カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/09/06 06:58
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、農地の売却についてお話しします。
相続で畑や田んぼを引き継いだ方から、「これ、いくらで売れますか」と聞かれることがよくあります。
ご本人の頭の中には、たいてい「坪いくら」という数字が入っています。近所の人に聞いた話だったり、ネットで調べた宅地の相場だったりします。
ここで一歩立ち止まってください。
農地の売却は、値段の話をする前に、もっと手前で決まってしまう部分があります。
結論から申し上げます
農地は、値段の問題ではありません。許可が下りるかどうかの問題です。
はっきり申し上げます。農地は、売主が「売りたい」と思い、買主が「買いたい」と思って、値段が合っても、それだけでは売れません。
役所の許可という第三の関門があります。そしてこの関門は、お金では動きません。
もう一つ申し上げます。農地の売却は、決着まで時間がかかります。
早くて半年、普通で1年、青地と呼ばれる区域なら1年半から2年、しかも最後まで行って通らないことがあります。
これは断言できます。農地を「土地の一種」だと思って売りに出した人は、ほぼ全員、途中で予定が狂います。
1. 農地は「誰にでも売れる土地」ではありません
まず、農地を農地のまま売る場合の話をします。
このときは農地法3条の許可が必要です。農業委員会という組織が審査をします。
ここで大事なのは、審査されるのは土地ではなく、買う人だということです。
買主がその農地をきちんと耕作するのか。ちゃんと農作業に従事するのか。今持っている農地を放置していないか。そういうことを見られます。
つまり、お金を持っているだけでは買えません。
「隣に住んでいる会社員の方が家庭菜園にしたいと言っている」という話がよく出ますが、これは原則として通りません。
以前は「何アール以上持っていないと農地を買えない」という下限面積の要件がありました。
これは令和5年、2023年の4月に廃止されています。ですから、そこだけ見て「農地は買いやすくなった」と説明する人がいます。
ただ、廃止されたのは面積の要件だけです。
きちんと耕作すること、農作業に常時従事すること、この根っこの要件は残っています。ここを混同したまま話を進めると、契約してから許可が下りず、白紙に戻ります。
2. 宅地にするには「転用の許可」が要ります
次に、農地を宅地にして売る場合です。
自分で用途を変えるなら4条、売って買主が用途を変えるなら5条。実際の売却では、ほとんどが5条です。
ここで市街化区域か、市街化調整区域かで大きく変わります。
市街化区域内の農地なら、農業委員会への届出で足ります。届出ですから、要件を満たしていれば受理されます。期間も短くて済みます。
ところが、神戸市北区の農地はどうか。
大沢、道場、八多、淡河、このあたりに広がっている農地の多くは、市街化調整区域の中にあります。
市街化調整区域では、届出ではなく許可です。
しかも農地法の許可だけでは家は建ちません。都市計画法の開発許可、あるいは建築許可という、もう一枚の関門が待っています。
50年やってきて分かったことがあります。
農地の売却でつまずく人は、農地法だけを見ています。実際には、農地法と都市計画法の両方をくぐらないと、宅地としては売れないのです。
3. 青地か白地か、ここで運命が分かれます
農地には、もう一つ大きな分かれ道があります。
農業振興地域の中の「農用地区域」に入っているかどうかです。現場では青地、白地と呼び分けています。
青地というのは、行政が「ここは農業を続けてもらう場所です」と線を引いた区域です。
ここに入っている農地は、まず農用地区域から外してもらう手続き、いわゆる農振除外から始まります。
この農振除外が、時間の正体です。
自治体によりますが、申請の受付が年に2回しかない、というところが珍しくありません。
タイミングを外せば、その時点で半年待ちです。受け付けてもらってからの審査でさらに半年から1年。
そして、ここが一番大事なところです。
農振除外は、申請すれば通るものではありません。周りの農地に影響が出ないか、他に代わる土地がないか、そういう条件を満たさなければ認められません。
除外が通って、ようやく農地法の転用許可の入口に立ちます。
つまり青地の農地は、関門が三つあるということです。
白地であれば、農振除外は要りません。その分、話は早く進みます。
ですから私は、農地のご相談を受けたら、値段の話より先に、必ずこれを調べます。
青地か、白地か。市街化区域か、調整区域か。この二つで、売れるまでの時間も、値段も、まったく別の話になるからです。
4. 買主のローンと、契約から決済までの長い空白
ここも見落とされます。
転用の許可が下りるまでは、所有権の移転登記ができません。
ですから農地の売買契約は、許可が下りることを条件にした契約になります。契約はしたけれど、決済はまだ、という状態が何か月も続きます。
この空白の間に、何が起きるか。
- 買主の気が変わることがあります
- 買主の資金の都合が変わることがあります
- 買主が別の土地を見つけてしまうことがあります
銀行も、許可が下りていない土地には慎重です。
個人の買主が住宅ローンで農地を買おうとすると、たいてい話がややこしくなります。ですから農地の買主は、現金を持っている業者か、土地の扱いに慣れた人に偏ります。
買い手が偏るということは、値段が上がりにくいということです。
これは覚えておいてください。
5. 現況が畑でなくても、地目が農地なら農地法がかかります
よくあるのがこれです。
「もう20年、何も作っていません。草だらけです。畑じゃありません」
気持ちは分かります。けれど、登記の地目が田や畑のままなら、農地法の対象として扱われます。
現況が荒れているかどうかではなく、書類の上でどうなっているかで判断されるのです。
逆に、地目が畑のまま、いつの間にか物置や駐車場になっている土地もあります。
これは違反転用にあたる可能性があります。売るときになって、その始末から始めなければならないことがあります。
長年放置して、もう農地に戻せないほど荒れている場合には、非農地証明という手続きで農地法の網から外せることがあります。
ただ、これも自治体ごとに扱いが違いますし、「荒れていれば必ず出る」というものではありません。
6. 実際にあった話、大沢のAさんの300坪
具体的にお話しします。
大沢にお住まいだったAさん、当時72歳。
お父様から畑を相続されました。300坪ほど、約990平方メートルです。ご本人は会社勤めを定年まで勤め上げた方で、農業はまったくされていません。
固定資産税は年間8千円ほど。金額としては大したことがありません。
ただ、草刈りを年2回、業者に頼んで1回3万円。年に6万円が出ていきます。近所から「草が伸びている」と言われるのが一番つらい、とおっしゃっていました。
Aさんが最初に持っていた数字は「坪3万円」でした。
近所の方から「あそこは坪3万にはなる」と聞かれたそうです。300坪で900万円。頭の中では、その金額で計算が始まっていました。
調べました。青地でした。
農振除外の申請から始めることになりました。
窓口は年2回。1回目のタイミングには書類が間に合わず、次の回まで半年待ちました。
そこから審査に入って、結果が出たのが、さらに1年後です。
通りませんでした。
周囲がまとまった農地で、そこだけ穴を開けるのは難しい、という判断でした。
Aさんが動き出してから、1年半が過ぎていました。
その間、草刈り代を2年分、約12万円払い続けています。
最終的にどうなったか。
隣で耕作をされている農家の方に、農地のまま、3条許可で買っていただきました。坪1万2千円、300坪で360万円です。
最初に描いていた900万円から、540万円下がりました。
Aさんが最後にこうおっしゃいました。
「1年半かけて、値段が半分以下になった。最初にこの話を聞いていたら、迷わずこっちを選んでいた」
もう一件、対照的な話をします。
有野の近くに畑をお持ちだったBさんご夫婦。200坪ほど。
こちらは白地でした。市街化調整区域ではありましたが、既存の集落に接していて、都市計画法の側の要件も満たせる見込みがありました。
建売をされる業者さんに、5条許可を条件にした契約でお話をまとめました。
契約から決済まで8か月。坪12万円、2,400万円で話が始まりましたが、造成の途中で水路の付け替えが必要だと分かり、最終的に2,150万円で決済しています。
白地と青地。同じ「農地」という言葉でひとくくりにされていますが、中身はこれだけ違います。
7. 業界の裏側、農地の「とりあえず預かり」
ここからは、業界の中の話をします。
まず知っておいていただきたいのは、農地の仲介は、不動産会社にとって割に合わない仕事だということです。
役所に何度も足を運びます。農業委員会、農林部局、都市計画の窓口、それぞれ担当が違います。
書類を集め、隣地の同意を取り、営農計画書を作り、それで1年以上かかります。
その挙句、価格は宅地よりずっと安い。仲介手数料も安くなります。
しかも通らなければ、報酬はゼロです。
ですから、正直に「これは時間がかかりますし、通らない可能性もあります」と言う会社は、実は少数派です。
よくあるのが、宅地の相場で査定書を出してくる会社です。
「このあたりの土地は坪12万円ですから、300坪で3,600万円ですね」と、周辺の宅地の取引事例を並べた立派な査定書を持ってきます。農地であることに一行も触れずに、です。
売主さんは喜びます。そして専任媒介契約に判を押します。
それから、動きません。たまに「問い合わせはあるんですが」という電話が入るだけで、半年、1年が過ぎていきます。
なぜそうするのか。
農地でも、とりあえず預かっておけば、いつか転用の話が来るかもしれない。他社に取られるより、押さえておこうということです。これがいわゆる「囲い込み」の一種です。
もう一つ、「うちは農地でも買い取れます」という買取業者の話をします。
嘘ではありません。実際に買います。ただし、その値段は、転用が通らなかったときのリスクを全部差し引いた金額です。
坪3万円で売れる可能性のある土地を、坪7千円で買う。
そして自分たちの時間と手間で許可を通して、坪3万円で売る。その差が彼らの利益です。
商売としては、まっとうです。私は否定しません。
ただ、売主さんが「農地はこんなものか」と思い込んだまま判を押してしまうのが、もったいないのです。
それから、「知り合いに農家がいるので、その人に買ってもらいましょう」という話。
これも要注意です。買主も自分で連れてくれば、両手取引になります。売主さんの側に立って値段を交渉する動機が、その瞬間になくなります。
8. デメリットを正直に申し上げます
ここまで読んで、「農地は売らないほうがいいのか」と思われた方もいるでしょう。デメリットを隠さず申し上げます。
まず、時間です。
早くて半年、青地なら2年近くかかります。その間、あなたは草を刈り続け、税金を払い続けます。
次に、結果が保証されないことです。
農振除外も転用許可も、申請すれば通るものではありません。1年かけてゼロ、ということが本当にあります。
それから、値段です。
宅地の相場を基準にすると、必ず落胆します。農地のまま売るなら、宅地の10分の1になることも珍しくありません。
相続税の納税期限にも間に合わないことがあります。
相続税は原則10か月以内です。農地を売ったお金で払おうと考えていると、間に合いません。ここは別の資金を用意しておく必要があります。
そして、動いてくれる不動産会社を探すのが、そもそも大変です。
正直なところ、農地の相談は断る会社のほうが多いのです。
それでも私は、放置だけはおすすめしません。
理由は二つあります。
一つは、相続が重なるからです。今なら相続人3人で決められる話が、次の代になれば7人、9人になります。そうなると農地は動かせなくなります。
もう一つは、時間が経つほど荒れて、隣の農地に迷惑がかかり、地域での立場が悪くなるからです。北区のような土地では、これが一番重い話になります。
まとめ
農地の売却で、最初に確かめるべきことをもう一度申し上げます。
- 登記の地目は何か
- 市街化区域か、市街化調整区域か
- 青地か、白地か
- 隣地や道路、水路との関係はどうなっているか
- 農業を続ける意思のある買い手が近くにいるか
この五つが分かれば、売れるまでの道筋と、おおよその時間が見えてきます。値段の話は、その後です。
結論をもう一度申し上げます。
農地は、値段の問題ではなく、許可が下りるかどうかの問題です。そして、決着まで時間がかかります。
逆に言えば、道筋さえ最初に押さえておけば、無駄な1年を使わずに済みます。
Aさんが1年半かけてたどり着いた答えは、実は最初の1か月で見えていた答えでした。
最後に、これだけは申し上げたい
農地を相続された方の多くは、農業をやってこられていません。
だから分からなくて当たり前です。分からないことを恥ずかしがって、誰にも聞かないまま何年も置いておく、これが一番もったいない。
まずは、ご自分の農地が青地か白地か、それだけでも確かめてください。
それが分かるだけで、この先の話がまったく変わります。
売る、売らない、を決める前で構いません。
「うちの畑、どうなっているんでしょうか」というだけのご相談で結構です。調べてお答えします。
売れないものを「売れます」とは申しません。時間がかかるものは、かかると申し上げます。
そのうえで、どうするのが一番損をしないか、一緒に考えさせてください。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


