カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/05/18 08:01
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、私が50年見てきた中で、何度も「ああ、もったいないことをされた」と思ってきた話、「相場より安く売ってしまう人」の共通点についてお話しします。
私はこれまで、たくさんの売却に立ち会ってきました。同じような家、同じような土地でも、上手に売る方もいれば、相場よりずっと安く手放してしまう方もいます。
不思議なのは、安く売ってしまう方が、決して欲のない方でも、おっとりした方でもないことです。しっかりした、賢い方でも、同じ落とし穴にはまります。
ここで一歩、立ち止まってください。今日の話は、値段の話ではありません。値段を決めるときに、人の心がどう動くか、という話です。
結論から申し上げます
相場より安く売ってしまう人は、知識が足りなかったのではありません。「心の動き」に負けてしまったのです。
不動産の売却というのは、人生でそう何度もあることではありません。慣れていない。だから、誰でも不安で、早く楽になりたくて、目の前の相手を信じたくなります。
業者は、その心の動きを、よく知っています。知っていて、上手に使います。
これは断言できます。安く売る人は、頭で負けたのではありません。心で負けたのです。
では、その「心の落とし穴」とは何か。50年見てきて、よくあるものが四つあります。
1. 最初に聞いた数字が、頭に貼りついて離れない
一番はじめに「○○万円で売れます」と言われた、その数字。これが、ずっと頭に残ります。
たとえば最初に2,680万円と言われると、その数字が「自分の家の値段」になってしまう。
そのあとで「2,480万円に下げましょう」と言われても、「最初より下がったけれど、それでもまだ高いほうだ」と感じてしまうのです。
本当は2,480万円でも安すぎるのかもしれない。けれど、最初の2,680万円と比べてしまうから、それが分からなくなる。
最初の数字が高ければ高いほど、人はその後の値下げを受け入れやすくなります。これは、業者がよく分かっていることです。
2. 「早く終わらせたい」気持ちが、値段より強くなる
家が売りに出てから、一ヶ月、二ヶ月。内覧があっても決まらない。この期間が、本当につらいのです。
家を片付けて、内覧のたびに気を遣って、「今度こそ」と期待しては、また落ち込む。
人は、このつらさが続くと、「もう、いくらでもいいから早く終わらせたい」という気持ちになります。
そして、その気持ちが、値段を守る気持ちより強くなったとき、値下げのハンコを押してしまうのです。
3. 業者に「悪い人」と思われたくない
何ヶ月も付き合った担当者から「下げましょう」と言われると、断りにくいものです。
「この人も一生懸命やってくれている」「断ったら、やる気をなくされるかもしれない」。
そう思って、本心では納得していないのに、うなずいてしまう。
はっきり申し上げます。これは、優しい方ほどはまる落とし穴です。
4. 比べる相手がいない
一社としか付き合っていないと、その業者の言うことが正しいかどうか、確かめようがありません。
「この値段が妥当です」と言われても、ほかの見方を知らないので、信じるしかない。
比べる相手がいないというのは、自分が今どこにいるのか分からないまま歩いているのと同じです。
西宮市山口町のCさんの話
具体的な話をします。
西宮市の山口町、北区のすぐ隣のあたりに、Cさんという女性がいらっしゃいました。当時68歳。
お母様を亡くされて、ご実家の戸建てを相続されました。築38年、土地は約55坪。駅からは少し歩きますが、静かな住宅地の、形のいい家でした。
最初に来た不動産会社の担当者は、感じのいい若い方で、こう言いました。「このお家なら、2,680万円で売り出せます。きれいにお住まいですし、すぐ決まりますよ」
Cさんは、嬉しかったそうです。「思っていたより高い」と。その場で媒介契約を結びました。
ところが、売り出して三週間。内覧は何組か来たけれど、決まらない。
担当者が言いました。「お客様の反応はいいんですが、あと一歩なんです。2,480万円にすれば、ぐっと動きます」
Cさんは少し迷いましたが、「2,680万円から見れば、まだ高いほうだ」と思って、承諾しました。
それから一ヶ月。まだ決まらない。Cさんは、内覧のたびの片付けに、もう疲れていました。
担当者が、また言いました。「Cさん、ここまで来たら、2,280万円で出しましょう。これなら確実です。長引くと、かえって買い手に足元を見られますから」
Cさんは、もう「早く終わらせたい」だけになっていました。承諾しました。
そして最後、買い手から「2,150万円なら買う」と言われ、担当者に「これを逃すと、また振り出しです」と言われて、Cさんは、その値段でハンコを押しました。
2,680万円で始まった話が、2,150万円で終わったのです。
後日、私のところにCさんが来られました。お隣の家を売りたいという親戚の相談で、たまたまです。
私はその山口町の家の場所を聞いて、正直に申し上げました。あの家、あの土地なら、急がず売れば2,450万円から2,500万円では十分売れた家でした。
Cさんは、300万円以上、安く手放していたのです。
Cさんは、こうおっしゃいました。「安く売ったとは、思っていませんでした。最初の2,680万円が高すぎただけで、最後の値段が本当の相場なんだと、思い込んでいました」
これが、最初の数字が頭に貼りつく、ということです。
なぜ最初の査定は「2,680万円」と高かったのか
ここで、業界の裏側をお話しします。
なぜ、最初の査定が「2,680万円」と高かったのか。
正直に申し上げます。あれは、Cさんと契約を結ぶための数字だった可能性が高いのです。
高い数字を出せば、売主は喜んで契約してくれます。契約さえ取ってしまえば、あとはゆっくり値段を下げていけばいい。
業者にとっては、2,150万円で売れても2,500万円で売れても、手数料の差はわずか十数万円です。ですが売主にとっては、その差は350万円です。
業者は「早く・確実に」決めたい。だから、高く釣って契約を取り、そのあと値下げに誘導していく。これは、決して珍しいやり方ではありません。
もう一つ、覚えておいてください。
「長引くと買い手に足元を見られますよ」という言葉。これは、半分は本当で、半分は売主を急がせるための言葉です。
確かに、売り出してから半年、一年と経つと、買い手は「売れ残り」と見て値切ってきます。
ですが、まだ二ヶ月、三ヶ月の段階で「長引くと損だ」と急かすのは、たいてい業者の都合です。本当の理由は、早く手数料にしたいからです。
正直に申し上げておきます
ここで、私の本音も申し上げておきます。
「では、値下げには絶対に応じるな、ということか」と思われたかもしれません。そう単純な話ではありません。
値下げが正しいときも、あります。
最初の値段の付け方が、本当に少し高すぎた。そういうときは、早めに適正な値段に直したほうが、かえって早く、いい値段で売れます。
売り出してから時間が経つほど、家は「売れ残り」に見えてしまう。これは本当のことです。
そして、「とにかく高く、粘って売る」のが正しいわけでもありません。
粘っている間も、こういう負担が続きます。
- 粘っている間も、固定資産税はかかり続ける
- 空き家なら、その間も家は傷んでいく
- 相続した家なら、早く整理したい事情もある
ですから、「値下げは損」でも「粘れば得」でもないのです。
問題は、値段の話なのに、心が疲れたから、断りにくいから、という理由でハンコを押してしまうことです。
値段は、値段の理由で決める。気持ちが疲れたから決める、ではいけないのです。
まとめ
50年やってきて分かったことがあります。相場より安く売ってしまう人は、欲がないのでも、知識がないのでもありません。みんな、同じ心の落とし穴にはまっただけです。
もう一度、申し上げます。
- 最初に聞いた数字を、自分の家の値段だと思い込まない
- 「早く終わらせたい」という疲れで、値段を決めない
- 担当者に悪く思われたくなくて、うなずいていないか、自分に問う
- そして、必ず、比べる相手を持つ
この四つを覚えておくだけで、Cさんの300万円は守れたのです。
最後に、これだけは申し上げたい
もし今、ご自宅や、相続した家のことで、「値段を下げましょう」という話が来ているなら。
ハンコを押す前に、どうか一度、立ち止まってください。
その値下げは、本当に値段の理由で正しいのか。それとも、自分が疲れてしまっただけなのか。最初に聞いた数字に、引きずられていないか。
私は「うちで売ってください」とは申しません。今のその値段が、本当に妥当なのかどうか、50年この北区を見てきた私が、正直にお話しします。
ひとつの数字だけを信じる前に、もうひとつ、別の声を聞いてください。それだけで、何百万円も変わることがあります。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


