カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/09/03 08:06
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は「私道」の話をします。特に「位置指定道路」と呼ばれる、あの道の話です。
家の前の道が、市の道路ではなく、個人の持ち物になっている。北区には、そういう家が本当にたくさんあります。
鈴蘭台の坂の上も、藤原台の奥の分譲地も、有野台の古い区画も、道の見た目はごく普通のアスファルトです。誰が見ても道です。ところが登記簿を上げると、その道には地番があって、所有者の名前が載っている。
これが私道です。
私道そのものは悪ではありません。北区の住宅地は、山を削って民間が造成してきた歴史がありますから、私道が多いのは当たり前なんです。私道に面した家に住んでおられる方は、北区だけで何千軒とあります。
問題は、私道そのものではありません。
「紙」です。
結論から申し上げます
私道に面した家は、3枚の紙で価値が決まります。
- 掘削承諾書
- 通行承諾書
- 私道の共有持分(登記されているかどうか)
この3つが揃っている私道物件なら、心配いりません。普通の家として、普通の値段で売れます。
そして、1つでも欠けている私道物件は、いくら建物がきれいでも、いくら値段が安くても、手を出してはいけません。
はっきり申し上げます。私道でもめる人は、道路を「見た目」で判断しています。私道で損をしない人は、契約の前に「紙」を見ています。
今日は、私が実際に立ち会ったトラブルを3つ、金額まで全部書きます。
1. 位置指定道路とは何か、手短に申し上げます
建物を建てるには、幅4m以上の道路に、敷地が2m以上接していなければなりません。これを接道義務といいます。
ところが、山を削って10区画の分譲地を作ろうとしたとき、そこには市の道路がありません。そこで造成した業者が自分で道を作り、行政に申請して「この位置を道路として指定してください」と認めてもらう。これが位置指定道路です。建築基準法42条1項5号に定めのある道路で、業界では「5号道路」とも呼びます。
ここが大事なところです。
位置指定を受けた道路は、建築基準法の上では立派な「道路」です。ですから家は建ちますし、建て替えもできます。
けれど、所有権のほうは市に移っていないことが多い。造成業者の名義のまま、あるいは分譲を受けた8軒10軒で分け合った共有のまま、登記が残っているんです。
つまり「法律上は道路、持ち主は個人」という状態です。
あらゆるトラブルの種は、ここにあります。
2. 掘削承諾がないと、水道が引けません
有野台のAさん(52歳)の話です。
Aさんは中古住宅を「1,980万円」で買われました。築38年、4LDK、駐車場2台。前面道路は位置指定道路で、幅は4.5m。私道の共有持分も8分の1、ちゃんとついていました。
条件としては悪くありません。Aさんも安心して契約されました。
問題が起きたのは、住み始めて3年目です。
給水管が古い鉄管で、赤水が出るようになりました。水道局に相談すると「本管から引き直してください」と言われた。本管は道の下にあります。つまり、私道を掘るしかない。
ここでAさんは初めて知ることになりました。
私道を掘るには、私道の所有者「全員」の承諾が要ります。自分が8分の1の持分を持っているだけでは足りません。残り8分の7を持っている他の7軒、その全員から「掘っていいですよ」という書面をもらわなければならない。これが掘削承諾書です。
7軒のうち、5軒はすぐに判を押してくれました。ところが2軒が動かなかった。
1軒は、相続の登記が止まっていました。名義が亡くなったお父様のまま。相続人は3人で、うち1人は東京にお住まいでした。
もう1軒は、以前に境界のことで前の持ち主ともめた家で、「うちは関係ないから」と言われた。
結果、Aさんが水道を引き直せるようになるまで、1年2ヶ月かかりました。司法書士に相続関係を調べてもらい、東京の相続人に手紙を書き、頭を下げて回った。実費と報酬で「43万円」。その間ずっと、赤水の出る家に住み続けたわけです。
もし契約のときに、売主が7軒分の掘削承諾書を取ってから引き渡していたら、この1年2ヶ月も、43万円も、ゼロでした。
これが「紙が1枚ない」ということの意味です。
3. 持分がないと、売るときに数百万円が消えます
もっと厳しい実例を申し上げます。
鈴蘭台のBさんご夫婦。ご主人が亡くなられて、奥様(74歳)が家を売りたいとご相談に来られました。昭和の終わりに建てられた家で、前面道路はやはり位置指定道路です。
登記を上げてみて、私は言葉に詰まりました。
私道の共有持分が、ないんです。
昭和60年頃、この分譲地を売った業者が、道路部分を自社名義のまま残していました。買主には持分を渡さず、「通行と掘削は認めます」という一筆を差し入れただけ。当時はそれで通ってしまったんです。
ところが、その業者は平成14年に倒産していました。
道路の名義は、倒産した会社のまま止まっています。奥様が何をどうしようと、動かせません。
ここから先が現実です。
買主候補が現れても、金融機関が住宅ローンを出さない。「私道の持分がなく、掘削承諾も取得できない物件は担保として評価できません」と言われるんです。つまり、現金で買える人しか買えない。
Bさんのお宅は、建物と土地だけを見れば「1,450万円」の価値がありました。ところが現金客だけを相手にすると、価格は落ちます。最終的に成約したのは「980万円」でした。
差は「470万円」です。
これは断言できます。私道の共有持分の有無は、そのまま資産価値です。
そして残酷なことに、この470万円は、買うときに気づいていれば防げたお金です。昭和60年に家を買われたご主人が、あのとき「道の持分はうちに来るんですか」と一言聞いていれば、40年後の奥様は470万円を失わずに済みました。
4. 通行の揉め事が、いちばん厄介です
掘削と持分は、お金の話です。時間とお金をかければ、まだ解決の道があります。
いちばん厄介なのは、通行です。
岡場のCさん(60代)の話をします。位置指定道路に面した家をお買いになりました。持分もある。掘削承諾もある。書類は完璧でした。
ところが入居して半年後、道の入口にコンクリートブロックが置かれるようになりました。置いたのは、道の一番手前に住むDさんです。
理由はこうでした。Cさんの息子さんが夜遅く車で帰ってきて、Dさんの家の前で切り返しをする。その音がうるさい、と。
Cさんは怒りました。「こちらには持分もあるし通行権もある。これは妨害だ」と。私のところに相談に来られたときには、もう弁護士に相談する寸前でした。
私が申し上げたのは、こういうことです。
「Cさん、あなたの言い分は法律的に正しいです。裁判をすれば、たぶん勝ちます。ただ、Dさんはこの先20年、あなたの家の前に住み続けます」
結局Cさんは、息子さんに切り返しの場所を変えてもらい、Dさんに菓子折りを持って行かれました。ブロックは3日で消えました。
私道は、法律だけでは動きません。所有権を分け合っている、人間関係の道です。
50年やってきて分かったことがあります。私道でもめている家は、道でもめているのではありません。人でもめています。
5. 舗装の補修費と、固定資産税
派手さはありませんが、地味に効く費用の話もしておきます。
まず、舗装の打ち替えです。市道なら市が直します。私道は、持っている人たちで直します。
北区のある位置指定道路で、長さ40m、幅4.5mの舗装を打ち替えたケースがありました。見積もりは「210万円」。8軒で割って、1軒あたり「26万円」ほどです。
ここで必ず揉めます。「うちは道の一番手前だから、奥のほうは通らない。半分でいい」と言う家が出てくる。この話し合いだけで2年かかった私道を、私は知っています。
次に、固定資産税です。
私道の土地にも、原則として固定資産税はかかります。ただし、不特定多数の人が実際に通行する「公共の用に供する道路」だと市に認められると、非課税になる扱いがあります。
ここで大事なのは、これは黙っていても自動でそうなるわけではない、ということです。申請が要ります。
昔から私道沿いに住んでおられる方で、「そういえば毎年、よく分からない小さい土地の税金が来ているな」という方は、一度、課税明細書をご覧になってください。私道の分かもしれません。神戸市の窓口で相談できます。
50年やっていますと、20年払い続けていた方に何度もお会いしました。
6. 業界の裏側を申し上げます
ここからは、不動産屋として言いにくい話をします。
(1)「私道負担あり」の一行で済ませる
重要事項説明書には、私道に関する記載欄があります。ところがそこに「私道負担あり」とだけ書いて、口頭で「まあ、よくある話ですから」と流してしまう業者が、いまだにいます。
掘削承諾は取れているのか。持分は何分の何なのか。所有者は何人いるのか。そのうち相続で名義が止まっている家はないか。ここまで調べて説明して、はじめて仕事です。
(2)掘削承諾を「引き渡し後にご自分で」と言う
これがいちばん多い。契約はまとめたい。でも承諾書を7軒分集めて回るのは面倒くさい。だから「お引き渡し後にご自分で取得してください」と言って逃げるんです。
買主は素人ですから「そういうものか」と思ってしまう。
ところが、売主が長年のお付き合いで声をかければ「ああ、はいはい」と判を押してくれた近所も、見ず知らずの買主が突然訪ねていくと「どちら様ですか」になるんです。
承諾は、売主が売る前に取る。これが正しい順番です。
(3)ローンが落ちてから値下げに持っていく
私道の持分がない物件を、あえて先に契約させて、ローン審査が通らなかったところで「では現金でいけませんか」「価格を下げましょう」と持っていく。買主も売主も消耗して、結局買主が折れる。
私は逆をやります。私道物件は、募集を出す前に法務局と市に行って、道の素性を全部調べます。売れる形に直してから、値段をつけます。手間はかかりますが、これをやらないと後で必ず誰かが損をします。
7. デメリットも正直に申し上げます
ここまで読むと「私道の家は買うな」と聞こえるかもしれませんが、そうではありません。北区で私道を避けていたら、買える家がずいぶん減ってしまいます。
ただ、紙が全部揃っている私道物件であっても、公道に面した家に比べたマイナスは確実にあります。正直に3つ申し上げます。
- 舗装や排水の補修費は自己負担になる
- 売るときに説明する項目が増え、買主がどうしても身構える
- 近隣とこじれたときに、逃げ場がない
特に3つ目です。公道なら、隣とうまくいかなくても道は道です。私道は道そのものを共有していますから、関係が壊れても毎日そこを通ることになる。
これは値段には表れません。けれど、暮らしには確実に効きます。
私道物件をお買いになるなら、この3つを承知のうえで、その分だけ価格に納得して買ってください。それができるなら、私道は決して悪い選択ではありません。
まとめ
もう一度申し上げます。
私道に面した家は、3枚の紙で価値が決まります。掘削承諾書、通行承諾書、私道の共有持分です。
有野台のAさんは、掘削承諾がなくて1年2ヶ月と43万円を失いました。
鈴蘭台のBさんは、持分がなくて470万円を失いました。
岡場のCさんは、紙は全部揃っていたのに、人間関係でつまずきかけました。
この3つに共通しているのは、どれも「買うとき」に確認できたことだ、という点です。
道の見た目はきれいでした。3件とも、普通のアスファルトの道でした。
最後に、これだけは申し上げたい
私道かどうかは、現地に立っても分かりません。分かるのは、登記簿と、市の道路担当の窓口と、承諾書の束を見たときだけです。
これは買う方だけの話ではありません。今、私道沿いの家をお持ちで、いずれ売ろうとお考えの方も同じです。
売る前に持分と掘削承諾を整えておけば、値段が数百万円変わります。Bさんの470万円は、生前に手を打っていれば残せたお金でした。
家の前の道が私道かもしれない。持分があるのかどうか分からない。そういう方は、一度私にご相談ください。登記簿を1通取れば、その日のうちに分かります。買うほうでも、売るほうでも構いません。
道のことは、後から直すのがいちばん高くつきます。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


