • 駅前に大きなスーパーがなく、買い物は車が前提になります
  • 神戸電鉄の運賃は安くなく、谷上での乗り換えも必要です
  • 駅から離れた区画はバスの本数が少なく、車がないと成り立ちません
  • 市街化調整区域があり、建て替えや融資で制約が出る土地があります
  • 三宮と比べて冬が寒く、雪が積もる日があります
  • 新築の分譲が多くなく、選べる物件の数が限られます
  • 幹線道路や高速の近くは、夜の音が気になる場所があります
  • 駅から遠い区画は、売るときに時間がかかります

そして、これも書いておきます。箕谷が良いと申し上げているのは、あくまで駅とトンネルが使える範囲の話です。

山田町の奥まで行けば、景色は素晴らしいですが、生活は変わります。Oさんの例で申し上げたとおり、同じ地名でも値段は倍近く違います。

はっきり申し上げます。「箕谷だから大丈夫」ではありません。「箕谷のどこか」で決まります。


7. どういう方に向いているか


公平に、向いている方を書きます。

  • ご夫婦のどちらかが車で通勤され、どちらかが電車で三宮方面へ通われるご家庭
  • 車を2台お持ちで、それを停める場所に月々払いたくない方
  • 谷上を見たけれど、予算が届かなかった方
  • 土地の広さに価値を感じておられる方

こういう方には、箕谷は良い選択です。

逆に、向いていない方も申し上げます。

  • 車を運転されない方、あるいは近いうちにやめる予定のある方
  • 駅前に店が揃っていることを重視される方
  • お子さんの学校や塾で、毎日の送り迎えを避けたい方

こういう方は、藤原台や岡場のほうが合います。

50年やってきて分かったことがあります。エリアに良い悪いはありません。合う合わないがあるだけです。そして、合わない場所を選ばれた方は、10年以内に必ず売りに来られます。


まとめ


箕谷を選ぶ方が増えている理由を、もう一度申し上げます。

谷上のひとつ隣で、三宮まで乗り換えて20分ほどで出られること。箕谷ランプがあり、車で新神戸トンネルを抜ければ三宮まで15分ほどであること。そして、家に車が2台停まり、土地が広いこと。

この3つが同時にそろう場所は、北区にそう多くありません。

ですが、これは箕谷という地名についてくるものではありません。その物件が、この3つを実際に持っているかどうかです。

ですから、箕谷で物件をご覧になるときは、この4つを確かめてください。

  • 箕谷駅まで、実際に歩いて何分か
  • 箕谷ランプまで、車で何分か
  • 駐車2台が、横並びか縦列か
  • 市街化区域か、調整区域か

この4つが良ければ、多少高くてもそちらを選んでください。その差は、売るときに返ってきます。

これは断言できます。箕谷で失敗される方は、地名で買われた方です。成功される方は、その一区画を見て買われた方です。


最後に、これだけは申し上げたい


もし今、谷上をご覧になって予算が合わないとお感じなら、箕谷を一度見てみてください。同じご予算で、見えるものがかなり変わります。

そして、すでに箕谷や山田町に家をお持ちの方。ご自分の家が、駅とトンネルが効く区画にあるのか、そうでないのか。ここは一度、確かめておいてください。この差が、そのまま値段の差になります。

私は売るために書いているのではありません。損をしていただかないために書いています。見ていただいたうえで「やっぱり谷上にします」でも、まったく構いません。

ご相談だけで結構です。図面をお持ちくだされば、その一区画がどういう場所か、正直に申し上げます。

センチュリー21・ハートピア
田中章雄

大池・神鉄六甲を「安いから」で買ってはいけません
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報  / 投稿日付:2026/08/15 08:31

こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。

今日は、大池と神鉄六甲のあたりのお話をします。神戸電鉄有馬線で、谷上から有馬口へ向かう途中にある、2つの小さな駅です。

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このエリアの物件をご覧になった方は、たいてい同じことをおっしゃいます。

「え、この値段で一戸建てが買えるんですか」と。

正直に申し上げます。安いです。北区の中でも群を抜いて安い。同じ神戸市内とは思えない値段の物件が、実際に出ています。

ですが今日は、その安さの前で一度立ち止まっていただくために書きます。安い理由を、隠さず全部書きます。


結論から申し上げます


大池・神鉄六甲エリアは、「安いから」という理由だけで買ってはいけません

はっきり申し上げます。

ここの安さは、お買い得だから安いのではありません。買いたい人が少ないから安いのです。

そして、買いたい人が少ないということは、あなたがいずれ売るときにも、買いたい人が少ないということです。安く買えた喜びは、売るときに同じ形で返ってきます。

これは断言できます。

このエリアで一番怖いのは、買うときの値段ではありません。売りたいときに売れない、という事実のほうです。

ですから今日は、値段の話ではなく「出口」の話を中心にします。


1. まず、この2つの駅がどういう場所か整理します


神戸電鉄有馬線を、三宮側から順に見ていきます。谷上、花山、大池、神鉄六甲、唐櫃台、有馬口。

今日お話しするのは、この真ん中の2つです。谷上からわずか2駅、3駅。距離だけを見れば、近いのです。

ここで一歩立ち止まってください。「神鉄六甲」という駅名です。

私が若い頃、この駅は「六甲登山口」という名前でした。名前のとおり、六甲山へ登る人が使う駅だったのです。

ですから、はっきり申し上げておきます。神鉄六甲駅は、六甲山の上ではありません。六甲山の裏側の、ふもとの入口です。

駅から六甲山上まで歩いて上がるのは、散歩ではなく登山です。

「六甲」という名前の響きで、おしゃれな高台の住宅地を想像して来られる方がおられますが、まったく違う場所だとお考えください。

大池駅のほうも整理します。大池駅の周りには、昭和40年代から50年代にかけて造成された住宅地が広がっています。大池見台のような、山の斜面を段々に削って作った分譲地です。

ここは正直に申し上げます。当時、これは夢のマイホームでした。私はその頃、実際にこのあたりの区画を売っていた人間です。

高度成長期で、神戸の市街地はもう買えない値段になっていました。だから山を削って、電車を通して、そこに家を並べた。それが北区という街の成り立ちです。

50年やってきて分かったことがあります。街には、伸びる時期と、縮む時期があります。そして縮む時期は、必ず端から始まります


2. なぜここまで安いのか。理由は4つあります


理由をぼかしません。4つ、はっきり書きます。

ひとつ目。駅の力が弱いことです。

この2つの駅は、乗り降りされる方の数が、北区の主要駅とはまるで違います。駅前にスーパーがありません。大きな商業施設もありません。日常の買い物は、車で岡場か有馬口方面、あるいは谷上まで下りることになります。

駅というのは、人が集まるから価値が生まれます。集まらない駅は、あるだけでは値段を作りません。

ふたつ目。坂とバス便です。

これは唐櫃のあたりと同じ構造ですが、こちらのほうがさらに厳しい区画が多い。駅から平坦に歩ける家は、本当に限られています。

多くのお宅が、駅から坂を上がった一帯にあります。広告の徒歩12分が、実際に歩くと17分になる。しかも帰りが上りです。

三つ目。造成が古いことです。これが一番、値段に効いています。

昭和40年代の造成というのは、今の基準で作られていません。具体的に申し上げます。

  • 擁壁が古く、作り直しが必要になる区画がある
  • 道路が狭く、車がすれ違えない場所がある
  • 私道で、持分の整理がついていない土地がある
  • 接道の条件が悪く、そのままでは建て替えができない土地がある

これは覚えておいてください。「建て替えができない土地」というものが、実際にあるのです。今建っている家は住めます。しかし壊したら、次が建たない。

こういう土地は、住宅ローンが通りにくくなります。ローンが通らないということは、現金で買える人しか買えないということです。買い手が、一気に細ります。

四つ目。買い手の層が細いことです。

上の3つを全部足すと、こうなります。車が運転できて、坂の生活を受け入れられて、現金またはローンの目処があって、なおかつこの場所を積極的に選ぶ人。

この条件に当てはまる方が、どれだけおられるか。想像してみてください。


3. 安さの本当の意味は「出口」にあります


ここからが、今日一番申し上げたいところです。数字で申し上げます。細かい条件で変わりますので、私の実感としてお聞きください。

大池駅から徒歩10分以内、比較的平坦、駐車1台から2台、築30年前後の一戸建て。これで「780万円から1,050万円」あたりです。

同じエリアでも、坂を上がった区画、あるいはバス便になる場所。同じ広さ、同じ築年数でも「350万円から550万円」まで落ちます。

岡場や藤原台の駅近で同じような一戸建てを買おうとすれば、2,000万円台は必要です。ですから、数字だけを見れば「半額以下」に見えます。ここで飛びつかれる方が多い。

ここで、出口の話をします。

岡場の駅近マンションであれば、値段さえ間違えなければ、2か月から3か月で売れます。このエリアの、坂の上の一戸建て。私の実感で、平均10か月。1年半かかることも、2年たっても売れずに取り下げになることも、珍しくありません。

はっきり申し上げます。これは、値段を下げれば売れるという話ではないのです。

300万円の家を、200万円にしても売れないことがあります。なぜか。買う方は「安い家」を探しておられるのではなく、「住める家」を探しておられるからです。

安すぎる家には、必ず理由があります。そして買い手は、その理由を怖がります。安ければ安いほど怖がるのです。

もうひとつ、業界の構造の話をします。これは書いていいのか迷いましたが、書きます。

仲介の手数料は、売買代金に比例します。3,000万円の家を売れば、それなりの金額になります。300万円の家を売っても、ごくわずかです。

そして、はっきり申し上げます。300万円の家を売る仕事と、3,000万円の家を売る仕事は、手間がほとんど同じです。むしろ安い家のほうが、調べることが多くて手間がかかります。

ですから、どうなるか。安い物件は、後回しにされます。ポータルサイトに載せて、あとは放置。問い合わせが来たら対応する。それだけです。

これは断言できます。安いエリアの物件を売るときに一番困るのは、値段ではありません。真面目に動いてくれる会社が少ないことです。


4. 実際にあった3つの話


ここからは実例です。細かいところは変えていますが、金額と流れはそのままです。

まずJさんです。当時52歳の男性で、大阪にお勤めでした。お子さんが独立されて、ご夫婦2人になったところで、賃貸から持ち家に移りたいとお考えでした。

Jさんが見つけてこられたのが、神鉄六甲駅から徒歩14分の一戸建てでした。築32年、敷地55坪、駐車2台、庭付き。値段は「620万円」でした。

Jさんはこうおっしゃいました。「今の家賃が月9万円です。620万円なら、6年分の家賃で家が買えることになります」と。

計算としては、そのとおりです。私は反対しませんでした。ただ、3つだけお伝えしました。

  • この家は、10年後にほとんど値段が付かない可能性が高いこと
  • 雪と凍結で、冬に車が上がれない日があること
  • いずれ運転をやめたときに、この場所での生活は非常に厳しくなること

Jさんは、それを分かったうえで買われました。「最後まで住むつもりだから、売る話はしなくていい」とおっしゃって。

ところが、10年後です。奥様のお身体の具合が悪くなり、通院が週に2回必要になりました。

大きな病院は、山を下りたところです。冬の朝、坂が凍っている日に、奥様を乗せて下りるのが怖くなったとおっしゃいました。

ご相談を受けて、私が申し上げた金額は「250万円から330万円」でした。Jさんは、しばらく黙っておられました。

はっきり申し上げました。「この値段を作っているのは築年数ではありません。この道と、この坂です。10年前から何も変わっていませんし、これから先も変わりません」と。

結局「290万円」で売れました。時間は13か月かかりました。

ここで申し上げたいのは、Jさんが失敗したということではありません。10年間、家賃9万円を払えば1,080万円出ていきます。620万円で買って290万円で売れたのなら、住居費は330万円で済んだことになります。

計算だけを見れば、損はしておられません。申し上げたいのは、その次です。

Jさんは、13か月動けなかったのです。奥様の通院が大変になってから、次の家に移るまで、13か月かかりました。この13か月は、お金では取り戻せません。

次はKさんご夫婦です。当時、ご主人が38歳、奥様が36歳。お子さんがお一人。こちらは、私が担当した売主さんの相手方として、後から事情を知ったケースです。

Kさんは、大池のバス便の区画に「480万円」で家を買われました。見に来られたのは、5月のよく晴れた日曜の午後だったそうです。

眺めがよくて、庭が広くて、そして何より安かった。ご夫婦は、その日のうちに買付を入れられました。

ここではっきり申し上げます。5月の日曜の午後に見ただけで、家を決めてはいけません。

Kさんが最初につまずかれたのは、冬でした。坂道が凍って、朝、車が下りられない日が年に何日かあります。保育園の送りに間に合わない。

次につまずかれたのが、バスです。本数が少なく、1本逃すと大きく狂います。奥様がパートに出ようとされたのですが、時間が合わないという理由で断念されました。

3年目に、ご夫婦は売却を決められました。査定は「280万円から350万円」でした。480万円で買って、3年で、です。

しかも、これで終わりではありません。買われたときに諸費用が60万円ほどかかっています。売るときにも費用がかかります。

ご夫婦は結局、その家を貸すことにされました。家賃は月4万5,000円です。売れないから貸す、という選択でした。

これは覚えておいてください。売れない家を持つと、選択肢がなくなります。持ち続けるか、貸すか、その2つしか残りません。

最後にLさんです。当時79歳の女性で、県外にお住まいでした。お母様が亡くなられて、大池の実家を相続されたご相談でした。

築48年、坂の上、駅から徒歩20分以上、敷地60坪。ご家族はどなたも神戸におられませんでした。

Lさんは、こうおっしゃいました。「母が大事にしていた家です。1,000万円くらいにはなりますよね」と。

はっきり申し上げました。「1,000万円にはなりません。私の見立てで、150万円から250万円です」と。

Lさんは、信じられないという顔をされました。無理もありません。ご両親が、当時の大金を出して買われた家です。

この家には、もうひとつ問題がありました。擁壁が古く、建て替えるとなると作り直しが必要でした。その費用が、家の値段より高くなる可能性がありました。

はっきり申し上げます。こういう不動産は、実際にあります。売っても手元に残らない、それどころか持っているだけで出ていく不動産です。

固定資産税が年に6万円ほど。年に2回、草刈りをしに来るのに、県外から交通費と宿泊費。それだけで年に10万円を超えます。

最終的に、この家は「180万円」で売れました。かかった時間は8か月でした。

Lさんは、こうおっしゃいました。「もっと早く相談していれば、母が元気なうちに片付けられたのに」と。

これは断言できます。このエリアの空き家を相続される可能性がある方は、相続してから考えては遅いのです。ご両親がお元気なうちに、一度、値段を確かめておいてください。


5. 業界の裏側を、隠さず書きます


このエリアの売買には、よくないやり方がいくつも絡みます。全部書きます。

ひとつ目。「六甲」の名前を使った売り方です。

神鉄六甲の物件が「六甲エリア」「六甲の高台」として広告に出ることがあります。嘘ではありません。駅名が神鉄六甲ですから。

しかし、六甲と聞いて多くの方が思い浮かべるのは、灘区や東灘区の南側の街です。まったく別の場所です。

物件の広告を見て「六甲」と書いてあったら、必ず最寄り駅の正式な名前を確認してください。そして、その駅から三宮まで実際に何分かかるか、乗り換えは何回かを、ご自分で調べてください。

ふたつ目。「安いから何でも売れます」と言って媒介を取る会社です。

これは売主さん側の話です。安い物件の売却を頼まれた会社が、「大丈夫です、この値段なら買い手はいますよ」と軽く言って専任媒介を取る。

そして、ポータルサイトに写真を5枚載せて終わり。あとは3か月ごとに「反応が薄いので、少し下げましょうか」と連絡が来るだけです。

なぜそうなるか。理由は先ほど書いたとおりです。安い物件は、手数料が小さいからです。

ですから、媒介をお願いされるときは、こうお聞きください。「この物件のために、具体的に何をしていただけますか」と。

「広告を出します」だけの答えなら、その会社は何もしません。「チラシを近隣に何枚まきます」「現地でこういう見せ方をします」「この層に声をかけます」と具体的に言える会社を選んでください。

三つ目。高預かりです。これは相続で持たれた方が、特に狙われます。

ご相続された方は、その家の相場をご存じありません。そこに「1,000万円くらいでいけますよ」と言ってくる会社があります。Lさんの例で申し上げたとおり、実際は200万円の物件でも、です。

高い値段で契約だけ取って、あとは半年かけて下げていく。その半年、売主さんは固定資産税と管理の手間を払い続けます。

査定書を出されたら、必ずこう聞いてください。「その根拠にした成約事例は、いつ、どこで、いくらで、駅から何分の物件ですか」と。

即答できない査定書は、根拠がありません。そして、成約事例と言いながら「売り出し価格」を持ってくる会社があります。売り出し価格は、売れた値段ではありません。

四つ目。買取の話です。安いエリアでは、買取業者の動きが露骨になります。

「250万円で買い取ります」と言われて、ほっとされる売主さんがおられます。しかし、その業者が最低限の手直しをして、480万円で売り出すことも普通にあります。

買取が悪いと申し上げているのではありません。すぐ現金にしたい、手離れよく終わらせたいというご事情があれば、買取は正しい選択です。

申し上げたいのは、比べてから決めてくださいということです。仲介で売った場合にいくらで、どのくらい時間がかかりそうか。それを聞いたうえで、買取と比べてください。

五つ目。囲い込みです。安い物件ほど、これが起きます。

他社から「あの物件、お客様が興味を持っています」と連絡が入っても、「今、商談中です」と断る。そして自社のお客様に売って、売主と買主の両方から手数料をもらう。両手というやり方です。

3,000万円の物件でもやる会社はやりますが、300万円の物件では、両手にしないと商売にならないので、より露骨になります。売主さんは、その間ずっと「反応がありませんね」と言われ続けます。

防ぎ方を申し上げます。一般媒介にして複数社に頼むか、専任にするなら「他社からの問い合わせが何件あったか」を毎回、書面で報告してもらってください

この一言を最初に言っておくだけで、囲い込みはかなり防げます。言われた会社は、まずやりません。


6. デメリットを全部書きます


いい面ばかり書くと嘘になりますから、弱点を全部並べます。

  • 駅前に店がなく、買い物は車が前提です
  • 坂が厳しく、平坦に歩ける区画がごく限られます
  • バス便の区画が広く、本数が多くありません
  • 冬に雪と凍結があり、三宮の天気とはまったく違います
  • 擁壁のある物件が多く、作り直しに数百万円かかることがあります
  • 接道や私道の条件が悪く、建て替えできない土地があります
  • 住宅ローンが通りにくい物件があり、買い手が現金の方に限られます
  • 神戸電鉄の本数がこの区間は多くなく、運賃も安くありません
  • 売却に、平均で10か月前後かかります
  • 真面目に売却活動をしてくれる会社が、多くありません

そして、これも書いておかなければなりません。北区全体が人口の減る局面に入っています。その中でも、このあたりは端に位置します。

はっきり申し上げます。縮む街は、端から縮みます。真ん中から縮む街はありません。

空き家は、これから増えます。つまり、あなたが売るときには、周りにも同じような家が何軒か出ているということです。


7. それでも、ここが向いている方はおられます


ここまで厳しいことばかり書きましたので、公平に書きます。このエリアが本当に良い場所になる方は、確かにおられます。

  • 車の運転が生活の中心にあり、しばらくやめる予定がない方
  • 在宅の仕事で、毎日の通勤がない方
  • 広い庭や、静かな環境に、はっきりした価値を感じておられる方
  • この家を最後の家にすると決めておられる方

こういう方には、良い場所です。同じ予算で、他所では絶対に買えない広さと静けさが手に入ります。

それから、もうひとつ。現金でお買いになれて、値段が付かなくなっても構わないと最初から割り切っておられる方。

こういう方は、ここで損をしません。なぜなら、最初から出口を期待しておられないからです。

50年やってきて分かったことがあります。このエリアで後悔される方は、値段だけを見て買われた方です。後悔されない方は、出口がないと分かったうえで買われた方です。

同じ家を、同じ値段で買っても、この2人の10年後はまったく違います。


まとめ


大池・神鉄六甲エリアは、安いです。北区の中でも群を抜いて安い。しかしその安さは、お買い得だから安いのではありません。買いたい人が少ないから安いのです。

安く買えたということは、安くしか売れないということです。そして、売れるまでに平均で10か月前後かかります。売れずに取り下げになることもあります。

ですから、このエリアで家を選ばれるときは、値段ではなく、この4つを見てください。

  • 平坦に歩けるか
  • 家の前まで車が入るか
  • 擁壁と接道はどうなっているか
  • この家に建て替えができるか

この4つが揃っていれば、値段が少し高くても、そちらを選んでください。その差額は、売るときに必ず返ってきます。

これは断言できます。不動産で一番怖いのは、高く買うことではありません。売れない物を持つことです。

高く買った家は、住みながら取り返せます。売れない家は、住みながらどんどん重くなります。


最後に、これだけは申し上げたい


もし今、大池や神鉄六甲のあたりで家をお探しなら、買われる前に一度お聞かせください。その物件が、10年後にいくらで、どのくらいの期間で売れそうか。私の見立てを、正直に申し上げます。

そして、このエリアに家をお持ちの方、あるいはご実家がこのあたりにある方。ご両親がお元気なうちに、一度、値段を確かめておいてください。

相続してからでは、選べる道が減ります。Lさんのように「もっと早く相談していれば」とおっしゃる方を、私はもう何十人も見てきました。

売れないと分かっているなら、私はそう申し上げます。そのうえで、では今どうするのが一番損が少ないかを、一緒に考えます。

私は売るために書いているのではありません。損をしていただかないために書いています。相談だけで結構です。売る売らないは、その後で決めていただければいいのです。

センチュリー21・ハートピア
田中章雄

唐櫃・有馬口エリアの本当の住み心地
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報  / 投稿日付:2026/08/14 11:46

こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。

今日は、唐櫃と有馬口のあたりのお話をします。このエリアは、北区の中でも一番、評価が人によって割れる場所です。

kara

「不便でしょう」とおっしゃる方がいます。「あそこは車があれば最高ですよ」とおっしゃる方もいます。

どちらも正しいのです。だから困るのです。

同じ家を見て、片方の方は「安い」と言い、もう片方の方は「これでこの値段は高い」と言う。私は50年、それを何度も見てきました。

今日は、このエリアの強みと弱みを、両方とも隠さずに書きます。そのうえで、どういうご家庭に向いていて、どういうご家庭には向かないのかを、はっきり申し上げます。


結論から申し上げます


唐櫃・有馬口エリアは、車が生活の中心にあるご家庭にとっては、北区でもかなり良い場所です。そして、車を持たない、あるいはいずれ手放す予定のご家庭にとっては、北区の中でも特に厳しい場所です。

はっきり申し上げます。

このエリアの価値は、駅までの距離では決まりません。高速道路のインターまでの距離で決まっています。

これは断言できます。

唐櫃・有馬口で家を買って後悔される方は、ほぼ例外なく「電車で通う生活」を前提にされた方です。逆に、ここを選んで20年、30年と満足しておられる方は、最初から車で動くと決めておられた方です。

ですから今日、私が一番申し上げたいのはこれです。このエリアは、良い悪いではなく、合う合わないで判断してください


1. まず、唐櫃と有馬口がどういう場所か整理します


地名から整理します。混同されている方が本当に多いのです。

有馬口駅は、神戸電鉄有馬線の駅です。ここで有馬温泉へ向かう線が分かれます。だから「有馬口」という名前です。

ただし、有馬口駅の周りに温泉街があるわけではありません。ここから有馬温泉までは、さらに電車で2駅、車なら10分ほどかかります。

唐櫃台駅は、有馬口駅のひとつ手前、三宮寄りの駅です。住宅地としてまとまっているのは、この唐櫃台駅の周りです。上唐櫃、下唐櫃、唐櫃台といった住所のあたりですね。

ここで一歩立ち止まってください。このエリアを見に来られるとき、「有馬口駅」で降りて周りを見て「何もないな」と判断される方がおられます。

それは、見る場所を間違えておられます。住宅地として見るなら、唐櫃台駅の周りと、そこから坂を上がった一帯を見てください。

もうひとつ大事なことを申し上げます。このエリアは、六甲山の北側の斜面に開かれた街です。平地に作った街ではありません。山の斜面を段々に造成して、そこに家を並べた街です。

これがこのエリアの、良いところも悪いところも、全部作っています。眺めが良いのも、坂が厳しいのも、同じ理由です。

50年やってきて分かったことがあります。街の長所と短所は、たいてい同じ場所から出てきます。長所だけを取ることはできません。


2. 最大の強みは、高速のインターです


このエリアの本当の価値は、ここです。不動産の広告には、あまり大きく書かれません。

唐櫃には、阪神高速の北神戸線のインターがあります。六甲北有料道路もここでつながっています。そして中国自動車道の西宮北インターも、車で10分ほどの距離です。

これが何を意味するか、具体的に申し上げます。

  • 大阪方面へ、家を出てから10分以内に高速に乗れる
  • 姫路方面も、中国道に乗ればすぐ
  • 新神戸トンネルを使えば、三宮まで車で20分台という日もある

北区の他のエリアと比べてみてください。鈴蘭台から高速に乗ろうと思うと、一般道をかなり走ることになります。藤原台や岡場からでも、インターまで少し走ります。

唐櫃は、インターがすぐそこにあります。この差は、毎日使う方にはとてつもなく大きい。

私が扱った中で、このエリアを選ばれた方の職業を思い返しますと、はっきり傾向があります。

  • 大阪に営業で通われる方
  • 現場を回る職人さんや工務店の方
  • ご夫婦で車を2台使われる共働きのご家庭
  • 週末に必ず遠出をされる方

こういう方には、唐櫃・有馬口は本当に良い場所です。私は正直にそう思います。

それともうひとつ。有馬温泉が近いということです。これは値段には出にくいのですが、暮らしの満足度には確実に効きます。

車で10分ほどで、日本有数の温泉地に行けます。日帰りの施設もあります。冬に、思い立って夕方に温泉に行ける生活というのは、他所ではなかなかできません。

こういうことは、査定書には一行も書けません。けれど、20年住まれた方は必ずこの話をされます。


3. 電車の話は、正直に申し上げます


ここからは弱みの話に入ります。まず電車です。

唐櫃台駅から谷上駅までは、神戸電鉄で10分ほどです。谷上駅で神戸市営地下鉄の北神線に乗り換えると、三宮まで10分ほどで着きます。

ですから、時間だけを見れば、唐櫃台から三宮まで乗り換え1回で30分前後です。これは、数字だけ見れば悪くありません。

はっきり申し上げます。問題は時間ではありません。本数と、駅までの道です。

神戸電鉄の有馬線は、谷上から先、本数が減ります。特に日中と夜は、待ち時間が出ます。1本逃したときの待ち時間が、市街地の路線とはまったく違います。

それから運賃です。北神線は、以前の北神急行だった頃に比べれば、神戸市営になってから運賃がずいぶん下がりました。これは本当に大きな改善でした。

ただし、それでも神戸電鉄と乗り継ぐと、三宮まで片道はそれなりの金額になります。毎日となると、家計に乗ってきます。

そして、一番効いてくるのがここです。唐櫃台駅から平坦に歩ける家は、そう多くありません。多くのお宅は、駅から坂を上がった場所にあります。

広告に「徒歩12分」と書いてあっても、それは坂を計算していません。私が実際に歩くと、16分から18分かかることが普通にあります。しかも帰りが上りです。

ここは正直に申し上げます。このエリアで「駅から歩いて毎日電車通勤」を前提にされるなら、駅から平坦に歩ける限られた区画だけを見てください。そこを外すと、3年で嫌になります。私は実際に、そういう方を何人も見てきました。


4. 坂とバス便が、値段を作っています


このエリアの値段は、駅名では決まりません。同じ唐櫃の中で、はっきり上下します。数字を申し上げます。細かい条件で変わりますので、私の実感としてお聞きください。

唐櫃台駅から徒歩10分以内、ほぼ平坦、駐車2台、築25年前後の一戸建て。これで「1,400万円から1,700万円」あたりです。

同じ唐櫃でも、坂を上がった上のほう、駅から徒歩20分近く、あるいはバス便になる場所。同じ築年数、同じ広さでも「850万円から1,150万円」あたりまで落ちます。

驚かれる方が多いのですが、これが現実です。同じ町名の中で、坂の上か下かだけで、500万円以上変わります。

なぜここまで差が出るのか。理由は3つです。

ひとつ目。買い手の数が違います。

坂の上の家を買える人は、車を運転できて、なおかつ坂の上の生活を受け入れられる人だけです。入口が狭いのです。

ふたつ目。維持費が違います。

斜面地の家には、たいてい擁壁があります。石積みやコンクリートで、敷地を支えている壁のことです。これが古くなると、直すのに数百万円かかることがあります。買主さんは、それを分かっているから値段を下げます。

三つ目。冬です。

このエリアは標高があります。三宮が雨の日に、こちらは雪ということが、毎年のようにあります。坂の上の急な道が凍ると、車が上がれません。私は実際に、朝、家から出られなかったという話を何度も聞いています。

これは覚えておいてください。北区で家を選ぶとき、坂は「見た目の問題」ではありません。値段の問題であり、冬の生活の問題であり、10年後に売れるかどうかの問題です。


5. 実際にあった3つの話


ここからは実例です。細かいところは変えていますが、金額と流れはそのままです。

まずGさんご夫婦です。当時、ご主人が41歳、奥様が39歳。お子さんが2人。ご主人は大阪の会社で、営業で車を使うお仕事でした。

Gさんが最初に見ておられたのは、谷上駅の近くの物件でした。駅から徒歩8分、築22年、3,050万円

私はこう申し上げました。「ご主人は、毎日どうやって会社に行かれますか」と。

ご主人は、社用車で朝6時半に家を出て、大阪へ向かうとのことでした。電車はほとんど使わないと。

そのとき私は、唐櫃台のほうをお見せしました。駅から徒歩11分、ほぼ平坦、駐車2台、敷地45坪、築24年で「1,620万円」でした。

谷上の物件との差は、1,400万円以上です。そしてご主人の通勤時間は、唐櫃のほうがむしろ10分短くなりました。インターが近いからです。

Gさんはこちらを選ばれました。浮いた分で、水回りを全部入れ替えて、外壁も塗り直されました。それでも大きく余りました。

これは、良い判断だったと思っています。ご主人が車で動く生活だと最初から決まっていたから、電車の弱みが最後まで効かなかったのです。

次はHさんです。当時35歳のご夫婦、お子さんはまだおられませんでした。

Hさんが買われたのは、唐櫃の坂を上がった一帯の家でした。駅から徒歩19分、途中に急な坂と階段。築28年、敷地60坪、庭付き、眺めが素晴らしい家です。値段は「980万円」でした。

ご夫婦は、その眺めに一目惚れされました。「こんな景色の家が1,000万円で買えるんですね」と、本当に嬉しそうでした。

私は、売り込みませんでした。そのかわり、こう申し上げました。

「奥様、朝の8時にもう一度、ここまで歩いて上がってきていただけませんか。それと、雨の日にもう一度」と。

ご夫婦は、実際にそうされました。そのうえで、買うと決められました。ご主人は「毎日ジムに行くと思えばいい」と笑っておられました。

ここまでは良い話です。ここからが本題です。

11年後、ご主人が横浜に転勤になりました。お子さんが2人になっておられました。売却のご相談を受けて、私が申し上げた金額は「620万円から750万円」でした。

Hさんは、絶句されました。980万円で買って、11年住んで、620万円ですか、と。

はっきり申し上げました。「この家の値段を下げているのは、築年数ではありません。あの坂です。あの坂は11年前から一度も変わっていませんし、これから先も変わりません」と。

結局「690万円」で売れました。ただし、時間は10か月かかりました。

ここで私が申し上げたいのは、Hさんが失敗したということではありません。11年、あの眺めの家で暮らされた価値は、確かにありました。同じ11年を賃貸で払っていれば、1,300万円は出ていっています。

申し上げたいのはこれです。坂の上の家は、買うときに安いのではありません。売るときにも安いのです。安く買えたという喜びは、売るときに同じ形で返ってきます。それを分かって買うのなら、何も問題はありません。

最後にIさんです。当時74歳の女性、お一人暮らしでした。唐櫃の坂の上、駅から徒歩22分、築45年の一戸建てにお住まいでした。ご主人を亡くされて、車の運転もやめられたところでした。

Iさんの生活は、こうなっていました。

  • 買い物は、週2回のバスで岡場まで
  • 病院も、バスで岡場か有馬口まで
  • バス停までは、家から下り坂で7分、帰りは上り坂で12分

はっきり申し上げます。これは、お一人で続けられる生活ではありませんでした。

Iさんの家は「740万円」で売れました。購入されたのは、岡場駅の近くの中古マンションで「1,180万円」でした。差額の440万円は、ご預金から出されました。これは正直に書きますが、この住み替えでIさんの資産は減っています。

それでも、私はこの住み替えをお勧めしました。なぜなら、もう5年待てば、あの家は600万円を切っていた可能性が高いからです。そのうえで、5年分の不便な生活を我慢することになります。

これは断言できます。坂の上の家に住んでおられる方が、売るかどうか迷われるなら、体が動くうちに決めてください。売れなくなってから相談に来られても、私にできることは、ほとんどありません。


6. 業界の裏側を、隠さず書きます


このエリアの売買には、業界のよくないやり方が何個も絡みます。全部書きます。

ひとつ目。「有馬エリア」という言い方です。

唐櫃や有馬口の物件が、「有馬エリアの物件」として広告に出ることがあります。有馬という言葉には、温泉地の響きがあります。良いイメージがつきます。

嘘ではありません。行政区分としても近いですし、有馬口という駅名も実在します。だから始末が悪いのです。

物件を見に行かれる前に、必ず「最寄り駅はどこで、駅から歩いて何分ですか」と確認してください。「有馬エリアです」という答えが返ってきたら、もう一度「駅名を教えてください」と聞き直してください。

ふたつ目。眺めを売る営業です。

これははっきり申し上げます。坂の上の物件を案内するとき、業者は必ず眺めのいい時間帯に、いい天気の日に連れて行きます。夕方の景色を見せます。窓を開けて「静かでしょう」と言います。そして、坂は車で上がります。歩かせません。

私は、坂の上の物件をご案内するときは、必ず一度、駅から歩いていただきます。雨の日にもう一度来ていただくこともあります。

それで気持ちが冷めるなら、その方には向いていなかったということです。冷めなかった方だけが、その家で幸せになれます。

三つ目。擁壁の説明をしない会社です。

斜面地の物件には、擁壁がついて回ります。古い擁壁の中には、今の基準に合っていないものもあります。

これがどういうことかと申しますと、いざ建て替えようとしたときに、擁壁を作り直さないと家が建てられないことがあるのです。その費用は、数百万円から、規模によってはもっとかかります。

聞かれれば答えます。しかし、聞かれなければ言わない会社があります。なぜか。買う気が鈍るからです。

ですから、必ずご自分から聞いてください。「この擁壁は、いつ作られたものですか」「建て替えるときに、擁壁のやり直しは必要になりますか」と。即答できない会社は、調べていないということです。

四つ目。高預かりです。

このエリアは、値段の幅が大きい場所です。坂の下の平坦な家が1,600万円で売れて、坂の上の同じ広さの家が900万円ということが、実際に起きます。

この幅を利用する会社があります。坂の上の家の売主さんに、坂の下の成約事例を見せて「このあたりはこの値段ですよ」と言うのです。

高い値段を付けた会社が、その値段で売ってくれるわけではありません。契約を取ってから、3か月ごとに値下げの相談をしてくるだけです。

査定書を出されたら、必ずこう聞いてください。「その根拠にした成約事例は、駅から徒歩何分で、坂はどのくらいの物件ですか」と。即答できない査定書は、根拠がないと思ってください。


7. デメリットも全部書きます


いい面ばかり書くと嘘になりますので、弱点を全部書きます。

  • 坂です。平坦に歩ける区画は、思っておられるより狭い範囲です
  • バス便のエリアが広く、歩けるかバスかで値段が倍近く違います
  • 擁壁のある物件が多く、維持と建て替えに費用がかかることがあります
  • 冬に雪と凍結があります。三宮の天気とは別だと思ってください
  • 神戸電鉄有馬線の本数が、この区間は多くありません
  • 歩いて行ける大型店がなく、買い物は車かバスが前提です
  • 車を手放したあとの生活が、非常に厳しくなります
  • 幹線道路が近いぶん、物件によっては音が気になります

そして、正直に申し上げておかなければならないことがあります。北区全体が、人口の減る局面に入っています。唐櫃・有馬口のエリアも例外ではありません。

坂の上の区画では、空き家が少しずつ増えています。ご近所で同時に数軒売りに出ることも、実際に起きています。

これは断言できます。このエリアで家を持つということは、値上がりを期待して持つということではありません。車で動く生活が自分に合っていて、その暮らしやすさに対して値段が安いから持つ。そういう買い方以外は、勧めません。


まとめ


唐櫃・有馬口エリアは、車が生活の中心にあるご家庭には、北区でもかなり良い場所です。高速のインターが近く、同じ予算なら谷上や藤原台よりずっと良い家が買えます。有馬温泉も近い。

そのかわり、坂とバス便という弱みが、はっきりあります。そして車を手放したあと、この弱みは一気に重くなります。

ですから、値段を最後に決めるのは駅名ではありません。平坦に歩けるか。家の前まで車が入るか。擁壁はどうなっているか。この3つです。

50年やってきて分かったことがあります。

このエリアで損をする人は、眺めと安さで決めます。このエリアで損をしない人は、朝の坂を、自分の足で一度上ってから決めます。

広告の徒歩12分は、歩いた12分ではありません。これだけは、覚えて帰ってください。


最後に、これだけは申し上げたい


もし今、唐櫃や有馬口のあたりで家をお探しなら、あるいはこのエリアに家をお持ちで売却を考えておられるなら、一度お聞かせください。

ご家族の人数、通勤先、お車の台数、そして10年後にどう暮らしておられるか。それをお聞きすれば、このエリアがあなたのご家庭に向いているかどうかは、はっきり申し上げられます。

向いていないと思えば、向いていないと申し上げます。そして、お持ちの家が坂の上で売りにくい条件にあるなら、その理由と、では今どうするのが一番損が少ないかを、隠さずお話しします。

私は売るために書いているのではありません。損をしていただかないために書いています。相談だけで結構です。売る売らない、買う買わないは、その後で決めていただければいいのです。

センチュリー21・ハートピア
田中章雄

鈴蘭台と西鈴蘭台、買うならどちらですか
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報  / 投稿日付:2026/08/13 08:05

こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。

今日は、私が一番よく聞かれる質問にお答えします。「鈴蘭台と西鈴蘭台、買うならどちらがいいですか」という質問です。

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この質問は、本当によく受けます。月に何回も受けます。

そして正直に申し上げますと、この質問に一言で答える不動産屋は、信用しないでください。

「鈴蘭台のほうが便利ですよ」と即答する人。「西鈴蘭台のほうが安くてお買い得ですよ」と即答する人。

どちらも、あなたの生活を一度も聞いていません。

今日は、価格の差、毎日の動線、そして10年後に売れるかどうか。この3点で、はっきり比べます。


結論から申し上げます


鈴蘭台と西鈴蘭台、どちらが上ということはありません。分かれ目は、あなたのご家庭が「電車中心」か「車中心」か、それだけです。

はっきり申し上げます。

毎朝、ご夫婦のどちらかが電車で三宮方面に通われるなら、鈴蘭台です。

車が2台あって、買い物も送り迎えも車で回るご家庭なら、西鈴蘭台です。

そしてもうひとつ、これは断言できます

同じ2,000万円を出すなら、西鈴蘭台のほうが「良い家」が買えます。けれど、10年後に売るときに強いのは、鈴蘭台の平坦なエリアです。

この2つは矛盾していません。買うときの満足と、売るときの強さは、別物だからです。そこを一緒くたにして考えると、必ずどこかで損をします。


1. まず、この2つの駅の関係を整理します


意外に思われるかもしれませんが、この2つの駅の関係を正確にご存じの方は、地元の方でも多くありません。

鈴蘭台駅は、神戸電鉄の有馬線と粟生線が分かれる駅です。北区役所が入っているベルスト鈴蘭台があるのも、この駅です。

西鈴蘭台駅は、そこから粟生線に入って2つ目の駅です。間に鈴蘭台西口という駅があります。

距離にすると、鈴蘭台駅から西鈴蘭台駅まで、電車で4分ほどです。車なら5分から7分です。つまり、そんなに離れていません。

ここで一歩立ち止まってください。近いのに、この2つの街は、成り立ちがまったく違います。

鈴蘭台のほうは、戦後、山を削りながら少しずつ広がっていった街です。だから道が細く、坂が多く、区画がバラバラです。

西鈴蘭台のほうは、昭和40年代から50年代にかけて、五葉地区として計画的に造られた街です。だから道がまっすぐで、区画が整っていて、平坦なところが広い。

この「成り立ちの違い」が、今の値段と、売りやすさの差を、そのまま作っています。

50年見てきて分かったことがあります。街の性格は、造られた年代で決まります。あとから変わることは、まずありません。


2. 価格の差は、はっきりあります


数字を申し上げます。細かい条件で上下しますので、あくまで私の実感としてお聞きください。

鈴蘭台駅から徒歩10分以内、ほぼ平坦、駐車2台、築25年前後の一戸建て。これで「1,900万円から2,300万円」あたりです。

西鈴蘭台駅から徒歩10分以内、平坦、駐車2台、築25年前後の一戸建て。これで「1,500万円から1,850万円」あたりです。

ざっと「300万円から400万円」、西鈴蘭台のほうが安いです。なぜ安いのか。理由は3つです。

  • 路線の数(鈴蘭台は有馬線と粟生線、西鈴蘭台は粟生線だけ)
  • 区役所と駅前の商業施設の有無
  • まとまった土地が動きやすく、供給が細りにくいこと

ただし、ここからが大事です。その「300万円から400万円」の差で、西鈴蘭台では何が買えるかというお話です。

鈴蘭台で2,000万円のご予算だと、駅から徒歩10分を超えるか、坂を受け入れるか、駐車1台で我慢するか、どこかで妥協が要ります。

同じ2,000万円を西鈴蘭台に持っていくと、駅から徒歩8分、平坦、駐車2台、敷地40坪、築20年台という家が、現実に射程に入ります。

これは大きな差です。毎日の暮らしの質という点では、はっきり西鈴蘭台に軍配が上がります。


3. 毎日の動線で比べます


不動産の広告には、駅からの分数しか書いてありません。しかし実際の暮らしは、駅までの分数だけでは決まりません。朝、家を出てから会社の机に座るまで。それが本当の動線です。

まず、電車の動線です。

西鈴蘭台から新開地までは、粟生線で16分ほどです。乗り換えなしで着きます。新開地で阪急か阪神に乗り換えて、三宮まで6分から7分です。うまくつながれば、西鈴蘭台から三宮まで25分前後で行けます。

鈴蘭台からも、新開地までは同じような時間です。では何が違うのか。本数です。

鈴蘭台には有馬線と粟生線の両方が来ます。だから朝の時間帯の選択肢が多い。1本逃してもすぐ次が来ます。

西鈴蘭台は粟生線だけです。1本逃すと、朝でも数分から10分近く待つ時間帯があります。雨の日、子どもがぐずった朝、この差は思ったより効きます。

ここは正直に申し上げます。西鈴蘭台からでも、三宮への通勤は十分できます。「不便で通えない」というのは言い過ぎです。ただし、電車の本数に神経を使う生活にはなります。

次に、車の動線です。ここは逆転します。

西鈴蘭台のあたりは、区画が整っているので、家の前まで車がすっと入ります。道がまっすぐで、切り返しが少ない。だから駐車場が2台取れる家が多い。しあわせの村もホームセンターも大きなスーパーも、車で10分から15分の範囲に揃っています。

鈴蘭台の坂の上は、これが逆です。道が細く、家の前が急坂で、冬に凍る。軽自動車でないと入れない家も現実にあります。駐車場が1台しかない、あるいは離れた月極を借りている、というお宅も珍しくありません。

もうひとつ、意外と大事な話をします。ご高齢になってからの動線です。

鈴蘭台の駅前は、区役所も、買い物も、病院も、駅を降りてすぐに揃っています。免許を返納したあとの生活を考えると、これは本当に大きい。

西鈴蘭台は、駅前で全部が済むとは言えません。車を手放したあとの生活を、駅からの距離とバス便で組み立て直す必要があります。

ですから、こうなります。40代でお子さんが小さいご家庭には、西鈴蘭台のほうが暮らしやすい。70代でご夫婦だけになったご家庭には、鈴蘭台の駅前のほうが暮らしやすい。

同じ家族が、20年経つと、答えが変わるのです。


4. 10年後に売れるかどうかで比べます


ここが今日の本題です。これは断言できます。売りやすさで比べると、順番はこうなります。

  • 一番強い:鈴蘭台の平坦なエリア
  • 次に強い:西鈴蘭台の平坦で駐車2台のエリア
  • その下:西鈴蘭台のバス便エリア
  • 一番弱い:鈴蘭台の坂の上

つまり、駅名では並びません。同じ駅の中で上と下に分かれます。

なぜ鈴蘭台の平坦なエリアが強いのか。買主さんの層が広いからです。

鈴蘭台の駅前平坦エリアは、若いご家族も買いますし、坂の上から降りてこられるご高齢のご夫婦も買います。投資でお持ちになる方もおられます。買い手の入口が3つあるわけです。

西鈴蘭台の場合、買い手の主力は「車を2台持つ30代から40代のご家族」に、ほぼ絞られます。これは弱いという意味ではありません。この層は今も確実にいます。

ただ、入口が1つしかないということは、その層の景気や住宅ローン金利に、直接影響を受けるということです。

それからもうひとつ、正直に申し上げておかなければならないことがあります。西鈴蘭台の駅前です。

神戸市も認めていることですが、西鈴蘭台の駅前は、商業施設や駐輪場の老朽化が進んでいます。土地の使われ方も、本来の力を出せていません。利用者数は粟生線の中で鈴蘭台に次いで多い駅なのに、駅前がその人数に見合っていないのです。

ここに手が入れば、西鈴蘭台の評価は変わります。私はそう思っています。ただし、いつ、どこまで手が入るのかは、まだ確かなことは言えません。

はっきり申し上げます。「これから西鈴蘭台の駅前も再開発されますから、上がりますよ」という営業を受けたら、その場で判断しないでください。決まってもいない話で査定を吊り上げるのは、業界の常套手段です。


5. 実際にあった3つの話


ここからは実例です。細かいところは変えていますが、金額と流れはそのままです。

まず、Dさんご夫婦です。当時、ご主人が38歳、奥様が36歳。お子さんが2人。ご主人は三宮の会社にお勤めでした。

ご相談に来られたとき、Dさんは2つの物件で迷っておられました。ひとつは鈴蘭台駅から徒歩14分、上り坂、駐車1台、築30年、2,080万円。もうひとつは西鈴蘭台駅から徒歩9分、平坦、駐車2台、築28年、1,880万円

Dさんは最初、鈴蘭台のほうに気持ちが傾いておられました。「区役所も買い物も駅前で済むので」と。

私はこう申し上げました。「奥様は今後、お車を使われますか」と。

奥様は、下のお子さんの保育園の送りと、上のお子さんの習い事の送迎で、毎日車に乗るとおっしゃいました。そのとき私は、はっきり西鈴蘭台をお勧めしました。

理由は単純です。鈴蘭台のほうの家は、駐車場が1台分しかありませんでした。2台目は、歩いて6分の月極で「月8,000円」。年間で「9万6,000円」、10年で「96万円」です。

それに加えて、坂です。徒歩14分と書いてありましたが、実際に私が歩くと18分かかりました。しかも帰りは上りです。雨の日に、保育園の荷物を持って、この坂を上れますか、とお聞きしました。

Dさんは西鈴蘭台を選ばれました。9年後、ご主人が広島に転勤になりました。その家は「1,650万円」で、3か月ほどで売れました。

1,880万円で買って、9年住んで、1,650万円。差額は230万円です。同じ9年、賃貸で月10万円払っていれば1,080万円が出ていっています。私はこれを、良い買い物だったと思っています。

次はEさんです。当時66歳のご夫婦。西鈴蘭台のバス便エリアにお住まいでした。駅からバスで8分、そこから徒歩7分。築38年、敷地50坪、駐車2台の一戸建てです。

ご主人が膝を悪くされて、駅前のマンションに移りたいというご相談でした。

私が申し上げた金額は「950万円から1,100万円」でした。Eさんは驚かれました。「30年前に3,200万円で買った家ですよ」と。

はっきり申し上げました。「バス便のエリアは、車が運転できる方にしか売れません。そして今、車が運転できる30代40代のご家族は、駅から歩ける平坦な家を探しておられます」と。

Eさんは半年悩まれて、最終的に「1,020万円」で売られました。時間は7か月かかりました。

ここで申し上げたいのは、値段の話ではありません。Eさんが西鈴蘭台のバス便エリアを選ばれた30年前、あの判断は間違っていなかったということです。当時は車社会が広がる一方で、広い庭のある家に価値がありました。ご家族4人で暮らすには、あれが最適でした。

ただ、30年後にご夫婦2人になったとき、同じ条件が全部裏返る。これは誰にも予測できたことではありません。

だから私は、家を買うときに「30年後に売れるか」まで考えてくださいとは申しません。そのかわり「10年後に売れるか」は、必ず考えてくださいと申し上げています。10年なら、まだ読めるからです。

最後にFさんです。当時72歳の女性、お一人暮らしです。鈴蘭台の坂の上、駅から徒歩17分、階段が18段、築42年の一戸建てにお住まいでした。

Fさんは、西鈴蘭台の駅近くのマンションに移りたいとおっしゃいました。ご友人が住んでおられるからです。売却は「880万円」、購入は西鈴蘭台駅から徒歩5分の築22年の3LDKで「1,250万円」でした。差額は370万円です。Fさんはご預金から出されました。

この住み替えについて、私は正直に、ひとつだけ懸念をお伝えしました。「今のお身体なら西鈴蘭台で問題ありません。ただ、あと10年してお車を手放されたとき、西鈴蘭台の駅前だけで生活が完結するかは、正直分かりません」と。

Fさんはこうおっしゃいました。「あと10年のことは、10年後に考えます。今は友達の近くに行きたい」

私は、これでいいと思っています。不動産屋の仕事は、正解を押し付けることではありません。判断の材料を全部お見せして、決めるのはご本人だという形にすることです。


6. 業界の裏側を、隠さず書きます


この2つの街を比べる話には、業界のよくないやり方がいくつも絡んでいます。全部書きます。

ひとつ目。「鈴蘭台」という言葉の使い方です。

鈴蘭台という地名は、広い意味では西鈴蘭台も北鈴蘭台も含みます。実際、行政もそう呼ぶことがあります。これを利用する広告が、あります。

ポータルサイトで「鈴蘭台」と検索して出てきた物件を見に行ったら、実は西鈴蘭台の、さらにバス便のエリアだった。こういうことが、実際に起きています。

嘘ではありません。だから始末が悪いのです。物件を見に行かれる前に、必ず「最寄り駅はどこですか」と確認してください。「鈴蘭台エリアです」という答えが返ってきたら、もう一度「駅名を教えてください」と聞き直してください。

ふたつ目。徒歩分数のカラクリです。

これは覚えておいてください。不動産広告の「徒歩◯分」は、道のりを80メートルで1分として計算した数字です。そして、この計算には坂も階段も信号待ちも入っていません

つまり、平坦な道を歩いて10分かかる距離と、急な上り坂を10分かかる距離が、広告では同じ「徒歩10分」になります。

鈴蘭台と西鈴蘭台を比べるとき、この差は決定的です。西鈴蘭台の平坦な徒歩12分と、鈴蘭台の坂の上の徒歩12分は、まったく別物です。実測すると、坂のほうは16分から18分かかることが普通にあります。

ですから、必ず現地で歩いてください。しかも、朝の通勤時間帯に、帰り道の方向で歩いてください。行きは下り坂で気持ちよく、帰りは地獄という土地が、北区にはいくらでもあります。

三つ目。粟生線の話をしない会社です。

はっきり申し上げます。西鈴蘭台の物件を勧めるとき、粟生線の経営が長く厳しいという話を、自分から説明する会社は少ないです。聞かれれば答えます。しかし、聞かれなければ言いません。なぜか。買う気が鈍るからです。

私は、これは説明すべきことだと思っています。明日どうこうという話ではありません。ただ、30年住む家を買うのなら、路線の将来は判断材料に入れるべきです。

四つ目。値段の付け方です。

鈴蘭台と西鈴蘭台は近いので、査定のときに「あちらの駅ではこの値段で出ています」と、隣の駅の事例を持ってくる会社があります。

鈴蘭台の売主さんに、あえて鈴蘭台の高い事例だけを見せる。西鈴蘭台の売主さんに、鈴蘭台の事例を見せて「ほら、このあたりはこの値段ですよ」と言う。

どちらも、媒介契約を取るための「高預かり」です。高い値段を付けた会社が、その値段で売ってくれるわけではありません。契約を取ってから、3か月ごとに値下げの相談をしてくるだけです。

査定書を出されたら、必ずこう聞いてください。「その根拠にした成約事例は、どの駅の、どのくらいの築年数の、いくらの物件ですか」と。即答できない会社の査定書は、根拠がないと思ってください。


7. デメリットも、両方とも全部書きます


いい面ばかり書くと嘘になりますので、両方の弱点を正直に書きます。まず、西鈴蘭台の弱点です。

  • 路線が粟生線ひとつ。ダイヤが乱れたときの代替がバスか車になる
  • 駅前の商業施設と駐輪場が古く、駅前だけで生活が完結しない
  • バス便のエリアが広く、歩けるかバスかで値段が倍近く違う
  • 五葉地区は一斉開発のため、一斉に高齢化している
  • 駅近くのUR団地の存在で、賃貸に出したときの家賃の上限が抑えられる

次に、鈴蘭台の弱点です。

  • 坂。駅から平坦に歩ける範囲は、実際にはそう広くない
  • 道が細く、家の前まで車が入らない物件が多い
  • 同条件なら西鈴蘭台より300万円から400万円高く、予算内で選べる家の質が下がる
  • 駅前が便利になった分、駅から遠い家の評価が相対的に下がった

そして、両方に共通する弱点も書いておきます。標高が高いので、三宮が雨の日に雪ということが、毎年のようにあります。凍る朝もあります。三宮に出るには新開地での乗り換えが必要で、運賃は安くありません。そして、北区全体が人口の減る局面に入っています。

これは断言できます。北区で家を持つということは、値上がりを期待して持つということではありません。住みやすさと値段のつり合いで持ち、必要になったときに、そこそこの時間で売れる家を選ぶということです。


まとめ


鈴蘭台と西鈴蘭台、どちらが上ということはありません。

電車で毎日通われるなら鈴蘭台。車中心の生活なら西鈴蘭台。同じ予算で良い家が買えるのは西鈴蘭台。10年後に売りやすいのは鈴蘭台の平坦なエリアです。

そして、どちらの駅を選ばれるにしても、値段を最後に決めるのは駅名ではありません。平坦に歩けるか。家の前まで車が入るか。駐車が2台取れるか。この3つです。

50年やってきて分かったことがあります。

家で損をする人は、駅名で選びます。家で損をしない人は、朝、家を出てから駅に着くまでの道を、自分の足で歩いてから決めます。

広告の徒歩12分は、歩いた12分ではありません。これだけは、覚えて帰ってください。


最後に、これだけは申し上げたい


もし今、鈴蘭台か西鈴蘭台で家をお探しなら、あるいはどちらかに家をお持ちで売却を考えておられるなら、一度お聞かせください。

ご家族の人数、通勤先、お車の台数、10年後の暮らし方。それをお聞きすれば、あなたのご家庭にとってどちらが向いているかは、はっきり申し上げられます。

向いていないほうを勧めることは、私はしません。そして、お持ちの家が売りにくい条件にあるなら、その理由と、ではどうすれば一番損が少ないかを、隠さずお話しします。

私は売るために書いているのではありません。損をしていただかないために書いています。相談だけで結構です。売る売らない、買う買わないは、その後で決めていただければいいのです。

センチュリー21・ハートピア
田中章雄

鈴蘭台を50年見てきた私が今思うこと
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報  / 投稿日付:2026/08/12 08:01

こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。

今日は、鈴蘭台の話をします。私がこの仕事を始めて、いちばん最初に任された物件が鈴蘭台の建売住宅でした。だから鈴蘭台は、私にとって特別な街です。

suzukaradai

この10年ほど、鈴蘭台について「変わりましたね」と言われることが増えました。

駅前に新しいビルが建って、北区役所が坂の上から降りてきて、駅前がきれいになった。確かに、変わりました。

ただ、ここで一歩立ち止まってください。「鈴蘭台は変わった」という言葉を、そのままご自宅の値段に当てはめてしまうと、大きく損をします。

今日は、何が変わって、何が変わらなかったのかを、正直に書きます。


結論から申し上げます


鈴蘭台で変わったのは、駅前の半径300メートルだけです。その外に広がる坂の上の住宅地は、50年前とほとんど何も変わっていません。

そして、これが一番申し上げたいことです。再開発によって鈴蘭台は「全体が良くなった」のではありません。「街の中の差が開いた」のです。

これは断言できます。駅から平坦に歩ける家は、以前より売りやすくなりました。坂の上の家は、以前より売りにくくなりました。

同じ「鈴蘭台」という町名の中で、値段の差が広がった。それが、この10年に起きたことの正体です。


1. 私が見てきた鈴蘭台の50年


鈴蘭台という街は、戦後、山を削って造られた住宅地です。本格的に家が建ち始めたのは昭和30年代からでした。

神戸の街中で働く方が、電車で30分ほど山を登ったところに、庭付きの一戸建てを持つ。それが当時の憧れでした。

私が業界に入った昭和50年前後、鈴蘭台の建売住宅は1,000万円前後でした。土地が40坪、木造2階建て。それを新開地や兵庫区で働く30代のご夫婦が、必死になって買っていかれました。

そこからバブルです。同じような家が3,500万円まで上がりました。私も何十件と扱いました。

正直に申し上げますと、あの頃は、売る側も買う側も、値段が上がることを疑っていませんでした。

今、同じ場所の同じような家がいくらだと思われますか。坂の上、駅から徒歩18分、築45年。この条件だと700万円から900万円です。土地の値段だけ、というのが実態です。

50年やってきて分かったことがあります。家は古くなります。しかしそれ以上に、街は「歩ける街」と「歩けない街」に分かれていきます。鈴蘭台の50年は、まさにそれでした。


2. 2018年、駅前が変わった日


鈴蘭台の駅前に「ベルスト鈴蘭台」という再開発ビルが開業したのは、2018年の9月です。そしてその年の11月、坂の上にあった北区役所が、この駅前のビルに移ってきました。

これは、本当に良かったと思っています。

それまでの区役所は、駅から歩いて10分ほど、しかも上り坂の上にありました。雨の日、夏の暑い日、冬の凍る日に、80代のご高齢の方があの坂を上っていかれるのを、私は何度も見てきました。

それが、駅を降りてすぐ、エレベーターで上がれば済むようになったのです。印鑑証明を取るのも、住民票を取るのも、相続の手続きで戸籍を集めるのも、格段に楽になりました。

不動産屋としても、お客様と一緒に動くときの負担がまったく違います。

駅前に店舗が入り、駅前広場も整いました。ここは素直に、良い変化だと申し上げます。


3. では、地価はどれだけ動いたのか


ここからが本題です。正直に申し上げます。区役所が来たことで、鈴蘭台の地価が劇的に上がったという事実は、ありません。

なぜか。理由ははっきりしています。区役所というのは、毎日通う場所ではないからです。

前回、谷上の話を書きました。谷上が化けたのは、三宮までの運賃が550円から280円になったからです。毎日、毎月、家計から出ていくお金が変わりました。だから買主さんが出せる金額が変わり、相場が動きました。

区役所は違います。年に1回行くか行かないか、という方がほとんどです。年に1回の用事が便利になっても、住宅ローンの借入額は1円も増えません。

はっきり申し上げます。「区役所が来るから鈴蘭台は上がりますよ」という営業トークは、事実ではありませんでした。しかし、この一言で査定を吊り上げられた売主さんを、私は何人も知っています。

ただし、まったく無かったわけでもありません。実際に増えたものが、ひとつだけあります。

それは「坂の上に住んでおられる高齢のご夫婦から、駅前のマンションに移りたい」というご相談です。2019年以降、この住み替えの相談が、はっきり増えました。

つまり駅前の再開発は、鈴蘭台全体の値段を押し上げたのではなく、鈴蘭台の中で「坂の上から駅前へ」という人の動きを作ったのです。

売り物が坂の上に出て、買い手が駅前に集まる。この構図が、差をさらに広げました。


4. 変わらなかったもの


では、変わらなかったものは何か。です。

鈴蘭台の住宅地は、駅を中心に、四方の山を削って広がっています。駅から平坦に歩ける範囲は、正直なところ、そう広くありません。

多くのお宅が、こういう条件の中にあります。

  • 駅から徒歩15分以上
  • その大半が上り坂
  • 家の前まで車が入らない
  • 玄関までの階段が10段、20段ある

再開発は、この部分を1ミリも変えていません。変えられません。地形だからです。

これは覚えておいてください。不動産の値段を最後に決めるのは、建物でも駅名でもなく、地形です。50年見てきて、これだけは変わりませんでした。

もうひとつ変わらなかったのは、車です。鈴蘭台の坂の上で生活しようと思えば、車が要ります。ご夫婦なら1台では足りないご家庭もあります。

ところが、昭和に造られた家には、駐車場が1台分しかない、あるいはゼロという物件が珍しくありません。今の30代、40代のご家族が家を探すとき、駐車2台が入らない物件は、そもそも候補から外れます。


5. 同じ鈴蘭台でも、ここまで違います


ここが、今日いちばんお伝えしたいところです。同じ鈴蘭台でも、売れる家と売れない家が、はっきり分かれています。分かれ目は4つです。

  • 駅まで平坦に歩けるか
  • 家の前まで車が入るか
  • 敷地に駐車場が2台取れるか
  • 擁壁や階段に大きな負担がないか

この4つ全部に丸が付く家は、鈴蘭台でも今なお強いです。逆に、2つ以上バツが付くと、値段を下げても、なかなか動きません。

具体的に申し上げます。駅から徒歩7分、平坦、駐車2台の築30年の一戸建て。これは1,900万円から2,200万円で動きます。

駅から徒歩18分、上り坂、階段アプローチ、駐車1台の築45年の一戸建て。これは700万円から900万円です。

直線距離では1キロも離れていません。同じ小学校区のこともあります。それでも、値段は2倍以上違います。

再開発の前は、この差はもっと小さかったのです。駅前が便利になった分だけ、駅から遠い家の評価が、相対的に下がりました。良くなった街の裏側では、必ずこういうことが起きます。


6. 実際にあった3つの話


ここからは実例です。細かいところは変えていますが、金額と流れはそのままです。

Aさんという方がおられました。当時74歳。鈴蘭台の坂の上、駅から徒歩18分、築45年の一戸建てです。玄関まで階段が22段ありました。

奥様を亡くされて、息子さんのおられる明石に移りたいというご相談でした。

私は現地を見て、正直にお伝えしました。「1,000万円前後からのスタートが現実的だと思います」と。

Aさんは納得されませんでした。ご近所の方から「区役所が来て鈴蘭台は上がってるらしい」と聞いておられたからです。別の会社が1,900万円という査定を出し、Aさんはそちらに頼まれました。

結果を申し上げます。その家は、2年3か月かかって、最終的に740万円で売れました。途中で4回値下げをして、最後は買取に近い形です。

もし最初から1,000万円で素直に出していれば、半年から1年で売れていたと私は思っています。その2年3か月の間、Aさんは明石に移れず、固定資産税を払い、草を刈り、階段を上り下りされました。

「上がってるらしい」という一言が、Aさんから2年と、200万円以上を奪いました。

次はBさんご夫婦です。当時40代前半。お子さんが2人。ご主人は兵庫区へお勤めでした。2021年に、鈴蘭台駅から徒歩6分、ほぼ平坦、駐車2台、築25年の一戸建てを2,180万円でお買いになりました。

Bさんはこうおっしゃいました。「区役所も郵便局も買い物も駅前で全部済む。それで神戸市内で2,000万円台。この条件は他で見つかりませんでした」と。

これが、今の鈴蘭台を選ぶ方の本音です。区役所が来たことは、値段を上げたのではなく、この街を選ぶ理由のひとつになった。それだけのことです。

最後にCさんです。当時68歳のご夫婦。坂の上の築40年の一戸建てを1,180万円で売られ、駅から徒歩4分の築15年の3LDKマンションを1,680万円でお買いになりました。

差額の500万円と、諸費用と引っ越し代で、手元のお金はかなり減りました。金銭的には、決して得な話ではありません。

それでもCさんは、半年後にこうおっしゃいました。「雨の日に、傘をさして坂を上らんでええ。それだけで全然ちがう」と。

私は、この住み替えは正解だったと思っています。不動産の判断は、金額だけで決まるものではありません。あと何年、その家で暮らせるかで決まります。


7. 業界の裏側を、隠さず書きます


Aさんの話には続きがあります。私が本当に書きたいのは、ここです。

2016年から2018年にかけて、鈴蘭台の周辺では「区役所が来ますから、これから上がります」という営業が、かなり大々的に行われました。チラシにも書かれました。私の店にも、そのチラシを持ってこられたお客様が何人もおられます。

なぜそんなことをするのか。媒介契約を取るためです。

はっきり申し上げます。高い値段を付けた会社が、その値段で売ってくれるわけではありません。高い値段を付けた会社は、契約を取ってから、3か月ごとに値下げの相談をしてくるだけです。これを業界では「高預かり」と言います。

そして、売れない期間が長引くと、物件は「枯れ」ます。同じ物件がいつまでも出ていると、買主さんも同業者も「何かあるんちゃうか」と思う。そうなると、正しい値段まで下げても、もう反応が戻ってきません。Aさんの家に起きたのは、これです。

もうひとつ、鈴蘭台のような街で特に注意していただきたいのが「囲い込み」です。

囲い込みというのは、預かった物件を、他社の買主さんに紹介せず、自社で買主を見つけるまで隠しておくことです。他社から問い合わせが入っても「商談中です」と断ってしまう。

なぜこれが鈴蘭台で起きやすいのか。このあたりは地元の業者が強く、買主さんも地元経由で来られることが多いからです。

だから「うちで抱えていれば、そのうち自社で買主が見つかる」という計算が立ちやすい。売主さんからも買主さんからも手数料をもらう両手取引を狙う形です。

売主さんにとって、これは損以外の何ものでもありません。売れるまでの期間が延び、その間に払う固定資産税と管理の手間は、誰も補償してくれません。

それから、買取業者の話です。坂の上の古い家には、買取業者からのお手紙が頻繁に届きます。

買取の仕組みは、知ってしまえば当たり前の話です。業者は買った家を直して再販します。だから「再販できる値段」から、リフォーム代、諸費用、自分たちの利益を引いた金額しか出せません。相場の6割から7割です。これは業者が悪いのではありません。そういう商売だからです。

問題は、そこを説明せずに「今すぐ現金で買えます」とだけ言う会社があることです。買取が悪いのではありません。仲介と買取を並べて比べさせない会社が、危ないのです。

最後にもうひとつ。「売れないなら、とりあえず貸したらどうですか」という提案です。

聞こえはいいのですが、坂の上の築45年の家を借りたいという方は、ほとんどおられません。貸すためには水回りを直す必要があり、200万円、300万円かかります。それを回収するのに何年かかるか、必ず計算してください。

計算せずに勧めてくる会社は、リフォーム工事の利益を見ています。


8. 鈴蘭台のデメリットも、全部書きます


いい話ばかり書くと嘘になりますので、正直に書きます。

まず、寒さと雪です。鈴蘭台は、神戸の街中よりずっと標高の高いところにあります。

三宮が雨の日に、鈴蘭台は雪ということが、毎年のようにあります。路面が凍る日もあります。坂の上にお住まいだと、雪の日は車を出せません。これは実際に住んでみないと分からない部分です。

次に、電車です。鈴蘭台は神戸電鉄の有馬線と粟生線が分かれる駅で、乗り換えの拠点です。ここは便利な点です。

ただ、三宮に出るには新開地で乗り換えが必要で、30分前後かかります。運賃も安いとは言えません。

そして粟生線は、長く赤字が続いている路線です。将来の減便や運賃の見直しの話は、これまでも何度も出てきました。北区で家を持つということは、この鉄道の将来と付き合うということでもあります。

三つ目は、高齢化です。これは鈴蘭台の宿命だと思っています。

同じ時期に一斉に造られた街は、同じ時期に一斉に高齢化します。そして、同じ時期に一斉に空き家になります。

ご近所で同時に3軒売りに出た、ということが実際に起きています。売り物が重なれば、値段は下がります。「もう少し様子を見よう」という判断が、いちばん危ないのはこのためです。

四つ目は、敷地の広さです。意外に思われるかもしれませんが、鈴蘭台の古い家は敷地が広いことが多く、これが負担になります。

庭が広ければ草も伸びます。固定資産税もかかります。空き家のまま置いておくと、年に10万円から15万円が、ただ出ていくことになります。

最後に、値段そのものの見通しです。駅前が良くなったのは事実です。しかし「これから鈴蘭台全体が上がっていく」という材料は、正直、見当たりません。

駅前に近い物件は今後も一定の値段を保つと思いますが、坂の上の物件は、待っても状況は良くならないというのが、私の見立てです。


まとめ


鈴蘭台は、変わりました。しかし、変わったのは駅前だけです。

2018年にベルスト鈴蘭台ができ、北区役所が坂の上から降りてきました。これは間違いなく良い変化でした。けれど区役所は、毎日通う場所ではありません。だから地価が劇的に上がるということは、起きませんでした。

起きたのは、街の中の差が開いたということです。駅まで平坦に歩けて、車が2台停められる家は、今も強い。坂の上で、階段があって、車が入らない家は、以前より売りにくくなりました。

そして、この「鈴蘭台は変わった」という言葉を利用して、高すぎる査定を出す会社、囲い込みで売却を長引かせる会社、買取だけを勧める会社が、確実に存在します。

50年やってきて分かったことがあります。不動産で損をする人は、街全体の評判を見ます。

不動産で損をしない人は、自分の家が、その街の「どちら側」にあるのかを、正直に教えてくれる人を探します。


最後に、これだけは申し上げたい


もし今、鈴蘭台やその周辺に家をお持ちで、「うちはどうなんやろか」と気になっておられるなら、一度お聞きください。

売りやすい側にあれば、そう申し上げます。残念ながら売りにくい側であれば、その理由と、ではどうするのが一番損が少ないかを、隠さずお話しします。

坂の上の家は、待っても良くなりません。だからこそ、いつ、いくらで動くかを、早めに決めていただきたいのです。

私は売るために書いているのではありません。損をしていただかないために書いています。相談だけで結構です。売る売らないは、その後で決めていただければいいのです。

センチュリー21・ハートピア
田中章雄

谷上駅は北区で一番化けた駅です
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報  / 投稿日付:2026/08/11 09:08

こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。

今日は、谷上駅の話をします。私が50年この仕事をしてきた中で、「駅ひとつでこんなに景色が変わるのか」と本当に驚いた出来事が一度だけあります。それが谷上です。

谷上

北区にお住まいの方なら、2020年の6月に何が起きたか、覚えておられると思います。

北神急行が神戸市営地下鉄になった日です。あの日を境に、私の店の電話の鳴り方が変わりました。

ただ、ここで一歩立ち止まってください。「谷上が化けた」という話を、そのまま自分の家に当てはめてしまうと、大きく損をします。

化けたのは「駅」であって、「谷上一帯の不動産全部」ではないからです。今日はそこまで正直に書きます。


結論から申し上げます


谷上駅は、私が見てきた50年の北区の中で、一番はっきりと化けた駅です。理由はひとつだけ。運賃が半分以下になったからです。

2020年6月1日、北神急行電鉄は神戸市営地下鉄北神線になりました。その瞬間、谷上から三宮までの運賃が550円から280円になりました。

通勤1か月の定期は22,300円から10,620円です。月に1万1千円以上、年間で14万円近く、家計に現金が残るようになったということです。

これは断言できます。不動産の値段は、駅までの距離では決まりません。「そこに住んだときの毎月の負担」で決まります。

谷上は、建物も土地も何ひとつ変わっていないのに、住む人の毎月の負担だけが劇的に軽くなった。だから値段が動いたのです。

ただし、動いたのは駅から歩ける物件だけです。ここを勘違いした方が、私の周りで何人も損をしました。


1. 運賃が下がるというのは、資産価値が上がるということです


不動産屋がよく言う「利便性」という言葉、私はあまり好きではありません。ふわっとしていて、何のことか分からないからです。

利便性というのは、要するに「毎月いくらかかるか」と「毎日何分かかるか」の2つに翻訳できます。

谷上の場合、その片方が半分以下になりました。ご夫婦2人が三宮方面へ通うご家庭なら、月に2万円以上の差です。

これは、住宅ローンでいうと数百万円分の借入余力に相当します。

つまり、同じ年収の買主さんが、谷上なら「今までより数百万円高い家」を無理なく買えるようになった、ということです。買える金額が上がれば、相場は上がります。当たり前の話です。

50年やってきて分かったことがあります。不動産の相場を動かすのは、雰囲気ではありません。買主の財布です。


2. 三宮まで10分という数字が持つ、本当の意味


谷上から三宮まで、電車で10分です。新神戸までなら7分ほど。北区にお住まいの方は聞き慣れているので、あまりピンとこないかもしれません。

けれど、これを市外の方に言うと、たいてい2回聞き返されます。「10分ですか」「三宮までですか」と。

灘や東灘の駅前で三宮まで10分の物件を買おうと思ったら、いくらすると思われますか。同じ広さの3LDKで、4,000万円台の後半から5,000万円は覚悟しないといけません。

谷上駅の徒歩圏で、私が近年扱った築20年前後の3LDKは、2,500万円から2,900万円の間でした。

この差が、そのまま「谷上に住む金銭的な理由」になっています。市営化の前は、この差の理由が「運賃が高いから」で説明できてしまっていました。

今はその言い訳が消えました。だから見に来る人が増えたのです。


3. 買いに来る人の顔ぶれが、はっきり変わりました


これが一番の変化です。2019年までの谷上周辺で、家を買いに来られる方の多くは「もともと北区にご縁のある方」でした。ご実家が北区、勤め先が北区、お子さんの学校が北区。そういう方です。

2021年ごろから、まったく違う方が来られるようになりました。30代のご夫婦です。共働きで、お二人とも三宮か大阪へ通われる。北区にはご縁もゆかりもない。「谷上を調べていて来ました」とおっしゃるのです。

はっきり申し上げます。50年やってきて、北区の物件をインターネットで先に見つけてから来る若いご夫婦、というのは、市営化の前にはほとんどいませんでした。

需要というのは、人数ではなく「顔ぶれ」で見るものです。同じ10人でも、地元の10人と、市外から来た10人とでは、値段の付き方が違います。後者は比べる対象が「灘や東灘の相場」だからです。


4. 箕谷や神鉄沿線にも、ちゃんとおこぼれが来ました


谷上だけの話ではありません。北区の面白いところは、谷上が神戸電鉄との乗り換え駅だという点です。

箕谷、花山、大池、唐櫃台。このあたりにお住まいの方は、神鉄で谷上まで出て、そこから地下鉄に乗り換えます。その乗り換えの先が安くなったのですから、当然、沿線全体の通勤コストが下がりました。

箕谷には駅前に駐車場があって、車で駅まで来て電車に乗り換える方が昔から一定数おられます。市営化の後、「箕谷なら車を1台持ったままでも通える」という買い方をされる若いご家族が、確実に増えました。

ただし、ここも正直に申し上げます。おこぼれの量は、谷上を10とすると、箕谷で4か5、それより奥は2か3という感覚です。谷上と同じだけ上がったわけでは、決してありません。


5. 谷上でも「上がらなかった物件」が、はっきり存在します


ここが今日、一番お伝えしたい部分です。同じ谷上でも、上がった物件と、まったく動かなかった物件があります。分かれ目は3つです。

  • 駅から歩けるかどうか
  • 坂の上か下か
  • 車がないと生活が回らないかどうか

この3つのどれかで引っかかると、市営化の恩恵はほとんど届きませんでした。

理由は単純です。谷上を選ぶ新しい買主さんは「電車が安く速いから」来ているのであって、「北区の自然が好きだから」来ているわけではないからです。その方たちにとって、駅まで歩けない物件には価値がありません。

むしろ市営化の後、駅前と駅から遠い物件の差は、前より開きました。同じ町名の中で、以前は300万円の差だったものが、今は700万円の差になっている。そういう場所があります。


6. 実際にあった3つの話


ここからは実例です。細かいところは変えていますが、金額と流れはそのままです。

Aさんという方がおられました。当時62歳。谷上駅から徒歩12分、築30年の一戸建てです。2019年の秋、お子さんの独立を機に売ろうとされました。

そのときの査定は1,850万円。3か月出しましたが、内覧はたった2件。買付はゼロでした。Aさんは「まあ、北区やしなあ」とおっしゃって、いったん売却をやめられました。

2021年の春、Aさんから電話がありました。「あきちゃん、もう一回やってみようか」と。同じ家を2,380万円で出しました。内覧は3週間で7件。2,300万円で成約しました。

家は何も変わっていません。むしろ2年古くなっています。変わったのは、駅から三宮までの運賃だけです。

次はBさんご夫婦です。当時30代半ば。ご主人が三宮、奥様が大阪の梅田へお勤めでした。2022年に、谷上駅から徒歩8分の築18年のマンションを2,650万円でお買いになりました。

Bさんはご契約のとき、こうおっしゃいました。「東灘で同じ間取りを見たら4,800万円でした。通勤時間は15分しか変わらない。この差はさすがに埋められないです」と。これが今の谷上を選ぶ方の、正直な本音です。

最後にCさん。これは残念な話です。Cさんは当時71歳。箕谷からバスで10分ほど、坂を上がった団地の一戸建てをお持ちでした。築42年。

2020年の夏、Cさんは近所の方から「市営化で北区は上がるらしい」と聞かれて、私のところへ来られました。私は正直にお伝えしました。「Cさんの物件は、駅から歩けません。上がる理屈が働きにくい場所です」と。

Cさんは納得されず、別の会社に頼まれました。その会社は1,280万円という値段を付けました。

結果を申し上げます。その物件は2年半かかって、最終的に980万円で売れました。途中で3回値下げをして、最後は買取業者に近い値段です。

もし2020年の時点で1,050万円くらいで素直に出していれば、半年で売れて、固定資産税も草刈りも管理も、2年ぶん払わずに済みました。「上がるらしい」という言葉が、Cさんから2年半と、200万円近くを奪ったのです。


7. 業界の裏側を、隠さず書きます


Cさんの話には続きがあります。私が本当に伝えたいのは、ここです。市営化が決まってから発表までの間、そして市営化の直後、北区の物件に対して、業界では2つのことが起きました。

ひとつは、高すぎる査定です。「北神線が市営化されますから、値上がりします」という一言は、売主さんに対して恐ろしいほどよく効きます。査定価格を相場より2割高く出しても、売主さんは疑いません。むしろ喜ばれます。

なぜそんなことをするのか。媒介契約を取るためです。

はっきり申し上げます。高い値段を付けた会社が、その値段で売ってくれるわけではありません。高い値段を付けた会社は、契約を取ってから、3か月ごとに値下げの相談をしてくるだけです。これを業界では「高預かり」と言います。

売れない期間が長引くと、物件は「物件が枯れる」という状態になります。同じ物件がいつまでも出ていると、買主さんもプロも「何かあるんちゃうか」と思う。そうなると、正しい値段に下げても、もう反応が戻りません。Cさんの物件で起きたのは、まさにこれです。

もうひとつは、その逆です。市営化の発表があった後、「今は売らないほうがいい。もっと上がりますよ」と言って、売却を止めた会社がありました。

これも善意ではありません。売主さんとの関係を切らさず、他社に取られないようにしておいて、いい時期に自社で両手取引を狙う。つまり売主さんからも買主さんからも手数料をもらう形に持っていくためです。その間に売主さんが払い続けた固定資産税や管理費のことは、誰も計算していません。

それから、買取業者の動きです。2020年から2021年にかけて、谷上と箕谷の周辺を、買取業者がかなり熱心に回っていました。

買取査定というのは、仕組みを知れば当たり前の話です。業者は買った家を直して再販します。だから「再販できる値段」から、リフォーム代、諸費用、そして自分たちの利益を引いた金額しか出せません。相場の6割から7割です。これは業者が悪いのではなく、そういう商売だからです。

問題は、そこを説明せずに「今すぐ現金で買えます」とだけ言う会社があることです。これは覚えておいてください。買取が悪いのではありません。仲介と買取を比べずに買取だけを勧める会社が、危ないのです。


8. 谷上のデメリットも、全部書きます


いい話ばかり書くと嘘になるので、正直に書きます。

まず、標高です。谷上駅は、地下鉄の駅としては日本でもかなり標高の高い場所にあります。トンネルを抜けると、そこは山の中の盆地です。

冬は三宮より確実に寒く、路面が凍る日があります。積雪する年もあります。三宮で雨の日に、谷上でみぞれということが、実際にあります。

次に、です。谷上・箕谷のあたりは平らではありません。駅から徒歩10分と書いてあっても、その10分が上り坂だと、体感はまったく違います。

私は物件をご案内するとき、必ずお客様と一緒に歩きます。図面の「徒歩10分」を信用してはいけません。

三つ目は、買い物です。谷上駅の周りに、大きな商業施設はありません。日常の買い物は車で少し走るか、岡場や鈴蘭台の方に出るか、三宮の帰りに済ませるかになります。

「電車が便利になった」ことと「生活が便利になった」ことは、別の話です。ここは冷静に見てください。

四つ目は、トンネル依存です。谷上と市街地をつないでいるのは、鉄道も道路もトンネルです。大きな災害や事故でトンネルが止まったとき、迂回路はかなり遠回りになります。この不安は、住んでみないと分からない部分です。

最後に、値段そのもののリスクです。市営化から数年が経ちました。値下げのインパクトは、もう相場に織り込まれています。

「これからまだ上がる」という前提で、相場より高い物件を買ってしまうと、次に売るときに苦労します。上がったのは事実です。しかし「上がり続ける」わけではありません。ここを混同しないでください。


まとめ


谷上駅は、北区で一番化けた駅です。これは間違いありません。2020年6月1日、運賃が550円から280円になった日に、谷上は「不便な北区の駅」から「三宮まで10分の安い駅」に変わりました。

ただし、化けたのは駅であって、谷上の不動産全部ではありません。駅から歩ける物件は上がりました。歩けない物件は、むしろ差を広げられました。

そして、この「化けた」という話を利用して、高すぎる査定を付ける会社、売却を引き延ばす会社、買取だけを勧める会社が、確実に存在します。

50年やってきて分かったことがあります。不動産で損をする人は、相場が上がったか下がったかを気にします。

不動産で損をしない人は、自分の物件が「上がる側」なのか「上がらない側」なのかを、正直に教えてくれる人を探します。


最後に、これだけは申し上げたい


もし今、谷上や箕谷、その周辺に物件をお持ちで、「うちも上がったんやろか」と気になっておられるなら、一度お聞きください。

上がっていれば上がっていると申し上げますし、残念ながら上がっていない場所であれば、その理由と、ではどうするのが一番損が少ないかを、正直にお話しします。

私は売るために書いているのではありません。損をしていただかないために書いています。相談だけで結構です。売る売らないは、その後で決めていただければいいのです。

センチュリー21・ハートピア
田中章雄

家というものは何か
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報  / 投稿日付:2026/08/10 06:13

こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。

今日は、少し大きな話をさせてください。家というものは、いったい何なのか。50年この仕事をやってきて、私がずっと考え続けてきたことです。

家とは

売った家、買っていただいた家、そして壊した家。数えたことはありませんが、何千件と関わってきました。

その中で、一つだけ、はっきりしてきた答えがあります。

結論から申し上げます


家は、資産ではありません。

家は、時間の入れ物です。

ただし、売る日が来た瞬間、家は容赦なく資産に戻ります。

この二つを両方分かっている人だけが、家で損をしません。どちらか片方しか見ていない方は、必ずどこかで泣きます。

これは断言できます。50年見てきて、例外はほとんどありませんでした。


1. 住んでいる間、家に値段はありません


不動産屋がこんなことを言うのは、おかしいと思われるかもしれません。けれど、これは本当のことです。

今日あなたが住んでいる家に、値段はついていません。朝、台所で味噌汁の匂いがして、子どもが階段を駆け下りてきて、玄関でランドセルを引っかける。その家に「2,800万円」という札は下がっていません。

家の柱についた背比べの傷。雨漏りを直したときに残った天井のシミ。ご主人が最後に座っておられた、居間の窓際の場所。

これは、いくらですか。値段はつきません。つけようがありません。

50年やってきて分かったことがあります。人が家に本当に求めているのは、坪単価でも駅からの分数でもありません。そこで過ごした時間が、なかったことにならないという安心です。家というのは、その時間を入れておく箱なのです。


2. けれど、売る日には必ず値段になります


ここで一歩立ち止まってください。ここからが、今日いちばん申し上げたいところです。

家は時間の入れ物ですが、売る日が来た瞬間、その入れ物は市場に出されます。そして市場は、中に入っている時間を一切見ません。

買主が見るのは、立地、面積、築年数、状態だけです。あなたの30年間は、査定書のどこにも書かれません。冷たいと思われるでしょう。私も、若い頃はそう思いました。

けれど、これが現実です。はっきり申し上げます。思い出は一円にもなりません。

ここを分かっていない方が、売却でいちばんつらい思いをされます。「うちの家は大事に住んできたから、もっと高いはずだ」。この気持ちは、痛いほど分かります。分かりますが、値段は動きません。

家は、住んでいる間は時間の入れ物で、手放す日には冷たい商品になる。この切り替わりを、買う前から知っているかどうか。それが、30年後の景色を変えます。


3. Cさんの実家の話をさせてください


去年、74歳の女性、Cさんから相談をいただきました。お母様が施設に入られ、神戸市北区にあるご実家が空き家になったという話です。

築52年の木造二階建てでした。駅から徒歩18分、バス便のある地区です。固定資産税は年に11万円ほど、それとは別に、風を通しに月2回通っておられました。

Cさんは、こうおっしゃいました。「父が建てた家です。できれば残したい」。私は、その気持ちを否定しませんでした。

けれど、数字は正直に申し上げました。

建物にはほぼ価値がありません。土地としての評価です。そのまま売るなら1,450万円前後。解体して更地にすれば1,680万円前後になりますが、解体費用が180万円かかります。さらに、更地にした翌年から固定資産税の住宅用地の軽減がなくなり、税額が数倍に上がります。

Cさんは、しばらく黙っておられました。そして、「父の家が180万円かけて消える話なんですね」と言われました。私は、そうです、と申し上げました。嘘をついても、事実は変わりません。

ここで大事なのは、そのあとです。私はCさんに、売る前に一度、ご家族で家に集まってくださいとお願いしました。写真を撮って、お父様が使っておられた道具を一つだけ持ち帰ってください、と。

半年後、Cさんは売却を決められました。家は解体され、今は若いご夫婦の新しい家が建っています。Cさんは、こう言われました。

「あきちゃん、家は消えたけど、あの日に持ち帰った父の物差しがうちにあるから、大丈夫です」

家というものは何か。私はこの仕事で、この答えに一番近づいた気がしました。家は、時間の入れ物です。そして、入れ物は最後に空にして手放すものです。空にする手続きを飛ばして、いきなり値段の話から入ると、人は納得できないのです。


4. 出口を見てから買った、Dさんご夫婦の話


もう一組、対照的な話をします。38歳と36歳のDさんご夫婦。お子さんが二人、当時5歳と2歳でした。

ご夫婦は最初、3,180万円の新築建売を見ておられました。日当たりもよく、設備もきれいで、営業の方の説明も上手でした。「一生ものの住まいですよ」という言葉も出たそうです。

私は、一つだけ質問しました。

「この家を、20年後に売るとしたら、いくらで売れると思われますか」

ご夫婦は、答えられませんでした。当然です。買う日に出口の話をする人は、ほとんどいません。

その物件は、車がすれ違えない道の奥にありました。前面道路は4mを切っていて、建て替えのときにセットバックが要ります。新築のうちは売れますが、20年経って中古になった瞬間、この立地は極端に弱くなります。

私は、別の土地をお見せしました。値段は2,380万円。建物は少し古く、築15年の中古です。見た目は前の物件に負けます。正直、奥様は最初がっかりされていました。

けれど、駅まで徒歩11分、前面道路は6m、南向き。20年後に売っても、買った値段から大きくは落ちない場所です。

ご夫婦は、こちらを選ばれました。35年ローンで、月々の返済は9万2千円。前の物件より、月々2万円ほど軽くなりました。

それから8年経ちました。去年、下のお子さんが中学に上がるときに、ご夫婦が挨拶に来られました。奥様が笑いながら、「あのとき、あきちゃんに止められてよかった」と。

この8年、ご夫婦はその家で時間を積んでこられました。そして、その家はいざというときに売れる家でもあります。家というものは何か。この両方が成立している状態を、私は良い家と呼んでいます。


5. 業界が「家とは何か」を語らない理由


ここからは、正直に業界の裏側を申し上げます。

不動産の営業は、思い出を売ります。「奥様、ここでお子さんが宿題をされる姿が目に浮かびますね」「一生ものの住まいです」「家族の夢が形になりますね」。

こういう言葉が悪いとは言いません。けれど、はっきり申し上げます。これは、出口の話をさせないための言葉でもあります。

買う日に「20年後この家はいくらですか」と聞かれると、答えにくい物件はたくさんあります。だから、値段の話ではなく、気持ちの話に持っていくのです。契約は気持ちで決まりますから、そのほうが早い。

そして、売る側になった途端、業界の態度は逆になります。

  • 高い査定額で預かって売主を安心させる、いわゆる「高預かり」
  • 他社の問い合わせを「商談中です」と断って自社で買主を探す「囲い込み」
  • 売主と買主の双方から手数料を取る「両手取引」
  • 売れない時間を作り、疲れた頃に「そろそろ下げましょう」と持ちかける値下げ誘導

買うときは思い出を語り、売るときは思い出を無視する。同じ業界が、同じ人に対して、これをやります。私はこれが、50年でいちばん嫌だったことです。

もう一つ。買取査定のカラクリも申し上げておきます。買取業者の提示額が相場の6割から7割になるのは、その業者が悪いからではありません。買い取って、直して、利益を乗せて売るのですから、当然そうなります。

問題は、それを「今すぐ現金化できますよ」という言葉だけで勧める売り方です。急いでいない方が買取を選ぶと、数百万円が消えます。急いでおられる方には、買取は正しい選択です。この違いを説明しない会社が、多すぎます。


6. 正直に、家を持つことのデメリットを申し上げます


いいことばかり書くと、嘘くさくなります。不動産屋がこれを言うのは商売として損ですが、書きます。

家を持つと、身動きが取りにくくなります。転勤、離婚、親の介護、収入の変化。人生の変わり目に、家は必ず足かせになります。

お金も出続けます。固定資産税、火災保険、10年から15年ごとの外壁と屋根、給湯器の交換、シロアリの点検。35年で見れば、建物には数百万円単位で追加のお金がかかります。

そして、これがいちばん申し上げにくいことです。あなたが大事にしてきた家は、いつか、お子さんにとって片づける対象になります。

相続で兄弟が揉めるのは、たいてい現金ではなく家です。分けられないからです。売るか、誰かが住むか、空き家のまま放っておくか。この三択で、家族の関係が壊れる場面を何度も見てきました。

家というものは何か、と考えるときに、この現実からは逃げられません。時間の入れ物は、次の世代にとっては重い荷物にもなります。

ですから私は、家を買われる方にも、持っておられる方にも、同じことを申し上げます。いつか手放す日が来ることを前提に持ってください、と。そのほうが、その家で過ごす時間は、かえって濃くなります。


まとめ


家というものは何か。50年かけて出した私の答えを、もう一度申し上げます。

家は、資産ではありません。時間の入れ物です。けれど、手放す日には、容赦なく資産に戻ります。

ですから、家と付き合うときに見るべきものは、この三つです。

  • その家で、どんな時間を過ごしたいか
  • その家は、20年後に売れる場所にあるか
  • その家を、最後に誰がどう片づけるか

この三つを最初に考えた方は、まず失敗しません。

一つ目しか考えなかった方は、出口で泣きます。二つ目しか考えなかった方は、住んでいる間ずっと落ち着きません。三つ目を考えなかった方は、お子さんの代で揉めます。

これは断言できます。家で幸せになった方は、必ず、この三つを最初に並べておられました。


最後に、これだけは申し上げたい


家の話は、一生に一度か二度のことです。そして、たいていの方は、誰にも相談できないまま迷っておられます。

「実家をどうしたらいいのか、まだ決めていない」「そもそも、うちは家を買うべきなのかどうかが分からない」。その程度の入り口で、まったく構いません。

売らないほうがいいと思えば、そう申し上げます。買わないほうがいいと思えば、正直に止めます。それで私に一円も入らなくても、それが50年やってきた者の仕事だと思っています。

あなたの家に入っている時間を、値段の話だけで終わらせたくないのです。どうぞ、気楽にご相談ください。

センチュリー21・ハートピア
田中章雄

「あきちゃん」と呼ばれる理由
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報  / 投稿日付:2026/08/09 06:07

こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。

今日は、少し照れくさい話をさせてください。なぜ私が、この歳になっても「あきちゃん」と呼ばれているのか。その理由をお話しします。

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77歳の爺さんが「あきちゃん」です。おかしいでしょう。自分でも、たまにおかしいと思います。

けれど、これには理由があります。そして、その理由は、あなたが不動産屋を選ぶときに本当に見るべきものと、ちょうど重なっています。

結論から申し上げます


私が「あきちゃん」と呼ばれているのは、人柄がいいからではありません。

はっきり申し上げます。私は気が短いですし、口も悪いほうです。亡くなったうちの家内に聞くことができたなら、たぶん3分は文句が出ます。

理由はもっと単純です。

50年、この街から一度も逃げなかったからです。

名前で呼ばれる不動産屋は、逃げられないのです。


1. 始まりは、27歳のときのひとことでした


私がこの仕事を始めたのは、20代の半ばです。まだ神戸市北区が今のように住宅地として整う前、山と田んぼと古い集落が混ざっていた頃の話です。

27歳のとき、近所に住んでいたおばあちゃんに、土地のことで相談を受けました。そのおばあちゃんが、私をこう呼んだのです。

「章雄ちゃん、ちょっと来て」

田中さんでも、担当者さんでもありません。「章雄ちゃん」です。その頃の私は、それが少し悔しかった。一人前に見られていない気がしたのです。

けれど、そのおばあちゃんの土地の件を半年かけて片づけたあと、近所の人が次々に同じ呼び方をするようになりました。「章雄ちゃん」が、いつの間にか「あきちゃん」になりました。50年、それがそのまま残っただけの話です。


2. 私は「営業マン」ではなく「近所の人」でした


50年やってきて分かったことがあります。お客様は、不動産の知識で不動産屋を選んでいるのではありません。

「この人は、来年もここにいるか」で選んでいます。

私は、この街で子どもを育てました。同じスーパーで買い物をして、同じ病院に通って、同じ神社の掃除に出ています。契約が終わったあとも、道で会うのです。

これは断言できます。道で会う関係の商売は、いいかげんなことができません。半年後に会ったときに目をそらさなければいけないような売り方をしたら、この街では生きていけないからです。

大手の営業マンは、そうではありません。彼らは悪い人ではないのですが、2年から3年で異動します。転勤です。売ったあと、その街にいないのです。

ここで一歩立ち止まってください。あなたの家を担当する人は、3年後もその街にいますか。これは、意外と大事なことです。


3. 名前で呼ばれる不動産屋は、逃げられません


肩書きで呼ばれる商売と、名前で呼ばれる商売は、まったく別物です。

「支店長」「営業部長」「不動産コンサルタント」。こういう呼び方は、責任が肩書きに乗ります。人ではなく、役職に乗るのです。

だから、その人が異動しても、話は次の支店長に引き継がれて終わりです。

「あきちゃん」は違います。失敗したら、田中章雄という個人が、この街で50年言われ続けます。逃げ場がありません。

だから私は、無理な売り方をしません。できないのです。臆病だからです。正直に申し上げると、それだけの話です。


4. 「売らないほうがいい」と言えるかどうか


人柄という言葉を、私はあまり信用していません。不動産屋の人柄は、笑顔でも、腰の低さでも、丁寧な言葉づかいでもありません。

自分の手数料が消える提案を、口に出せるかどうかです。

去年、60歳のBさんという男性から相談を受けました。「2,780万円の中古戸建てを買おうと思っている。どう思うか」

現地を見に行きました。日当たりもよく、間取りも悪くない。奥様も気に入っておられました。けれど、裏の擁壁が古かったのです。

業者に見てもらったら、10年以内に手を入れる必要があり、その費用がおよそ400万円でした。売主側は、その話を一切していませんでした。

私は、Bさんに止めていただきました。その取引が成立していれば、うちに入るはずだった仲介手数料は98万円です。それが消えました。

けれど、Bさんは今も年に一度、うちに顔を出してくださいます。先月も来られて、笑いながらこう言われました。「あきちゃんに止めてもろて助かったわ」

98万円と、10年通ってくださる関係。どちらが商売として得か。50年やっていれば、答えは出ています。


5. Aさんの話をさせてください


もう一人、忘れられない方がいます。藤原台にお住まいだったAさん。72歳の女性です。

ご主人を亡くされて、築48年の一戸建てを売ることになりました。駅から徒歩12分、固定資産税は年に9万8千円かかっていました。

Aさんは、他社の査定も取っておられました。その会社の査定額は2,480万円です。うちの査定は1,980万円でした。500万円も差があります。

普通なら、高いほうに頼みます。Aさんも、最初はそちらに預けられました。けれど、半年経っても売れませんでした。そして半年後、その会社が持ってきた提案が「1,850万円に下げましょう」でした。

ここが、業界のよくある流れです。最初から高く売る気などありません。高い査定で預かって、時間をかけて疲れさせて、下げるのです。

Aさんは、うちに来られました。私は2,050万円で出しました。実際に売れる値段より、ほんの少しだけ上に置いた数字です。3か月で売れました。仲介手数料は74万円です。決して大きな金額ではありません。

なぜAさんがうちに来られたか。30年前、Aさんの息子さんがアパートを探していたときに、私が3日かけて一緒に歩いたからです。賃貸の仲介です。手数料など、たかが知れています。

その3日が、30年後に戻ってきました。私が「あきちゃん」と呼ばれる理由は、こういうことの積み重ねです。


6. 業界の裏側を、正直にお話しします


不動産の世界には、あえて「先生」と呼ばせたがる人たちがいます。資格の名前を名刺に7つも8つも並べて、権威で信用させようとするやり方です。

はっきり申し上げます。資格の数と、あなたが損をしないかどうかは、ほとんど関係ありません。

もっと言いにくいことも申し上げます。大手にお願いすると、担当者が変わります。売却の話をした担当者と、契約のときの担当者と、引き渡しのときの担当者が別人だった。これは珍しくありません。

それから、「囲い込み」です。自社で買主も見つければ、手数料が売主と買主の両方から入ります。いわゆる「両手」です。

だから、他社から「その物件を見せてください」と問い合わせが来ても、「商談中です」と断る会社があります。売主には知らされません。売主は、ただ「売れませんねえ」と言われ続けます。

なぜこんなことが起きるか。担当者が、その街の人ではないからです。半年後にスーパーで売主と鉢合わせしないなら、断ることに痛みがありません。

逆に言えば、道で会う不動産屋には、それができません。これが、地域の不動産屋を選ぶ、いちばん現実的な理由です。


7. 正直に、デメリットも申し上げます


いいことばかり書くと、嘘くさくなります。ですから、うちの弱いところも書きます。

まず、広告力では大手に勝てません。全国のネットワークも、テレビCMも、専任の宣伝部隊もありません。県外から神戸に移ってこられる方への露出は、大手のほうが強いです。

次に、人数が少ないです。私と、限られた人数でやっています。夜中に電話をいただいても、その場では出られないことがあります。

それから、これは私の悪いところですが、はっきり言いすぎます。

「その値段では売れません」「その家は買わないほうがいいです」。こういう言い方をされるのが嫌な方には、うちは向きません。夢を壊されたと感じられる方もいます。実際、そう言われて帰られたお客様も何人もいらっしゃいます。

最後に、あきちゃんと呼ばれることのデメリットも申し上げます。親しくなりすぎると、値段の話がしにくくなる方がおられます。近所づきあいの延長で相談に来られて、こちらが厳しい数字を言うと、裏切られたように感じてしまう。これは、私の側の課題でもあります。

ですから私は、親しい方ほど、数字の話は他人行儀に、はっきり言うようにしています。そこだけは、あきちゃんではなく田中章雄でいるようにしています。


まとめ


私が「あきちゃん」と呼ばれる理由は、人柄でも、愛想でも、営業のうまさでもありません。50年、この街から逃げなかったからです。そして、逃げられない場所に自分を置いてきたからです。

不動産屋を選ぶとき、笑顔や肩書きや査定額の高さを見てはいけません。見るべきものは、たった三つです。

  • その人は3年後もこの街にいるか
  • その人は自分の手数料が消える話を口に出せるか
  • その人はデメリットを先に言うか

この三つがそろっている相手なら、名前が何であろうと、たいてい大丈夫です。

逆に、この三つがない相手は、どれだけ丁寧で、どれだけ笑顔でも、危ないと思ってください。これは断言できます。50年見てきて、例外はほとんどありませんでした。


最後に、これだけは申し上げたい


家や土地の話は、一生に一度か二度のことです。聞くのが恥ずかしい話でも、まだ売ると決めていない段階でも、まったく構いません。

「うちの実家、どうしたらいいんやろか」。その程度の入り口で、十分です。

売るべきでないと思えば、売らないほうがいいと申し上げます。今は待ったほうがいいと思えば、そう申し上げます。それで私に一円も入らなくても、それが50年やってきた者の仕事だと思っています。

どうぞ、気楽に「あきちゃん」と呼んでください。

センチュリー21・ハートピア
田中章雄

私がこの仕事で一番大切にしていること
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報  / 投稿日付:2026/08/08 07:19

こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。

今日は、私がこの仕事で一番大切にしていることを、一つだけ書きます。

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一つだけ、というのが大事です。

十個も二十個も並べる不動産屋を、私は信用しません。パンフレットに「誠実」「迅速」「地域密着」「お客様第一」と四つも五つも並べてある会社ほど、いざ契約の場になると何も守っていない。50年見てきて、これははっきりしています。

だから私は、一つに絞りました。守れることしか書かない、というのも私なりの正直さのつもりです。


結論から申し上げます


私がこの仕事で一番大切にしているのは、

都合の悪いことを、契約の前に、こちらから言う。

これだけです。

聞かれたら答える、ではありません。こちらから、先に言う。しかも契約が済んだあとではなく、お客様がまだ「やめる」という選択肢を持っている段階で言う。

たったこれだけのことです。難しい理屈は一つもありません。

けれど、これができている不動産屋は、私が知る限り半分もいません。


1. なぜ「聞かれたら答える」では駄目なのか


お客様は、何を聞けばいいのか分からないからです。

これは断言できます。不動産の取引で損をする人は、頭が悪いのでも欲張りなのでもありません。「そこに聞くべきことがある」と気づけないだけです。

前の道が私道で、その持ち主が誰なのか。水道管が隣の敷地の下を通っているのか。擁壁が何年前に積まれたもので、今の基準を満たしているのか。

こんなものは、素人が思いつくはずがありません。家を買うのは人生で一度か二度。私は50年で何千件も見てきた。この差は、努力では埋まりません。

ですから、知っている側が先に言うしかない。

「聞かれなかったから言わなかった」

これは業界で一番よく使われる言い訳です。そして法律上は、これで通ってしまうことが少なくない。だから私は、自分に禁じました。


2. 言うタイミングは「契約前」でなければ意味がない


不動産の取引には、重要事項説明という手続きがあります。契約の直前に、宅建士が物件の欠点も含めて読み上げるものです。

法律を守るという意味では、ここで言えば違反ではありません。

けれど、はっきり申し上げます。あの場で欠点を初めて聞かされて、「やめます」と言えるお客様は、100人に3人もいません。

考えてみてください。手付金を用意して、印鑑を持って、家族の予定も調整して、その席に座っている。ご主人は会社を半日休んでいる。奥さんは実家に報告済み。子どもの学校の話まで進んでいる。

そこで「実は前面道路が私道で、掘削の承諾が取れていません」と言われて、立ち上がれますか。

立てないんです。だから業界は、その席まで黙っていられる。

私はこれを、卑怯だと思っています。だから私は、案内の車の中で言います。まだ何も始まっていないうちに、です。


3. 実際にあった話をします


3年前、藤原台のある中古戸建てを、Bさんご夫婦(ご主人44歳、奥さん41歳、お子さん2人)にご案内しました。

築28年、価格は2,780万円。日当たりがよく、間取りも学区も申し分ない。奥さんは玄関を入って30秒で「ここがいい」とおっしゃいました。ご主人も乗り気でした。

私はその場で、三つ申し上げました。

  • 裏の擁壁が築年数と同じ28年もので、今の基準では確認が取れていないこと
  • そのため将来売るときに、買主のローンが通りにくくなる可能性があること
  • 直すとなれば、規模から見ておそらく300万円前後かかること

奥さんの顔から、笑顔が消えました。

正直に申し上げると、私は一瞬、言わなければよかったかと思いました。人の喜んでいる顔を自分で消すのは、50年やっても慣れません。

ご夫婦はその日、決めずに帰られました。

それから2週間、連絡がありませんでした。私は「他社で買われたな」と思っていました。実際、そういうことはよくあります。

3週間目に電話が鳴りました。

「あの家、やっぱり買います。あきちゃんが言うてくれた300万を、値段の交渉に使いたいんですけど、できますか」

私は売主側と交渉し、最終的に2,600万円でまとまりました。180万円下がった計算です。

そのうえでBさんは、擁壁の調査だけ先にやっておきたいとおっしゃった。私も同意しました。

この話には、続きがあります。

去年、Bさんの奥さんのお姉さん夫婦が、家を売りたいとうちに来られました。お姉さんはこうおっしゃいました。

「妹から聞いてます。悪いことを先に言う不動産屋さんやと」

私が50年で欲しかったのは、この一言です。売上ではありません。


4. 業界がなぜ「先に言わない」のか、本当の理由を書きます


きれいごと抜きで書きます。

一つ目。言えば、その場で契約が壊れるからです。

不動産の営業には、たいてい月ごとの数字があります。今月あと1本という状態で、目の前のお客様が乗り気になっている。そこで欠点を出せば、まず飛びます。飛べば数字が届かない。届かなければ、上司に詰められる。

だから黙る。悪人だから黙るのではありません。追われているから黙るんです。ここが厄介なところです。

二つ目。両手取引の構造です。

売主からも買主からも手数料をもらう形になると、その物件は「絶対に自分のところで決めたい」物件になります。買主に不利な情報を出すと、その決めたい取引が壊れる。すると、口が重くなる。

これは個人の良心の問題ではなく、仕組みの問題です。仕組みが黙らせるんです。

三つ目。売主自身が隠したがることがあります。

雨漏りの跡、シロアリの駆除歴、近所とのもめごと。売主から「言わんでええやろ」と言われることは、正直に申し上げて、今でもあります。

私はこれを断ります。断って媒介を取れなかったことも、一度や二度ではありません。


5. 正直に言うことの、デメリットも書きます


いいことばかりではありません。ここを書かないと、私が嫌っている「きれいな不動産屋」と同じになってしまいます。

まず、売れるのが遅くなります。

うちが預かった物件は、他社より成約まで平均して1か月ほど長いと思います。欠点を先に出せば、当然、迷う人が出るからです。

次に、価格が下がることがあります。

Bさんの件がまさにそうで、売主から見れば180万円の値下げでした。私が黙っていれば、その180万円は下がらなかったかもしれない。売主側から見れば、私は損をさせた不動産屋です。

ただ、私はそれでいいと思っています。あとで擁壁のことが発覚して契約解除になったり、引き渡し後に揉めたりするほうが、売主にとってはるかに痛い。50年で、そういう後始末を何十件も見てきました。

それから、お客様を不安にさせます。

「そんなに欠点ばっかり言われたら、どの家も買えなくなる」

そう言われたことがあります。ごもっともです。欠点のない家など一軒もありませんから、全部言えば全部が不安になる。

ですから私は、必ずこう付け加えるようにしています。この欠点は、いくらで直るのか。直せないものなのか。直せないなら、いくら値段に反映させるべきなのか。

欠点を言いっぱなしにするのは、ただの無責任です。そこまで言って初めて、正直と呼べます。

最後に、儲かりません。

これははっきり申し上げます。50年やって、私は大きな財産を作れませんでした。同期で派手にやった連中のほうが、はるかに稼いでいます。

けれど、私は今も北区で店を開けていて、彼らの何人かはもういません。


6. なぜ、これを一番大切なことに選んだのか


若い頃の私は、こうではありませんでした。

30代の頃、私は「言わない側」の人間でした。詳しくは以前にも書きましたが、道路の件を黙ったまま契約まで進めて、引き渡しのあとにお客様から電話をもらったことがあります。

「田中さん、知ってはったんですか」

この一言を、50年経った今でも覚えています。私は何も答えられませんでした。

50年やってきて分かったことがあります。

不動産屋が持っている一番の武器は、情報です。そしてその情報を、出すか出さないかを決められる立場にいる。

出さなければ、その日は儲かります。出せば、その日は損をします。

けれど20年、30年という単位で見ると、話がひっくり返る。出さなかった不動産屋のところには、二度目のお客様が来ません。紹介も来ません。地元で商売が続かなくなる。

私が50年続けられた理由は、腕がいいからではありません。出す側を選んだから、それだけです。


まとめ


私がこの仕事で一番大切にしていることは、都合の悪いことを、契約の前に、こちらから言うことです。

聞かれてから答えるのでは遅い。重要事項説明で言うのでも遅い。お客様がまだ「やめます」と言える段階で、こちらから出す。

そのせいで、契約は飛びます。価格は下がります。儲かりません。

それでも私はこれを選びました。50年やって、この選び方が間違っていたとは一度も思っていません。


最後に、これだけは申し上げたい


もし今、どこかの不動産会社と話を進めていらっしゃるなら、一度だけ聞いてみてください。

「この物件の、一番悪いところを教えてください」

この質問に、10秒黙ってから答える会社は、たぶん考えてから正直に言おうとしています。すぐに「特にありません」と返ってくる会社は、見ていないか、言う気がないかのどちらかです。

そして、うちに聞きに来ていただいても構いません。他社で進んでいる話でも結構です。売る予定がなくても結構です。

私は、その物件の悪いところから先にお話しします。それが、私の50年です。

センチュリー21・ハートピア
田中章雄

50年前の不動産と今の違い
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報  / 投稿日付:2026/08/07 06:31

こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。

今日は、私がこの仕事を始めた50年前の不動産と、今の不動産が、何がどう変わったのかという話をします。

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私が不動産屋の見習いとして働き始めたのは、昭和50年です。

北区の山を切り開いた新しい団地が、次から次へとできていた頃でした。

「昔はよかった」という話をしたいのではありません。

むしろ逆です。今のほうが良くなったところは、たくさんあります。でも、今のほうが危なくなったところもあります。

50年ずっと同じ場所で、同じ商売を見てきた人間として、何が変わって、何が変わらなかったのかを正直に書きます。


結論から申し上げます


50年で一番変わったのは「情報」です。そして一番変わらなかったのは「人が家を手放す理由」です。

昔、不動産の情報は、不動産屋の頭の中と、手書きの台帳の中にしかありませんでした。今は、スマホで誰でも見られます。

けれど、お客様が家を売りに来る理由は、50年前も今もまったく同じです。お金、家族、そして死。この3つ以外の理由で家を売った人を、私はほとんど見たことがありません。

これは断言できます。道具は変わりました。人は変わっていません。


1. 情報が「不動産屋の秘密」から「誰でも見られるもの」になった


昭和50年当時、相場を知っているのは不動産屋だけでした。

店の壁に手書きの物件広告を貼って、それを見にお客様が歩いて来る。図面は手描き、契約書はカーボン紙の複写。店にコピー機すらありませんでした。

ですから、売主さんも買主さんも「この値段が高いのか安いのか」を自分で確かめる手段がなかったのです。不動産屋が「このあたりは坪15万円ですわ」と言えば、それが正解になってしまいました。

今は違います。スマホで、同じ町の似た物件が3秒で並びます。

これは間違いなく良い変化です。私は歓迎しています。私ら不動産屋にとっては、嘘がつけなくなったということですから。


2. 土地が「持っていれば上がるもの」から「選ばないと下がるもの」になった


昭和50年代、北区の団地の土地を買った人は、ほぼ全員が儲かりました。

買って10年放っておいたら、値段が倍になっている。そういう時代でした。当時は「どこを買うか」を真剣に考える必要すらなかったのです。

今は、真逆です。

同じ神戸市北区の中でも、駅から歩けるところは値段が保たれています。一方で、バス便で坂の上にある団地は、30年前の3分の1になっているところもあります。

50年やってきて分かったことがあります。昔は「買うこと」自体が正解でした。今は「どこを買うか」だけが正解を決めます。


3. 主役が「買う若夫婦」から「売る高齢者」に入れ替わった


昔、店に来られるお客様のほとんどは、30代のご夫婦でした。子どもができたから家がほしい、という相談です。

今、うちの店に来られるお客様の半分以上は、70代から80代の方か、その息子さん娘さんです。相談の中身は「親の家をどうするか」です。

北区の団地は、昭和40年代から50年代に一斉に開発されました。同じ時期に、同じくらいの年代の方が一斉に入居されました。ですから、一斉に高齢化しました。

そして今、その家が一斉に売りに出てきています。


4. 規制が厳しくなって、素人が丸ごと騙される事故は減った


昔の重要事項説明は、紙が数枚でした。今は分厚い束です。

正直に申し上げると、書類仕事は昔の何倍にも増えて、現場は大変です。けれど、これは必要な変化でした。

昔は、道路に接していない土地を「家が建ちます」と言って売った業者が、実際にいました。今それをやったら免許が飛びます。

面倒くさくなった代わりに、素人の方が丸ごと騙される事故は、確実に減りました。


5. 私が50年前に土地を売ったAさんの話


昭和51年に、北区の団地の土地を買われたAさんという方がいます。当時38歳、私は27歳でした。

土地は約60坪、値段は350万円でした。当時のサラリーマンの年収が150万円ほどですから、年収の2年分ちょっとです。

Aさんはその土地に家を建てて、お子さんを2人育てられました。

平成の初め、この土地の値段は3,200万円まで上がりました。Aさんは店に来て「章雄くん、わしは天才やな」と笑っておられました。

そして去年、Aさんの息子さんから電話がありました。

Aさんは90歳を超えて施設に入られ、家は空き家になっていました。

その土地の査定額は、980万円でした。

息子さんは、しばらく黙っておられました。「親父はずっと、あの土地は3,000万円やと言うてました」と。

私は正直に申し上げました。3,200万円だったのは事実です。でもそれは35年前の話で、今の値段は980万円です、と。

これが50年の変化です。同じ土地で、同じ場所で、こういうことが起きます。


6. 昔の不動産屋が儲かった仕組みと、今も残っているもの


はっきり申し上げます。昔の不動産屋が儲かったのは、情報を独占できたからです。

売主さんには「相場は安いですよ」と言い、買主さんには「このあたりは高いですよ」と言う。そして両方から手数料をもらう。今でいう両手取引ですが、当時はそれが当たり前でした。

ネットが出てきて、その手はほとんど使えなくなりました。

ただ、形を変えて残っているものがあります。それが「囲い込み」です。

自分の会社で買主も見つけて手数料を両方から取りたいので、他社から「あの物件をお客様に紹介させてください」と問い合わせが来ても、「すみません、今ちょうど商談中でして」と断ってしまう。そのことを、売主さんには一言も言いません。

売主さんから見ると、ただ「反応がない」だけに見えます。そして半年後、「そろそろ値下げしましょうか」と言われるわけです。

情報を独占する道具が、手書きの台帳からシステムに変わっただけです。中身は50年前と同じことをやっています。

もう一つ、これは新しい手口です。ネットの一括査定です。

査定額が高い会社から順に並ぶ仕組みですから、業者は実際より高い数字を出します。契約さえ取ってしまえば、あとから下げればいいと思っているからです。

昔は口頭で盛りました。今は画面で盛ります。やっていることは、何も変わっていません。


7. 昔のほうが良かった、と正直に思うこと


今のほうが良くなったという話ばかり書きましたが、正直に申し上げると、悪くなったところもあります。

  • 情報が多すぎて、かえって判断できなくなった
  • 数字は見えるのに、その裏の事情が見えなくなった
  • 顔を合わせずに話が進むようになった

昔は、隣の家の事情まで全部分かっていました。「あそこの裏は昔田んぼで水が出る」「あの道は将来広がるという話がある」。そういう話は、台帳には載りません。人の口にしか載りません。

今のお客様は、ネットで調べた数字を持って来られます。数字は正確です。でも、その土地の「地面の下」の話は、画面には出てきません。

そして、これが一番残念なことですが、今は契約が終わったらそれきり、という取引が増えました。

昔は、家を買った方が10年後に「章雄さん、雨漏りがする」と店に来られました。20年後には「息子が結婚する」と報告に来られました。そういう付き合いが、商売の中身でした。

情報が便利になった代わりに、人の付き合いが薄くなりました。これは、正直に言って寂しいです。


まとめ


50年で変わったこと。情報が誰にでも開かれました。土地は選ばないと下がるようになりました。主役が買う人から売る人に変わりました。規制が厳しくなって、大きな詐欺は減りました。

50年で変わらなかったこと。人が家を手放す理由は、今も昔も、お金と家族と死です。そして、情報を隠して儲けようとする業者が一定数いることも、変わっていません。

道具は新しくなりました。人間は、そんなに新しくなっていません。


最後に、これだけは申し上げたい


ネットで調べれば、相場はすぐに出てきます。それは良いことです。どんどん調べてください。

ただ、画面に出てくるのは「値段」だけです。その土地が昔どういう場所だったか、これから10年でどう変わりそうか、隣にどんな方が住んでおられるか。そういうことは、その町に長くいる人間の頭の中にしかありません。

ご実家をどうするか、今の土地がいくらなのか、売るべきか持っておくべきか。迷っておられるなら、一度お話を聞かせてください。査定も相談も無料ですし、その場で「売りましょう」とは申し上げません。50年分の話を、ただお聞かせするだけでも構いません。

センチュリー21・ハートピア
田中章雄

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