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不動産屋としての信念
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報  / 投稿日付:2026/08/06 07:26

こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。

今日は、私が不動産屋として持っている「信念」の話をします。

信念

信念、と書くと立派に聞こえますね。

でも中身は、まったく立派ではありません。50年のあいだに何度も損をして、何度も頭を下げて、そのたびに「もうこれだけはやめよう」と決めてきた。その積み重ねが、いつのまにか信念という形になっただけです。

不動産屋の信念というと、たいていはきれいな言葉が並びます。「お客様第一」「誠実」「地域密着」。看板にはそう書いてあります。

けれど、看板に書いてあることと、実際に契約の場でやっていることが違う会社を、私は50年で数え切れないほど見てきました。

ですから今日は、きれいな言葉ではなく、私が実際に何を守り、そのせいで何を失ってきたかを書きます。


結論から申し上げます


私の信念は、たった一つです。

お客様が「10年後」に後悔しない判断を、一緒に作ること。

売ることでも、高く売ることでも、早く売ることでもありません。10年後に「あのときの判断でよかった」と思ってもらうこと。それだけです。

ただ、これだけでは行動になりません。ですから私は、自分に5つの約束を課しています。

  • 売らせない勇気を持つこと
  • 悪い話を先に言うこと
  • 他社の悪口は言わないこと
  • 相場を作らず、相場に従うこと
  • 同じ町から逃げないこと

この5つです。順番にお話しします。


1. 売らせない勇気を持つ


不動産屋は、売って初めてお金になる商売です。

媒介契約を結んで、買主を見つけて、契約して、決済して。そこでようやく仲介手数料が入ります。それまでは一円にもなりません。

だから構造として、不動産屋の口からは「売りましょう」しか出てこないようになっています。これは業者が悪人だからではなく、そういう仕組みだからです。

それでも私は、年に何件かは「今は売らないでください」と申し上げます。

藤原台北町にお住まいだったCさん(当時72歳)の話をします。

ご主人を亡くされて半年ほど経った頃、娘さんから電話がありました。「母が一人で住むには広すぎるし危ないので、家を売って施設に入れたい」と。

築32年の戸建で、査定すると「2,980万円」でした。仲介手数料は約100万円。うちのような小さい会社にとっては、大きい仕事です。

ですが、Cさんご本人と二人でお話ししたとき、こう言われました。「庭の梅の木、主人が植えたんです」と。

まだこの家におりたい。でも娘に迷惑をかけたくない。その両方が本心でした。

私は娘さんに「1年だけ待ってください」と申し上げました。

理由も言いました。今この状態で売ると、お母様は10年後もそのことを引きずります。私は50年で、その顔を何度も見てきました。

1年後、娘さんご一家が二世帯で同居されることを決められました。家は売らずに済みました。

私の手数料はゼロです。

それでいいんです。あの判断は、10年後も正解のままだからです。


2. 悪い話を先に言う


これは断言できます。

物件の悪い部分は、契約前に全部言う。これを守れない不動産屋には、家を任せてはいけません。

岡場駅から徒歩13分の中古戸建を見に来られた、Dさんご夫婦(42歳・39歳)の話です。

価格は「2,180万円」。庭が広く、南向きで日当たりもよく、お子さんが二人いるご家庭にはちょうどいい家でした。奥様は玄関に入った瞬間に気に入っておられました。

正直に言えば、私も「これは決まるな」と思いました。

けれど、擁壁が気になりました。高さは2.8mほど、古い練積みで、見た感じ40年以上前のものでした。

私は知り合いの土木業者に現地を見てもらいました。結果、いずれ補修が要る、費用はざっと「480万円」という話でした。

私は契約前にそれをそのままお伝えしました。

ご夫婦は1週間悩まれて、この物件はやめられました。私の手数料はゼロです。

半年後、別の物件でご縁があり、その決済のときにご主人がぽつりと言われました。「あのとき止めてくれたから、他は見ずにここに来ました」と。

はっきり申し上げます。

業界には「言わなければ分からない」と考える人間がいます。重要事項説明書に書かなければ、あるいは書いてあっても早口で読み流せば、たいていのお客様は気づきません。

私はそれを詐欺と紙一重だと思っています。


3. 他社の悪口は言わない


「あそこの会社はやめた方がいいですよ」

こう言う営業を、皆さんも一度は見たことがあるはずです。

あれは、親切ではありません。自分を選ばせるための技術です。

私は他社の名前を出して悪く言いません。その代わり、確認の仕方だけをお伝えします。

鈴蘭台に戸建をお持ちだったEさん(当時58歳)の話です。

うちの査定は「2,980万円」でした。他社は「3,480万円」。500万円の差です。

Eさんは他社を選ばれました。当たり前です。私が売主でもそうします。

私は「そちらでどうぞ」とお送りしました。その会社の悪口は一切言いませんでした。

ただ一つだけ、こう申し上げました。「3か月経って、内見が一件も入らなかったら、それは物件の問題ではなく価格の問題です」と。

結果を申し上げます。

その物件は1年半後に「2,850万円」で売れました。うちの査定より130万円安い金額です。

その1年半のあいだ、固定資産税と火災保険と最低限の管理費で、Eさんは40万円ほど余計に払っておられました。

Eさんは決済の後、うちに寄ってくださいました。「あんたの言うた通りやった」と。

業界の言葉で「高預かり」といいます。相場より高い査定を出して媒介契約を取り、預かってから少しずつ値を下げていくやり方です。

最初の3か月で下げ始め、6か月で相場に近づけ、1年経つ頃には最初の査定額など誰も覚えていません。

悪口を言う必要はないんです。3か月見ていれば、答えは出ます。


4. 相場を作らない、相場に従う


査定価格は、不動産屋が決めるものではありません。

買う人が決めるものです。

私は査定書に必ず二つを並べます。一つは、直近1年でその周辺が実際にいくらで売れたかという成約事例。もう一つは、今この瞬間に売りに出ている競合物件の一覧です。

そのうえで「私はこう思います」ではなく「市場はこうなっています」とお見せします。

この方法は、正直に言って一番嫌われます。

「あそこは安く見る」と言われます。実際、そう言われて他社に行かれた方は50年で何百人もおられます。

それでも変えません。私が価格を作った瞬間に、その数字はお客様への嘘になるからです。


5. 同じ町から逃げない


私は50年、神戸市北区から出ていません。

これは信念というより、覚悟に近いものです。

岡場の商店街を歩けば、家を売ったお客様に会います。買ったお客様にも会います。

30年前に家を買われたご夫婦のお子さんが、いま40歳を超えて、自分の家のことで相談に来られます。

逃げられない場所で商売をしていると、嘘がつけません。

全国展開の会社の営業さんは、3年で異動します。5年経てば、その人はもうこの町にいません。

私は死ぬまでここにいます。だから、契約の日に良い顔をするより、10年後に町で会ったときに目をそらさずに済むことの方が大事なんです。

50年やってきて分かったことがあります。

信用というのは、契約の場でつくものではありません。契約の10年後に決まります。


6. 一番忘れられないお客様の話


信念という言葉を使うなら、この方の話を書かないわけにはいきません。

20年以上前、有野台にお住まいだったFさん(当時66歳)です。

ご主人が営んでおられた小さな会社が行き詰まり、家を手放さざるを得なくなりました。住宅ローンの残債が「1,700万円」ありました。

当時、買取業者に話を回せば、うちには紹介料が入る仕組みがありました。今ほど厳しくない時代でしたから、業者から仲介会社に情報料が流れるのは珍しくありませんでした。

買取なら「1,450万円」。即金、1か月で完了します。うちは何もせずに手数料に近いお金が入ります。

ただ、それだと残債に250万円足りません。Fさんは家を失ったうえに、借金だけが残ります。

仲介で普通に売れば「1,900万円前後」は見込めました。ただし3か月から6か月かかります。Fさんには、その時間がありませんでした。

私は、銀行に一緒に行きました。

事情を説明して、返済を3か月待ってもらえないかと頭を下げました。これは不動産屋の仕事ではありません。手数料も一円も増えません。

結果、4か月後に「1,880万円」で売れました。

残債を返して、引っ越し代と、当面の生活費が手元に残りました。Fさんご夫婦は北区内の賃貸に移られました。

この話には続きがあります。

20年経って、当時中学生だったFさんの息子さんが、うちの事務所に来られました。ご自分の家を買うためです。

「親父から、家のことはあきちゃんとこへ行けと言われました」

これが、私の信念の全部です。

あのとき買取に流していたら、20年後にこの人は来ていません。


7. 業界の裏側を、もう少しだけ


信念の話をするなら、その反対側にあるものも書かなければ不公平です。

両手取引という言葉があります。

売主と買主の両方から手数料をもらう形です。3,000万円の物件なら、片方だけなら約100万円ですが、両方なら約200万円になります。

倍です。だから、他社のお客様に自分の物件を見せたくなくなります。

それが「囲い込み」です。

「今、商談が入っておりまして」と他社に断りを入れる。売主には「まだ反響が弱いですね」と報告する。売主は買い手がいないと思い込み、値下げに応じます。

値下げの提案が来るタイミングにも、法則があります。

媒介契約の更新時期の少し前です。3か月で切れる契約を更新してもらうために、「一度価格を見直して、次の3か月で勝負しましょう」という話になります。

買取査定にもカラクリがあります。

買取業者は転売して利益を出しますから、相場の7割前後が基本です。それ自体は悪いことではありません。仕事ですから当然です。

問題は、その差額をお客様に説明しないまま「早くて確実ですよ」とだけ言う売り方です。


8. この信念のデメリットを正直に書きます


いいことばかり書くと嘘になりますので、正直に申し上げます。

この信念のせいで、うちの会社は大きくなっていません。

社員は増えていません。売上のランキングに名前が載ったこともありません。50年やって、この規模です。

査定額で他社に負けて、お客様が離れていくことは、77歳になった今でも普通にあります。

それから、これは大事なことですが、うちが向いていないお客様もおられます。

とにかく早く現金にしたい方です。

離婚、事業の資金繰り、施設の入居費用。事情はいろいろです。そういうときは、正直に買取をお勧めすることもあります。

ただしそのときは、仲介ならいくらになるか、買取だといくらか、その差額がいくらかを必ず紙に書いてお見せします。そのうえで選んでいただきます。

もう一つ、私自身のデメリットもあります。

私は77歳です。あと何年この仕事ができるか、正直なところ分かりません。

長いお付き合いを前提にしている商売なのに、こちらの残り時間が短い。これは、うちに任せていただくうえでの本当のデメリットです。隠さずに申し上げておきます。


まとめ


私の信念を、もう一度だけ書きます。

お客様が10年後に後悔しない判断を、一緒に作ること。

そのために、売らせない勇気を持ち、悪い話を先に言い、他社の悪口は言わず、相場を作らず、この町から逃げない。

この5つを守ってきた結果、私は儲け損なった仕事が山ほどあります。Cさんの100万円も、Dさんご夫婦の手数料も、Fさんの紹介料も、全部手に入りませんでした。

それでも、20年後に息子さんが来てくださいました。

どちらが商売として正しいかは分かりません。ただ、どちらが50年続くかは、もう答えが出ています。


最後に、これだけは申し上げたい


不動産屋を選ぶとき、看板の言葉を読んでも意味がありません。

一つだけ、確かめる方法があります。

その担当者に「この物件の悪いところを教えてください」と聞いてみてください。

すらすらと3つ以上答えられる人は、信用していいと思います。「特にありません」「いい物件ですよ」としか言わない人は、あなたの10年後を見ていません。

売る売らないは、決めていなくて構いません。まだ何も決まっていない段階の相談が、一番役に立ちます。

「これ、売った方がいいんでしょうか」という一言から始めてくださって結構です。私は、売らない方がいいときは、はっきりそう申し上げます。


センチュリー21・ハートピア
田中章雄

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