カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/11 09:08
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、谷上駅の話をします。私が50年この仕事をしてきた中で、「駅ひとつでこんなに景色が変わるのか」と本当に驚いた出来事が一度だけあります。それが谷上です。
北区にお住まいの方なら、2020年の6月に何が起きたか、覚えておられると思います。
北神急行が神戸市営地下鉄になった日です。あの日を境に、私の店の電話の鳴り方が変わりました。
ただ、ここで一歩立ち止まってください。「谷上が化けた」という話を、そのまま自分の家に当てはめてしまうと、大きく損をします。
化けたのは「駅」であって、「谷上一帯の不動産全部」ではないからです。今日はそこまで正直に書きます。
結論から申し上げます
谷上駅は、私が見てきた50年の北区の中で、一番はっきりと化けた駅です。理由はひとつだけ。運賃が半分以下になったからです。
2020年6月1日、北神急行電鉄は神戸市営地下鉄北神線になりました。その瞬間、谷上から三宮までの運賃が550円から280円になりました。
通勤1か月の定期は22,300円から10,620円です。月に1万1千円以上、年間で14万円近く、家計に現金が残るようになったということです。
これは断言できます。不動産の値段は、駅までの距離では決まりません。「そこに住んだときの毎月の負担」で決まります。
谷上は、建物も土地も何ひとつ変わっていないのに、住む人の毎月の負担だけが劇的に軽くなった。だから値段が動いたのです。
ただし、動いたのは駅から歩ける物件だけです。ここを勘違いした方が、私の周りで何人も損をしました。
1. 運賃が下がるというのは、資産価値が上がるということです
不動産屋がよく言う「利便性」という言葉、私はあまり好きではありません。ふわっとしていて、何のことか分からないからです。
利便性というのは、要するに「毎月いくらかかるか」と「毎日何分かかるか」の2つに翻訳できます。
谷上の場合、その片方が半分以下になりました。ご夫婦2人が三宮方面へ通うご家庭なら、月に2万円以上の差です。
これは、住宅ローンでいうと数百万円分の借入余力に相当します。
つまり、同じ年収の買主さんが、谷上なら「今までより数百万円高い家」を無理なく買えるようになった、ということです。買える金額が上がれば、相場は上がります。当たり前の話です。
50年やってきて分かったことがあります。不動産の相場を動かすのは、雰囲気ではありません。買主の財布です。
2. 三宮まで10分という数字が持つ、本当の意味
谷上から三宮まで、電車で10分です。新神戸までなら7分ほど。北区にお住まいの方は聞き慣れているので、あまりピンとこないかもしれません。
けれど、これを市外の方に言うと、たいてい2回聞き返されます。「10分ですか」「三宮までですか」と。
灘や東灘の駅前で三宮まで10分の物件を買おうと思ったら、いくらすると思われますか。同じ広さの3LDKで、4,000万円台の後半から5,000万円は覚悟しないといけません。
谷上駅の徒歩圏で、私が近年扱った築20年前後の3LDKは、2,500万円から2,900万円の間でした。
この差が、そのまま「谷上に住む金銭的な理由」になっています。市営化の前は、この差の理由が「運賃が高いから」で説明できてしまっていました。
今はその言い訳が消えました。だから見に来る人が増えたのです。
3. 買いに来る人の顔ぶれが、はっきり変わりました
これが一番の変化です。2019年までの谷上周辺で、家を買いに来られる方の多くは「もともと北区にご縁のある方」でした。ご実家が北区、勤め先が北区、お子さんの学校が北区。そういう方です。
2021年ごろから、まったく違う方が来られるようになりました。30代のご夫婦です。共働きで、お二人とも三宮か大阪へ通われる。北区にはご縁もゆかりもない。「谷上を調べていて来ました」とおっしゃるのです。
はっきり申し上げます。50年やってきて、北区の物件をインターネットで先に見つけてから来る若いご夫婦、というのは、市営化の前にはほとんどいませんでした。
需要というのは、人数ではなく「顔ぶれ」で見るものです。同じ10人でも、地元の10人と、市外から来た10人とでは、値段の付き方が違います。後者は比べる対象が「灘や東灘の相場」だからです。
4. 箕谷や神鉄沿線にも、ちゃんとおこぼれが来ました
谷上だけの話ではありません。北区の面白いところは、谷上が神戸電鉄との乗り換え駅だという点です。
箕谷、花山、大池、唐櫃台。このあたりにお住まいの方は、神鉄で谷上まで出て、そこから地下鉄に乗り換えます。その乗り換えの先が安くなったのですから、当然、沿線全体の通勤コストが下がりました。
箕谷には駅前に駐車場があって、車で駅まで来て電車に乗り換える方が昔から一定数おられます。市営化の後、「箕谷なら車を1台持ったままでも通える」という買い方をされる若いご家族が、確実に増えました。
ただし、ここも正直に申し上げます。おこぼれの量は、谷上を10とすると、箕谷で4か5、それより奥は2か3という感覚です。谷上と同じだけ上がったわけでは、決してありません。
5. 谷上でも「上がらなかった物件」が、はっきり存在します
ここが今日、一番お伝えしたい部分です。同じ谷上でも、上がった物件と、まったく動かなかった物件があります。分かれ目は3つです。
- 駅から歩けるかどうか
- 坂の上か下か
- 車がないと生活が回らないかどうか
この3つのどれかで引っかかると、市営化の恩恵はほとんど届きませんでした。
理由は単純です。谷上を選ぶ新しい買主さんは「電車が安く速いから」来ているのであって、「北区の自然が好きだから」来ているわけではないからです。その方たちにとって、駅まで歩けない物件には価値がありません。
むしろ市営化の後、駅前と駅から遠い物件の差は、前より開きました。同じ町名の中で、以前は300万円の差だったものが、今は700万円の差になっている。そういう場所があります。
6. 実際にあった3つの話
ここからは実例です。細かいところは変えていますが、金額と流れはそのままです。
Aさんという方がおられました。当時62歳。谷上駅から徒歩12分、築30年の一戸建てです。2019年の秋、お子さんの独立を機に売ろうとされました。
そのときの査定は1,850万円。3か月出しましたが、内覧はたった2件。買付はゼロでした。Aさんは「まあ、北区やしなあ」とおっしゃって、いったん売却をやめられました。
2021年の春、Aさんから電話がありました。「あきちゃん、もう一回やってみようか」と。同じ家を2,380万円で出しました。内覧は3週間で7件。2,300万円で成約しました。
家は何も変わっていません。むしろ2年古くなっています。変わったのは、駅から三宮までの運賃だけです。
次はBさんご夫婦です。当時30代半ば。ご主人が三宮、奥様が大阪の梅田へお勤めでした。2022年に、谷上駅から徒歩8分の築18年のマンションを2,650万円でお買いになりました。
Bさんはご契約のとき、こうおっしゃいました。「東灘で同じ間取りを見たら4,800万円でした。通勤時間は15分しか変わらない。この差はさすがに埋められないです」と。これが今の谷上を選ぶ方の、正直な本音です。
最後にCさん。これは残念な話です。Cさんは当時71歳。箕谷からバスで10分ほど、坂を上がった団地の一戸建てをお持ちでした。築42年。
2020年の夏、Cさんは近所の方から「市営化で北区は上がるらしい」と聞かれて、私のところへ来られました。私は正直にお伝えしました。「Cさんの物件は、駅から歩けません。上がる理屈が働きにくい場所です」と。
Cさんは納得されず、別の会社に頼まれました。その会社は1,280万円という値段を付けました。
結果を申し上げます。その物件は2年半かかって、最終的に980万円で売れました。途中で3回値下げをして、最後は買取業者に近い値段です。
もし2020年の時点で1,050万円くらいで素直に出していれば、半年で売れて、固定資産税も草刈りも管理も、2年ぶん払わずに済みました。「上がるらしい」という言葉が、Cさんから2年半と、200万円近くを奪ったのです。
7. 業界の裏側を、隠さず書きます
Cさんの話には続きがあります。私が本当に伝えたいのは、ここです。市営化が決まってから発表までの間、そして市営化の直後、北区の物件に対して、業界では2つのことが起きました。
ひとつは、高すぎる査定です。「北神線が市営化されますから、値上がりします」という一言は、売主さんに対して恐ろしいほどよく効きます。査定価格を相場より2割高く出しても、売主さんは疑いません。むしろ喜ばれます。
なぜそんなことをするのか。媒介契約を取るためです。
はっきり申し上げます。高い値段を付けた会社が、その値段で売ってくれるわけではありません。高い値段を付けた会社は、契約を取ってから、3か月ごとに値下げの相談をしてくるだけです。これを業界では「高預かり」と言います。
売れない期間が長引くと、物件は「物件が枯れる」という状態になります。同じ物件がいつまでも出ていると、買主さんもプロも「何かあるんちゃうか」と思う。そうなると、正しい値段に下げても、もう反応が戻りません。Cさんの物件で起きたのは、まさにこれです。
もうひとつは、その逆です。市営化の発表があった後、「今は売らないほうがいい。もっと上がりますよ」と言って、売却を止めた会社がありました。
これも善意ではありません。売主さんとの関係を切らさず、他社に取られないようにしておいて、いい時期に自社で両手取引を狙う。つまり売主さんからも買主さんからも手数料をもらう形に持っていくためです。その間に売主さんが払い続けた固定資産税や管理費のことは、誰も計算していません。
それから、買取業者の動きです。2020年から2021年にかけて、谷上と箕谷の周辺を、買取業者がかなり熱心に回っていました。
買取査定というのは、仕組みを知れば当たり前の話です。業者は買った家を直して再販します。だから「再販できる値段」から、リフォーム代、諸費用、そして自分たちの利益を引いた金額しか出せません。相場の6割から7割です。これは業者が悪いのではなく、そういう商売だからです。
問題は、そこを説明せずに「今すぐ現金で買えます」とだけ言う会社があることです。これは覚えておいてください。買取が悪いのではありません。仲介と買取を比べずに買取だけを勧める会社が、危ないのです。
8. 谷上のデメリットも、全部書きます
いい話ばかり書くと嘘になるので、正直に書きます。
まず、標高です。谷上駅は、地下鉄の駅としては日本でもかなり標高の高い場所にあります。トンネルを抜けると、そこは山の中の盆地です。
冬は三宮より確実に寒く、路面が凍る日があります。積雪する年もあります。三宮で雨の日に、谷上でみぞれということが、実際にあります。
次に、坂です。谷上・箕谷のあたりは平らではありません。駅から徒歩10分と書いてあっても、その10分が上り坂だと、体感はまったく違います。
私は物件をご案内するとき、必ずお客様と一緒に歩きます。図面の「徒歩10分」を信用してはいけません。
三つ目は、買い物です。谷上駅の周りに、大きな商業施設はありません。日常の買い物は車で少し走るか、岡場や鈴蘭台の方に出るか、三宮の帰りに済ませるかになります。
「電車が便利になった」ことと「生活が便利になった」ことは、別の話です。ここは冷静に見てください。
四つ目は、トンネル依存です。谷上と市街地をつないでいるのは、鉄道も道路もトンネルです。大きな災害や事故でトンネルが止まったとき、迂回路はかなり遠回りになります。この不安は、住んでみないと分からない部分です。
最後に、値段そのもののリスクです。市営化から数年が経ちました。値下げのインパクトは、もう相場に織り込まれています。
「これからまだ上がる」という前提で、相場より高い物件を買ってしまうと、次に売るときに苦労します。上がったのは事実です。しかし「上がり続ける」わけではありません。ここを混同しないでください。
まとめ
谷上駅は、北区で一番化けた駅です。これは間違いありません。2020年6月1日、運賃が550円から280円になった日に、谷上は「不便な北区の駅」から「三宮まで10分の安い駅」に変わりました。
ただし、化けたのは駅であって、谷上の不動産全部ではありません。駅から歩ける物件は上がりました。歩けない物件は、むしろ差を広げられました。
そして、この「化けた」という話を利用して、高すぎる査定を付ける会社、売却を引き延ばす会社、買取だけを勧める会社が、確実に存在します。
50年やってきて分かったことがあります。不動産で損をする人は、相場が上がったか下がったかを気にします。
不動産で損をしない人は、自分の物件が「上がる側」なのか「上がらない側」なのかを、正直に教えてくれる人を探します。
最後に、これだけは申し上げたい
もし今、谷上や箕谷、その周辺に物件をお持ちで、「うちも上がったんやろか」と気になっておられるなら、一度お聞きください。
上がっていれば上がっていると申し上げますし、残念ながら上がっていない場所であれば、その理由と、ではどうするのが一番損が少ないかを、正直にお話しします。
私は売るために書いているのではありません。損をしていただかないために書いています。相談だけで結構です。売る売らないは、その後で決めていただければいいのです。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


