カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/05/24 11:17
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、「とりあえず査定」の危険性についてお話しします。軽い気持ちで査定を頼んだだけのつもりが、思わぬ落とし穴にはまる話です。
家や土地を、いつか売ろうかと考え始めると、多くの人がまず同じことをします。「とりあえず、いくらになるか査定だけしてもらおう」。スマートフォンで「不動産 査定 無料」と打ち込んで、一括査定サイトに住所と名前を入れる。たった3分の、軽い気持ちです。
ここで一歩、立ち止まってください。その「とりあえず」の3分が、あなたの売却を、業者のペースに乗っ取られる入口になることがあります。50年この仕事をやってきて、私は「軽い気持ちの査定」から、大きく損をした人を何人も見てきました。
結論から申し上げます
査定とは、「あなたが情報をもらう行為」ではありません。「業者に、あなたという見込み客の情報を差し出す行為」です。
これは断言できます。無防備に、軽い気持ちで、あちこちに査定を頼むと、あなたは「相場を知る」前に、「営業される側」になります。
50年やってきて分かったことがあります。とりあえず査定で損をする人は、決まって「査定はタダだから」と思っています。けれど、タダより高いものはありません。タダにできるのには、タダにできる理由があるのです。
今日は、軽い気持ちの査定がなぜ危ないのか、その理由を四つ、正直に申し上げます。
1. 営業電話が、鳴り止まなくなる
これが、一番すぐにやってくる落とし穴です。
一括査定サイトの仕組みを、考えてみてください。あなたが一度住所と名前を入れると、その情報は、提携している不動産会社に「一斉に」送られます。5社、6社、多いと10社近く。つまり、あなたは「一回の入力」で、見ず知らずの会社全部に、自分の連絡先を配ったことになります。
どうなるか。翌日から、電話が鳴り止みません。朝も、昼休みも、夜も。「査定書ができました、一度お会いしたい」「今が売り時です」と、各社が先を争って連絡してきます。なぜそんなに必死なのか。早く会った会社が、契約を取れるからです。
「とりあえず数字だけ知りたかった」だけなのに、気づけば毎日、複数の営業マンの相手をする羽目になる。これが「軽い気持ちの査定」の、最初の代償です。
2. 一番高い査定を出す業者ほど、危ない
これは、本当に覚えておいてください。
複数社に査定を頼むと、必ず金額に差が出ます。そして人は、当然、一番高い数字を出した会社に気持ちが傾きます。「ここが3,400万円と言ってくれた。よし、ここに任せよう」と。
ところが、業界には「高預かり」という言葉があります。わざと高い査定額を出して、まず専任で物件を預かってしまう。そして契約してから、「やはり反響が弱いですね」と、じわじわ値下げさせていく手口です。
考えてみてください。査定額には、何の法的な拘束力もありません。いくら高い数字を書いても、業者は一円も損をしません。だからこそ、高い数字は「撒き餌」として使えるのです。一番高い査定は、一番正直な査定ではなく、一番あなたを釣りたい査定であることが、珍しくないのです。
3. 「とりあえず」のつもりが、断れなくなる
ここが、人の心の、いちばん弱いところを突かれる部分です。
査定を頼むと、向こうは必ず「では、一度お会いして詳しくご説明します」と訪問してきます。家に上がり、お茶を出し、一時間も二時間も熱心に話を聞いてもらえば、人は情が移ります。「ここまでしてもらって、断るのは申し訳ない」と。
不動産屋は、それをよく分かっています。だから、まず会う。会って、時間をかけて、資料を作って、何度も足を運ぶ。「これだけやってもらったから」という気持ちが膨らんだ頃に、「では、専任媒介で」と切り出してくるのです。
「とりあえず数字だけ」のはずが、いつの間にか、まだ売ると決めてもいないのに、契約書を前にしている。軽い気持ちで開けた扉は、思ったより閉めにくいのです。
4. 一度渡した個人情報は、取り戻せない
最後に、これも正直に申し上げておきます。
一度どこかに渡した、あなたの名前、住所、電話番号は、もう取り戻せません。「もう結構です」と一社に断っても、あなたの情報は、すでに何社もの手元に残っています。
中には、その情報が業者間で回ったり、名簿として扱われたりすることもあります。だから、半年経っても、一年経っても、「その後、売却はいかがですか」と電話がかかってくる。売る気がなくなっても、です。
「とりあえず」の3分で差し出した情報は、何年も、あなたを追いかけてくることがある。これが、軽い気持ちの査定の、いちばん長く尾を引く代償です。
業界の裏側を、少し明かします
聞きたくないかもしれませんが、はっきり申し上げます。
無料の一括査定サイトが、なぜタダで使えるのか。あれは、慈善事業ではありません。サイトの運営会社は、あなたという「反響」を、不動産会社に売って稼いでいるのです。あなたが住所を入れた瞬間、あなたは「商品」になります。不動産会社は、その情報を一件あたり数千円から、高いときは一万円以上で買っています。
お金を払って、あなたの連絡先を買った会社が、おとなしく数字だけ伝えて引き下がると思いますか。買った以上、何としても契約まで持っていこうとする。だから電話が鳴り止まず、訪問が続くのです。
そして、その競争の中で勝つために、各社は数字を盛りがちになります。正直に「2,900万円が妥当です」と言う会社より、「3,400万円でいけます」と言う会社の方が、お客様の心をつかむ。結果、正直な業者が負け、高い数字を出した業者が勝つ。これが、一括査定という仕組みの、いちばん根っこにある問題です。
実際にあった話を一つ
神戸市北区の鈴蘭台にお住まいの、Fさん(当時67歳)の話です。
Fさんは、お子さんが独立されて、ご夫婦には少し広くなった一戸建てを売って、駅近のマンションに住み替えようと考えておられました。まずは相場を知ろうと、ネットの一括査定サイトに、軽い気持ちで登録されたそうです。
翌日から、電話が鳴り止まなくなりました。一週間で30件を超え、奥様が「もう電話が怖い」と参ってしまわれた。その中で、一番高い数字を出した会社が「3,400万円で売れます」と言い、Fさんは「ここなら高く売ってくれる」と、専任媒介で預けられました。
ところが、二か月経っても、ほとんど内覧がありません。三か月目、担当者は「反響が弱いので、3,180万円に下げましょう」。五か月目、「2,980万円なら動きます」。結局、売り出しから七か月かかって、最終的に2,680万円で成約されました。
Fさんは、私のところへ別件で相談に来られたとき、この話をされました。私は、近隣の成約事例をお見せして、こう申し上げました。「Fさん、このお宅は、最初から2,900万円くらいで出していれば、おそらく三か月以内に、2,850万円前後で売れていましたよ」と。
Fさんは、しばらく黙ってから、こうおっしゃいました。「一番高い数字を出した会社が、結局、一番安く売ったんですね。あの3,400万円は、私を釣るための数字だったのか」と。高い査定に釣られて失った金額は、ざっと170万円。そして、半年以上の時間でした。
デメリットも、正直に書きます
ここまで「とりあえず査定は危ない」と申し上げてきました。けれど、誤解しないでいただきたいことがあります。
私は、「査定をするな」と言っているのではありません。むしろ逆です。相場を知らずに、勘や思い込みだけで値段を決めて売るのは、いちばん危ない。査定そのものは、絶対に必要です。
一括査定サイトも、頭から全部が悪いわけではありません。複数の数字を並べて見られるのは、便利な面もあります。最近は、名前や電話番号を出さずに、おおよその相場だけ分かる「匿名査定」のようなものもあります。要は、使い方なのです。
危ないのは、「査定」そのものではなく、「軽い気持ちで」「無防備に」「複数の会社に」「個人情報をばらまく」ことです。相場を知りたいだけなら、まずは匿名で調べる。きちんと話を聞きたいなら、信頼できそうな一社か二社に絞って頼む。これだけで、電話の嵐も、高預かりの罠も、ぐっと避けられます。
まとめます
もう一度、結論を繰り返します。
査定とは、「あなたが情報をもらう行為」ではなく、「業者に、あなたという見込み客の情報を差し出す行為」です。
軽い気持ちで、あちこちにばらまいてはいけません。これは断言できます。
査定を頼む前に、こう自分に問いかけてください。
- この入力で、私の連絡先は何社に渡るのか
- 一番高い数字に、つい気持ちが傾いていないか
- まだ売ると決めていないのに、断れない流れに乗っていないか
- 相場だけ知りたいなら、匿名で調べる方法はないか
この四つを思い出すだけで、あなたが「とりあえず査定」から損をする確率は、ぐっと下がります。
最後に、これだけは申し上げたい
私は、神戸市北区・西宮北部・三田で、家や土地を売る方を、50年見てきました。軽い気持ちの査定から営業の嵐に巻き込まれた人も、高い査定に釣られて結局安く売ってしまった人も、たくさん見てきました。
「まずは相場だけ知りたい。でも、しつこい営業には巻き込まれたくない」。そう思われるのは、当たり前のことです。
どうぞ、一括査定サイトに住所を打ち込む前に、一度、私にお声がけください。電話の嵐を起こすことも、無理に契約を勧めることも、いたしません。近隣でいくらで売れているか、あなたのお宅なら正直いくらか、まずはそれだけを、落ち着いてお話しします。
お電話一本でも、お店に立ち寄っていただくだけでも、構いません。50年の現場が、あなたが「とりあえず」の3分で損をしないための、お手伝いになるなら、私にとってこれほど嬉しいことはありません。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


