カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/23 07:41
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、淡河、大沢、八多。北区の北の端に広がるこの三つの町の土地について、買っていい人と、買ってはいけない人の話をします。
「北区で土地を探しています。淡河のほうに300坪で180万円というのが出ていました。あれは買いですか」
こういうご相談を、私は年に何度も受けます。西宮や芦屋、大阪からいらっしゃる方が多い。定年が見えてきて、畑をやりたい。犬を走らせたい。子どもを自然の中で育てたい。
お気持ちはよく分かります。私も北区の人間ですから、あの景色が好きです。
ですが、ここで一歩立ち止まってください。あの値段には、値段になっている理由があります。
結論から申し上げます
淡河、大沢、八多の土地は、「安いから」という理由で買う方には勧めません。「そこで、こういう暮らしをしたい」という理由で買う方には、勧めます。
同じ土地です。同じ180万円です。それでも、片方の方は10年後に「買ってよかった」とおっしゃって、もう片方の方は3年後に私のところへ「これ、売れませんか」と相談にいらっしゃる。
50年やってきて分かったことがあります。この三つの町で失敗する方は、例外なく「坪単価」から入っています。成功する方は、例外なく「そこで何をするか」から入っています。
もう一つ、はっきり申し上げます。淡河、大沢、八多の農村部は、その大半が市街化調整区域です。ここは「家を建てるための土地」として売られている場所ではありません。買っただけでは、家は建ちません。
これを知らずに契約書に判を押した方を、私は何人も見てきました。
1. 「安い」の正体は、建てられないことです
まず、この一点だけは持って帰ってください。市街化調整区域というのは、都市計画法で「市街化を抑えましょう」と決められた区域です。北区でいえば、淡河町、大沢町、八多町の農村部は、ほぼここに入ります。
ここでは、原則として、自由に家を建てることができません。
「原則として」というのが大事です。ゼロではありません。ただ、市街化区域の宅地のように「土地を買って、ハウスメーカーを呼んで、はい着工」とはいきません。都市計画法上の許可、あるいは許可がいらないと認められる根拠が要ります。
建てられる可能性がある代表的な入口は、こういうものです。
- 線引き前宅地。市街化調整区域に線を引かれる前から宅地だった土地
- 既存集落の中で、市が区域指定などをしている土地
- 農家住宅。実際に農業をやっている方の、農業に必要な住まい
- 分家住宅。本家との関係、世帯分離の必要性など細かい要件がある
- 里づくり計画に位置づけられた区域での、移住者用の住宅
このどれにも当てはまらない土地は、いくら現金を積んでも家は建ちません。
ここで、ぜひ覚えておいていただきたいことがあります。この判断は、町名では絶対にできません。
「大沢町だから建つ」「淡河町だから建たない」ではないのです。同じ集落の中で、道を一本挟んだだけで結論が変わります。地番単位で神戸市に照会して、はじめて分かります。
そして、これは断言できます。チラシに「建築可」と書いていない調整区域の土地は、建たないと思って見てください。建てられるなら、業者は必ず大きく書きます。それが一番の売り文句になるからです。書いていないということは、書けないということです。
2. 農地は、そもそも誰でも買えません
次に、もっと手前でつまずく話をします。淡河や大沢で「180万円で300坪」というような広告に出ているもの。あれの多くは、地目が畑や田です。つまり農地です。
農地は、農地法という別の法律で守られています。
農地を農地のまま買う場合でも、農業委員会の許可が要ります。これは「農業をやる人」に対して出るものです。定年後に家庭菜園をやりたい、という理由で誰にでも出るものではありません。農地を宅地に変えて家を建てたい場合は、さらに転用の許可が要ります。
ここに、もう一段深い落とし穴があります。農業振興地域の中の農用地区域、業界で「青地」と呼ぶ土地です。ここは「農業のために確保しておく土地」と国と市が決めた場所です。
青地は、原則として転用できません。住宅も、資材置場も、駐車場も駄目です。
「除外の手続きをすれば」とおっしゃる方がいます。確かに農振除外という制度はあります。ですが、これは代わりの土地はないか、地域の農業計画と合っているか、周りの農地に影響しないか、そういうことを全部審査されます。何年かかるか分かりませんし、通らないこともあります。
はっきり申し上げます。青地を「いずれ除外できますよ」という前提で買うのは、賭けです。私は50年やってきて、その賭けに勝った方より、負けた方をたくさん見ています。
3. 水と排水と道。図面に出てこないお金
三つ目です。ここが一番、見落とされます。土地の値段は目に見えます。ですが、その土地に暮らせるようにするお金は、図面にも広告にも載っていません。
水道です。
淡河、大沢、八多でも、集落の中心部は上水道が来ています。ですが、集落から少し外れた農地の周り、山際の土地となると、前面道路に配水管が来ていないことがあります。
来ていなければ、遠くから引いてくる工事費は買った方の負担です。距離によっては百万円単位になります。井戸を掘るという選択肢もありますが、水質検査、ポンプ、渇水のリスクがついて回ります。ポンプは20年ももちません。交換で20万円ほど飛びます。
排水です。
公共下水道の整備区域から外れている土地があります。そこに家を建てるなら、合併処理浄化槽を自分で設置することになります。本体と工事で、5人槽なら80万円から100万円が目安です。
そして設置して終わりではありません。保守点検、汲み取り清掃、法定検査。これが毎年かかります。年5万円前後を、家がある限り払い続けます。神戸市に補助の制度がある場合もありますが、条件があります。当てにする前に、必ず市に確認してください。
ガスです。
都市ガスは来ていません。プロパンです。地域や会社にもよりますが、都市ガスの1.5倍から2倍近くかかることがあります。冬場のお風呂と給湯で、実感としてはっきり違います。
そして道です。
農道は、見た目は道でも、建築基準法の道路として認められていないことがあります。認められていない道にしか接していない土地は、たとえ調整区域の許可が下りる類型であっても、そこで止まります。
4. 実際にあった三つの話
具体的にお話しします。
一つ目。西宮からいらっしゃったAさん、62歳。
定年が2年後で、淡河に300坪の畑を180万円で見つけてこられました。「ここに小屋を建てて、週末に野菜を作りたい」と。
私は地番を控えて、市と農業委員会に確認しました。青地でした。しかも農地法の許可の点で、農業経験のないAさんが単独で取得すること自体が難しい。転用はまず通りません。
Aさんは「じゃあ、あの広告は何なんですか」とおっしゃいました。私も同じ気持ちです。売っている側は「農地です」と書いてはいるのです。ただ、それが何を意味するかは書いていない。
Aさんは結局、市民農園を借りることにされました。年間の利用料は数千円です。180万円は使わずに済みました。
二つ目。40代のBさんご夫婦です。
大沢町の、築38年の中古住宅。土地180坪、建物含めて980万円でした。こちらは線引き前からの宅地で、現に家が建っている。私は「これはご縁があります」と申し上げました。
ただし、正直に全部お伝えしました。屋根と外壁と水回りで、リフォームに380万円は見てくださいと。浄化槽の維持で年5万円かかりますと。プロパンですと。バスは1時間に1本ないこともあるので、車は2台要りますと。保険と車検とガソリンで、車2台なら年60万円は見ておいてくださいと。自治会費と水利費で年2万円ほど、それと年2回の草刈りの出役がありますと。
Bさんご夫婦は、全部聞いた上で「それでもここがいい」とおっしゃいました。
今、6年目です。畑をやって、犬を飼って、お子さんは元気に育っています。年賀状に「あのとき全部教えてもらってよかった」と書いてくださいました。
三つ目は、つらい話です。八多町の山林を、100坪30万円で買われたCさん、当時55歳。私のところに来られたのではなく、買った後に相談にいらっしゃいました。
「安いから、とりあえず持っておこうと思って」と。
その土地は、建築基準法上の道路に接していませんでした。家は建ちません。倉庫も建ちません。売ろうにも、買う人がいません。
固定資産税は年3千円ほどです。金額としては小さい。ですが、草は毎年伸びます。放っておけば隣の農地に迷惑がかかる。業者に頼めば1回3万円、年2回で6万円です。
30万円の土地に、毎年6万円払い続けることになりました。10年で60万円です。土地代の倍です。Cさんは今も、あの土地を持っておられます。
5. 業界の裏側を正直に申し上げます
ここからは、同業者に嫌われる話をします。
一つ目。「調整区域」とだけ書いて、その意味を説明しない広告です。
宅建業者は、重要事項説明で調整区域であることも、再建築ができないことも説明しなければなりません。ですが、それは契約の直前です。広告の段階では「市街化調整区域」の6文字だけ。それが「家が建たない」という意味だと、一般の方は読み取れません。私はこれを、意図的な不親切だと思っています。
二つ目。農地を「現況雑種地」として売る手口です。
登記の地目は畑のままなのに、実際は草が生えているだけだから「雑種地みたいなものです」という言い方をする。買う側は「じゃあ普通の土地だな」と思います。登記地目が農地なら、農地法はそのまま生きています。実態が草地でも関係ありません。
三つ目。「市に相談すれば、たぶん建てられますよ」という営業トークです。
これが一番たちが悪い。嘘とは言い切れないから、責任を取らされない。ですが「たぶん」で数百万円を出させているわけです。
私は、この言葉を聞いたらその場で契約をやめてくださいと申し上げています。建てられるなら「この根拠で、こう建てられます」と書面で言えるはずです。言えないなら、言えない理由があります。
四つ目。転売です。
調整区域の使いにくい土地を、地元の業者が10万円20万円で引き取る。それを、遠方の方に30万円50万円で売る。金額が小さいので、買うほうも「まあこれくらいなら」と判断が甘くなります。
地元の人間が誰も買わない土地には、地元の人間が買わない理由があります。これは覚えておいてください。
五つ目。両手取引の誘惑です。
売主と買主の両方から手数料をいただける取引は、業者にとって収入が倍になります。だから「この話をまとめたい」という力が働く。そうなると、ネガティブな情報は自然と後回しになります。嘘はつかない。ただ、聞かれなければ言わない。この「聞かれなければ言わない」で、どれだけの方が損をしてきたか。
私はそれが嫌で、いつも先に悪い話からします。おかげで契約はよく飛びます。それでいいと思っています。
6. それでも私が「買ってください」と言う場合
さんざん脅すようなことを申し上げましたが、私はこの三つの町が嫌いなわけではありません。むしろ好きです。ですから、勧める場合をはっきり申し上げておきます。
第一に、農地ではなく「家が建っている中古住宅」を買う場合。
これが一番現実的です。すでに家があるということは、そこに建てられた根拠があったということです。水も排水も道も、実績があります。Bさんご夫婦がまさにこれでした。淡河、大沢、八多で本気で暮らしたいなら、更地ではなく中古住宅から探してください。
第二に、現金で買える場合。
金融機関によっては、市街化調整区域というだけで扱わないところがあります。扱っても、担保評価が出ないので借りられる額が小さい。現金で買える範囲に収めておくと、ここで詰まりません。
第三に、車を2台持てて、その維持費を負担と感じない場合。
バスの本数は、都市部の感覚とはまるで違います。夫婦それぞれに1台という前提で家計を組めるかどうか。ここは冷静に計算してください。
第四に、集落の付き合いを面倒だと思わない場合。
草刈りの出役、水路の掃除、祭りの当番。これがあるから集落は保たれています。都会の感覚で「休みの日は自分の時間」と思う方には、正直きついです。
逆に、そこに入っていける方には、これ以上ない環境です。困ったときに助けてくれる人が、歩いて行ける距離にいます。
第五に、地番単位で市に確認してから買う場合。契約前に、次の5点を地番単位で確認してください。
- 都市計画上の区域(市街化調整区域かどうか)
- 農業振興地域の農用地区域(青地)かどうか
- 登記地目と、農地法上の扱い
- 上水道の配水管と、公共下水道の整備区域
- 建築の許可が下りる根拠があるかどうか
これをやれば、大きな失敗はまず起きません。逆に、これをやらずに買うのは、目をつぶって橋を渡るのと同じです。
7. デメリットも隠さず申し上げます
いい面だけ書く不動産屋を、私は信用しません。ですから正直に書きます。
冬が寒いです。同じ神戸市でも、三宮とは別の土地だと思ってください。淡河や大沢は雪が積もる日があります。タイヤは冬用が要ります。
獣が出ます。イノシシとシカです。畑をやるなら、柵は必需品です。「初年度、全部食べられました」というのは、この地域では笑い話ではなく実話です。
買い物と病院が遠いです。日常の買い物は車で15分から20分。総合病院となると、岡場や三田方面まで出ます。ご自身が80歳になったとき、その運転ができるか。ここは真剣に考えてください。
売るときに時間がかかります。これが最大のデメリットです。市街化区域の物件なら3か月で売れるものが、この地域では1年、2年かかることがあります。買う人の母数が圧倒的に少ないからです。
「いつでも売れる」という前提は、この地域では成り立ちません。持ち続ける覚悟が要ります。
お子さんの通学が大変です。高校になれば、神鉄の駅までバスか送り迎えです。毎日のことですから、家族の生活時間に直結します。
まとめ
もう一度、結論を申し上げます。淡河、大沢、八多の土地は、値段で買う方には勧めません。暮らし方で買う方には勧めます。
理由をもう一度並べます。
- 大半が市街化調整区域で、買っただけでは家が建たない
- 農地は農地法があり、青地なら転用は原則できない
- 水道、排水、ガス、道路で、図面に出てこないお金がかかる
- 出口が狭く、売るときに時間がかかる
この四つを全部飲み込んだ上で、それでも「あそこで暮らしたい」と思えるなら、私は全力でお手伝いします。
そして、もし迷っておられるなら、更地ではなく中古住宅から見てください。すでに家が建っているという事実が、一番確かな安心材料です。
最後に、これだけは申し上げたい
この地域の土地は、悪い土地ではありません。合わない人が買うから、悪い土地に見えるだけです。
50年この仕事をしていて、淡河や大沢や八多で本当にいい暮らしをしておられる方を、私はたくさん知っています。その方たちに共通しているのは、買う前に全部調べて、全部納得してから判断されたということです。
気になっている土地があるなら、契約する前に、地番だけ持って一度いらしてください。市に照会して、建つのか建たないのか、はっきりさせてから決めればいい。
調べた結果「やめておきましょう」と申し上げることもあります。それで契約がなくなっても構いません。私の仕事は、売ることではなく、損をさせないことですから。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


