カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/15 08:31
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、大池と神鉄六甲のあたりのお話をします。神戸電鉄有馬線で、谷上から有馬口へ向かう途中にある、2つの小さな駅です。
このエリアの物件をご覧になった方は、たいてい同じことをおっしゃいます。
「え、この値段で一戸建てが買えるんですか」と。
正直に申し上げます。安いです。北区の中でも群を抜いて安い。同じ神戸市内とは思えない値段の物件が、実際に出ています。
ですが今日は、その安さの前で一度立ち止まっていただくために書きます。安い理由を、隠さず全部書きます。
結論から申し上げます
大池・神鉄六甲エリアは、「安いから」という理由だけで買ってはいけません。
はっきり申し上げます。
ここの安さは、お買い得だから安いのではありません。買いたい人が少ないから安いのです。
そして、買いたい人が少ないということは、あなたがいずれ売るときにも、買いたい人が少ないということです。安く買えた喜びは、売るときに同じ形で返ってきます。
これは断言できます。
このエリアで一番怖いのは、買うときの値段ではありません。売りたいときに売れない、という事実のほうです。
ですから今日は、値段の話ではなく「出口」の話を中心にします。
1. まず、この2つの駅がどういう場所か整理します
神戸電鉄有馬線を、三宮側から順に見ていきます。谷上、花山、大池、神鉄六甲、唐櫃台、有馬口。
今日お話しするのは、この真ん中の2つです。谷上からわずか2駅、3駅。距離だけを見れば、近いのです。
ここで一歩立ち止まってください。「神鉄六甲」という駅名です。
私が若い頃、この駅は「六甲登山口」という名前でした。名前のとおり、六甲山へ登る人が使う駅だったのです。
ですから、はっきり申し上げておきます。神鉄六甲駅は、六甲山の上ではありません。六甲山の裏側の、ふもとの入口です。
駅から六甲山上まで歩いて上がるのは、散歩ではなく登山です。
「六甲」という名前の響きで、おしゃれな高台の住宅地を想像して来られる方がおられますが、まったく違う場所だとお考えください。
大池駅のほうも整理します。大池駅の周りには、昭和40年代から50年代にかけて造成された住宅地が広がっています。大池見台のような、山の斜面を段々に削って作った分譲地です。
ここは正直に申し上げます。当時、これは夢のマイホームでした。私はその頃、実際にこのあたりの区画を売っていた人間です。
高度成長期で、神戸の市街地はもう買えない値段になっていました。だから山を削って、電車を通して、そこに家を並べた。それが北区という街の成り立ちです。
50年やってきて分かったことがあります。街には、伸びる時期と、縮む時期があります。そして縮む時期は、必ず端から始まります。
2. なぜここまで安いのか。理由は4つあります
理由をぼかしません。4つ、はっきり書きます。
ひとつ目。駅の力が弱いことです。
この2つの駅は、乗り降りされる方の数が、北区の主要駅とはまるで違います。駅前にスーパーがありません。大きな商業施設もありません。日常の買い物は、車で岡場か有馬口方面、あるいは谷上まで下りることになります。
駅というのは、人が集まるから価値が生まれます。集まらない駅は、あるだけでは値段を作りません。
ふたつ目。坂とバス便です。
これは唐櫃のあたりと同じ構造ですが、こちらのほうがさらに厳しい区画が多い。駅から平坦に歩ける家は、本当に限られています。
多くのお宅が、駅から坂を上がった一帯にあります。広告の徒歩12分が、実際に歩くと17分になる。しかも帰りが上りです。
三つ目。造成が古いことです。これが一番、値段に効いています。
昭和40年代の造成というのは、今の基準で作られていません。具体的に申し上げます。
- 擁壁が古く、作り直しが必要になる区画がある
- 道路が狭く、車がすれ違えない場所がある
- 私道で、持分の整理がついていない土地がある
- 接道の条件が悪く、そのままでは建て替えができない土地がある
これは覚えておいてください。「建て替えができない土地」というものが、実際にあるのです。今建っている家は住めます。しかし壊したら、次が建たない。
こういう土地は、住宅ローンが通りにくくなります。ローンが通らないということは、現金で買える人しか買えないということです。買い手が、一気に細ります。
四つ目。買い手の層が細いことです。
上の3つを全部足すと、こうなります。車が運転できて、坂の生活を受け入れられて、現金またはローンの目処があって、なおかつこの場所を積極的に選ぶ人。
この条件に当てはまる方が、どれだけおられるか。想像してみてください。
3. 安さの本当の意味は「出口」にあります
ここからが、今日一番申し上げたいところです。数字で申し上げます。細かい条件で変わりますので、私の実感としてお聞きください。
大池駅から徒歩10分以内、比較的平坦、駐車1台から2台、築30年前後の一戸建て。これで「780万円から1,050万円」あたりです。
同じエリアでも、坂を上がった区画、あるいはバス便になる場所。同じ広さ、同じ築年数でも「350万円から550万円」まで落ちます。
岡場や藤原台の駅近で同じような一戸建てを買おうとすれば、2,000万円台は必要です。ですから、数字だけを見れば「半額以下」に見えます。ここで飛びつかれる方が多い。
ここで、出口の話をします。
岡場の駅近マンションであれば、値段さえ間違えなければ、2か月から3か月で売れます。このエリアの、坂の上の一戸建て。私の実感で、平均10か月。1年半かかることも、2年たっても売れずに取り下げになることも、珍しくありません。
はっきり申し上げます。これは、値段を下げれば売れるという話ではないのです。
300万円の家を、200万円にしても売れないことがあります。なぜか。買う方は「安い家」を探しておられるのではなく、「住める家」を探しておられるからです。
安すぎる家には、必ず理由があります。そして買い手は、その理由を怖がります。安ければ安いほど怖がるのです。
もうひとつ、業界の構造の話をします。これは書いていいのか迷いましたが、書きます。
仲介の手数料は、売買代金に比例します。3,000万円の家を売れば、それなりの金額になります。300万円の家を売っても、ごくわずかです。
そして、はっきり申し上げます。300万円の家を売る仕事と、3,000万円の家を売る仕事は、手間がほとんど同じです。むしろ安い家のほうが、調べることが多くて手間がかかります。
ですから、どうなるか。安い物件は、後回しにされます。ポータルサイトに載せて、あとは放置。問い合わせが来たら対応する。それだけです。
これは断言できます。安いエリアの物件を売るときに一番困るのは、値段ではありません。真面目に動いてくれる会社が少ないことです。
4. 実際にあった3つの話
ここからは実例です。細かいところは変えていますが、金額と流れはそのままです。
まずJさんです。当時52歳の男性で、大阪にお勤めでした。お子さんが独立されて、ご夫婦2人になったところで、賃貸から持ち家に移りたいとお考えでした。
Jさんが見つけてこられたのが、神鉄六甲駅から徒歩14分の一戸建てでした。築32年、敷地55坪、駐車2台、庭付き。値段は「620万円」でした。
Jさんはこうおっしゃいました。「今の家賃が月9万円です。620万円なら、6年分の家賃で家が買えることになります」と。
計算としては、そのとおりです。私は反対しませんでした。ただ、3つだけお伝えしました。
- この家は、10年後にほとんど値段が付かない可能性が高いこと
- 雪と凍結で、冬に車が上がれない日があること
- いずれ運転をやめたときに、この場所での生活は非常に厳しくなること
Jさんは、それを分かったうえで買われました。「最後まで住むつもりだから、売る話はしなくていい」とおっしゃって。
ところが、10年後です。奥様のお身体の具合が悪くなり、通院が週に2回必要になりました。
大きな病院は、山を下りたところです。冬の朝、坂が凍っている日に、奥様を乗せて下りるのが怖くなったとおっしゃいました。
ご相談を受けて、私が申し上げた金額は「250万円から330万円」でした。Jさんは、しばらく黙っておられました。
はっきり申し上げました。「この値段を作っているのは築年数ではありません。この道と、この坂です。10年前から何も変わっていませんし、これから先も変わりません」と。
結局「290万円」で売れました。時間は13か月かかりました。
ここで申し上げたいのは、Jさんが失敗したということではありません。10年間、家賃9万円を払えば1,080万円出ていきます。620万円で買って290万円で売れたのなら、住居費は330万円で済んだことになります。
計算だけを見れば、損はしておられません。申し上げたいのは、その次です。
Jさんは、13か月動けなかったのです。奥様の通院が大変になってから、次の家に移るまで、13か月かかりました。この13か月は、お金では取り戻せません。
次はKさんご夫婦です。当時、ご主人が38歳、奥様が36歳。お子さんがお一人。こちらは、私が担当した売主さんの相手方として、後から事情を知ったケースです。
Kさんは、大池のバス便の区画に「480万円」で家を買われました。見に来られたのは、5月のよく晴れた日曜の午後だったそうです。
眺めがよくて、庭が広くて、そして何より安かった。ご夫婦は、その日のうちに買付を入れられました。
ここではっきり申し上げます。5月の日曜の午後に見ただけで、家を決めてはいけません。
Kさんが最初につまずかれたのは、冬でした。坂道が凍って、朝、車が下りられない日が年に何日かあります。保育園の送りに間に合わない。
次につまずかれたのが、バスです。本数が少なく、1本逃すと大きく狂います。奥様がパートに出ようとされたのですが、時間が合わないという理由で断念されました。
3年目に、ご夫婦は売却を決められました。査定は「280万円から350万円」でした。480万円で買って、3年で、です。
しかも、これで終わりではありません。買われたときに諸費用が60万円ほどかかっています。売るときにも費用がかかります。
ご夫婦は結局、その家を貸すことにされました。家賃は月4万5,000円です。売れないから貸す、という選択でした。
これは覚えておいてください。売れない家を持つと、選択肢がなくなります。持ち続けるか、貸すか、その2つしか残りません。
最後にLさんです。当時79歳の女性で、県外にお住まいでした。お母様が亡くなられて、大池の実家を相続されたご相談でした。
築48年、坂の上、駅から徒歩20分以上、敷地60坪。ご家族はどなたも神戸におられませんでした。
Lさんは、こうおっしゃいました。「母が大事にしていた家です。1,000万円くらいにはなりますよね」と。
はっきり申し上げました。「1,000万円にはなりません。私の見立てで、150万円から250万円です」と。
Lさんは、信じられないという顔をされました。無理もありません。ご両親が、当時の大金を出して買われた家です。
この家には、もうひとつ問題がありました。擁壁が古く、建て替えるとなると作り直しが必要でした。その費用が、家の値段より高くなる可能性がありました。
はっきり申し上げます。こういう不動産は、実際にあります。売っても手元に残らない、それどころか持っているだけで出ていく不動産です。
固定資産税が年に6万円ほど。年に2回、草刈りをしに来るのに、県外から交通費と宿泊費。それだけで年に10万円を超えます。
最終的に、この家は「180万円」で売れました。かかった時間は8か月でした。
Lさんは、こうおっしゃいました。「もっと早く相談していれば、母が元気なうちに片付けられたのに」と。
これは断言できます。このエリアの空き家を相続される可能性がある方は、相続してから考えては遅いのです。ご両親がお元気なうちに、一度、値段を確かめておいてください。
5. 業界の裏側を、隠さず書きます
このエリアの売買には、よくないやり方がいくつも絡みます。全部書きます。
ひとつ目。「六甲」の名前を使った売り方です。
神鉄六甲の物件が「六甲エリア」「六甲の高台」として広告に出ることがあります。嘘ではありません。駅名が神鉄六甲ですから。
しかし、六甲と聞いて多くの方が思い浮かべるのは、灘区や東灘区の南側の街です。まったく別の場所です。
物件の広告を見て「六甲」と書いてあったら、必ず最寄り駅の正式な名前を確認してください。そして、その駅から三宮まで実際に何分かかるか、乗り換えは何回かを、ご自分で調べてください。
ふたつ目。「安いから何でも売れます」と言って媒介を取る会社です。
これは売主さん側の話です。安い物件の売却を頼まれた会社が、「大丈夫です、この値段なら買い手はいますよ」と軽く言って専任媒介を取る。
そして、ポータルサイトに写真を5枚載せて終わり。あとは3か月ごとに「反応が薄いので、少し下げましょうか」と連絡が来るだけです。
なぜそうなるか。理由は先ほど書いたとおりです。安い物件は、手数料が小さいからです。
ですから、媒介をお願いされるときは、こうお聞きください。「この物件のために、具体的に何をしていただけますか」と。
「広告を出します」だけの答えなら、その会社は何もしません。「チラシを近隣に何枚まきます」「現地でこういう見せ方をします」「この層に声をかけます」と具体的に言える会社を選んでください。
三つ目。高預かりです。これは相続で持たれた方が、特に狙われます。
ご相続された方は、その家の相場をご存じありません。そこに「1,000万円くらいでいけますよ」と言ってくる会社があります。Lさんの例で申し上げたとおり、実際は200万円の物件でも、です。
高い値段で契約だけ取って、あとは半年かけて下げていく。その半年、売主さんは固定資産税と管理の手間を払い続けます。
査定書を出されたら、必ずこう聞いてください。「その根拠にした成約事例は、いつ、どこで、いくらで、駅から何分の物件ですか」と。
即答できない査定書は、根拠がありません。そして、成約事例と言いながら「売り出し価格」を持ってくる会社があります。売り出し価格は、売れた値段ではありません。
四つ目。買取の話です。安いエリアでは、買取業者の動きが露骨になります。
「250万円で買い取ります」と言われて、ほっとされる売主さんがおられます。しかし、その業者が最低限の手直しをして、480万円で売り出すことも普通にあります。
買取が悪いと申し上げているのではありません。すぐ現金にしたい、手離れよく終わらせたいというご事情があれば、買取は正しい選択です。
申し上げたいのは、比べてから決めてくださいということです。仲介で売った場合にいくらで、どのくらい時間がかかりそうか。それを聞いたうえで、買取と比べてください。
五つ目。囲い込みです。安い物件ほど、これが起きます。
他社から「あの物件、お客様が興味を持っています」と連絡が入っても、「今、商談中です」と断る。そして自社のお客様に売って、売主と買主の両方から手数料をもらう。両手というやり方です。
3,000万円の物件でもやる会社はやりますが、300万円の物件では、両手にしないと商売にならないので、より露骨になります。売主さんは、その間ずっと「反応がありませんね」と言われ続けます。
防ぎ方を申し上げます。一般媒介にして複数社に頼むか、専任にするなら「他社からの問い合わせが何件あったか」を毎回、書面で報告してもらってください。
この一言を最初に言っておくだけで、囲い込みはかなり防げます。言われた会社は、まずやりません。
6. デメリットを全部書きます
いい面ばかり書くと嘘になりますから、弱点を全部並べます。
- 駅前に店がなく、買い物は車が前提です
- 坂が厳しく、平坦に歩ける区画がごく限られます
- バス便の区画が広く、本数が多くありません
- 冬に雪と凍結があり、三宮の天気とはまったく違います
- 擁壁のある物件が多く、作り直しに数百万円かかることがあります
- 接道や私道の条件が悪く、建て替えできない土地があります
- 住宅ローンが通りにくい物件があり、買い手が現金の方に限られます
- 神戸電鉄の本数がこの区間は多くなく、運賃も安くありません
- 売却に、平均で10か月前後かかります
- 真面目に売却活動をしてくれる会社が、多くありません
そして、これも書いておかなければなりません。北区全体が人口の減る局面に入っています。その中でも、このあたりは端に位置します。
はっきり申し上げます。縮む街は、端から縮みます。真ん中から縮む街はありません。
空き家は、これから増えます。つまり、あなたが売るときには、周りにも同じような家が何軒か出ているということです。
7. それでも、ここが向いている方はおられます
ここまで厳しいことばかり書きましたので、公平に書きます。このエリアが本当に良い場所になる方は、確かにおられます。
- 車の運転が生活の中心にあり、しばらくやめる予定がない方
- 在宅の仕事で、毎日の通勤がない方
- 広い庭や、静かな環境に、はっきりした価値を感じておられる方
- この家を最後の家にすると決めておられる方
こういう方には、良い場所です。同じ予算で、他所では絶対に買えない広さと静けさが手に入ります。
それから、もうひとつ。現金でお買いになれて、値段が付かなくなっても構わないと最初から割り切っておられる方。
こういう方は、ここで損をしません。なぜなら、最初から出口を期待しておられないからです。
50年やってきて分かったことがあります。このエリアで後悔される方は、値段だけを見て買われた方です。後悔されない方は、出口がないと分かったうえで買われた方です。
同じ家を、同じ値段で買っても、この2人の10年後はまったく違います。
まとめ
大池・神鉄六甲エリアは、安いです。北区の中でも群を抜いて安い。しかしその安さは、お買い得だから安いのではありません。買いたい人が少ないから安いのです。
安く買えたということは、安くしか売れないということです。そして、売れるまでに平均で10か月前後かかります。売れずに取り下げになることもあります。
ですから、このエリアで家を選ばれるときは、値段ではなく、この4つを見てください。
- 平坦に歩けるか
- 家の前まで車が入るか
- 擁壁と接道はどうなっているか
- この家に建て替えができるか
この4つが揃っていれば、値段が少し高くても、そちらを選んでください。その差額は、売るときに必ず返ってきます。
これは断言できます。不動産で一番怖いのは、高く買うことではありません。売れない物を持つことです。
高く買った家は、住みながら取り返せます。売れない家は、住みながらどんどん重くなります。
最後に、これだけは申し上げたい
もし今、大池や神鉄六甲のあたりで家をお探しなら、買われる前に一度お聞かせください。その物件が、10年後にいくらで、どのくらいの期間で売れそうか。私の見立てを、正直に申し上げます。
そして、このエリアに家をお持ちの方、あるいはご実家がこのあたりにある方。ご両親がお元気なうちに、一度、値段を確かめておいてください。
相続してからでは、選べる道が減ります。Lさんのように「もっと早く相談していれば」とおっしゃる方を、私はもう何十人も見てきました。
売れないと分かっているなら、私はそう申し上げます。そのうえで、では今どうするのが一番損が少ないかを、一緒に考えます。
私は売るために書いているのではありません。損をしていただかないために書いています。相談だけで結構です。売る売らないは、その後で決めていただければいいのです。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


