カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/09/07 07:00
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、山林や雑木林を相続してしまったときの話をします。
遺産分割の話し合いが終わって、しばらくしてから相談に来られる方がいます。
「家と預金は分けたんですけど、山が残ってしまって」
たいてい、この言い方です。「山が残った」。誰も欲しがらなかった、ということです。
ここで一歩立ち止まってください。
山林は、放っておいても固定資産税がほとんどかからないので、「まあ、いいか」で何年も過ぎます。そして次の相続でもう一度、同じ問題が起きます。今度は、山がどこにあるのかも分からなくなった状態で。
結論から申し上げます
山林は、売ることを最初の目標にしてはいけません。まず「誰の名義で、どこにあって、どういう規制がかかっているか」をはっきりさせることが先です。
はっきり申し上げます。相続した山林の大半は、売れません。値段の問題ではなく、買う人がいないからです。
50年やってきて分かったことがあります。山を持って困っている人が失敗するのは、山そのものではありません。「早く手放したい」という気持ちにつけ込まれて、余計なお金を払ってしまうことです。
出口は現実的に4つしかありません。
- 隣の人か地元の林業関係者に引き取ってもらう
- 専門の引取業者にお金を払って引き取ってもらう
- 国に引き取ってもらう(相続土地国庫帰属制度)
- 持ち続けて、次の代に引き継ぐ準備だけしておく
この4つを順番に見ていきます。そして最後に、絶対に手を出してはいけない話もします。
1. まず、90日以内にやることがあります
意外と知られていないので、最初に申し上げます。
森林法という法律で、相続などで森林の土地の所有者になった方は、所有者になった日から90日以内に、その山がある市町村の長へ届出をすることになっています。
これを怠ったり、嘘を書いたりすると、10万円以下の過料の対象になります。
「登記もまだなんですが」という方がいますが、この届出は登記とは別の話です。登記が終わっていなくても、相続で取得したことが分かった時点で必要になります。
正直に申し上げますと、実際に過料を取られたという話は私は聞いたことがありません。ですが、これは制度として決まっていることです。市町村の農林担当課に電話一本すれば、様式を教えてくれます。手間としては30分程度です。
それともう一つ。相続登記は2024年4月から義務になりました。
「山だけは登記しないでおこう」は、もう通用しません。3年以内に登記をしないと10万円以下の過料です。祖父名義のまま放置されている山は北区にも山ほどありますが、これから相続が起きる分については、逃げ道がなくなったと思ってください。
2. 自分の山が「どこからどこまでか」を誰も知りません
これが山林の一番やっかいなところです。
宅地なら、ブロック塀があって、境界標があって、隣の人も分かっています。
山にはそれがありません。あるのは尾根と谷と、50年前に誰かが打った腐りかけた木の杭です。
大沢のCさん(65歳)の話をします。
お父様が亡くなって、6筆の山林を相続されました。登記簿の合計面積はおよそ1万2千平方メートル、3600坪ほどです。「3600坪あるなら、坪千円でも360万円になりませんか」とおっしゃいました。
まず現地に行きました。到着まではよかったのですが、そこから先に進めません。道がないのです。
昔は炭を焼きに入っていた道があったそうですが、今は完全に藪です。斜面は45度近くあり、私も彼も、10メートル入って引き返しました。
次に、どこが自分の山か調べました。地図を法務局で取ると、いわゆる公図しかありません。それも明治時代に作られた図面をもとにしたもので、形も面積もあてになりません。実際、山林では登記簿の面積と実測が2倍3倍ずれることは珍しくありません。少ない方にずれることもあります。
「境界をはっきりさせるにはいくらかかりますか」と聞かれたので、測量士に相談しました。
6筆で、隣接する所有者が10人以上。うち数人は所在不明。斜面が急で機械が入らない。見積もりは、およそ180万円でした。しかも「隣の人が全員ハンコを押してくれたら」という条件付きです。
売れば360万円になるかもしれない土地に、180万円かけて、しかも売れるとは限らない。
Cさんは「やめます」とおっしゃいました。私も、それが正しいと思いました。
3. まず当たるべきは、隣の人と地元の林業関係者です
売却を考えるなら、この順番です。ネットの一括査定でも、大手でもありません。
山林を「欲しい」と思う人は、実は存在します。ただし理由が限られています。
- 自分の山と隣り合っていて、まとめて管理したい人
- そこに作業道を通したい林業事業者
- 太陽光や資材置き場を考えている業者(ただし場所を選びます)
- 自分の山の水源だから押さえておきたい人
いずれも「隣接している」か「その地域で山を使っている」人です。だから、遠くの誰かに広告を出しても意味がありません。
やり方は地味です。
まず、隣接地の登記簿を取って所有者を調べます。1筆600円です。10筆でも6000円。
次に、地元の森林組合に相談します。北区であれば、その地域の森林組合か、市の農林担当窓口が入口になります。
そして、その集落に長く住んでいる方に話を聞きます。「あの山は昔、誰々さんが手を入れていた」という記憶が、一番確かな情報だったりします。
淡河のDさんは、これで解決しました。
相続した2筆の雑木林、約2000平方メートル。登記簿を取ってみると、隣の3筆はすべて同じ方の名義でした。その方を訪ねて「もしよければ」とお話ししたところ、「ずっと欲しかった」と言われたそうです。
値段は30万円。坪にすれば500円です。安いと思われるかもしれませんが、Dさんは「毎年の草刈りの心配がなくなった方が大きい」とおっしゃっていました。
登記費用と司法書士報酬でおよそ8万円かかりましたので、手取りは22万円ほどです。それでも、これは成功した部類です。
4. お金を払って引き取ってもらう、という現実
隣も買わない、林業関係者も要らないとなると、次は「引取業者」です。
ここは正直に書きます。
相場は、10万円から50万円程度を「引取料」として支払うケースが多いです。面積や場所によっては100万円を超える見積もりが出ることもあります。
つまり、土地を手放すのにお金を払うわけです。
「土地はプラスの財産のはずでしょう」とおっしゃる方の気持ちは、痛いほど分かります。ですが、毎年少額でも税金がかかり、いつか土砂が崩れたら責任を問われるかもしれない資産を、誰かに引き受けてもらうのですから、そのぶんの対価だと考えるしかありません。
ただし、ここは業者選びを間違えると危ないところです。後で申し上げます。
5. 国に引き取ってもらう制度もあります(ただし条件は厳しい)
2023年4月27日から、相続土地国庫帰属制度というものが始まりました。相続でもらった土地を、要件を満たせば国に引き取ってもらえます。山林も対象です。
かかるお金は2段階です。
まず審査手数料。土地1筆につき14,000円。これは、審査に落ちても、途中で取り下げても返ってきません。
次に負担金。審査に通ったら払います。宅地や田畑は原則20万円ですが、森林は面積に応じた計算になります。
目安を申し上げると、750平方メートル以下でおよそ21万円。1万2千平方メートルを超えるような山だと、面積×8円+28万7千円という計算になりますので、3600坪(1万2千平方メートル)なら、およそ38万円ほどです。
「思ったより安い」と感じられたかもしれません。私もそう思いました。
問題は、通らないことです。
引き取ってもらえない土地の条件がいくつも決められています。山林で引っかかりやすいのは、この4つです。
- 境界がはっきりしない、または隣の人と争いがある
- 崖があって、管理に過分な費用や労力がかかる
- 放置された工作物、車両、樹木などが地上にある
- 土砂崩れなどの災害を起こすおそれがある
お分かりでしょうか。2番で申し上げた「境界が分からない」が、そのまま入口を塞ぎます。
Cさんの山も、この制度を検討しました。ですが、境界確定に180万円かかる時点で、負担金38万円と合わせて220万円です。そこまでして手放すかというと、話が違ってきます。
ですから、この制度が現実的に効くのは、比較的平坦で、境界がある程度分かっていて、面積が小さい雑木林です。急斜面の奥山には、正直、あまり期待できません。
6. 相続放棄は、思っているような逃げ道ではありません
「じゃあ最初から相続放棄すればいいのでは」
必ずこの質問が出ます。順を追ってお答えします。
まず、相続放棄は財産を選べません。山だけ捨てて、家と預金はもらう、ということはできません。全部を放棄するか、全部を受けるかのどちらかです。
しかも期限は、相続があったことを知ってから3か月です。
次に、全員が放棄すると、その山はどうなるか。
宙に浮きます。誰の物でもなくなるわけではなく、管理する人がいない状態で残ります。
法律の話を少しだけします。
2023年4月に民法940条が改正されて、相続放棄をした人の保存義務は「放棄の時に現に占有している財産」に限定されました。ですから、遠くにある一度も行ったことのない山であれば、義務を負わないと整理されることが多くなりました。ここは改善された点です。
ただし、家庭裁判所に相続財産清算人を選んでもらって完全に手を切ろうとすると、予納金が必要になります。財産の中身によりますが、実務では数十万円から100万円程度と言われています。山と少額の預金しかない場合は、申し立てた人が出すことになります。
結局、お金がかかるのです。
「タダで縁を切る方法」を探して何年も費やす方がいますが、私が50年見てきた限り、そういう方法はありません。
7. 業界の裏側を申し上げます
ここからが本題かもしれません。
まず、原野商法の二次被害です。
昭和40年代から50年代にかけて、「将来必ず値上がりします」と言われて北海道や本州の山林を買わされた方が全国に大勢いらっしゃいます。神戸にも、当時買った方が今も残しておられます。
その山を相続した方のところに、電話がかかってきます。
「あなたの山を買いたいという方がいます」
「ただし、その前に測量が必要です」
「測量費として80万円をお預かりします」
測量はしません。買主も現れません。会社も消えます。
これは今も現役で起きています。国民生活センターにも継続して相談が寄せられています。
手口は進化していて、「下取りします」と言って別の土地を買わせるパターンもあります。持っている山を100万円で引き取る代わりに、別の土地を300万円で買ってください、という話です。差額200万円を払って、価値のない土地がもう1つ増えます。
はっきり申し上げます。
向こうから電話がかかってきて「あなたの山を買いたい人がいる」と言われたら、それは100パーセント疑ってください。
山林を本気で買いたい人は、隣の所有者か地元の林業関係者です。彼らはコールセンターを持っていません。
もう一つ、引取業者の話です。
まともな業者もいます。ですが、こういうところは避けてください。
- 契約書に「所有権移転登記をいつまでに行うか」が書かれていない
- 入金だけ先に求めて、登記は後回しにしようとする
- 会社の登記簿(履歴事項全部証明書)を見せたがらない
- 「今日中に決めてくれれば安くします」と急かす
必ず、司法書士を入れて、引取料の支払いと所有権移転登記を同時にしてください。
お金を払ったのに名義が自分のまま、という相談を私は3件受けたことがあります。1件は業者が消えていました。
それから、不動産会社側の本音も申し上げます。
山林の売買仲介は、正直、うちのような会社にとって割に合いません。
3000万円の家を仲介すれば手数料はおよそ100万円ですが、30万円の山を仲介しても手数料は1万円台です。それでいて調査は宅地の何倍も手間がかかります。役所を何か所も回り、藪を歩き、隣の所有者を探します。
ですから「山林はうちでは扱っていません」と断る会社が多いのは、意地悪ではなく、そういう構造だからです。
逆に言えば、山林の相談に真剣に付き合ってくれる会社は、その地域に根を張っていて、他の仕事でつながりがあるところに限られます。
8. デメリットも正直に申し上げます
ここまで「手放す方法」を書いてきましたが、手放すことにも損があります。
まず、二束三文で手放したあと、その土地が高く売れる可能性がゼロではありません。
近くに道路計画が来た、資材置き場の需要が出た、太陽光の適地だった。実際、私が「たぶん一生売れませんよ」と申し上げた土地が、10年後に事業用地として売れたことがあります。あのときの申し訳なさは今も覚えています。
次に、持ち続けるコストは、実はそれほど大きくありません。
固定資産税には免税点というものがあって、同じ市町村内に持っている土地の課税標準額の合計が30万円未満なら、固定資産税はかかりません。奥山の山林はこれに当たることが多く、実際「税金を払った覚えがない」という方がかなりいらっしゃいます。
ですから、冷静に計算していただきたいのです。
引取業者に30万円払って手放す。
そのまま持ち続けて、年間の負担は数千円か、あるいはゼロ。
金額だけを見れば、持ち続ける方が安いのです。
それでも手放す価値があるのは、こういう場合です。
- 高齢で、これ以上管理の心配をしたくない
- 相続人が複数いて、次の代で必ずもめる形になっている
- 斜面が下の住宅に向いていて、崩れたときの責任が怖い
- すでに不法投棄されている、または放置車両がある
特に3番目は重く見てください。
自分の山の斜面が崩れて下の家に被害が出た場合、管理していなかったことを問われる可能性があります。土地工作物責任という考え方があり、自然の斜面についてもまったく無関係とは言い切れません。北区は住宅地のすぐ裏が山という場所が多いので、他人事ではありません。
9. では、どうするか
私が実際にお勧めしている順番を書きます。
第一に、山の場所と規制を確定させます。
法務局で登記簿と公図を取る。市の窓口で、保安林かどうか、地域森林計画対象民有林かどうかを確認する。保安林だと勝手に木を切れませんし、売却の自由度も下がります。ここまでは1万円もかかりません。
第二に、隣接地の所有者を全員調べます。
登記簿1筆600円です。これが一番安くて、一番効きます。
第三に、隣の人と森林組合に当たります。
ここで話がまとまれば、費用は登記費用の数万円だけで終わります。一番いい着地です。
第四に、それでもダメなら、国庫帰属制度と引取業者を並べて比べます。
境界がある程度分かっていて平坦なら国。無理なら引取業者です。
第五に、どれも合わないなら、持ち続ける決断をします。
そのかわり、次の代に迷惑をかけない準備をしてください。場所が分かる地図、登記簿の写し、公図、経緯を書いたメモを1つの封筒にまとめて、家族に渡しておく。これだけで、次の相続の負担は半分になります。
私は、これを「山の引き継ぎ袋」と呼んで、お客様にお勧めしています。
Cさんも結局、売却も国庫帰属もやめて、この袋を作られました。「息子に、こういう山があると伝えられただけでも気が楽になった」とおっしゃいました。
それも、立派な解決です。
まとめ
結論から申し上げます。
山林は売れないことが多く、手放すにはお金がかかります。そして、その事実を認めるところからしか話は進みません。
やることの順番はこうです。
- 90日以内の届出と、3年以内の相続登記を済ませる
- 登記簿と公図と規制を調べて、山の正体をはっきりさせる
- 隣の所有者と森林組合に当たる
- ダメなら国庫帰属と引取業者を比べる
- それも合わなければ、引き継ぐ準備をして持ち続ける
そして、これは断言できます。
向こうから来る「あなたの山を買いたい人がいます」という電話に、乗ってはいけません。50年見てきて、あの電話で得をした方を、私は1人も知りません。
最後に、これだけは申し上げたい
山を相続して困っておられる方は、たいてい、ご自分を責めておられます。
「親が残したものなのに、持て余している自分が情けない」
そんなふうにおっしゃいます。
申し上げます。それはあなたのせいではありません。
戦後、山は財産でした。木が売れたからです。ところが外国産の木が入ってきて価格が崩れ、手入れをする人がいなくなりました。60年かけて、社会全体で価値が変わったのです。個人がどうこうできる話ではありません。
ですから、恥ずかしがらずに相談してください。
登記簿と公図を持ってきていただければ、その山に道があるか、保安林か、隣に誰がいるか、現実的に出口があるかどうか、そこまでは無料でご一緒に見ます。売る話にならなくて構いません。私にとっては、それも仕事のうちです。
どうか一人で抱え込んで、10年20年と時間を過ごさないでください。時間が経つほど、隣の所有者は代替わりし、境界を知る人はいなくなり、話は難しくなります。動くなら今です。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


