カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/12 08:01
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、鈴蘭台の話をします。私がこの仕事を始めて、いちばん最初に任された物件が鈴蘭台の建売住宅でした。だから鈴蘭台は、私にとって特別な街です。
この10年ほど、鈴蘭台について「変わりましたね」と言われることが増えました。
駅前に新しいビルが建って、北区役所が坂の上から降りてきて、駅前がきれいになった。確かに、変わりました。
ただ、ここで一歩立ち止まってください。「鈴蘭台は変わった」という言葉を、そのままご自宅の値段に当てはめてしまうと、大きく損をします。
今日は、何が変わって、何が変わらなかったのかを、正直に書きます。
結論から申し上げます
鈴蘭台で変わったのは、駅前の半径300メートルだけです。その外に広がる坂の上の住宅地は、50年前とほとんど何も変わっていません。
そして、これが一番申し上げたいことです。再開発によって鈴蘭台は「全体が良くなった」のではありません。「街の中の差が開いた」のです。
これは断言できます。駅から平坦に歩ける家は、以前より売りやすくなりました。坂の上の家は、以前より売りにくくなりました。
同じ「鈴蘭台」という町名の中で、値段の差が広がった。それが、この10年に起きたことの正体です。
1. 私が見てきた鈴蘭台の50年
鈴蘭台という街は、戦後、山を削って造られた住宅地です。本格的に家が建ち始めたのは昭和30年代からでした。
神戸の街中で働く方が、電車で30分ほど山を登ったところに、庭付きの一戸建てを持つ。それが当時の憧れでした。
私が業界に入った昭和50年前後、鈴蘭台の建売住宅は1,000万円前後でした。土地が40坪、木造2階建て。それを新開地や兵庫区で働く30代のご夫婦が、必死になって買っていかれました。
そこからバブルです。同じような家が3,500万円まで上がりました。私も何十件と扱いました。
正直に申し上げますと、あの頃は、売る側も買う側も、値段が上がることを疑っていませんでした。
今、同じ場所の同じような家がいくらだと思われますか。坂の上、駅から徒歩18分、築45年。この条件だと700万円から900万円です。土地の値段だけ、というのが実態です。
50年やってきて分かったことがあります。家は古くなります。しかしそれ以上に、街は「歩ける街」と「歩けない街」に分かれていきます。鈴蘭台の50年は、まさにそれでした。
2. 2018年、駅前が変わった日
鈴蘭台の駅前に「ベルスト鈴蘭台」という再開発ビルが開業したのは、2018年の9月です。そしてその年の11月、坂の上にあった北区役所が、この駅前のビルに移ってきました。
これは、本当に良かったと思っています。
それまでの区役所は、駅から歩いて10分ほど、しかも上り坂の上にありました。雨の日、夏の暑い日、冬の凍る日に、80代のご高齢の方があの坂を上っていかれるのを、私は何度も見てきました。
それが、駅を降りてすぐ、エレベーターで上がれば済むようになったのです。印鑑証明を取るのも、住民票を取るのも、相続の手続きで戸籍を集めるのも、格段に楽になりました。
不動産屋としても、お客様と一緒に動くときの負担がまったく違います。
駅前に店舗が入り、駅前広場も整いました。ここは素直に、良い変化だと申し上げます。
3. では、地価はどれだけ動いたのか
ここからが本題です。正直に申し上げます。区役所が来たことで、鈴蘭台の地価が劇的に上がったという事実は、ありません。
なぜか。理由ははっきりしています。区役所というのは、毎日通う場所ではないからです。
前回、谷上の話を書きました。谷上が化けたのは、三宮までの運賃が550円から280円になったからです。毎日、毎月、家計から出ていくお金が変わりました。だから買主さんが出せる金額が変わり、相場が動きました。
区役所は違います。年に1回行くか行かないか、という方がほとんどです。年に1回の用事が便利になっても、住宅ローンの借入額は1円も増えません。
はっきり申し上げます。「区役所が来るから鈴蘭台は上がりますよ」という営業トークは、事実ではありませんでした。しかし、この一言で査定を吊り上げられた売主さんを、私は何人も知っています。
ただし、まったく無かったわけでもありません。実際に増えたものが、ひとつだけあります。
それは「坂の上に住んでおられる高齢のご夫婦から、駅前のマンションに移りたい」というご相談です。2019年以降、この住み替えの相談が、はっきり増えました。
つまり駅前の再開発は、鈴蘭台全体の値段を押し上げたのではなく、鈴蘭台の中で「坂の上から駅前へ」という人の動きを作ったのです。
売り物が坂の上に出て、買い手が駅前に集まる。この構図が、差をさらに広げました。
4. 変わらなかったもの
では、変わらなかったものは何か。坂です。
鈴蘭台の住宅地は、駅を中心に、四方の山を削って広がっています。駅から平坦に歩ける範囲は、正直なところ、そう広くありません。
多くのお宅が、こういう条件の中にあります。
- 駅から徒歩15分以上
- その大半が上り坂
- 家の前まで車が入らない
- 玄関までの階段が10段、20段ある
再開発は、この部分を1ミリも変えていません。変えられません。地形だからです。
これは覚えておいてください。不動産の値段を最後に決めるのは、建物でも駅名でもなく、地形です。50年見てきて、これだけは変わりませんでした。
もうひとつ変わらなかったのは、車です。鈴蘭台の坂の上で生活しようと思えば、車が要ります。ご夫婦なら1台では足りないご家庭もあります。
ところが、昭和に造られた家には、駐車場が1台分しかない、あるいはゼロという物件が珍しくありません。今の30代、40代のご家族が家を探すとき、駐車2台が入らない物件は、そもそも候補から外れます。
5. 同じ鈴蘭台でも、ここまで違います
ここが、今日いちばんお伝えしたいところです。同じ鈴蘭台でも、売れる家と売れない家が、はっきり分かれています。分かれ目は4つです。
- 駅まで平坦に歩けるか
- 家の前まで車が入るか
- 敷地に駐車場が2台取れるか
- 擁壁や階段に大きな負担がないか
この4つ全部に丸が付く家は、鈴蘭台でも今なお強いです。逆に、2つ以上バツが付くと、値段を下げても、なかなか動きません。
具体的に申し上げます。駅から徒歩7分、平坦、駐車2台の築30年の一戸建て。これは1,900万円から2,200万円で動きます。
駅から徒歩18分、上り坂、階段アプローチ、駐車1台の築45年の一戸建て。これは700万円から900万円です。
直線距離では1キロも離れていません。同じ小学校区のこともあります。それでも、値段は2倍以上違います。
再開発の前は、この差はもっと小さかったのです。駅前が便利になった分だけ、駅から遠い家の評価が、相対的に下がりました。良くなった街の裏側では、必ずこういうことが起きます。
6. 実際にあった3つの話
ここからは実例です。細かいところは変えていますが、金額と流れはそのままです。
Aさんという方がおられました。当時74歳。鈴蘭台の坂の上、駅から徒歩18分、築45年の一戸建てです。玄関まで階段が22段ありました。
奥様を亡くされて、息子さんのおられる明石に移りたいというご相談でした。
私は現地を見て、正直にお伝えしました。「1,000万円前後からのスタートが現実的だと思います」と。
Aさんは納得されませんでした。ご近所の方から「区役所が来て鈴蘭台は上がってるらしい」と聞いておられたからです。別の会社が1,900万円という査定を出し、Aさんはそちらに頼まれました。
結果を申し上げます。その家は、2年3か月かかって、最終的に740万円で売れました。途中で4回値下げをして、最後は買取に近い形です。
もし最初から1,000万円で素直に出していれば、半年から1年で売れていたと私は思っています。その2年3か月の間、Aさんは明石に移れず、固定資産税を払い、草を刈り、階段を上り下りされました。
「上がってるらしい」という一言が、Aさんから2年と、200万円以上を奪いました。
次はBさんご夫婦です。当時40代前半。お子さんが2人。ご主人は兵庫区へお勤めでした。2021年に、鈴蘭台駅から徒歩6分、ほぼ平坦、駐車2台、築25年の一戸建てを2,180万円でお買いになりました。
Bさんはこうおっしゃいました。「区役所も郵便局も買い物も駅前で全部済む。それで神戸市内で2,000万円台。この条件は他で見つかりませんでした」と。
これが、今の鈴蘭台を選ぶ方の本音です。区役所が来たことは、値段を上げたのではなく、この街を選ぶ理由のひとつになった。それだけのことです。
最後にCさんです。当時68歳のご夫婦。坂の上の築40年の一戸建てを1,180万円で売られ、駅から徒歩4分の築15年の3LDKマンションを1,680万円でお買いになりました。
差額の500万円と、諸費用と引っ越し代で、手元のお金はかなり減りました。金銭的には、決して得な話ではありません。
それでもCさんは、半年後にこうおっしゃいました。「雨の日に、傘をさして坂を上らんでええ。それだけで全然ちがう」と。
私は、この住み替えは正解だったと思っています。不動産の判断は、金額だけで決まるものではありません。あと何年、その家で暮らせるかで決まります。
7. 業界の裏側を、隠さず書きます
Aさんの話には続きがあります。私が本当に書きたいのは、ここです。
2016年から2018年にかけて、鈴蘭台の周辺では「区役所が来ますから、これから上がります」という営業が、かなり大々的に行われました。チラシにも書かれました。私の店にも、そのチラシを持ってこられたお客様が何人もおられます。
なぜそんなことをするのか。媒介契約を取るためです。
はっきり申し上げます。高い値段を付けた会社が、その値段で売ってくれるわけではありません。高い値段を付けた会社は、契約を取ってから、3か月ごとに値下げの相談をしてくるだけです。これを業界では「高預かり」と言います。
そして、売れない期間が長引くと、物件は「枯れ」ます。同じ物件がいつまでも出ていると、買主さんも同業者も「何かあるんちゃうか」と思う。そうなると、正しい値段まで下げても、もう反応が戻ってきません。Aさんの家に起きたのは、これです。
もうひとつ、鈴蘭台のような街で特に注意していただきたいのが「囲い込み」です。
囲い込みというのは、預かった物件を、他社の買主さんに紹介せず、自社で買主を見つけるまで隠しておくことです。他社から問い合わせが入っても「商談中です」と断ってしまう。
なぜこれが鈴蘭台で起きやすいのか。このあたりは地元の業者が強く、買主さんも地元経由で来られることが多いからです。
だから「うちで抱えていれば、そのうち自社で買主が見つかる」という計算が立ちやすい。売主さんからも買主さんからも手数料をもらう両手取引を狙う形です。
売主さんにとって、これは損以外の何ものでもありません。売れるまでの期間が延び、その間に払う固定資産税と管理の手間は、誰も補償してくれません。
それから、買取業者の話です。坂の上の古い家には、買取業者からのお手紙が頻繁に届きます。
買取の仕組みは、知ってしまえば当たり前の話です。業者は買った家を直して再販します。だから「再販できる値段」から、リフォーム代、諸費用、自分たちの利益を引いた金額しか出せません。相場の6割から7割です。これは業者が悪いのではありません。そういう商売だからです。
問題は、そこを説明せずに「今すぐ現金で買えます」とだけ言う会社があることです。買取が悪いのではありません。仲介と買取を並べて比べさせない会社が、危ないのです。
最後にもうひとつ。「売れないなら、とりあえず貸したらどうですか」という提案です。
聞こえはいいのですが、坂の上の築45年の家を借りたいという方は、ほとんどおられません。貸すためには水回りを直す必要があり、200万円、300万円かかります。それを回収するのに何年かかるか、必ず計算してください。
計算せずに勧めてくる会社は、リフォーム工事の利益を見ています。
8. 鈴蘭台のデメリットも、全部書きます
いい話ばかり書くと嘘になりますので、正直に書きます。
まず、寒さと雪です。鈴蘭台は、神戸の街中よりずっと標高の高いところにあります。
三宮が雨の日に、鈴蘭台は雪ということが、毎年のようにあります。路面が凍る日もあります。坂の上にお住まいだと、雪の日は車を出せません。これは実際に住んでみないと分からない部分です。
次に、電車です。鈴蘭台は神戸電鉄の有馬線と粟生線が分かれる駅で、乗り換えの拠点です。ここは便利な点です。
ただ、三宮に出るには新開地で乗り換えが必要で、30分前後かかります。運賃も安いとは言えません。
そして粟生線は、長く赤字が続いている路線です。将来の減便や運賃の見直しの話は、これまでも何度も出てきました。北区で家を持つということは、この鉄道の将来と付き合うということでもあります。
三つ目は、高齢化です。これは鈴蘭台の宿命だと思っています。
同じ時期に一斉に造られた街は、同じ時期に一斉に高齢化します。そして、同じ時期に一斉に空き家になります。
ご近所で同時に3軒売りに出た、ということが実際に起きています。売り物が重なれば、値段は下がります。「もう少し様子を見よう」という判断が、いちばん危ないのはこのためです。
四つ目は、敷地の広さです。意外に思われるかもしれませんが、鈴蘭台の古い家は敷地が広いことが多く、これが負担になります。
庭が広ければ草も伸びます。固定資産税もかかります。空き家のまま置いておくと、年に10万円から15万円が、ただ出ていくことになります。
最後に、値段そのものの見通しです。駅前が良くなったのは事実です。しかし「これから鈴蘭台全体が上がっていく」という材料は、正直、見当たりません。
駅前に近い物件は今後も一定の値段を保つと思いますが、坂の上の物件は、待っても状況は良くならないというのが、私の見立てです。
まとめ
鈴蘭台は、変わりました。しかし、変わったのは駅前だけです。
2018年にベルスト鈴蘭台ができ、北区役所が坂の上から降りてきました。これは間違いなく良い変化でした。けれど区役所は、毎日通う場所ではありません。だから地価が劇的に上がるということは、起きませんでした。
起きたのは、街の中の差が開いたということです。駅まで平坦に歩けて、車が2台停められる家は、今も強い。坂の上で、階段があって、車が入らない家は、以前より売りにくくなりました。
そして、この「鈴蘭台は変わった」という言葉を利用して、高すぎる査定を出す会社、囲い込みで売却を長引かせる会社、買取だけを勧める会社が、確実に存在します。
50年やってきて分かったことがあります。不動産で損をする人は、街全体の評判を見ます。
不動産で損をしない人は、自分の家が、その街の「どちら側」にあるのかを、正直に教えてくれる人を探します。
最後に、これだけは申し上げたい
もし今、鈴蘭台やその周辺に家をお持ちで、「うちはどうなんやろか」と気になっておられるなら、一度お聞きください。
売りやすい側にあれば、そう申し上げます。残念ながら売りにくい側であれば、その理由と、ではどうするのが一番損が少ないかを、隠さずお話しします。
坂の上の家は、待っても良くなりません。だからこそ、いつ、いくらで動くかを、早めに決めていただきたいのです。
私は売るために書いているのではありません。損をしていただかないために書いています。相談だけで結構です。売る売らないは、その後で決めていただければいいのです。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


