「あきちゃんの不動産お役立ちコラム」の記事一覧(116件)
不動産暦50年のあきちゃんが神戸市北区の皆様に不動産に関するお役立ち情報をお届けします。
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/30 09:04
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、擁壁(ようへき)の話をします。擁壁というのは、土地の高低差を支えているあのコンクリートや石積みの壁のことです。
北区にお住まいの方なら、毎日その横を歩いておられるはずです。鈴蘭台、山の街、箕谷、藤原台。北区は坂の街ですから、擁壁のない住宅地を探すほうが難しいくらいです。
ところがこの擁壁、家を売るとき買うときに、数百万円を平気で吹き飛ばします。私はそういう現場を、50年で何十件も見てきました。
結論から申し上げます
擁壁は「あるかないか」ではありません。「いつ造られたか」で価値が決まります。
同じ高さ3メートルの擁壁でも、昭和45年に積まれたものと、平成20年に造られたものでは、土地の値段が数百万円変わります。
これは断言できます。そして怖いのは、売主さんご本人がその違いをまったくご存じないまま、売り出してしまうことです。
1. 造成年代で擁壁の中身がまるで違う
擁壁には世代があります。ざっくり分けると、こうです。
- 昭和40年代まで … 玉石積み、空石積み、大谷石。鉄筋も水抜き穴もほとんど入っていないものがある
- 昭和50年代〜平成初期 … ブロック積みや練積み。見た目は立派でも現在の基準に合っていないことがある
- 平成中期以降 … 鉄筋コンクリート。図面も検査の記録も残っていることが多い
北区の古い住宅地は、昭和40年代から50年代に一気に造成されました。つまり、いま売りに出ている家の擁壁の多くが、一番説明の難しい世代なのです。
2. 「検査済証があるかどうか」がすべてを分ける
宅地造成の規制ができたのは昭和36年です。その後、平成18年に基準が強化され、令和5年からは盛土規制法という新しい法律に切り替わりました。法律が変わるたびに、擁壁に求められる中身は厳しくなってきました。
ここで一歩立ち止まってください。大事なのは「その擁壁が造られたときに、ちゃんと許可を取って、検査を受けているか」です。その証拠が検査済証です。
これが残っている土地は、話が早い。残っていない土地は、そこから交渉が始まります。
3. 買主の銀行が黙っていない
売主さんが一番驚かれるのが、ここです。買主さんが住宅ローンを申し込むと、銀行は担保として土地と建物を評価します。そのとき古い擁壁があると、こうなります。
- 将来の造り替え費用を差し引いて評価される
- 融資額が希望より少なくなる
- 最悪、その物件では融資が下りない
買主さんに買う気があっても、銀行が首を縦に振らない。
50年やってきて分かったことがあります。契約が壊れるときは、買主さんの気持ちが冷めたからではなく、お金の道が塞がれたからです。
4. 直すと本当に数百万円かかる
擁壁のやり直しは、高い工事です。高さと長さと、重機が入れるかどうかで金額が決まります。北区の高台の家は、道が狭くて重機が入らない場所が多い。そうなると人力作業が増えて、費用は跳ね上がります。
擁壁の造り替えだけで数百万円。隣地との調整や土留め、仮設まで含めると、1000万円を超えた現場も見てきました。
しかも、この工事は家の中が一切きれいになりません。お金を払っても、住み心地は何も変わらないのです。
5. 買主が嫌がる本当の理由
買主さんが擁壁を嫌がるのは、修理代が高いからだけではありません。一番の理由は、いつ費用が発生するか誰にも分からないことです。
屋根や給湯器なら、だいたいの寿命が分かります。ところが擁壁は、20年もつかもしれないし、来年の大雨で膨らむかもしれない。北区は雨が降ります。六甲の北側は、思っている以上に降ります。
「よく分からない大きな出費が、いつか来る」。買主さんが背負いたくないのは、金額ではなくこの不安なのです。
Cさんの家で、実際に何が起きたか
鈴蘭台にお住まいだったCさん、当時72歳。築42年の一戸建てで、道路から1メートルほど上がった高台。奥はさらに下がっていて、その境に高さ3メートルほどの石積みの擁壁がありました。昭和45年の造成です。
Cさんは相場を調べて「3,180万円で出したい」とおっしゃいました。近所の売却事例からすれば、決して無茶な値段ではありません。
売り出して1か月半で、40代のご夫婦から買付が入りました。値段もほぼ満額。Cさんは喜んでおられました。
ところが、住宅ローンの本審査で止まりました。銀行の担当者が現地を見て、擁壁を指摘したのです。造成時の図面がない。検査済証もない。高さが3メートルある。
Cさんは市役所と法務局を回りましたが、書類は出てきませんでした。50年以上前の造成です。当時の記録が残っていないことは、珍しくありません。
そこで擁壁の専門業者に見てもらったところ、造り替えの見積もりは480万円。隣地の方との立ち合いも必要でした。
結局どうなったか。Cさんは造り替えをせず、その分を値段から引くことにしました。最終的な成約は2,700万円です。480万円が消えました。
Cさんが私に言われた一言を、今でも覚えています。
「50年住んどったけど、あの壁のこと、一回も考えたことなかったわ」
その通りだと思います。住んでいる間、擁壁は何も言いません。売るときに初めて口を開くのです。
もう一組、買う側の話もしておきます
藤原台で土地を探しておられたDさんご夫婦、40代。同じくらいの広さの土地が2つありました。一方は1,480万円、もう一方は1,180万円。300万円も違います。
Dさんは当然、安いほうに惹かれました。日当たりもよく、駅までの距離も変わりません。私は現地でこう申し上げました。
「この300万円の差は、値引きではありません。南側の擁壁の分です」
安いほうの土地は、南に高さ2.5メートルほどの古いブロック積みがありました。すでに一部が膨らんでいて、水抜き穴からは土が流れ出た跡がありました。
Dさんご夫婦は、高いほうの土地を選ばれました。
「300万円安く買って、10年後に500万円払うんですね」
そう言って笑っておられましたが、まさにそういうことなのです。安い土地には、必ず安い理由があります。
業界の裏側を、正直に申し上げます
はっきり申し上げます。擁壁について、きちんと説明しない業者がいます。
重要事項説明書の片隅に「擁壁あり」と一行だけ書いて、それで終わり。造成年代も調べない。検査済証の有無も確認しない。聞かれなければ言わない。
なぜか。言えば売りにくくなるからです。
査定のときに「この擁壁は将来お金がかかりますよ」と正直に言えば、売主さんは気を悪くされる。他社は何も言わずに高い査定を出してくる。だったら黙っていよう。そういう理屈です。
もうひとつ、買取業者の話もしておきます。擁壁のある土地に対して、買取業者は非常に厳しい値段を出してきます。相場の6割、5割ということもある。彼らは擁壁の怖さを知り尽くしているからです。プロだから、リスクを正確に値段に織り込む。
そして買い取ったあと、擁壁を直して、きちんと書類を揃えて、堂々と再販します。つまり、あの300万円や480万円は、消えてなくなっているわけではありません。誰かが払って、誰かが受け取っているのです。
知らない人が払い、知っている人が受け取る。50年見てきて、これが一番くやしいところです。
デメリットも、正直に書きます
ここまで読まれて「だから調べておくべきだ」と思われたと思います。ただ、正直にお伝えしておきたいことがあります。
調べると、売値は下がります。検査済証がないと分かってしまえば、それを買主さんに伝えなければなりません。伝えれば、値段は下がる方向にしか動きません。知らないふりをしていたほうが、一時的には高く売れます。
調査には時間もかかります。市役所、法務局、造成業者。書類を探して回ると、1か月ほどかかることもあります。急いで売りたい方には、正直しんどい期間です。
そして、直しても全額は返ってきません。480万円かけて擁壁を造り替えても、売値が480万円上がるとは限りません。私の実感では、乗るのは6割か7割です。
それでも私が「先に調べましょう」と申し上げるのは、契約後に発覚するのが一番損だからです。売り出す前に分かっていれば、値段の付け方も、売り出す時期も、買主さんへの伝え方も、こちらで組み立てられます。
契約後に出てくると、選択肢がありません。値引きに応じるか、白紙解約か。それだけです。Cさんの480万円は、まさにそこで消えました。
まとめ
もう一度申し上げます。擁壁は「あるかないか」ではなく「いつ造られたか」で価値が決まります。
昭和40年代から50年代の造成、高さ2メートル超、検査済証が見当たらない。この3つが揃ったら、数百万円が動く可能性があると思ってください。
そして、それは売り出す前に分かっていれば守れるお金で、契約後に出てくれば守れないお金です。
住んでいる間、擁壁は何も言いません。売ると決めたその日から、擁壁はしゃべり始めます。
最後に、これだけは申し上げたい
ご自宅の擁壁が何年に造られたものか、ご存じでしょうか。たいていの方は、ご存じありません。それが普通です。私も自分の家の擁壁の年代を、はっきり答えられる自信はありません。
けれど、売ると決めたなら、話は別です。その壁がいくらの意味を持っているのか、先に知っておいてください。
北区の高台の家を、私は50年見てきました。どのあたりが何年ごろに造成されたか、だいたい頭に入っています。現地を見せていただければ、擁壁の世代の見当はつきます。
「うちの壁、大丈夫やろか」
その一言で結構です。売る売らないは、そのあとで決めてください。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/29 07:38
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、神戸電鉄沿線の家がこれからどうなるのかについてお話しします。私がこの仕事を始めたときから、神鉄はずっと北区の真ん中を走っていました。50年です。私はこの電車の窓から、山が削られて住宅地になっていくのを見て、その住宅地に若い夫婦が入っていくのを見て、その夫婦が今、家を売りに来るのを見ています。
ここ数年、一番よく聞かれる質問があります。
「あきちゃん、神鉄って将来大丈夫なんですか」
「粟生線が廃線になるって聞きました。うちの家、価値がなくなりませんか」
この質問に、私は正直に答えます。ただし「大丈夫ですよ、神戸市内ですから」という、不動産屋がよく使う逃げ方はしません。それは答えていないのと同じだからです。
結論から申し上げます
神戸電鉄沿線の家は、これから「沿線」でひとくくりにはできなくなります。同じ神鉄でも、駅ごと、いや、駅からの距離ごとに、はっきり二つに分かれていきます。
伸びる側にいるのは、谷上から北の三田線側で、駅から歩ける家。苦しくなるのは、粟生線側と、どの駅であってもバスでしか行けない家です。
この差は、もう始まっています。そして今後20年で、もっと開きます。これは断言できます。
なぜそう言えるのか。4つに分けてお話しします。
1. 2020年に、50年で一番大きなことが起きました
まずこれをご存じない方が、まだ相当いらっしゃいます。
2020年6月、北神急行電鉄が神戸市営地下鉄の北神線になりました。それまで民間の会社が運営していた谷上と新神戸の間のトンネルが、市営になったのです。
何が起きたか。運賃が半分になりました。谷上から三宮まで550円だった運賃が280円です。270円下がりました。
これがどれだけ大きいことか、通勤で考えてください。往復で540円。月20日で約1万800円。年間で約13万円です。夫婦で共働きなら、年間26万円です。
岡場に住んでいる方、田尾寺に住んでいる方、有馬温泉の方、三田の方、全員がこの恩恵を受けています。三田から三宮までは1,080円が810円に、有馬温泉から三宮も950円が680円になりました。
50年やってきて分かったことがあります。住宅地の値段を動かすのは、建物でも間取りでもありません。三宮まで、いくらで、何分で行けるか。この2つだけです。
そのうちの「いくら」が、いきなり半分になった。こんなことは、私の50年で一度もありませんでした。ですから私は、谷上から北の駅前については、正直、悲観していません。
2. 一方で、粟生線の数字は正直に申し上げます
ここは隠しません。はっきり申し上げます。神戸電鉄の粟生線は、赤字が続いています。
鈴蘭台から西へ伸びていく、あの路線です。粟生線の年間の利用者は、平成4年度をピークにして、そこから約53パーセント減っています。半分以下です。
赤字額も出ています。近年の資料では、粟生線だけで年間10億円前後の赤字が続いています。直近では9億7,600万円ほどまで縮んできてはいますが、それでも10億円規模です。
ここで、皆さんが一番気にされることを先に申し上げます。粟生線は、今の時点で廃止が決まったわけではありません。
地元の自治体、住民、鉄道会社が集まって、利用を増やす取り組みがずっと続いています。赤字額も少しずつ縮小しています。「明日にでもなくなる」という話ではないのです。
ただし、と私は続けます。「なくならない」ことと「家の値段が下がらない」ことは、まったく別の話です。
利用者が半分になった路線の沿線で、家を買う若い人が増えると思われますか。増えません。
私が見ている限り、粟生線側の中古住宅は、買い手の年齢層が上がっています。これは非常に良くない兆候です。買い手が高齢化した地域は、10年後に売り手だらけになるからです。
3. 神鉄は「坂の鉄道」です。駅から歩けるかどうかが全部です
3つ目です。ここが一番大事かもしれません。
神戸電鉄という鉄道は、日本でも屈指の急勾配を登る鉄道です。有馬線に乗って湊川から鈴蘭台まで上がると、体で分かります。ぐいぐい登ります。
登るということは、沿線が山だということです。山だということは、駅の周りが平らではないということです。
ですから神鉄沿線では、「駅徒歩10分」の意味が、平地の街とまったく違います。平地の駅徒歩10分なら、80歳でも歩けます。神鉄沿線の駅徒歩10分は、帰りが「登り」なら、70歳で歩けなくなることがあります。
私は査定に行くとき、必ず駅から歩きます。車で行きません。50年ずっとそうしています。歩かないと分からないからです。地図の上では同じ徒歩10分でも、平らな10分と、階段と坂の10分では、20年後の売れ方がまるで違います。
そして運賃の値下げは、この坂を解決してくれません。三宮まで280円で行けても、家から駅までの坂は、そのままそこにあります。
4. 沿線の住宅地は、同じ年に一斉に造られました
4つ目です。これは北区の宿命のようなものです。
鈴蘭台も、有野台も、藤原台も、それぞれの時代に、まとまった規模で一気に造成されました。一気に造って、一気に売り出した。
ということは、入居した方々の年齢もそろっていたということです。30代のご夫婦が同じ年に隣同士で家を買って、同じ年に子どもが小学校に上がって、同じ年にお子さんが出ていって、そして今、同じ時期に80歳になっておられます。
結果、何が起きるか。同じ町内で、同じ時期に、家が一斉に売りに出ます。
私はこれを実際に見ています。ある自治会の中で、1年間に6軒売りに出たことがありました。6軒です。売り出し価格を先に決めた1軒目が、一番高く売れました。最後の6軒目は、1軒目より400万円安い値段で決まりました。
これは物件の差ではありません。順番の差です。はっきり申し上げます。神鉄沿線で家を売るなら、同じ町内の人より先に動いた人が勝ちます。これは、きれいごとではなく現実です。
5. 実際にあった2つの話
数字の話が続きましたので、実際にあったお話をします。
ひとつ目。鈴蘭台のAさん、72歳の男性です。昭和48年に、新築で買われました。当時の価格を伺うと、土地建物で約780万円だったそうです。50坪の土地に、木造2階建て。駅からはバスで12分、バス停から歩いて6分の場所です。
奥様を亡くされて、お一人になり、大阪のお嬢さんのところへ移ることになりました。Aさんが最初に言われた金額は1,180万円でした。近所の方が去年それくらいで売ったと聞いた、とおっしゃる。
私は正直に申し上げました。「Aさん、その方の家は駅から歩けます。Aさんのお宅はバス便です。同じ鈴蘭台でも、別の商品なんです」
Aさんはご納得されませんでした。それはそうです。50年住んだ家です。私も無理に説得はしませんでした。
結果、1,180万円で10か月置きました。内覧は3件です。3件です、10か月で。11か月目に980万円へ下げ、最終的に780万円で成約しました。昭和48年に買った値段と、ほとんど同じでした。
ここでAさんが言われた一言を、私は忘れません。「もっと早く、あんたの言うとおりにしとったら、もう少し高かったんかな」
正直に申し上げると、そのとおりです。最初から980万円で出していれば、おそらく3か月で900万円台の後半で決まっていました。10か月の間に、その物件は「売れ残り」に見えるようになってしまったのです。
ふたつ目。岡場のBさんご夫婦です。ご主人が68歳、奥様が65歳。こちらは駅から歩いて8分。緩やかな下りの道です。築28年の一戸建てでした。
Bさんご夫婦は、2019年の秋に一度、売却を相談に来られました。そのときの査定は2,180万円です。ところが娘さんの出産が重なって、話が止まりました。
再開したのは2021年です。私は査定をやり直して、こう申し上げました。「上がりました。2,380万円で出しましょう」
ご主人は驚かれました。「築年数は2年古くなったのに、上がるんですか」と。上がったのです。北神線が市営化されて、三宮までの運賃が半分になったからです。
岡場から三宮への通勤コストが、年間で13万円下がった。これは、その家に住む人にとって「毎年13万円の値上げに耐えられる家」になったのと同じ意味です。買い手の予算が、そのぶん上がるのです。
結果、2,380万円で、2か月かからずに決まりました。買われたのは、三宮に勤める30代のご夫婦でした。
同じ神戸電鉄沿線で、同じ2年の間に、片や780万円、片や2,380万円。これが「駅ごとに分かれる」ということです。
6. ここからは業界の裏の話をします
ここまでお読みになった方に、業界の内側の話を申し上げます。
ひとつ目。「神鉄沿線は将来性がありますよ」と、沿線をひとくくりにして言う営業がいます。これは、買っていただきたいときに使う言葉です。売却の相談に来られた同じお客様に、同じ営業が「神鉄沿線は厳しくて」と言うことがあります。
同じ会社の、同じ人間が、立場によって言うことを変える。私はこれを何度も見てきました。
判断してください。「沿線」で語る人の話は、半分は営業です。駅名と、駅からの距離と、坂の有無を口に出す人の話だけ聞いてください。
ふたつ目。廃線の話で煽る業者がいます。「粟生線、廃止の話が出ていますよ。今のうちに売らないと価値がゼロになります」。そう言って、自社の買取に持ち込む。買取価格は市場の6割から7割です。
申し上げたとおり、廃止は決まっていません。決まっていないことを「決まりそうです」と言って、安く買う。これは、はっきり申し上げてよくないやり方です。もし言われたら、その場で契約しないでください。一晩置いてください。
3つ目。査定書のからくりです。「〇〇駅エリアの平均成約価格は2,100万円です」。こういう資料を出してくる。もっともらしく見えます。
でもその平均には、駅前のマンションも、バスで15分の家も、全部入っています。神鉄沿線でその平均を使うのは、ほとんど意味がありません。平均ではなく、あなたの家と同じ条件で去年いくらで売れたかを出させてください。出せない会社は、調べていないだけです。
4つ目。「囲い込み」です。これは以前もお話ししましたが、神鉄沿線では特に効きます。もともと買い手の数が限られている地域で、他社に物件を紹介させないと、単純に買い手が減ります。
売主と買主の両方から手数料を取りたいがために、他社からの問い合わせに「商談中です」と答える。これで3か月動かなくなった物件を、私は実際に知っています。
対策は簡単です。契約後に届く「販売活動報告書」で、問い合わせ件数と紹介件数を毎回確認してください。数字を出し渋る会社は、疑ってください。
7. デメリットも正直に申し上げます
ここまで運賃値下げの話をしましたので、良いことばかりに聞こえたかもしれません。そうではありません。
まず、北神線が安くなっても、神戸電鉄そのものの運賃は決して安くありません。谷上から三宮が280円になっても、家から谷上までの神鉄の運賃は残ります。三田から三宮の810円というのは、他の街と比べて、まだ高い部類です。
次に、若い世代が電車を使いません。北区は車社会です。私が見ている限り、30代、40代のご家族は、電車の話より「駐車場が2台停められるか」を気にされます。運賃が半分になったことが、どこまで効くのか。私は効くと思っていますが、断言まではできません。
3つ目。私自身の見立てとして申し上げますが、北区全体の人口は減っています。運賃が下がっても、住む人が減れば、家の値段は下がります。
私が「谷上以北の駅前は悲観していない」と申し上げたのは、「上がる」という意味ではありません。「下がり方が緩やかで済む」という意味です。ここを勘違いされると困ります。神鉄沿線の家が、これから値上がりして儲かる、という話ではまったくありません。
4つ目。バス便の家は、電車の話以前の問題です。バスの本数が減れば、駅がいくら便利になっても関係ありません。
まとめ
もう一度、結論を繰り返します。神戸電鉄沿線の家は、これから「沿線」ではなく「駅ごと」「駅からの距離ごと」に分かれます。
谷上から北の三田線側で、駅から歩ける家。ここは、運賃が半分になった追い風があります。下がり方は緩やかです。
粟生線側と、どの駅でもバス便の家。ここは、利用者が半分に減った現実があります。厳しくなります。
そして、どちらの側であっても、同じ町内で一斉に高齢化が進んでいます。売るときは、順番が値段を決めます。
ご自身の家がどちらなのか、判断する材料は3つです。
- 最寄り駅は三田線側か粟生線側か
- 駅まで歩けるか、バスか
- 駅からの道は登りか下りか
この3つで、だいたい分かります。難しい話ではありません。
最後に、これだけは申し上げたい
私は77歳です。この北区で50年、不動産の仕事をしてきました。正直に申し上げると、私が始めた頃の北区と、今の北区は違います。あの頃は、造れば売れました。今は違います。
それでも、私はこの街の家を「価値がない」とは思っていません。大事なのは、自分の家がどういう場所にあるのかを、正確に知ることです。知っていれば、打つ手はあります。売る順番も、価格の付け方も、いつ動くかも変えられます。知らないまま5年待った方だけが、損をします。
ご自宅がどちら側なのか分からない、いくらで売れるのか知っておきたい、まだ売る気はないけれど話だけ聞きたい。どれでも構いません。
査定は無料です。売らない前提のご相談も、いつでもお受けしています。私は駅から歩いて伺います。坂も、道も、この目で見てからお話しします。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/28 06:38
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、私が50年この仕事をやってきた中ではっきり見えてきたバス便の家を買う前に必ず確認することについてお話しします。
神戸市北区は、バスに乗らないと駅に出られない場所がたくさんあります。唐櫃も、大池の奥も、有野台も、藤原台の一部も、そして淡河や大沢はもっとです。
「駅から徒歩圏がいいに決まっている」
そう思って読み始めた方も多いと思います。でも私は、バス便の家を全部ダメだとは申しません。バス便でも幸せに20年住んで、ちゃんと売れていったご家族を何組も見てきました。
問題は、バス便を「調べずに」買う人が多すぎることです。
結論から申し上げます
バス便の家は、今の便利さで買ってはいけません。10年後、20年後の本数で買ってください。
確認するのは3つだけです。
- 昼間と日曜の本数
- 終バスの時刻
- 過去10年で何便減ったか
この3つを調べずにバス便の家を買った人が、5年後に「こんなはずじゃなかった」と私のところへ相談に来られます。これは断言できます。逆に、この3つを調べて納得して買った方は、まず後悔されません。
以下、ひとつずつお話しします。
1. 「バス10分」の10分に、待ち時間は入っていません
物件のチラシに「〇〇駅 バス10分 バス停より徒歩5分」と書いてあります。合計15分。駅徒歩15分の家と同じような気がしてしまう。
違います。
バスの所要時間は、時刻表に書いてある「乗ってから降りるまで」の分数です。バス停で待つ時間は一切入っていません。
1時間に4本あるバス停なら、平均の待ち時間は7分半です。1時間に2本なら15分です。1時間に1本なら、下手をすると30分立って待つことになります。
つまり「バス10分・徒歩5分」の家は、実際には駅から25分から45分かかる家だということです。
それだけではありません。
バスは道路を走ります。朝の渋滞、雨の日、事故、雪。北区は坂と山です。冬に一度雪が降れば、バスは平気で20分遅れます。
私はこれを50年見てきました。「バス10分」の10分が10分だった日のほうが少ないのです。
2. 見るべきは平日の朝ではなく、日曜の昼と平日の夜です
ここが一番大事です。よく聞いてください。
内見に行くのは、たいてい土日の昼間です。そして時刻表を見るときも、なんとなく朝の欄を見て「7時台に5本もある、便利だな」と安心してしまう。
朝の本数は、あてになりません。
バス会社は通勤通学の時間帯にだけ便を集中させます。7時台に5本あるバス停でも、10時台は1本、13時台は1本、20時台は1本、ということがざらにあります。
考えてみてください。あなたの家族が実際にバスを使う場面はどこですか。
- 奥さんが平日の昼間に買い物に出る
- お子さんが土曜日に塾へ行く
- あなたが金曜の夜に飲んで帰ってくる
- 親御さんが平日の午後に病院へ行く
朝の通勤ラッシュ以外の時間のほうが、圧倒的に多いのです。
だから時刻表は、この4つの欄だけ見てください。
- 平日の11時台から14時台
- 平日の21時台以降
- 土曜の昼間
- 日曜・祝日の昼間
私が北区のある団地のバス停を実際に調べたときは、平日朝7時台が6本あるのに、日曜の13時台は1本でした。しかも12時台はゼロ。1時間半に1本の計算です。
それでも住めます。住めますが、それを「知って」買うのと「知らずに」買うのとでは、5年後の気持ちがまったく違います。
3. 終バスの時刻は、家族の生活を決めます
次は終バスです。これを見ない人が、本当に多い。
北区の団地のバス停は、終バスが21時台で終わるところが珍しくありません。22時台まであれば、まだいいほうです。
終バスが21時40分の家に住むと、どうなるか。
三宮で飲み会があったら、20時半には店を出ないといけません。乗り遅れたら、駅からタクシーです。神鉄の駅からその団地まで、タクシーで1,500円から2,500円かかります。
月に4回タクシーを使えば、年間で10万円前後です。10年で100万円。これは家の値段には出てきませんが、確実に出ていくお金です。
お子さんが高校生になったときはもっと切実です。
部活で遅くなる。塾が21時に終わる。そのたびに、あなたか奥さんが駅まで車で迎えに行くことになります。私のお客さんで、高校3年間、ほぼ毎晩駅まで迎えに行かれたお父さんがいました。「あれで3年分の夜が消えた」と笑っておられましたが、笑い話ではありません。
終バスの時刻は、必ずバス停の現物で確認してください。ネットの時刻表は、臨時ダイヤや改正が反映されていないことがあります。
ついでに「始発」も見てください。早朝に空港や新幹線を使う仕事の方は、始発が6時半だと詰みます。
4. 減便リスクは、時刻表の「過去」を見れば分かります
ここが今日いちばんお伝えしたい話です。
バス便で怖いのは、今の本数ではありません。これから減ることです。
はっきり申し上げます。北区の路線バスは、この10年でかなり減りました。そしてこれからも減ります。
理由は3つです。
ひとつ、運転士が足りていません。全国どこのバス会社も同じです。募集をかけても人が来ない。人がいなければ、便を減らすしかありません。
ふたつ、団地が高齢化しています。バスに乗って通勤していた世代が、次々と車の免許も返して家に居るようになる。乗客が減れば、赤字路線から順に切られます。
みっつ、若い世代が車社会です。夫婦で2台持っている家庭が北区には多い。バスに乗らないから、また減る。
では、どう調べるか。3つの方法があります。
ひとつ目。バス停の掲示を見てください。「〇年〇月〇日ダイヤ改正」という紙が貼ってあります。改正が頻繁にある路線は、動いている路線です。
ふたつ目。バス会社のサイトの「ダイヤ改正のお知らせ」というページがあります。過去のお知らせを2、3年分さかのぼって読んでください。「減便」「経路変更」「土日運休」という言葉が並んでいたら、要注意です。
みっつ目。これが一番確実です。バス会社に電話して聞いてください。「この系統は今後も維持されますか」と。はっきりした答えは返ってきませんが、担当者の言葉の濁し方でだいたい分かります。「今のところ予定はございません」と言われたら、まあ普通です。「そのご質問は多いんですよ」と言われたら、黄色信号です。
もうひとつ、地形も見てください。
そのバス路線の途中に、大きな団地がいくつあるか。団地が2つ3つぶら下がっている路線は、簡単には切られません。逆に、あなたの家のある一帯だけのために走っている枝線は、真っ先に減ります。
これは50年やってきて分かったことです。バス路線は、乗る人の数で決まります。感情では決まりません。
5. 実例をふたつ、お話しします
Aさん(当時42歳)は、北区の団地の中古戸建を2,180万円で買われました。神鉄の駅からバスで12分、バス停から徒歩3分。土地50坪、築22年。同じ広さで駅徒歩12分の物件が2,700万円でしたから、500万円以上安かったわけです。
内見は日曜の午後でした。ご主人は車で来られました。バスには一度も乗っていません。
住み始めて分かったことがあります。
平日の日中は1時間に1本。奥さんは免許をお持ちでなかったので、買い物のたびに1時間に1本のバスに合わせて動くことになりました。バスを1本逃すと、スーパーの前で1時間待つ。
そして5年目に、日中の便が1時間に1本から2時間に1本へ減りました。同時に土曜の便も削られました。
Aさんは軽自動車を買われました。奥さんは40代半ばで教習所に通われました。教習所代とあわせて、初期費用だけで120万円以上。維持費は年間で30万円ほどかかります。
「500万円安く買ったつもりが、10年で追いつかれた」
Aさんはそうおっしゃいました。安かったのではなく、その分の不便がお金に換算されていただけなのです。
もうひと組、Bさんご夫婦(当時38歳と36歳)の話をします。
Bさんも同じようにバス便の物件を検討されました。ただしこの方は徹底的に調べられました。
- 平日の昼、日曜の昼、平日の夜、全部の時刻表を写真に撮る
- 終バス(21時55分でした)を確認
- バス会社の過去3年のダイヤ改正を全部読む
- 平日の火曜と日曜の2回、実際に駅からバスに乗って現地へ行く
- 雨の日にもう一度乗る
その上で、Bさんはこうおっしゃいました。
「昼間が1時間に2本あるなら大丈夫。終バスも22時前ならなんとかなる。ただし車は2台持ちにします。その前提で予算を組みます」
Bさんは2,350万円でその家を買われ、駐車場2台分が取れる区画を選ばれました。そして13年住んで、去年、2,050万円で売られました。13年で300万円しか下がっていません。
なぜ売れたか。次に買った方も、同じようにバス便を承知の上で「駐車場2台」を評価してくださったからです。
調べて買った家は、売るときも説明ができます。これが大きいのです。
6. 不動産屋がバス便物件で言わないこと
ここからは業界の裏側です。正直に申し上げます。
私も含めて、不動産屋はバス便物件を売るとき、こういう言い方をします。
「バス10分ですから、駅徒歩15分と変わりませんよ」
嘘ではありません。嘘ではないけれど、待ち時間を意図的に外しています。
「朝は本数が多いので通勤は問題ありません」
これも嘘ではありません。でも聞かれていないから、日中と日曜の話をしないだけです。
「将来はイオンモールもできましたし、この辺りは伸びますよ」
商業施設と路線バスの本数には、直接の関係はありません。
もうひとつ、業界の内側の話をします。
バス便の物件は、駅近の物件に比べて売れるまでに時間がかかります。だから営業は焦ります。焦ると、いいところだけを並べます。悪いところを言って断られたら、また3か月かかるからです。
そして「値段が安い」ことを最大の武器にします。「駅前だと2,700万、ここなら2,180万です」と。安さで判断を急がせるのは、不動産屋の常套手段です。
安いのには理由があります。その理由をきちんと聞かずに「安いから」で買うと、Aさんのようになります。
もっと言いますと、査定のときもそうです。
バス便の家を売るとき、業者によって査定額が300万円くらい平気で違います。バス便は評価しにくいからです。高い査定を出してくる業者は、まず預かってから、あとで値下げを持ちかけてきます。これは本当によくある話です。
7. それでも私がバス便を全否定しない理由と、デメリット
ここまで厳しい話をしてきましたが、私はバス便の家を否定していません。
50年見てきて、バス便でよかったという家族もたくさんいらっしゃいます。
理由はこうです。
- 同じ予算で、土地が10坪から20坪広く買える
- 駐車場が2台、3台取れる
- 静かで、子育ての環境としては駅前より優れていることが多い
- 固定資産税が駅近より安いことがある(年12万円が9万円になったケースがありました)
車を2台持てる家庭で、しかも夫婦とも運転される。そういうご家庭なら、バス便はむしろ合理的な選択です。
ただし、デメリットははっきり申し上げます。
ひとつ。売るときに時間がかかります。駅徒歩圏の家が3か月で売れるとしたら、バス便は6か月から1年見てください。買い手の母数が単純に少ないのです。
ふたつ。将来、あなたが運転できなくなったときが本番です。70代後半で免許を返納したら、1時間に1本のバスが生活の全部になります。私は77歳です。この話は他人事ではありません。
みっつ。減便は止められません。あなたが何をしても、乗客が減れば便は減ります。ここだけはコントロールできないリスクです。
よっつ。お子さんが高校・大学と進むと、送り迎えの負担が一気に増えます。3年から6年、それが続きます。
これを全部飲み込んだ上で、それでも土地の広さと静かさを取る。そう決めた方は、バス便で幸せになれます。飲み込まずに値段だけで決めた方は、5年後に後悔されます。差はそこだけです。
まとめ
もう一度申し上げます。
バス便の家は、今の便利さではなく、10年後の本数で買ってください。
確認するのは3つです。
- 昼間と日曜の本数(朝の本数は見なくていい)
- 終バスと始発の時刻
- バス会社の過去3年のダイヤ改正の中身
そして必ず、平日の昼と日曜に、実際に自分でバスに乗ってください。1回では足りません。最低2回、できれば雨の日にも乗ってください。
物件は何度でも見に行けます。契約してからでは、一度も乗れません。
最後にもうひとつ。
バス便の家は「悪い家」ではありません。「調べないと危ない家」です。この違いをどうか間違えないでください。
車を2台持てて、静かな環境で広い土地に住みたい。そう考える方にとって、北区のバス便は今でも十分に良い選択肢です。
最後に、これだけは申し上げたい
バス便の物件を検討されていて、時刻表の見方が分からない、この路線が将来どうなるか不安だ、という方は、遠慮なくご相談ください。
私は北区で50年やっております。どの団地のどの系統が細くなってきているか、どの路線がしぶといか、体で覚えております。それはネットには載っていません。
物件を私のところで買っていただかなくても構いません。バス停の時刻表の写真を持ってきていただければ、正直なところを申し上げます。「これはやめておきなさい」と申し上げることもあります。
50年やってきて分かったことがあります。家で失敗する人は、値段の差を見ています。家で成功する人は、20年分の生活を見ています。
その20年を、一緒に考えさせてください。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/27 07:30
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、私が50年この仕事をやってきた中で何度も相談を受けてきた幹線道路沿いの土地をどう見るかについてお話しします。
国道176号沿い、有馬街道沿い、県道沿い。それから神戸三田インターや西宮北インターの周辺。北区にはこういう土地がたくさんあります。
「車の出入りが楽そう」「大きな道に面していて資産価値が高そう」「インターが近いから便利」。そう思って買おうとされる方が、毎年必ずいらっしゃいます。
そして、そのうちの何人かは、10年後、20年後に私のところへ相談に来られます。「売れないんです」と。
結論から申し上げます
幹線道路沿いの土地は、「住宅の土地」と「商売の土地」という、まったく別の土地が同じ場所に重なっています。
この二つを混ぜて考えた瞬間に、人は失敗します。
住むために買うなら、幹線道路沿いは基本的に避けてください。買うなら、そこから一本入った道の土地です。
商売のために買うなら、幹線道路沿いは大いに価値があります。ただし、その値段のつき方は住宅地とはまったく違う理屈で動きます。
「大きい道に面しているから高く売れるはず」という考え方が、一番損をします。
1. 住宅として見ると、幹線道路沿いは減点から始まる
これは断言できます。
住宅を探しているお客さんに幹線道路沿いの物件をご案内すると、車を降りた瞬間に顔つきが変わる方がいます。
音です。
大型トラックが通ると、話し声が一瞬かき消されます。夜中の2時、3時でも走っています。国道176号の道場町のあたりなど、深夜のほうがトラックが多い時間帯すらあります。
そして振動です。基礎のしっかりした家でも、大型車が通ると足の裏にわずかに伝わってきます。慣れる方もいらっしゃいますが、慣れない方もいらっしゃいます。
さらに粉じんです。幹線道路沿いのお宅は、窓のサッシのレールが黒くなります。洗濯物を外に干すのを諦めて、部屋干し用の乾燥機を後から付けた方を何人も知っています。
もう一つ、意外と見落とされるのが「出入り」です。
大きい道に面していると出入りが楽そうに思えますよね。ところが実際は逆のことが起きます。
交通量が多いので、朝の時間帯は車庫から出るのに1分、2分待つことがあります。中央分離帯があれば右折で出られませんから、目的地と逆方向に700m走ってUターンする、という毎日になります。
小さいお子さんがいるご家庭は、玄関を開けたらすぐ車が走っている、という環境をまず嫌がられます。
つまり、住宅を買う人の目線では、幹線道路沿いというのは「便利さ」ではなく「減点」からスタートするということです。
2. 商売の土地として見ると、まったく別の値段になる
一方で、幹線道路沿いには住宅地にはない強みがあります。
看板が見えることと、車が入れることです。
コンビニ、ドラッグストア、コインランドリー、中古車屋、運送会社の車庫、資材置き場。こういった使い方をしたい人にとって、幹線道路沿いは代わりがききません。
ただし、ここに落とし穴があります。
商売の土地としての値段は、「その業種がその場所に出したいと思っているタイミング」でしか成立しないのです。
住宅の土地は、いつでも一定の人数が探しています。北区の住宅地なら、月に何組かは必ず探している人がいます。
ところが事業用地は違います。ドラッグストアが北区で新規出店を進めている年には引き合いがありますが、出店計画が止まっている年には、まったく声がかかりません。
50年やってきて分かったことがあります。事業用地の値段というのは、平均値ではなく「当たり年に当たった人だけが手にする値段」なのです。
そして、当たり年がいつ来るかは誰にも分かりません。3年後かもしれないし、15年後かもしれない。売り急いでいる方にとって、これは非常に危険な性質です。
3. 「インターが近い」は、距離ではなく導線で決まる
神戸三田インター、西宮北インター。この周辺の土地を「インターまで車で5分」という理由で買おうとされる方がいます。
はっきり申し上げます。距離だけ見ても意味がありません。
私が見てきた中で、実際に価値が出るのは次の条件が揃ったときです。
- インターに向かうときに右折で出なくて済む
- 中央分離帯や信号で分断されていない
- その道が「インターに向かう車が実際に流れている道」である
- 渋滞の列の中ではなく、列の手前か抜けた先にある
たとえばCさん、45歳の会社員の方です。
神戸三田インターから直線距離で1.8kmという土地を、「インターがすぐそこですよ」と勧められて購入されました。
住み始めてから分かったのは、朝の通勤時間帯、その土地からインターに乗るまでに実測で13分かかるということでした。
理由は単純で、その土地はインターへ流れ込む渋滞の列の「途中」にあったのです。しかも右折で出る必要がありました。
土地を見に行ったのは日曜日の昼過ぎ。道はガラガラでした。
土地を見るときは、必ず平日の朝7時半から8時半に、もう一度その場に立ってください。これは覚えておいてください。
4. 「将来道路が広がるから」を鵜呑みにしない
幹線道路沿いの土地を勧めるときに、必ずと言っていいほど出てくる言葉があります。
「ここは都市計画道路が入っていますから、将来広がって価値が上がりますよ」
私はこの言葉を、50年で数え切れないほど聞きました。
都市計画道路というのは、行政が「将来ここに道路を通す、あるいは広げる」と決めた計画です。決定されてから20年、30年動いていない路線が、神戸市内にもいくつもあります。
そして、計画が決まっている土地には制限がかかります。建てられる建物の階数や構造に条件がつくことがある。将来の買収に備えて、しっかりした建物を建てにくくなるのです。
つまり「将来価値が上がるかもしれない」代わりに「今すぐ使いにくい」を引き受けることになります。
もちろん、実際に事業が動き出して用地買収が入れば、まとまったお金が入ることもあります。それは事実です。
ただ、それは「宝くじが当たるかもしれないから今日の生活を我慢する」のに近い話です。20年先か30年先か分からない話を、今の購入価格の根拠にしてはいけません。
5. 乗り入れと接道の話を、契約前に必ず確認する
これは技術的な話ですが、お金に直結しますので申し上げます。
幹線道路沿いの土地に車を入れようとすると、歩道の切り下げ工事が必要になることがあります。歩道の縁石を下げて、車が乗り上げられるようにする工事です。
この工事は勝手にはできません。道路管理者への申請が要り、場所によっては警察との協議も必要になります。
そして費用がかかります。幅や構造によりますが、30万円から80万円ほどかかるのが普通です。バス停の近く、横断歩道の近く、交差点の近くだと、そもそも許可が下りないこともあります。
もう一つ。幹線道路に面していても、その道路が「建築基準法上の道路」として認められる形で接していなければ家は建ちません。
歩道と土地の間に側溝や水路がある場合、法的にどう扱われるかで話がまったく変わります。
私が見た中で一番気の毒だったのは、契約を済ませてから「乗り入れの許可が下りません」と分かったケースです。手付金を放棄して解約された方がいらっしゃいました。
契約前に、必ず確認してください。
6. 実例:有馬街道沿いの実家を相続されたBさんの話
Bさん、71歳の女性です。お母様が亡くなられて、有馬街道沿いの実家を相続されました。
土地は78坪、建物は築43年の木造2階建て。道路に面した幅が広く、日当たりも悪くありませんでした。
Bさんは最初、別の会社に相談されました。そこで言われたのが「幹線道路沿いですから、事業用地としての可能性もあります。2,600万円でいけますよ」という話でした。
それで2,600万円で売りに出されました。
3か月経って、問い合わせは2件。内見はゼロでした。
半年で2,280万円に下げました。それでも動きません。8か月目に1,980万円。ここでようやく内見が2組入りましたが、どちらも「音が思ったより大きい」ということで見送りになりました。
1年が過ぎたころ、Bさんが私のところに来られました。
私が最初に申し上げたのは、「この土地を住宅を探している人に売るのは、たぶん無理です」ということでした。
この土地は、住宅としての条件は悪くなかった。日当たりも、広さも、形も悪くない。でも、住宅を探している人が最後の最後に必ず引っかかるのが音でした。
そこで方針を変えました。建物を解体して更地にし、住宅ではなく事業者に向けて情報を流したのです。
ここで運が味方しました。近くで営業していた運送会社が、車両の置き場を探しているという情報が入りました。
最終的に、その運送会社に1,860万円で成約しました。解体費用が約180万円かかりましたので、手取りはさらに減ります。
Bさんは「もっと早くこうしていれば」とおっしゃいました。
私が申し上げたのは、こうです。「最初の2,600万円という値段が、この土地を1年間止めていたんです」
幹線道路沿いの土地は、最初の値付けを間違えると、住宅の買い手にも事業者にも届かない、宙ぶらりんの1年を過ごすことになります。
7. 業界の裏側を申し上げます
なぜ最初の会社は2,600万円という値段をつけたのか。
理由は単純です。媒介契約を取りたいからです。
これは業界では「高預かり」と呼ばれます。他社より高い査定額を出せば、売主さんは喜んで契約してくださいます。売れるかどうかは、契約を取った後の話です。
そして幹線道路沿いの土地には、高預かりに都合のいい魔法の言葉があります。
「事業用地としての可能性があります」
この一言があれば、住宅地の相場より2割、3割高い数字を書いても、査定書としては形になってしまうのです。
けれど、先ほど申し上げたとおり、事業用地の値段は「その業種が今、ここに出したがっているか」でしか決まりません。可能性があるという言葉は、値段の根拠にはならないのです。
もう一つ、買取業者の話をします。
幹線道路沿いの土地を、買取業者は喜んで買います。ただし買うときの値段は、住宅地としての相場から引いた金額です。
そして買った後、彼らは時間をかけて事業者を探します。1年でも2年でも待てるからです。そして事業用地として売り抜けます。
売主さんが「早く手放したい」と焦っているときに、この差額が生まれます。業者が悪いのではありません。時間を待てるかどうかの差が、そのまま値段の差になっているのです。
だからこそ、幹線道路沿いの土地は「時間に余裕があるうちに動く」ことが、何より効きます。
8. デメリットも正直に申し上げます
ここまで読まれて「では幹線道路沿いは買わないほうがいいのか」と思われたかもしれません。正直に、マイナス面を含めて申し上げます。
まず、幹線道路沿いの土地は路線価が高めにつくことがあります。相続税を計算するときの評価額です。
使いにくいのに評価だけ高い、という状態になり得るのです。騒音があるからといって、評価額が自動的に下がるわけではありません。減額を認めてもらうには、それなりの根拠が必要になります。
次に、住宅を建ててしまうと後戻りが難しくなります。
更地であれば、住宅にも事業用にも振れます。ところが家を建ててしまうと、その土地は「住宅が建っている土地」になります。事業者は建物を壊す費用を引いて値段を出しますから、建物があることがマイナスになるのです。Bさんの例でも、解体に180万円かかりました。
三つ目に、賃貸に出そうと思っても借り手が限られます。空き家になったときの逃げ道が少ないということです。
そして四つ目。これは私の実感ですが、幹線道路沿いの土地は、内見してもらうまでが本当に大変です。
インターネットの写真では音は伝わりません。けれど、多くの方は住所を見ただけで「あの道沿いか」と判断されます。北区に長く住んでいる方ほど、その道がどれくらいうるさいか知っているからです。
まとめ
もう一度、結論を申し上げます。
幹線道路沿いの土地は、「住宅の土地」と「商売の土地」が重なった場所です。
住むために買うなら、避けたほうがいい。買うなら、一本入った道です。値段が同じなら、迷わず一本入ってください。
商売のために買うなら、価値はあります。ただし値段は「業種が出店したいタイミング」でしか成立せず、そのタイミングは待てる人だけが手にできます。
売る側に回ったなら、最初の値付けを間違えないでください。「事業用地としての可能性」という言葉に乗って高い値段でスタートすると、住宅の買い手にも事業者にも届かない期間が、そのまま1年、2年と過ぎていきます。
そして、インターが近いかどうかは距離では判断しないでください。平日の朝、その土地に立って、実際に何分かかるか測ってください。
50年やってきて分かったことがあります。土地で損をする人は、その土地の「一番いいところ」を見て値段を決めています。土地で損をしない人は、その土地の「一番売りにくくなる理由」を先に見つけています。
最後に、これだけは申し上げたい
幹線道路沿いの土地をお持ちの方、あるいはこれから買おうとされている方。
その土地が住宅として売れる土地なのか、事業用として売れる土地なのか、この見極めだけは、絶対に誰かに相談してから決めてください。
そして相談する相手は、その道を実際に毎日走っている人間にしてください。地図と査定ソフトだけでは、あの音は分かりません。
私は北区で50年、あの道を走り続けてきました。どの時間帯にどれくらい流れるか、どこの交差点で右折が詰まるか、体で覚えています。
売る話でなくても構いません。「これ、どう見えますか」というご相談だけでも、遠慮なくお声がけください。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/26 06:53
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、北区の一番北の端、上津台にあるイオンモール神戸北ができて、周りの住宅や土地に何が起きたのかをお話しします。
あそこができたのは2008年10月です。その前の年、2007年7月には隣に神戸三田プレミアム・アウトレットができていました。中国自動車道の神戸三田インターを降りてすぐ。あの一帯が、たった2年で景色ごと変わりました。
「イオンができて、あの辺は便利になったんでしょう」
「じゃあ土地の値段も上がったんですか」
この18年、何百回と聞かれた質問です。今日はその答えを、正直に申し上げます。
結論から申し上げます
イオンモール神戸北ができて上がったのは、地価ではありません。
上がったのは「暮らしやすさの評判」です。
地価が本当に上がったのは、ごく限られた場所だけでした。そして、恩恵をほとんど受けなかったエリアのほうが、実は多いのです。
これは断言できます。大型商業施設は、家の値段を底上げする魔法の杖ではありません。
1. 上がったのは地価ではなく、暮らしの評判でした
2008年より前、上津台や大池、道場のあたりを紹介すると、お客さんの顔が曇りました。
「買い物はどうするんですか」
これが一番の壁でした。当時は車で三田の街まで出るか、岡場まで下りるか。日用品ひとつ買うのに一仕事だったのです。
イオンができて、その壁が消えました。営業に行っても「買い物、困りませんか」と聞かれなくなった。これは大きな変化です。
ただ、それは「売れなくはなくなった」という変化であって、「高く売れるようになった」という変化ではありませんでした。
ここで一歩立ち止まってください。便利になることと、資産価値が上がることは、別の話です。
2. 恩恵を受けた場所と、受けなかった場所がはっきり分かれました
50年やってきて分かったことがあります。商業施設の効果は、驚くほど狭い範囲にしか及びません。
私の実感で申し上げると、こうです。
- 車で5分以内、信号を10個も待たずに着く場所
- 坂を下って上がり直す必要のない、同じ高さにある場所
- インターに近く、大阪や三田へも出やすい場所
このどれかに当てはまる場所は、確かに引き合いが増えました。上津台や、鹿の子台の一部です。
一方で、直線距離では近いのに、間に山と坂を挟む場所。ここは何も変わりませんでした。地図の上では3キロでも、車で20分かかるなら、それは「近く」ではないのです。
北区の土地を見るときは、距離ではなく高低差と道を見てください。これは覚えておいてください。
3. 「イオンが近い」は買う理由にはなっても、売る理由にはなりにくい
不動産には、買うときに効く材料と、売るときに効く材料があります。
「イオンが近い」は、買うときに背中を押す材料です。ご主人が悩んでいても、奥さんが「これなら暮らせるわね」と言ってくれる。契約が決まりやすくなる。
けれど、売るときにはほとんど値段になりません。なぜなら、そのエリアで売りに出ている家は、全部イオンが近いからです。全員が同じ条件を持っているものは、差にならないのです。
差になるのは何か。道路付け、日当たり、土地の形、建物の傷み具合。結局、昔から変わらないものです。
4. 実例。上津台のAさんが8年住んで売ったときの話
Aさんは、当時50歳の会社員のご主人と、48歳の奥さんのご夫婦でした。
2014年、上津台の中古住宅を2,780万円で買われました。築12年、土地は約180平米、建物は延べ110平米ほど。イオンまで車で5分、アウトレットも歩いて行ける距離です。
「モールがあるから子どもが退屈しない」
これが決め手でした。実際、お子さんが小学生のあいだは本当に良かったそうです。休日はモールで映画を見て、フードコートでご飯を食べて帰る。車を出す必要すらない。
ところが8年経った2022年、ご主人の転勤が決まりました。売却のご相談です。
査定に伺って、私は「2,450万円あたりが現実的です」と申し上げました。Aさんは驚かれました。
「イオンもアウトレットもあって、あれだけ便利になったのに、下がるんですか」
正直に申し上げました。買われた2014年の時点で、すでにイオンの分は価格に織り込まれていました。8年で建物は築20年になり、そのぶんは確実に減っています。土地の値段はほぼ横ばい。差し引きすると、そうなるのです。
結果、半年かかって2,380万円でまとまりました。買ったときから400万円下がっています。
ここで大事なのは、Aさんが損をしたわけではないということです。8年間、家賃を払わずに済んで、400万円。年間50万円、月4万円ちょっとです。北区で3LDKを借りればもっとかかります。
けれど「イオンができたから資産価値が上がるはず」と思い込んでいたら、この結果は納得できません。最初の期待値が間違っているのです。
5. 業界の裏側。「イオンまで車で5分」という営業トーク
はっきり申し上げます。私たち業界には、大型商業施設を売り文句に使う癖があります。
チラシに大きく「イオンモール神戸北まで車で5分」と書く。現地案内のときも、わざわざモールの前を通ってから物件に向かう。お客さんの気持ちが上向いたところで玄関を開ける。
これは嘘ではありません。けれど、公平でもありません。
なぜなら、その5分は日曜の夕方には15分になるからです。上津台の周辺は、休日になると本当に混みます。アウトレットとモールの客が同じ道に集まるので、交差点ひとつ抜けるのに信号を3回待つこともある。
案内する営業マンは、たいてい平日の昼間に連れて行きます。空いている時間です。私は、気になる物件があれば日曜の午後4時にもう一度行ってみてくださいと、いつも申し上げています。
もう一つ。査定のときに「商業施設が近いので強気でいけます」と言ってくる業者には気をつけてください。
高い査定額を出して媒介契約を取り、あとからじわじわ値下げさせる。いわゆる「高預かり」です。イオンやアウトレットは、その理屈づけに使いやすいのです。「この立地なら」と言われると、売主さんは信じてしまいます。
3か月経って売れず、200万円下げましょうと言われる。さらに3か月経ってまた下げる。半年も市場に出ていた物件は、業界で言う「枯れた」状態になります。買主から「何か問題があるのでは」と見られてしまう。
最初から適正な値段で出していれば、3か月で売れたものが、1年かかって結局安く売れる。この形を、私は何十件も見てきました。
6. デメリットを正直に申し上げます
良い話ばかりでは公平ではないので、マイナス面を書きます。
一つ目は、車がないと成立しない生活だということです。
イオンが近いといっても、歩いて行ける距離に住んでいる方はごく一部です。ほとんどの方は車で行きます。お子さんが免許を取るまで、送り迎えは親の仕事になります。
そして、ご夫婦が70代、80代になったとき。免許を返納したらどうするか。ここまで考えて買われる方は、正直に言って少ないです。Aさんのご近所にも、ご主人が80歳を過ぎて運転をやめられ、結局三宮のマンションに移られた方がいます。買い物が便利なはずの場所で、買い物ができなくなったのです。
二つ目は、施設の将来です。
イオンモール神戸北はまだ元気ですが、全国では大型モールの閉店や縮小が現実に起きています。18年もった施設が、次の18年ももつ保証は誰にもできません。
もし閉まったら、「イオンが近いから」だけを理由に買った土地は、理由ごと失います。だから私は、モールを買う理由の一番目にしないでください、と申し上げるのです。
三つ目は、冬の寒さと坂です。
上津台や大池のあたりは、標高が高い。三宮より数度低いのが普通ですし、年に何度かは路面が凍ります。ノーマルタイヤで坂を上がれずに立ち往生している車を、私は何度も見ています。
イオンの明るさに気を取られて、この地形の話を忘れる方が多い。けれど暮らすというのは、365日のうち360日の話です。
7. では、どう考えて買えばいいのか
私がお客さんに申し上げているのは、順番の話です。
まず土地そのものを見てください。道路にきちんと接しているか。前面道路の幅はあるか。日は当たるか。雨が降ったときに水はどう流れるか。造成の擁壁は古くないか。
その次に、車で走ってみてください。平日の朝、通勤の時間。日曜の夕方。冬の朝。同じ場所が、全然違う顔をします。
イオンの話は、その全部を確認したあとの、最後の一押しです。順番を逆にすると、必ず後悔します。
実際、Bさんご夫婦がそうでした。ご主人38歳、奥さん36歳。2021年に鹿の子台で土地を探しておられました。
最初に見た区画は3,180万円。イオンにもアウトレットにも近くて、お二人は乗り気でした。けれど道路が狭く、擁壁が古い。私は「これは将来お金がかかります」と申し上げました。
結局、少し離れた別の区画を2,980万円で買われました。モールまでは車で3分ほど余計にかかります。けれど土地は平坦で、道路は6メートル、南側が開けている。
去年、たまたま近況を伺ったら「あのとき止めてもらってよかった」と言われました。最初の区画は、その後買われた方が擁壁の補修で相当かかったそうです。
まとめ
イオンモール神戸北ができて、北区の北部は確かに暮らしやすくなりました。これは事実です。
けれど、それが地価を押し上げたかというと、限定的です。恩恵は狭い範囲にしか及ばず、その範囲の中では全員が同じ条件なので、売るときの差にはなりません。
50年やってきて分かったことがあります。家の値段を決めるのは、その土地が持っているものです。周りに何ができたかではありません。
道、地形、日当たり、広さ、形。この5つは、モールができてもなくなっても変わりません。だから、まずここを見てください。
そしてもう一度申し上げます。「イオンが近いから」を買う理由の一番目にしないでください。二番目、三番目に置いておくのが、ちょうどいい距離感です。
最後に、これだけは申し上げたい
私はこの仕事を50年やってきましたが、儲けさせるためではなく、損をさせないために書いています。
上津台や大池、鹿の子台、道場のあたりで家や土地を売ろうか迷っておられる方。買おうか悩んでおられる方。
一度、値段のつく理由と、つかない理由を、正直にご説明させてください。売ってくださいとは申し上げません。話を聞いて、やめておこうという結論でも構いません。
そのときは、私も一緒に「やめておきましょう」と申し上げます。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/25 11:48
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、北区で土地を探している方から一番よく聞かれる質問、「平坦な土地はどこにありますか」についてお話しします。
これです。年間で何十回と聞かれます。特に、ご夫婦のどちらかが40代後半から60代の方、それから今は元気でもいずれ足腰が心配というご年齢の方。ほぼ全員がこれを聞かれます。
そして、この質問に正直に答えている業者を、私はあまり見たことがありません。
結論から申し上げます
北区で本当に平坦な土地は、計画的に造成された住宅団地の内側にしかありません。
それ以外の場所で「平坦です」と紹介される土地は、たいてい「平坦に見えるだけ」です。
そして、その平坦な区画は、同じ駅から同じ距離、同じ広さでも、坪単価で一割から二割高いです。条件が良ければ三割違うこともあります。
これは断言できます。北区で平坦さは、はっきり値段になって表れます。
1. 北区の「平坦」は、もともと平らだったわけではありません
まずここを分かっていただきたいのです。
北区というのは、六甲山系の北側の斜面と、その奥に広がる丘陵地です。地形として、もともと平らな場所はほとんどありません。
では今ある平坦な住宅地は何かというと、山を削って、谷を埋めて、人の手で平らにしたものです。
つまり北区の平坦地は「自然の平地」ではなく「造成された平地」です。
ここが大事なところで、造成された平地というのは、いつ、誰が、どういう基準で造ったかによって品質がまるで違います。
昭和40年代から50年代前半に造られた団地と、平成に入ってから造られた団地では、擁壁の造り方も、道路の勾配の取り方も、雨水の逃がし方も違います。
同じ「平坦」でも、中身が違うのです。
2. 平坦な区画がまとまっている場所を、具体的に挙げます
ここは曖昧に書いても意味がないので、はっきり申し上げます。
私が50年見てきた中で、平坦な区画が「まとまって」存在するのは、次のような場所です。
- 藤原台の北町・中町の区画整理された部分
- 鹿の子台の北町・南町
- 上津台
- 筑紫が丘
- 有野台の中心部
- ひよどり台
- 西鈴蘭台の一部
このあたりです。共通しているのは、いずれも「団地としてまとめて設計された場所」だということです。
道路が碁盤の目のように通っていて、一区画あたりの広さが揃っていて、電柱の位置も規則的。そういう場所は平坦である可能性が高いです。
逆に、道が曲がりくねっていて、区画の大きさがバラバラで、家の建っている高さが一軒ずつ違う。そういう場所は、まず平坦ではありません。
昔からの集落や、後から少しずつ切り売りされた土地は、地形をそのまま使っていますから、どうしても高低差が残ります。
これは良い悪いの話ではありません。事実としてそうだ、というだけの話です。
ただし、ここで一つ注意していただきたいことがあります。
同じ団地の中でも、外周部は平坦ではありません。
団地というのは、丘の上を平らに削って造ります。ですから中心部は平らでも、周辺に向かうにつれて元の地形に戻っていきます。団地の一番外側の列は、たいてい裏が斜面か擁壁です。
「藤原台なら平坦でしょう」ではありません。藤原台のどの区画か、が問題です。
3. 「平坦」には四つの条件があります
50年やってきて分かったことがあります。
お客様が「平坦」と言うときと、業者が「平坦」と言うときで、意味が違うのです。
私が現場で使っている基準を書きます。次の四つが全部そろって、はじめて平坦です。
- 敷地の中が平らであること
- 敷地と前面道路に段差がないこと
- 前面道路そのものが平らであること
- 駅・スーパー・バス停までの生活動線に急な坂がないこと
業者が言う「平坦」は、たいてい一つ目だけです。
敷地の中だけ平ら。でも道路から敷地まで階段が12段ある。前の道は勾配がきつい。駅までの帰り道は延々と登り。
これでも図面上は「平坦地」と書けてしまいます。
ですから現地を見るときは、敷地の中に立って満足しないでください。そこから駅まで、実際に歩いてみてください。それも、荷物を持って、夏の暑い日に、一度歩いてみてください。
見え方が変わります。
4. 価格差は坪単価で一割から二割です
数字の話をします。
同じエリア、同じ駅からの距離、同じくらいの広さで比べたときに、平坦な区画と傾斜のある区画では、坪単価でおおむね一割から二割の差がつきます。
たとえば55坪の土地で、平坦な区画が坪38万円だとすると、同じ団地の中でも斜面側の区画は坪31万円くらいになります。
総額でいうと2,090万円と1,705万円。差は385万円です。
「385万円安いなら斜面でもいいじゃないか」
そうお考えになる方は多いです。私も現場でよく言われます。
ですが、ここで一歩立ち止まってください。
その385万円は、あとで返ってきません。むしろ出ていきます。
斜面の区画は、まず造成にお金がかかります。駐車場を道路の高さに合わせて掘り込むなら、その工事費。擁壁を新しく造るなら、その費用。階段を付けるなら、それも。
これで200万円から400万円は簡単に飛びます。安く買った分が、そのまま消えるということです。
さらに、擁壁は永久のものではありません。30年、40年と経てば、点検や補修の話が必ず出てきます。
そして一番大きいのが、売るときです。
5. 平らなのに安い土地には、必ず理由があります
ここも正直に書きます。
「平坦なのに周りより安い」という土地に出会ったら、喜ぶ前に理由を探してください。北区でよくあるのは、次の三つです。
一つ目は、田んぼの跡地です。
岡場の周辺や、有馬口から先の田園部には、田んぼを埋め立てて宅地にした土地があります。たしかに平らです。値段も安い。
ですが、地盤が弱いことが珍しくありません。地盤調査をすると改良が必要と出て、100万円から150万円の追加費用が発生します。
私が担当したケースでは、地盤改良に128万円かかった方がいらっしゃいました。土地代で200万円安く買えたと喜んでいたら、そのうち128万円が最初から消えたわけです。
二つ目は、谷を埋めた造成地です。
谷筋を土で埋めて平らにした場所は、見た目は完全にフラットです。ただし、盛土の部分と切土の部分が一つの敷地にまたがっていると、建物が不揃いに沈むことがあります。
これは造成計画図を見れば分かる話です。売主か仲介業者に「この区画は切土ですか、盛土ですか」と聞いてください。答えられない業者は、正直に言えばあまり信用できません。
三つ目は、単純に日当たりが悪い場所です。
北区の平坦地は、地形でいうと谷の底にあたることが多いです。両側から山が迫っていますから、冬場は日が差す時間が短い。朝が遅くて、夕方が早い。
平らで、安くて、駅にも近い。それなのに売れ残っている。そういう土地は、たいてい冬に一度見に行くと理由が分かります。
6. 私が見てきた実例をお話しします
具体的なお話をします。
一組目は、Aさんご夫婦です。ご主人が42歳、奥様が39歳、お子さんが二人。鹿の子台で土地を探しておられました。ご予算は土地に2,000万円まで。
私がご案内した平坦な区画は55坪で2,090万円。少しオーバーです。同じ団地の斜面側の区画は、同じ広さで1,705万円でした。
Aさんは最初、斜面側に傾いておられました。385万円違いますから、当然です。
私は正直に申し上げました。この区画は道路から敷地まで14段の階段が必要になります、と。駐車場を平らに取るには掘り込みの工事が要ります、と。
見積もりを取ってもらったら、造成費だけで310万円でした。
結果、Aさんは平坦な区画を選ばれました。
その5年後、奥様のお母様が同居されることになりました。80歳を過ぎておられます。
Aさんから電話をいただきました。「あのとき階段の家を選んでいたら、母は住めませんでした」と。
これが平坦さの価値です。買うときには見えません。10年後、20年後に効いてきます。
二組目は、Bさんです。当時68歳、藤原台北町にお住まいでした。30年前に平坦な区画を買われた方です。ご事情があって家を売ることになりました。
売り出して3週間で買い手が決まりました。値引きは一切なしです。
同じ時期に、同じ町内の斜面側の中古住宅も売りに出ていました。こちらは9ヶ月かかりました。最終的に売り出し価格から280万円下げての成約です。
建物の状態も、築年数も、駅からの距離も、ほとんど同じです。違ったのは、玄関までの階段が15段あるかないか。それだけでした。
はっきり申し上げます。平坦さというのは、売るときに一番はっきり出ます。
三組目は、Cさんです。50代のご夫婦でした。岡場の近くで、田んぼ跡の平坦な土地をご自分で見つけてこられました。周辺より坪5万円安い。ご夫婦は大喜びでした。
私は地盤調査を先にやることをお勧めしました。買う前に、売主の了解を得て調査をさせてもらったのです。
結果、柱状改良が必要と出ました。費用は128万円。
Cさんはこの土地を見送られました。「教えてもらってよかった」と言われましたが、正直、買ってからでは遅かった話です。
このとき仲介に入っていた業者は、地盤のことを一言も言いませんでした。
7. 業界の裏側を申し上げます
ここからは、あまり気持ちのいい話ではありません。ですが知っておいてください。
まず、「平坦地」という表記に、はっきりした基準はありません。
チラシに「平坦地」と書くことは自由です。誰も止めません。敷地の中が水平なら、道路から3メートル上がっていても「平坦地」と書けてしまいます。
次に、写真です。
高低差のある土地の写真は、必ず「上から」撮ります。上から撮ると高低差は写りません。下から見上げて撮れば擁壁も階段も写ってしまいますから、そういう写真は載せません。
これはもう、業界の常識です。
三つ目に、現地案内の順路です。
私も若い頃、先輩に教わりました。「坂のある物件は、上から降りて案内しろ」と。
車で高い方の道から入って、下っていく。そうするとお客様は坂を登りません。楽に見えます。
逆をやると、汗をかきながら登ることになりますから、印象が悪い。だから絶対に登らせない。
これを知っている業者は、今もやっています。
ですから、現地案内のあとで、必ずご自分でもう一度、駅から歩いて行ってみてください。案内された道ではなく、自分が毎日使うことになる道を歩いてください。
四つ目です。「高低差がある」という言葉を、業者は使いません。代わりにこう言います。
- 眺望良好
- 日当たり抜群
- プライバシーが保たれる
- 開放感がある
これらの言葉が並んでいたら、まず高低差があると思ってください。全部が全部そうだとは言いませんが、経験上、かなりの確率で当たります。
五つ目。これが一番大きいかもしれません。
平坦で条件の良い区画は、そもそも一般のお客様の目に触れにくいのです。
建売業者や工務店が、売り出しと同時に押さえてしまいます。そして「建築条件付き」にして、土地だけでは売りません。
ですから「土地だけ買って、好きな工務店で建てたい」という方が、平坦な良い区画を探すのは、実はかなり難しいのです。
これは値段の問題ではなく、情報の速さの問題です。
8. 平坦な土地のデメリットも正直に書きます
ここまで平坦地を勧めるような書き方をしてきましたが、良いことばかりではありません。マイナス面も書きます。
一つ目、日照です。
先ほども触れましたが、北区の平坦地は谷の底にあたることが多いです。斜面の中腹に建っている家のほうが、冬の日当たりは良いことがあります。
見晴らしも同じです。平坦地からは山しか見えません。斜面の家からは町が見下ろせます。
二つ目、冷え込みと霧です。
冷たい空気は下に溜まります。北区の谷筋にある平坦な団地は、冬の朝の冷え込みが周辺より厳しいことがあります。霧が出やすい地域もあります。
三つ目、水です。
平らということは、水が流れて行かないということでもあります。谷を埋めた造成地や田んぼ跡は、大雨のときに水が集まりやすい傾向があります。
ハザードマップは必ず確認してください。神戸市のホームページで見られます。無料です。10分で済みます。
四つ目、値段です。
これは最初に書いたとおりです。一割から二割高い。同じ予算なら、平坦を取ると駅から遠くなるか、面積が小さくなるかのどちらかです。
五つ目、隣家との距離です。
平坦な団地は区画が整然と並びますから、隣の家がすぐ横にあります。斜面地のほうが、高低差の分だけ隣との距離が空いて、視線が気にならないという方もいらっしゃいます。
ですから「平坦なら何でも良い」ではありません。
ご家族の年齢、10年後20年後の暮らし方、そして予算。この三つで決めるものです。
まとめ
もう一度、結論を申し上げます。
北区で本当に平坦な土地は、計画的に造成された住宅団地の内側にしかありません。
藤原台の北町・中町、鹿の子台、上津台、筑紫が丘、有野台の中心部、ひよどり台、西鈴蘭台の一部。このあたりです。
ただし同じ団地でも、外周の列は斜面に接しています。町名だけで判断しないでください。
そして平坦さには、坪単価で一割から二割の値段がついています。
その差額は、あとから工事費として出ていくことが多いです。安く買ったつもりが、結局同じか、むしろ高くつく。これは何度も見てきました。
さらに、売るときにはっきり差が出ます。3週間で売れる土地と、9ヶ月かかって280万円下げる土地。同じ町内でもそうなります。
50年やってきて分かったことがあります。
土地で失敗する方は、買うときの値段を見ています。土地で失敗しない方は、20年後に自分がその階段を上がれるかどうかを見ています。
最後に、これだけは申し上げたい
平坦かどうかは、図面では絶対に分かりません。
写真でも分かりません。上から撮ってありますから。
分かるのは、現地に立って、駅まで歩いて、冬の朝に一度行ってみたときだけです。
北区で土地をお探しの方、あるいは今お持ちの土地を売ろうかとお考えの方。どちらでも構いません。
「この場所は本当に平坦なのか」「この高低差は将来どう効いてくるのか」「うちの土地は平坦さで得をしているのか、損をしているのか」
こういうことを、私は50年分の現場から正直にお答えします。売るための話ではなく、損をしていただかないための話です。
お気軽にご相談ください。何も決まっていない段階で構いません。むしろ、決まる前にお越しいただいたほうが、お役に立てます。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/24 08:27
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、少し言いにくい話をします。北区で一番売りにくい立地はどこか、という話です。
50年もこの仕事をしていますと、「売ってください」と頼まれた瞬間に、正直、胃のあたりが重くなる物件があります。
家が悪いわけではありません。持ち主さんに落ち度があるわけでもありません。手入れも行き届いている。ご家族の思い出も詰まっている。
それでも、立地だけで決まってしまうことがあるのです。
普通、不動産屋はこの話をしません。
「大丈夫ですよ、きっと売れますよ」と言って媒介契約だけ先に取って、3か月経ってから「そろそろ値段を考えましょうか」と切り出す。そのほうが仕事になるからです。
私はそれをやりません。先に申し上げます。
結論から申し上げます
北区で一番売りにくいのは、バス便で、坂の上にあって、玄関まで階段を上がる家です。
この3つが重なった物件。これが断トツで苦労します。
はっきり申し上げます。この3つがそろっていると、同じ広さ、同じ築年数の駅近物件と比べて、成約価格で3割から4割は違ってきます。
「そんなに違うのか」と思われるでしょう。違うのです。私が過去に苦労した物件を思い出して並べてみたら、判で押したように同じ条件でした。
なぜそうなるのか、順番にお話しします。
1. バス便であること
北区は広いです。駅から歩ける範囲に住んでいる方のほうが、実は少ないくらいです。
だからバス便そのものが悪いとは言いません。私自身、バス便のエリアで何百件と売買をまとめてきました。
問題は、買う側の見え方です。
不動産のポータルサイトで家を探すとき、買主さんはまず「駅からの距離」で絞り込みます。「徒歩15分以内」にチェックを入れる。この瞬間に、バス便の物件は画面から消えます。
存在すら知られないのです。
もうひとつ。バスの本数です。
私が今扱っているエリアでも、20年前は日中に1時間4本あった路線が、今は2本になっているところがあります。土日はもっと減る。
買主さんは意外とここを調べます。スマホで時刻表を見て、「これは無理だ」と判断されて終わりです。内覧にすら来ません。
ここで一歩立ち止まってください。
「うちはバス停まで3分だから大丈夫」とおっしゃる方がいます。バス停までの距離ではありません。バスが何時まで走っているか、朝の通勤時間に座れるか、雨の日はどうか。買主さんが見ているのはそこです。
2. 坂の上にあること
北区は坂の街です。これはもう仕方がありません。
ただ、坂にも売れる坂と売れない坂があります。
売れる坂は、車で上がりきったところに家があって、家の前が平らになっている坂です。フラットな駐車場が取れていれば、買主さんは「まあ車生活だから」と納得します。
売れない坂は、上がった先の道がさらに狭くて、家の前で車の切り返しが必要な坂です。
以前、鈴蘭台の高台にある物件をお預かりしました。
道幅が3.6メートル。上り坂の途中で、家の前で一度切り返さないと駐車場に入らない。
内覧に来られたご夫婦、旦那さんはすごく気に入ってくださいました。ところが奥さんが「私、この道を毎日運転する自信がありません」と。
その一言で終わりました。
これは覚えておいてください。家を実際に選ぶのは、多くの場合、毎日運転する側の方です。
3. 玄関まで階段を上がること
これが、私の経験では一番効きます。
道路から玄関まで、階段を10段、15段、ときには20段以上上がる家。北区にはたくさんあります。
昭和50年代から60年代にかけて、山を削って造成した住宅地です。当時は「見晴らしがいい」「静かで最高だ」と、むしろ人気だった。
50年経ちました。当時30代で買われた方が、今80代です。
はっきり申し上げます。階段のある家は、今、買主さんが一番嫌がる条件です。
理由は3つあります。
- 若い子育て世帯は、ベビーカーと荷物を持って上がれないと考える
- 中高年の買い替え層は、自分が10年後に上がれるかを考える
- 売主さん自身が、上がれなくなって売りに出している
つまり、売る側も買う側も、同じ理由で階段を避けているのです。
需要が構造的に細っている。これは価格でしか埋められません。
4. 擁壁が高く、古いこと
これは表に出にくいのですが、実務では非常に大きな問題です。
坂の上の家は、たいてい擁壁の上に建っています。この擁壁が、高さ2メートルを超えていて、しかも古い間知石積みやブロック積みだと、買主さんの住宅ローンで問題が出ることがあります。
金融機関によっては担保評価を落とします。「擁壁の安全性が確認できない」という理由です。
現金で買える方なら関係ありません。しかし、家を買う方の9割は住宅ローンです。
以前、有野台の物件で、契約直前に買主さんの銀行から「擁壁の状況について資料を出してほしい」と連絡が来たことがあります。
築45年、擁壁の高さは3メートル近くありました。造成時の検査済証が見つからない。
結局その方は融資が通らず、白紙解約になりました。売主さんに事情をご説明したときの、あの空気は今でも覚えています。
もし擁壁のある家をお持ちなら、造成時の書類が家のどこかに残っていないか、今のうちに探してみてください。あるとないとでは、まったく話が違います。
5. 同じ条件の家が、近所に何軒も出ていること
これが最後で、そして案外見落とされます。
北区の高台の団地は、同じ年代に一斉に開発されました。ということは、住んでいる方の年齢層も一斉に上がります。
そして同じ時期に、一斉に売りに出るのです。
ある団地では、200戸ほどの中で、売り物件が同時に7件出ていたことがありました。
間取りも似ている。築年数も似ている。条件も似ている。
こうなると、買主さんは何を見るか。値段しか見ません。
一番安い物件が売れて、残りの6件はそのまま残ります。そして残った売主さんが焦って値下げをする。またその一番安いのが売れる。この繰り返しです。
これは断言できます。同じ団地に売り物件が5件以上並んでいるときは、売り出しのタイミングそのものを考え直したほうがいいです。
Aさんの話をします
藤原台にお住まいだったAさんご夫婦、当時72歳でした。
昭和60年に建てられた家です。土地50坪、建物35坪。眺めは本当に素晴らしい家でした。晴れた日には遠くまで見渡せる。
条件は、今日申し上げた通りでした。最寄りのバス停まで徒歩6分、坂の上、道路から玄関まで階段が18段。
Aさんは最初、別の不動産会社に相談されました。
そこの担当者が出してきた査定額が「2,480万円」。
Aさんは喜ばれました。「思ったより高い」と。
半年経ちました。内覧は3件。申し込みはゼロ。
そこで「2,280万円に下げましょう」と言われた。さらに半年、内覧2件。またゼロ。
「1,980万円で」。
結局、2年半かかって、成約価格は1,780万円でした。
私のところに来られたのは、その1年目が終わったあたりでした。
最初にお話ししたのは、査定額の話ではありません。「なぜ2,480万円という数字が出たと思われますか」という話です。
50年やってきて分かったことがあります。最初に高い数字を出す会社は、その物件を売る算段がついているのではなく、契約を取る算段がついているだけのことが多いのです。
もしAさんが最初から1,900万円台で出していたら。
私の見立てでは、8か月から10か月で決まっていました。値下げを3回繰り返した物件には、「何か問題があるのでは」という空気がついて回ります。
この空気のことを、私たちは「物件が枯れる」と言います。一度枯れると、値段を下げても戻りません。
業界の裏側を申し上げます
売りにくい立地の物件に、なぜ高い査定額がつくのか。
からくりは単純です。
ひとつ目。専任媒介契約を取ってしまえば、3か月間はその会社が独占できます。売れなくても損はしません。むしろ、その物件を見て問い合わせてきたお客さんに、別の物件を紹介できる。物件は「客寄せ」として機能するのです。
ふたつ目。値下げは、売主さんが自分で決めたことになります。「お客様のご判断で価格を改定しました」と記録に残る。会社の責任にはなりません。
三つ目。ここが一番申し上げにくいところです。時間をかけて売主さんを疲れさせてから、最後に「もう買取にしませんか」と持ちかける会社があります。
買取価格は、相場の6割から7割です。
2年半さまよって疲れ切った売主さんは、その提案に乗ってしまいます。「もういい、早く終わらせたい」と。
そして買い取った業者は、少し手を入れて、また市場に出します。
はっきり申し上げます。私は、この流れを何度も見てきました。
もうひとつ、「囲い込み」の話もしておきます。
売りにくい物件ほど、囲い込みは起きにくいと思われがちですが、逆です。売りにくいからこそ、少ない問い合わせを自社で抱え込みたくなる。
他社から「あの物件を紹介したい」と連絡が来ても、「今、商談中でして」と断ってしまう。両手で決めたいからです。
ただでさえ買い手が少ない立地なのに、そこからさらに窓口を狭められる。売主さんにとってこれほど不利なことはありません。
正直に、デメリットも申し上げます
ここまで読まれて、「じゃあ待てばいいのか」と思われた方がいるかもしれません。
待っても上がりません。むしろ下がります。
北区の高台の団地は、これから10年で、売り物件がさらに増えます。これは人口構成を見れば明らかです。
今、その団地に住んでいる方の年齢を思い浮かべてみてください。10年後に、その方々はどうされているか。
それから、私自身の話も正直に申し上げます。
こういう立地の物件は、私が扱っても苦労します。魔法はありません。半年から1年はかかります。
「あきちゃんに頼めばすぐ売れる」と思って来られると、がっかりさせてしまいます。そういう物件ではないのです。
私にできるのは、最初から現実的な数字をお伝えして、無駄な1年を作らないこと。それだけです。
それでも売れる道はあります
暗い話ばかりして終わるのは私の趣味ではありませんので、実際に効いた方法をお伝えします。
ひとつ。売り出し価格を、最初から相場の下限に置くこと。
これが一番効きます。値下げを繰り返す物件より、最初から手頃な物件のほうが早く決まります。結果として手取りも多くなることが、実によくあります。
ふたつ。売り出す時期を選ぶこと。
北区の戸建てが一番動くのは、1月から3月です。転勤と入学が重なるからです。逆に、夏場に高台の物件を出しても反応は鈍い。実際に坂を上がってもらうので、暑い時期は不利なのです。
三つ。隣の家に声をかけること。
これは意外と知られていません。高台の団地で、隣地が同時に売りに出ているケース。この場合、隣の方に「一緒に売りませんか」または「うちの土地を買いませんか」と打診すると、話が動くことがあります。
2区画まとめて、平らに造成し直せば、階段の問題が解消することがあるからです。買主が業者になりますが、それでも1年さまようよりはるかにいい。
四つ。階段だけでも直すこと。
18段の階段に、しっかりした手すりを片側つける。工事費は20万円から30万円ほどです。
たったこれだけで、内覧されたご年配の買主さんの表情が変わります。私は実際に、これで決まった物件を知っています。
まとめ
北区で一番売りにくいのは、バス便で、坂の上で、玄関まで階段を上がる家です。
そして擁壁が高く古いこと、同じ団地に売り物件が並んでいること。この2つが加わると、さらに難しくなります。
ただし、売れないわけではありません。
正しい値段と、正しい時期と、正しい説明があれば、決まります。
一番いけないのは、高い査定額に気持ちよくなって、2年も3年もさまようことです。
その間に、その家はどんどん「枯れて」いきます。
最後に、これだけは申し上げたい
この記事を読んで、「うちのことだ」と思われた方がいらっしゃるかもしれません。
落ち込まないでください。北区にはそういう家がたくさんあります。そして、その一軒一軒がきちんと売れていっています。
大事なのは、最初に本当のことを聞くことです。
もし査定を取られるなら、必ず「なぜその金額なのか」を聞いてください。根拠を具体的に説明できない会社は、たぶん説明できるだけの調べ方をしていません。
うちに聞いていただいても構いませんし、他社さんでも構いません。とにかく、数字の大きさではなく、数字の根拠で選んでください。
それだけで、失う1年が減ります。
ご相談はいつでもどうぞ。売る売らないは決めていなくても結構です。「うちの立地はどうなんだろう」という段階のお話が、私は一番好きです。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/23 07:41
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、淡河、大沢、八多。北区の北の端に広がるこの三つの町の土地について、買っていい人と、買ってはいけない人の話をします。
「北区で土地を探しています。淡河のほうに300坪で180万円というのが出ていました。あれは買いですか」
こういうご相談を、私は年に何度も受けます。西宮や芦屋、大阪からいらっしゃる方が多い。定年が見えてきて、畑をやりたい。犬を走らせたい。子どもを自然の中で育てたい。
お気持ちはよく分かります。私も北区の人間ですから、あの景色が好きです。
ですが、ここで一歩立ち止まってください。あの値段には、値段になっている理由があります。
結論から申し上げます
淡河、大沢、八多の土地は、「安いから」という理由で買う方には勧めません。「そこで、こういう暮らしをしたい」という理由で買う方には、勧めます。
同じ土地です。同じ180万円です。それでも、片方の方は10年後に「買ってよかった」とおっしゃって、もう片方の方は3年後に私のところへ「これ、売れませんか」と相談にいらっしゃる。
50年やってきて分かったことがあります。この三つの町で失敗する方は、例外なく「坪単価」から入っています。成功する方は、例外なく「そこで何をするか」から入っています。
もう一つ、はっきり申し上げます。淡河、大沢、八多の農村部は、その大半が市街化調整区域です。ここは「家を建てるための土地」として売られている場所ではありません。買っただけでは、家は建ちません。
これを知らずに契約書に判を押した方を、私は何人も見てきました。
1. 「安い」の正体は、建てられないことです
まず、この一点だけは持って帰ってください。市街化調整区域というのは、都市計画法で「市街化を抑えましょう」と決められた区域です。北区でいえば、淡河町、大沢町、八多町の農村部は、ほぼここに入ります。
ここでは、原則として、自由に家を建てることができません。
「原則として」というのが大事です。ゼロではありません。ただ、市街化区域の宅地のように「土地を買って、ハウスメーカーを呼んで、はい着工」とはいきません。都市計画法上の許可、あるいは許可がいらないと認められる根拠が要ります。
建てられる可能性がある代表的な入口は、こういうものです。
- 線引き前宅地。市街化調整区域に線を引かれる前から宅地だった土地
- 既存集落の中で、市が区域指定などをしている土地
- 農家住宅。実際に農業をやっている方の、農業に必要な住まい
- 分家住宅。本家との関係、世帯分離の必要性など細かい要件がある
- 里づくり計画に位置づけられた区域での、移住者用の住宅
このどれにも当てはまらない土地は、いくら現金を積んでも家は建ちません。
ここで、ぜひ覚えておいていただきたいことがあります。この判断は、町名では絶対にできません。
「大沢町だから建つ」「淡河町だから建たない」ではないのです。同じ集落の中で、道を一本挟んだだけで結論が変わります。地番単位で神戸市に照会して、はじめて分かります。
そして、これは断言できます。チラシに「建築可」と書いていない調整区域の土地は、建たないと思って見てください。建てられるなら、業者は必ず大きく書きます。それが一番の売り文句になるからです。書いていないということは、書けないということです。
2. 農地は、そもそも誰でも買えません
次に、もっと手前でつまずく話をします。淡河や大沢で「180万円で300坪」というような広告に出ているもの。あれの多くは、地目が畑や田です。つまり農地です。
農地は、農地法という別の法律で守られています。
農地を農地のまま買う場合でも、農業委員会の許可が要ります。これは「農業をやる人」に対して出るものです。定年後に家庭菜園をやりたい、という理由で誰にでも出るものではありません。農地を宅地に変えて家を建てたい場合は、さらに転用の許可が要ります。
ここに、もう一段深い落とし穴があります。農業振興地域の中の農用地区域、業界で「青地」と呼ぶ土地です。ここは「農業のために確保しておく土地」と国と市が決めた場所です。
青地は、原則として転用できません。住宅も、資材置場も、駐車場も駄目です。
「除外の手続きをすれば」とおっしゃる方がいます。確かに農振除外という制度はあります。ですが、これは代わりの土地はないか、地域の農業計画と合っているか、周りの農地に影響しないか、そういうことを全部審査されます。何年かかるか分かりませんし、通らないこともあります。
はっきり申し上げます。青地を「いずれ除外できますよ」という前提で買うのは、賭けです。私は50年やってきて、その賭けに勝った方より、負けた方をたくさん見ています。
3. 水と排水と道。図面に出てこないお金
三つ目です。ここが一番、見落とされます。土地の値段は目に見えます。ですが、その土地に暮らせるようにするお金は、図面にも広告にも載っていません。
水道です。
淡河、大沢、八多でも、集落の中心部は上水道が来ています。ですが、集落から少し外れた農地の周り、山際の土地となると、前面道路に配水管が来ていないことがあります。
来ていなければ、遠くから引いてくる工事費は買った方の負担です。距離によっては百万円単位になります。井戸を掘るという選択肢もありますが、水質検査、ポンプ、渇水のリスクがついて回ります。ポンプは20年ももちません。交換で20万円ほど飛びます。
排水です。
公共下水道の整備区域から外れている土地があります。そこに家を建てるなら、合併処理浄化槽を自分で設置することになります。本体と工事で、5人槽なら80万円から100万円が目安です。
そして設置して終わりではありません。保守点検、汲み取り清掃、法定検査。これが毎年かかります。年5万円前後を、家がある限り払い続けます。神戸市に補助の制度がある場合もありますが、条件があります。当てにする前に、必ず市に確認してください。
ガスです。
都市ガスは来ていません。プロパンです。地域や会社にもよりますが、都市ガスの1.5倍から2倍近くかかることがあります。冬場のお風呂と給湯で、実感としてはっきり違います。
そして道です。
農道は、見た目は道でも、建築基準法の道路として認められていないことがあります。認められていない道にしか接していない土地は、たとえ調整区域の許可が下りる類型であっても、そこで止まります。
4. 実際にあった三つの話
具体的にお話しします。
一つ目。西宮からいらっしゃったAさん、62歳。
定年が2年後で、淡河に300坪の畑を180万円で見つけてこられました。「ここに小屋を建てて、週末に野菜を作りたい」と。
私は地番を控えて、市と農業委員会に確認しました。青地でした。しかも農地法の許可の点で、農業経験のないAさんが単独で取得すること自体が難しい。転用はまず通りません。
Aさんは「じゃあ、あの広告は何なんですか」とおっしゃいました。私も同じ気持ちです。売っている側は「農地です」と書いてはいるのです。ただ、それが何を意味するかは書いていない。
Aさんは結局、市民農園を借りることにされました。年間の利用料は数千円です。180万円は使わずに済みました。
二つ目。40代のBさんご夫婦です。
大沢町の、築38年の中古住宅。土地180坪、建物含めて980万円でした。こちらは線引き前からの宅地で、現に家が建っている。私は「これはご縁があります」と申し上げました。
ただし、正直に全部お伝えしました。屋根と外壁と水回りで、リフォームに380万円は見てくださいと。浄化槽の維持で年5万円かかりますと。プロパンですと。バスは1時間に1本ないこともあるので、車は2台要りますと。保険と車検とガソリンで、車2台なら年60万円は見ておいてくださいと。自治会費と水利費で年2万円ほど、それと年2回の草刈りの出役がありますと。
Bさんご夫婦は、全部聞いた上で「それでもここがいい」とおっしゃいました。
今、6年目です。畑をやって、犬を飼って、お子さんは元気に育っています。年賀状に「あのとき全部教えてもらってよかった」と書いてくださいました。
三つ目は、つらい話です。八多町の山林を、100坪30万円で買われたCさん、当時55歳。私のところに来られたのではなく、買った後に相談にいらっしゃいました。
「安いから、とりあえず持っておこうと思って」と。
その土地は、建築基準法上の道路に接していませんでした。家は建ちません。倉庫も建ちません。売ろうにも、買う人がいません。
固定資産税は年3千円ほどです。金額としては小さい。ですが、草は毎年伸びます。放っておけば隣の農地に迷惑がかかる。業者に頼めば1回3万円、年2回で6万円です。
30万円の土地に、毎年6万円払い続けることになりました。10年で60万円です。土地代の倍です。Cさんは今も、あの土地を持っておられます。
5. 業界の裏側を正直に申し上げます
ここからは、同業者に嫌われる話をします。
一つ目。「調整区域」とだけ書いて、その意味を説明しない広告です。
宅建業者は、重要事項説明で調整区域であることも、再建築ができないことも説明しなければなりません。ですが、それは契約の直前です。広告の段階では「市街化調整区域」の6文字だけ。それが「家が建たない」という意味だと、一般の方は読み取れません。私はこれを、意図的な不親切だと思っています。
二つ目。農地を「現況雑種地」として売る手口です。
登記の地目は畑のままなのに、実際は草が生えているだけだから「雑種地みたいなものです」という言い方をする。買う側は「じゃあ普通の土地だな」と思います。登記地目が農地なら、農地法はそのまま生きています。実態が草地でも関係ありません。
三つ目。「市に相談すれば、たぶん建てられますよ」という営業トークです。
これが一番たちが悪い。嘘とは言い切れないから、責任を取らされない。ですが「たぶん」で数百万円を出させているわけです。
私は、この言葉を聞いたらその場で契約をやめてくださいと申し上げています。建てられるなら「この根拠で、こう建てられます」と書面で言えるはずです。言えないなら、言えない理由があります。
四つ目。転売です。
調整区域の使いにくい土地を、地元の業者が10万円20万円で引き取る。それを、遠方の方に30万円50万円で売る。金額が小さいので、買うほうも「まあこれくらいなら」と判断が甘くなります。
地元の人間が誰も買わない土地には、地元の人間が買わない理由があります。これは覚えておいてください。
五つ目。両手取引の誘惑です。
売主と買主の両方から手数料をいただける取引は、業者にとって収入が倍になります。だから「この話をまとめたい」という力が働く。そうなると、ネガティブな情報は自然と後回しになります。嘘はつかない。ただ、聞かれなければ言わない。この「聞かれなければ言わない」で、どれだけの方が損をしてきたか。
私はそれが嫌で、いつも先に悪い話からします。おかげで契約はよく飛びます。それでいいと思っています。
6. それでも私が「買ってください」と言う場合
さんざん脅すようなことを申し上げましたが、私はこの三つの町が嫌いなわけではありません。むしろ好きです。ですから、勧める場合をはっきり申し上げておきます。
第一に、農地ではなく「家が建っている中古住宅」を買う場合。
これが一番現実的です。すでに家があるということは、そこに建てられた根拠があったということです。水も排水も道も、実績があります。Bさんご夫婦がまさにこれでした。淡河、大沢、八多で本気で暮らしたいなら、更地ではなく中古住宅から探してください。
第二に、現金で買える場合。
金融機関によっては、市街化調整区域というだけで扱わないところがあります。扱っても、担保評価が出ないので借りられる額が小さい。現金で買える範囲に収めておくと、ここで詰まりません。
第三に、車を2台持てて、その維持費を負担と感じない場合。
バスの本数は、都市部の感覚とはまるで違います。夫婦それぞれに1台という前提で家計を組めるかどうか。ここは冷静に計算してください。
第四に、集落の付き合いを面倒だと思わない場合。
草刈りの出役、水路の掃除、祭りの当番。これがあるから集落は保たれています。都会の感覚で「休みの日は自分の時間」と思う方には、正直きついです。
逆に、そこに入っていける方には、これ以上ない環境です。困ったときに助けてくれる人が、歩いて行ける距離にいます。
第五に、地番単位で市に確認してから買う場合。契約前に、次の5点を地番単位で確認してください。
- 都市計画上の区域(市街化調整区域かどうか)
- 農業振興地域の農用地区域(青地)かどうか
- 登記地目と、農地法上の扱い
- 上水道の配水管と、公共下水道の整備区域
- 建築の許可が下りる根拠があるかどうか
これをやれば、大きな失敗はまず起きません。逆に、これをやらずに買うのは、目をつぶって橋を渡るのと同じです。
7. デメリットも隠さず申し上げます
いい面だけ書く不動産屋を、私は信用しません。ですから正直に書きます。
冬が寒いです。同じ神戸市でも、三宮とは別の土地だと思ってください。淡河や大沢は雪が積もる日があります。タイヤは冬用が要ります。
獣が出ます。イノシシとシカです。畑をやるなら、柵は必需品です。「初年度、全部食べられました」というのは、この地域では笑い話ではなく実話です。
買い物と病院が遠いです。日常の買い物は車で15分から20分。総合病院となると、岡場や三田方面まで出ます。ご自身が80歳になったとき、その運転ができるか。ここは真剣に考えてください。
売るときに時間がかかります。これが最大のデメリットです。市街化区域の物件なら3か月で売れるものが、この地域では1年、2年かかることがあります。買う人の母数が圧倒的に少ないからです。
「いつでも売れる」という前提は、この地域では成り立ちません。持ち続ける覚悟が要ります。
お子さんの通学が大変です。高校になれば、神鉄の駅までバスか送り迎えです。毎日のことですから、家族の生活時間に直結します。
まとめ
もう一度、結論を申し上げます。淡河、大沢、八多の土地は、値段で買う方には勧めません。暮らし方で買う方には勧めます。
理由をもう一度並べます。
- 大半が市街化調整区域で、買っただけでは家が建たない
- 農地は農地法があり、青地なら転用は原則できない
- 水道、排水、ガス、道路で、図面に出てこないお金がかかる
- 出口が狭く、売るときに時間がかかる
この四つを全部飲み込んだ上で、それでも「あそこで暮らしたい」と思えるなら、私は全力でお手伝いします。
そして、もし迷っておられるなら、更地ではなく中古住宅から見てください。すでに家が建っているという事実が、一番確かな安心材料です。
最後に、これだけは申し上げたい
この地域の土地は、悪い土地ではありません。合わない人が買うから、悪い土地に見えるだけです。
50年この仕事をしていて、淡河や大沢や八多で本当にいい暮らしをしておられる方を、私はたくさん知っています。その方たちに共通しているのは、買う前に全部調べて、全部納得してから判断されたということです。
気になっている土地があるなら、契約する前に、地番だけ持って一度いらしてください。市に照会して、建つのか建たないのか、はっきりさせてから決めればいい。
調べた結果「やめておきましょう」と申し上げることもあります。それで契約がなくなっても構いません。私の仕事は、売ることではなく、損をさせないことですから。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/22 06:41
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、私の地元である神戸市北区の中でも、いちばん有名な場所の話をします。有馬温泉です。
有馬の不動産は、年に何度か「買いたい」というご相談をいただきます。大阪や東京の方からです。
「有馬に別荘を持ちたい」「古い旅館を買って宿をやりたい」「温泉付きの家を安く買えると聞いた」。
お気持ちはよく分かります。有馬は日本最古の温泉と言われる場所で、名前だけで人が集まる力があります。神戸の三宮から30分ちょっと。大阪からでも1時間かかりません。山の中なのに都会から近い。こんな場所は全国でもそう多くありません。
けれど、私はこの50年で、有馬の物件で泣いた人を何人も見てきました。
結論から申し上げます
有馬温泉の不動産は、不動産の素人が手を出していい場所ではありません。
理由は3つです。温泉が引けるかどうかが物件では決まらないこと。宿をやるには買った後に大きなお金がかかること。そして、売りたいときに買い手がいないことです。
はっきり申し上げます。有馬の物件が安いのは、お買い得だからではありません。安くしないと誰も買わないからです。
1. 「温泉が付いている」と「温泉が引ける」はまったく別の話
これがいちばん多い誤解です。
有馬の物件情報に「温泉権付き」「温泉引込可」と書いてあるのを見て、買えば蛇口をひねれば温泉が出ると思われる方がいます。
そうではありません。
有馬の温泉は、源泉の数が非常に限られています。金の湯、銀の湯と言われる湯を、湯元から配管で各施設に分けて配っている。この「分けてもらう」権利のことを、現場では分湯とか配湯と呼びます。
ここで覚えておいてほしいことが3つあります。
- その権利が土地に付いてくるのか、建物や事業者に付いているのか
- 権利を引き継ぐのに承認や名義変更の手続きがいるのか
- 毎月いくら払うのか(給湯料は月に数万円という単位です)
「温泉権付き」と書いてあっても、実際に組合や湯元に確認したら「その権利はもう休止扱いになっている」「復活させるには新たに手続きと費用が必要」という話が出てくることがあります。
これは断言できます。有馬で温泉を当てにして買うなら、契約する前に、必ずご自身で温泉の管理をしている先に確認してください。仲介の説明を鵜呑みにしてはいけません。
新しく源泉を掘って自分で温泉を出す、というのは有馬では現実的ではないとお考えください。
2. 旅館・簡易宿所は、買った瞬間に消防と保健所が待っている
「古い旅館が安く出ている。買って自分で宿をやりたい」
これも本当によくあるご相談です。
宿をやるには、旅館業法の許可がいります。民宿のような形なら簡易宿所営業という区分になります。ここで問題になるのが、建物です。
50年やってきて分かったことがあります。有馬の古い旅館というのは、たいてい建てられた当時のルールで建っています。当時は合法でも、今の消防法や建築基準法の基準には合っていないことが多い。いわゆる既存不適格という状態です。
宿として営業を再開しようとした瞬間、消防署から自動火災報知設備、誘導灯、避難経路、防炎カーテンといった指摘が入ります。木造の3階建てなら、なおさら厳しい。保健所からは、客室と厨房と浴室の構造、洗面設備、換気の話が出ます。
さらに、もし建物を別の用途に変えるなら、建築確認の手続きが必要になる場合があります。今の制度では、変更する部分の床面積が200平方メートルを超えると用途変更の確認申請が要ります。設計事務所への費用も、工事費も、ここから積み上がっていきます。
そして、有馬は山の中です。坂道で、道が狭く、大型の工事車両が入りにくい場所がたくさんあります。同じ工事でも、平地の物件より運搬と足場と人件費で1.2倍から1.5倍かかることが珍しくありません。
「建物が安い」と喜んで買って、直す見積もりを取ったら建物の値段の倍だった。こういう話を、私は何度も聞いています。
3. 別荘地は、道と水道で足を取られる
有馬とその周辺には、昭和の時代に開発された別荘地があります。土地が広くて、値段が驚くほど安い。180坪で数百万円という物件も出てきます。
これを見て「土地が180坪で400万円台なら安い」と思われる。分かります。私も数字だけ見れば安いと思います。
けれど、こういう土地で必ず確認しないといけないことがあります。
- 道が公道か私道か。私道なら誰の名義で、通行と掘削の承諾は取れるのか
- 上水道が市の水道か、地区の給水組合の水か。組合なら加入金と分担金はいくらか
- 排水は下水道か浄化槽か。浄化槽なら設置費用と保守点検費用がかかる
- 別荘地の管理組合があるなら、管理費は年にいくらか。滞納分を引き継がないか
- 冬に凍結や積雪で車が入れなくなる場所ではないか
北区の山手は、真冬に路面が凍る場所があります。有馬の高いところも同じです。年に数回でも、車が上がれない日があるということです。
そして、こういう土地は固定資産税が安い代わりに、維持費が毎年出ていきます。使っても使わなくても出ていく。ここを計算に入れていない方が本当に多い。
4. 有馬は「観光地の値段」で売られている
これも正直に申し上げます。有馬の物件は、周辺の北区の相場とは違う値段が付いています。
同じ神戸市北区でも、藤原台や岡場の住宅地は、駅からの距離と築年数で相場がだいたい決まります。売れる値段の説明がつく。
ところが有馬は「有馬だから」という理由で値段が上乗せされます。売る側も「有馬ですから」と言う。買う側も「有馬なら」と思ってしまう。
はっきり申し上げます。この上乗せ分は、あなたが売るときには返ってきません。
なぜなら、有馬の物件を買う人は、有馬に思い入れがある人か、事業として計算できる人か、そのどちらかしかいないからです。
思い入れで買う人は、いつも市場にいるわけではありません。事業で計算できる人は、上乗せされた値段では買いません。だから、買うときは高く、売るときは安い。
これは、観光地の不動産に共通する話です。軽井沢でも、白浜でも、同じことが起きています。
5. 実際にあった話をします
大阪市内にお住まいだったAさん、64歳。会社を役員で退かれた方でした。
Aさんは、有馬の温泉街から少し外れたところにある元旅館を見つけてこられました。木造3階建て、築52年、部屋数は8室。売り出し価格は4,800万円でした。
「ここを小さな宿にして、老後の生きがいにしたい」
そうおっしゃっていました。私のところには、買う前のセカンドオピニオンとして相談に来られたんです。
私はまず「見積もりを取ってから決めてください」とだけ申し上げました。結果です。
- 消防設備の一式で約1,100万円
- 屋根と外壁で約1,400万円
- 給排水と浴室の全面やり直しで約2,600万円
- 客室の内装と空調で約1,900万円
- 厨房と保健所対応で約700万円
- 設計と各種申請で約500万円
合わせて8,200万円という数字が出ました。物件が4,800万円、工事が8,200万円。合わせて1億3,000万円です。
Aさんは、この数字を見て買うのをやめられました。
その後、この物件がどうなったかというと、2年ほど売れ残って、最終的に2,900万円まで下がって業者が買いました。買ったのは、宿泊事業を何棟もやっている会社です。
ここに、この話の本質があります。素人が4,800万円で買おうとしていた物件を、プロは2,900万円でしか買わない。プロは工事費を先に計算しているからです。
Aさんは、私にこう言われました。「あの時止めてもらってなかったら、退職金が全部消えてました」
もう一つ、売る側の話もします。
北区にお住まいのCさん、70歳。お父様が有馬で小さな貸間をやっておられて、それを相続された方です。建物は木造2階建て、築60年近く、部屋は4つ。
Cさんは最初、1,800万円で売りに出されました。1年経って問い合わせゼロ。980万円に下げました。それでも半年、内見が2件だけ。最後は680万円で、地元の工務店が買いました。
Cさんは、毎年の固定資産税と、火災保険と、草刈りと、台風のたびの見回りに、3年間で100万円近く使っておられます。
有馬の建物は、放っておくと本当に売れなくなります。
6. 業界の裏側を申し上げます
なぜ、有馬の難しい物件が、遠方の素人の方のところに回ってくるのか。
理由ははっきりしています。地元のプロが買わないからです。
地元の業者は、有馬の物件の中身を知っています。どの区画の温泉権が生きていて、どこが休止しているか。どの道が私道で、誰の承諾がいるか。どの旅館が何年前にどんな指摘を受けたか。だいたい把握しています。
だから、地元で回している間に、良い物件は地元で消えます。
残ったものが、ポータルサイトに出ます。そして「有馬温泉 温泉権付き 4,800万円」という見出しで、遠方の方の目に留まる。
このとき、売る側の営業トークは決まっています。
- 「有馬は今インバウンドで宿泊需要が伸びています」
- 「温泉付きの物件はもう出ません」
- 「他にも検討されている方がいます」
3つ目は特に気をつけてください。2年売れ残っている物件で「他にも検討中の方が」と言われたら、それは急がせるための言葉です。
もう一つ、業界の話をします。有馬の物件を扱う業者の中には、買った後の工事まで自分のところでやる会社があります。物件の仲介手数料と、リフォーム工事の利益と、両方取る形です。
これ自体が悪いわけではありません。ただ、そういう立場の会社に「この物件、いくらで直りますか」と聞いても、正直な数字が出てくるとは限りません。安く見せて売って、着工してから追加が出る。よくある話です。
工事の見積もりは、必ず、その物件の仲介と関係のない業者からも取ってください。これだけは守っていただきたい。
7. それでも「あり」な場合はあります
ここまで散々申し上げましたが、有馬が絶対にダメだとは言いません。私が「これならあり」と思うのは、次のような場合です。
一つ目。現金で買えて、その金額が無くなっても生活が変わらない場合。
つまり、収益を計算せずに「趣味」として持てる方です。年に何度か行って、ご自身とご家族が温泉に入る。それだけで元が取れたと思える方。この場合、出口の話はほとんど関係なくなります。
二つ目。宿泊事業をすでにやっていて、運営の仕組みがある場合。
清掃の手配、予約サイトの管理、価格の調整、クレーム対応。これを回せる体制がある方なら、有馬という立地は強い武器になります。人が来る場所であることは間違いないんです。
三つ目。もともと有馬に縁があって、地元に相談できる相手がいる場合。
親戚がいる、昔から知っている工務店がある、組合に話が通る人がいる。有馬は、そういう横のつながりで動く部分が今もあります。地元に一人でも味方がいるかどうかで、話の通りやすさが変わります。
逆に言えば、この3つのどれにも当てはまらないなら、私はおすすめしません。
8. デメリットも正直に書きます
ここまで読んで「あきちゃんは有馬を否定している」と思われたかもしれません。私の意見にもデメリットがあります。正直に書きます。
まず、私は慎重すぎるところがあります。50年この仕事をやって、失敗した人ばかりを見てきたからです。うまくいった人は、わざわざ不動産屋に報告に来ません。だから私の頭の中には、失敗例が偏って溜まっています。
実際、有馬で宿を始めて、きちんと利益を出しておられる方はいます。私が知っている範囲でも何組かおられます。共通しているのは、買う前に半年以上かけて調べていることと、運営を人任せにしていないことです。
もう一つ。私が「やめておきなさい」と言うことで、機会を逃す方もおられるはずです。
有馬という場所の力は、本物です。日本最古の温泉という看板は、他では作れません。三宮から30分という距離も、代わりが効きません。その価値を、私の慎重さが見えなくしてしまうことはあると思います。
だから、私は「買うな」とは言いません。「素人のまま買うな」と言っているんです。
半年勉強して、地元に足を運んで、複数の業者から見積もりを取って、温泉組合に自分で確認して、それでもやりたいと思うなら。そのときはもう、あなたは素人ではありません。
まとめ
有馬温泉の不動産について、もう一度申し上げます。
- 温泉権は物件に付いているとは限らない。契約前に自分で確認する
- 古い旅館は、買った後に物件価格の1倍から2倍の費用が積み上がる
- 別荘地は、道と水道と管理費で毎年お金が出ていく。使わない年も出ていく
- 有馬の値段には「有馬だから」の上乗せが乗っていて、売るときに返ってこない
そして、いちばん大事なこと。
出口を先に考えてください。買う話ではなく、売る話を先にするんです。「10年後、これを誰がいくらで買うか」。この問いに自分の言葉で答えられないなら、買ってはいけません。
これは断言できます。有馬に限らず、不動産で失敗する人は全員、入口だけ見て出口を見ていません。
最後に、これだけは申し上げたい
私は神戸市北区で50年、この仕事をやってきました。有馬は、私にとって隣町のような場所です。
だからこそ、遠くから来られた方が有馬の物件で痛い目に遭われるのを見るのが、いちばんつらいんです。
有馬の物件を検討しておられる方。買う前に、一度お話を聞かせてください。
「この物件、どう思いますか」
それだけで結構です。私は、その物件を売る立場ではありません。だから、正直な話ができます。止めた方がいい物件なら止めますし、良い話なら良いと申し上げます。
有馬に土地や建物をお持ちで、どうしようか迷っておられる方も同じです。放っておくと売れなくなる場所です。動くなら早い方がいい。
相談だけなら、お金はいただきません。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/21 06:35
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、神戸電鉄三田線の五社駅とその周辺についてお話しします。「岡場の隣なら安くて良いのでは」というご相談が、この二、三年で急に増えました。
理由ははっきりしています。岡場が高くなったからです。岡場で探して予算が届かず、一駅ずらして五社を見る。地図で見れば五社は岡場のすぐ隣、駅と駅の間はわずか1.7キロです。だったら少し安く、ほとんど同じ暮らしができるのではないか。そう思われるのは、まったく自然なことです。
ただ、ここで一歩立ち止まってください。その「一駅」の中身を確かめないまま契約された方を、私は何人も見送ってきました。そして、そのうちの何人かは、5年経ってから私のところへ相談に来られました。
結論から申し上げます
五社は、買っていい場所です。ただし、買っていい人と、買ってはいけない人が、はっきり分かれます。これは断言できます。
分かれ目は、たった一つです。車が生活の中心にある人かどうか。ここだけです。
車で動く暮らしをされる方にとって、五社は北区の中でもかなり良い場所です。阪神高速の出入口が目の前にあって、値段は岡場より安い。土地も広く取れる。悪い話がほとんどありません。
反対に、「駅から歩いて生活する」つもりの方にとって、五社は思っているより厳しい場所です。そして最近私のところに相談に来られるのは、決まって後者の方なのです。
1. まず、五社という駅を正確に押さえてください
「岡場の隣」という言葉だけが独り歩きしているので、事実から整理させてください。
五社駅は神戸電鉄三田線の駅です。新開地から数えて岡場のひとつ手前、三田側から見れば岡場の次にあたります。住所は神戸市北区有野町有野。有野小学校、有野中学校の校区で、近くには五社神社があります。
電車は、日中は普通と準急が中心です。急行は主に朝夕。朝の速い列車の中には、五社を通過するものもあります。新開地までは、乗る列車によりますが35分から45分ほど。三田までは15分から20分ほどです。
ここでもう一つ、大事なことを申し上げます。五社は、神戸方面にも三田方面にも「中途半端に近い」駅です。
これは弱点ではありません。むしろ、五社を語るうえで一番大事な特徴です。神戸市内へ通う人と、三田・宝塚方面へ通う人。両方が住める。共働きで勤務先の方向が違うご夫婦にとっては、これは本当にありがたい立地なのです。
50年やってきて分かったことがあります。夫婦で通勤方向が真逆のご家庭は、ほぼ例外なく「どちらにも中途半端な場所」で家を買っておられます。そして、その選択はたいてい正解です。
2. 「岡場の隣」の値打ちは、たしかにあります
まず良いところから正直に申し上げます。五社には、はっきりした強みが三つあります。
一つ目は、値段です。同じ築年数、同じ広さの中古住宅で比べて、五社は岡場より数百万円安い。私の実感で言えば、300万円から600万円は違います。この差は小さくありません。ローンの月々にすれば、一万円以上変わってきます。
二つ目は、土地の広さです。岡場の駅近くで50坪の土地を買おうとすると、なかなか大変です。五社の周辺なら、60坪、70坪の土地が普通に出てきます。駐車場を2台分取って、それでも庭が残る。これは車社会の北区では大きな価値です。
三つ目は、阪神高速です。阪神高速7号北神戸線の五社出入口が、すぐそこにあります。これは、実際に住んでみるとありがたさが分かります。
三田方面へ買い物に行くのも、神戸市街地へ出るのも、車なら本当に早い。私が知っているある方は、五社から三宮の職場まで、朝の時間帯でも車で40分ほどで通っておられます。電車と大差ありません。
そして「岡場の隣」であること自体も、たしかに値打ちです。岡場にはスーパーも医院も学習塾も揃っています。車で5分。買い物も通院も、岡場に頼れる。この安心感は、たとえば道場や二郎の奥の方とは比べものになりません。
ここまでは、業者の営業マンも同じことを言うでしょう。
3. 落とし穴その一。1.7キロは、歩ける距離ではありません
さて、ここからが本題です。五社と岡場の距離は約1.7キロ。「歩いて20分ちょっとですね」と言われて、なるほどと思う方が多いのですが、はっきり申し上げます。北区の1.7キロと、平野部の1.7キロは、別物です。
理由は、坂です。五社の周辺は、平らな土地ばかりではありません。少し入れば、すぐに上り下りがあります。夏の暑い日に、買い物袋を提げて、坂を含む1.7キロを歩いて帰る。これを毎週やれる方は、そう多くありません。しかも、雨の日があります。冬の朝、路面が凍る日もあります。
ここで業界の話を一つしておきます。不動産の広告で「駅徒歩○分」と書くとき、業界では道のり80メートルを1分として計算する決まりになっています。この計算に入らないものを並べます。
- 坂の上り下り
- 信号待ちの時間
- 手に提げた荷物の重さ
- 真夏の暑さ、真冬の路面
- 歩く人の年齢
つまり、広告に書かれた分数は「若くて元気で手ぶらの人が、平らな道を早足で歩いたとき」の数字です。
これは嘘ではありません。決まりに従って正確に書かれています。けれど、あなたの実際の生活時間ではありません。私は現地を見るとき、必ず自分の足で駅まで歩きます。77歳の足で歩いた時間のほうが、お客様の10年後、20年後の実感に近いからです。
4. 落とし穴その二。買うときより、売るときに効いてきます
これが、今日一番申し上げたいことです。五社の物件は、探されにくいのです。
家を探す方は、まず頭の中に地名を浮かべます。北区で探すなら「藤原台」「岡場」「鈴蘭台」。この三つが圧倒的です。「五社で探そう」と最初から決めて動く方は、ほとんどいません。
これが何を意味するか。あなたが五社の家を売りに出したとき、検索の入り口に立っている人の数が、岡場より少ないということです。買う人が少ないのではありません。あなたの家にたどり着く人が少ないのです。ここは似ているようで、まったく違います。
だから広告では、こういう書き方をされます。「岡場エリア」「岡場駅生活圏」「北神中央エリア」。物件概要をよく見ると、最寄り駅は五社です。しかしキャッチコピーには岡場と書いてある。
これは違法ではありません。物件概要に正しい駅名が書いてあれば、通ります。けれど、買う側から見れば、これは軽い誤解の種です。「岡場エリアの家か」と思って現地に行き、着いてから「あれ、岡場から結構あるな」と気づく。この時点で、心が半歩引きます。
半歩引いた人は、値段を叩きます。50年やっていると、この流れが手に取るように分かります。
5. 実例をお話しします
私が実際に関わった、二つの話をします。まず、五社を選んで正解だったCさんご夫婦です。
ご主人が48歳で三田の会社にお勤め、奥様が45歳で神戸市内の病院にお勤め。お子さんは小学生と中学生でした。ご夫婦の勤務先が真逆でしたから、どちらかに寄せると片方が必ず不幸になる。それで五社になりました。買われたのは築22年の中古住宅、土地68坪、2,180万円。駐車場は2台。
ご主人は毎日、阪神高速の五社出入口から三田へ。奥様は五社駅から電車で市内へ。買い物は週末にまとめて岡場のスーパーへ車で。5年経ちましたが、ご夫婦とも「これで良かった」とおっしゃいます。
なぜ良かったか。最初から車で暮らす前提で選ばれたからです。駅から歩く生活を、そもそも計算に入れていなかった。だから誤算が起きようがなかったのです。
次に、誤算が出たAさんご夫婦です。ご主人が52歳、奥様が50歳。もともと岡場で探しておられました。予算は2,300万円。ところが岡場で気に入った家は2,780万円で、どうしても届かない。
そこで営業マンが「一駅隣ならご予算内で出ますよ」と持ってきたのが、五社の築28年の家でした。2,180万円。土地は岡場の物件より15坪広い。ご夫婦は喜んで契約されました。ここまでは、悪い話ではありません。
問題は、そのあとです。Aさんのお宅は、駅まで徒歩13分と広告に書いてありました。実際に歩くと、後半に坂があります。そして奥様は車の運転をされません。
最初の1年は、頑張って歩いておられました。2年目から、駅までご主人が送るようになりました。3年目、ご主人が出張の日は、奥様は買い物に出られなくなりました。
Aさんが私のところに来られたのは、購入から6年目です。「駅前のマンションに移りたい」というご相談でした。
損をされたわけではありません。売却も無事に済みました。ただ、6年で買い替えれば、諸費用だけで200万円以上が消えます。この200万円は、最初に「奥様が運転しない」という一点を計算に入れていれば、払わずに済んだお金でした。
6. 業界の裏側。五社の家に「岡場の値段」がつく理由
Bさんは78歳。五社の家を相続で受け継がれて、売却を考えておられました。ある会社に査定を頼んだところ、3,180万円という数字が出てきました。
Bさんは驚かれたそうです。「そんなに高く売れるのか」と。そして、その会社に専任媒介を預けられました。
はっきり申し上げます。この3,180万円という数字には、からくりがあります。査定書に載っていた比較事例を、私はあとで見せていただきました。三件のうち二件が、岡場駅徒歩圏の成約事例でした。
これが、業界でよくある「高預かり」というやり方です。売主さんに一番喜ばれる数字を出して、まず媒介契約を取る。相場より高いことは、査定した本人が一番よく分かっています。
どうなるか。決まりません。2か月経ちます。3か月経ちます。すると営業マンが来て、こう言います。「反響はあるんですが、あと一歩なんです。少し価格を見直しませんか」
3,180万円が2,880万円になりました。それでも決まりません。半年後、2,680万円になりました。最終的にBさんの家が売れたのは、1年2か月後、2,480万円でした。
ここで一番怖いのは、価格が下がったことではありません。物件が枯れたことです。
不動産の広告は、出した最初の2週間が一番見られます。そこで動かず、値段だけがじりじり下がっていく物件は、業界の人間から見れば「何かある物件」に見えます。買う側の業者も「もっと下がるだろう」と待ちに入ります。
つまり、最初の一枚の査定書が高すぎたせいで、Bさんは1年2か月と、おそらく200万円以上を失ったのです。最初から2,650万円くらいで出していれば、3か月以内に決まっていた。これは断言できます。
そして買取査定の話も一言添えておきます。この手の流れで疲れ果てた売主さんに、最後に「うちで買い取りましょうか」と出てくる金額は、相場の7割前後です。Bさんは踏みとどまられましたが、踏みとどまれない方も見てきました。
7. デメリットを正直に申し上げます
良いことばかり言う不動産屋を、信用しないでください。五社の弱点を並べます。
- 駅前に商業施設がほとんどない。コンビニも車
- 日中は普通と準急が中心。朝の速い列車は通過するものがある
- 平坦ではない。同じ徒歩15分でも坂の有無で価値が変わる
- 周辺に農地が混ざり、隣地の将来が読みにくい
- 土地が広い割に、価格が伸びない
順に補足します。まず、岡場のような商業の集まりは、五社にはありません。「駅前で夕飯の買い物をして帰る」という暮らし方は、五社では成立しません。
電車の種別も、毎日のことですから小さくありません。岡場から乗れば座れて速い電車が、五社では選べない時間帯があります。
坂については、同じ「五社駅徒歩15分」でも、平らな15分と坂を含む15分では、20年後の価値がまったく違います。
農地は良し悪しです。景色が良く、風が通る。けれど、隣が農地だと将来そこに何が建つか読みにくい。日当たりや通風が、10年後に変わる可能性があります。私は必ず、隣地の地目まで確認するようにしています。
そして最後が一番大事です。70坪の土地に立派な家を建てても、売るときは「五社の相場」で評価されます。建物にお金をかけた分は、ほぼ戻ってきません。住むために買うなら、まったく問題ありません。けれど「資産として増える」と期待して買うなら、五社は違います。
まとめ
もう一度、結論を申し上げます。
五社は、車で暮らす人には良い場所です。値段が安く、土地が広く、高速が近く、岡場が使える。
五社は、駅から歩いて暮らす人には厳しい場所です。1.7キロは歩けません。坂があります。駅前に店がありません。
そして売るときには、「岡場」ではなく「五社」として評価されます。ここを最初に受け入れておけるかどうかで、10年後の満足度がまるで変わります。
50年やってきて分かったことがあります。土地で後悔する人は、買うときの値段だけを見ています。後悔しない人は、20年後に自分がその坂を歩けるかどうかを見ています。
最後に、これだけは申し上げたい
五社を見に行かれるなら、一つだけお願いがあります。平日の朝と、雨の日に、その家から駅まで歩いてみてください。
晴れた日曜の昼に、車で見に行ってはいけません。それは、あなたが実際に暮らす条件と違いすぎます。
そして、査定書を受け取ったら、比較事例の欄を必ず見てください。そこに岡場の物件が並んでいたら、その数字は少し疑ってかかってください。
私は、お客様に嫌われても本当のことを申し上げます。売ることより、損をさせないことのほうが大事だからです。
五社の家のことでも、岡場との違いのことでも、査定書の見方でも構いません。売る予定がなくても結構です。まずは一度、聞かせてください。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


