カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/03 07:16
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、いつもの売り方の話とは少し違って、なぜ私が神戸市北区だけで50年やってきたのかという、私自身の話をさせてください。
「あきちゃん、なんで北区だけなんや。三宮や芦屋のほうが、よっぽど儲かるやろ」
同業の集まりに行くと、必ずこれを言われます。50年、言われ続けてきました。
正直に申し上げます。そのとおりです。
北区の一戸建ての成約価格は、市内の南のほうと比べたら半分から3分の2くらいのことが多い。同じ手間をかけて、頂ける手数料は半分。商売としては、決して効率のいい場所ではありません。
それでも私は、50年ここから一歩も動きませんでした。今日はその理由を、きれいごと抜きでお話しします。
結論から申し上げます
私が神戸市北区にこだわるのは、地元が好きだから、という話だけではありません。
知らない土地の不動産を扱うと、お客さんに損をさせるからです。
これは断言できます。不動産という商品は、資料を読めば分かるものではありません。その場所に何十年も通って、雨の日も冬の朝も見てきた人間にしか、分からないことがあります。
そしてその「分からないこと」が、300万円、500万円という差になって、お客さんの手取りに跳ね返ってくるのです。
1. 値段は「地図」ではなく「記憶」で決まる
不動産の査定は、今はパソコンでもできます。周辺の成約事例を並べて、面積で割って、駅からの距離で補正する。それだけなら、私でなくてもできます。
けれど、北区の土地はそれでは値段が出ません。
たとえば、同じ町名で、同じ50坪で、同じ駅から徒歩12分の土地が2つあったとします。
地図の上ではほとんど同じです。ところが片方は2,000万円ですっと売れて、もう片方は1,400万円でも半年買い手がつかない。この地域では、こういうことが普通に起こります。
何が違うのか。
- 坂の向き
- 冬の朝、路面が凍るかどうか
- 前の道が朝の通学路になっているかどうか
- 裏の斜面が北向きで、午後2時に日陰になるかどうか
- 昔そこに小さな水路があって、大雨のときどう水が出たか
こういうことは、登記簿にも図面にも一行も書いてありません。
私は50年、この地域を自転車と車で回ってきました。だから頭の中には、地図ではなく「記憶」の形で入っています。
50年やってきて分かったことがあります。土地の値段を決めているのは、数字ではなく、その土地が持っている癖です。
2. 買う人の顔が浮かぶかどうか
もうひとつ、大事なことを申し上げます。
不動産の値段は、売る人が決めるものではありません。買う人が決めるものです。
ですから査定のときに一番大事なのは、「この物件を、どこの誰が買うのか」が浮かぶかどうかです。
北区の物件なら、私は浮かびます。
道場や大沢のほうの広い土地なら、車を2台置きたい30代の共働きのご家族。有馬に近いエリアなら、いま西宮に住んでいて、実家の親の近くに戻りたいと言っている50代。北鈴蘭台や山の街の古い戸建てなら、予算を抑えて土地を広く取りたい職人さん。
顔が浮かぶから、「この物件は、その人にどう見えるか」で値段が組めます。
これが芦屋の物件だと、私には浮かびません。誰が買うのか知らない人間が値段を付けたら、それはただの当てずっぽうです。当てずっぽうの値段でお客さんの大事な資産を出すわけには、いかんのです。
3. 50年前の造成を、私は見ている
北区は、山を削って造られた住宅地がたくさんあります。
昭和40年代から50年代にかけて、あちこちで造成が進みました。私はその工事を、20代のころに現場で見ています。
どこが元の地山で、どこが盛り土か。どの擁壁がいつごろ積まれたものか。どの団地が上下水道をいつ入れ替えたか。
これは資料には残っていません。残っていても、後から取り寄せるには時間がかかります。
でも私は覚えています。だからお客さんに「ここは盛り土のほうなので、買主さんから地盤の質問が必ず来ます。先に調べておきましょう」と、契約前に言えます。
はっきり申し上げます。この「先に言える」かどうかが、あとで揉めるか揉めないかの分かれ目です。
4. 実例:有野台のAさん、査定差430万円の話
3年ほど前の話です。
Aさん(74歳)が、有野台の実家を相続されました。お母様が亡くなられて、築42年の木造2階建てが残った。Aさんご本人は西宮にお住まいで、北区のことはほとんどご存じない。
大手2社に査定を頼んだところ、1,780万円と1,850万円。
Aさんは「まあ、こんなもんか」と思われたそうです。そこにご紹介で、私が呼ばれました。
私は現地に立って、すぐに2つのことを申し上げました。
ひとつ。この一帯は昭和44年前後の造成で、前面道路が6m確保されている。北区の古い住宅地では、4mを切っていて再建築のときに敷地を下げないといけない場所がいくらでもあります。ここは、それがない。
ふたつ。南側の斜面は市の緑地です。つまり、あそこには一生、建物が建ちません。南向きの日当たりが、将来にわたって保証されている土地なのです。
これは資料を見ただけでは分かりません。地図上は「がけ地が隣接」としか見えない。むしろ減点材料に見えます。
私は「2,300万円で出しましょう」と申し上げました。Aさんは「そんな値段で売れるんですか」と驚かれた。
売り出して1か月半、小学生のお子さんが2人いるご夫婦が「南側に一生家が建たないんですか」と食いついて、2,280万円で成約しました。大手の査定より、430万円上です。
私が優秀だったのではありません。私が、その斜面が市の緑地だと知っていただけです。50年この町にいれば、誰でも知っています。
逆に言えば、この町にいない人間には、一生分かりません。
5. 私が明石の物件を断った話
同じ年に、こういうこともありました。
Bさんご夫婦が、北区のご自宅を私に任せてくださった。無事に売れて、引き渡しも済んだ。そのあとで、こう言われました。
「先生、実は明石にも親の家があるんです。あれも一緒にお願いできませんか」
ありがたい話です。手数料でいえば、100万円近くになる仕事でした。
私は、お断りしました。
「申し訳ありません。私は明石の相場も、買う人の顔も知りません。今の私がやったら、たぶん200万から300万、安く売ってしまいます。明石で長くやっている業者を紹介させてください」
Bさんは、ぽかんとしておられました。「断る不動産屋、初めて見ました」と。
けれど、これでいいと思っています。知らんもんは、知らん。知らんもんに手を出したら、お客さんが損をする。50年やってきて、私が守ってきたのは、その一点だけです。
6. 業界の裏側:「対応エリア 兵庫県全域」の正体
ここからは、業界の内側の話をします。
チラシやホームページに「対応エリア 兵庫県全域」「関西一円対応」と書いてある会社があります。あれ、どういう意味かご存じですか。
正直に申し上げます。多くの場合、「媒介契約さえ取れれば、場所はどこでもいい」という意味です。
なぜなら、媒介契約を取ること自体には、業者側にほとんどコストがかからないからです。査定書はシステムが出します。現地は1回、写真を撮りに行くだけ。あとはレインズと自社サイトに載せて、置いておく。
売れれば手数料が入る。売れなくても、業者は損をしません。損をするのは、時間を失う売主さんだけです。
もうひとつ、申し上げにくいことを言います。
遠方の物件は、業者にとって「案内が面倒な物件」です。片道1時間かけて内見の立ち会いに行くのは、正直しんどい。
そうすると何が起きるか。他社から「お客さんを案内したい」と連絡が来ても、「今、商談中でして」と断ってしまう。いわゆる「囲い込み」です。
囲い込みというと、両手取引で手数料を2倍取るための悪質な手口として語られます。それも事実です。けれど現場では、「遠くて面倒だから、動きたくない」という理由で、結果的に同じことが起きているケースも少なくありません。
売主さんから見れば、理由が悪意でも面倒でも、結果は同じです。売れません。
それから、大手の担当者は2年から3年で異動します。これは会社の仕組みなので、担当者個人が悪いわけではありません。しかし結果として、その地域の記憶が誰にも溜まりません。
私の店には、50年分のファイルが残っています。「あの土地、20年前にも一度売りに出て、そのとき境界で隣とひと悶着あった」ということまで分かります。それが交渉のときに、効きます。
7. デメリット:北区にこだわることの、正直な弱点
ここまで良いことばかり書いたので、正直に弱点も申し上げます。
まず、北区以外は本当に分かりません。
お客さんに「大阪の物件もお願いします」と言われても、お断りするしかない。商売としては、明らかに損をしています。息子には「もったいない」とよく言われます。
次に、狭い地域だからこそ、噂が回ります。
「あそこの家、売りに出とるらしい」という話は、驚くほど速く広がります。離婚や借金、事業の整理といった事情でご売却される方にとっては、これは正直つらいことです。
ですから私は、看板も出さず、チラシもまかず、こちらの手持ちの買主候補にだけ声をかける、という売り方も用意しています。ただ、その分だけ買主の母数は減るので、値段は少し下がることがあります。ここは正直にお伝えしています。
三つ目。地元だからこそのしがらみがあります。
売主さんも買主さんも、両方うちのお客さん、ということが実際にあります。そういうとき、私はどちらかに肩入れできません。だから私は、売主と買主の両方から手数料をいただく取引を、できるだけ避けてきました。同業からは「もったいない」と笑われます。それでも、両方に「あんたはどっちの味方や」と思われたら、この町では50年もちません。
四つ目。これが一番申し上げにくいことです。
北区にも、正直これから厳しい地区があります。
坂の上で、駅から遠く、バス便も減っている団地。今は静かでいい町ですが、10年後、20年後に買い手がつくかというと、私は楽観していません。
地元愛では、資産は守れません。
だから私は、ご相談に来られた方に「ここは早めに動かれたほうがいい」と申し上げることがあります。地元の人間として言いにくい話ですが、言わなければ嘘になります。
まとめ
もう一度、結論を申し上げます。
私が神戸市北区にこだわるのは、この町が好きだから、それだけではありません。知っている土地でしか、お客さんに損をさせない仕事はできないからです。
土地の値段は、地図ではなく記憶で決まります。買う人の顔が浮かばない人間が付けた値段は、当てずっぽうです。50年前の造成を見ていない人間には、契約前に「先に言っておくべきこと」が言えません。
そして私は、明石の物件を断ります。知らんからです。
エリアが狭いことは、業者にとっては弱みです。断る仕事のほうが多いくらいです。
けれど、お客さんにとっては強みになります。それだけは、50年やってきて確信しています。
最後に、これだけは申し上げたい
もし今、北区や西宮の北のほう、三田あたりで、ご実家やご自宅の売却を考えておられるなら。
「その会社は、この土地に何年いますか」
これを一度、聞いてみてください。
担当者が何年その支店にいるか。会社がその地域で何年商売しているか。それだけでも、ずいぶん見えるものがあります。
そして、まだ売ると決めていなくても構いません。「うちの土地、どういう場所なんやろか」というだけのご相談で結構です。
値段を付けにくい土地ほど、値段を付けられる人間に相談してください。それだけで、数百万円が変わることがあります。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


