カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/07/19 10:10
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、少し重たい話をします。「この家は、子どもに残してやりたい」という、あの言葉についてです。
私はこの言葉を、50年で何百回聞いたか分かりません。親御さんの気持ちとしては、これほど自然なものはないと思います。自分が一生かけて手に入れた家を、子どもに渡してやりたい。当たり前です。
ですが、その「残してやりたい」が、子どもさんにとって重荷になってしまった家を、私は数え切れないほど見てきました。
ここで一歩、立ち止まってください。今日の話は、いつかあなたのご家庭にも必ず関係してきます。
結論から申し上げます
不動産は、残せば喜ばれるものではありません。
残して喜ばれる不動産と、残されて困る不動産が、はっきり分かれます。そして、その分かれ目は「値段」ではありません。「売れるかどうか」です。
はっきり申し上げます。子どもさんが困るのは、価値の低い不動産ではありません。売ろうにも売れない不動産です。
1. 「残す」と「押しつける」は紙一重です
親御さんは「財産を残す」つもりでいます。ですが、子どもさんの側から見ると、相続した不動産は財産であると同時に、義務でもあります。
固定資産税がかかります。草が伸びれば近所から苦情が来ます。屋根が傷めば直さないといけません。空き家のまま置いておけば、10年で家は驚くほど傷みます。
神戸市北区で、築45年の一戸建てを相続された方がいらっしゃいました。ご長男のAさん(52)です。大阪にお住まいで、ご自身の持ち家がありました。実家に戻る予定はありません。
固定資産税は年9万円ほど。それだけ見れば、大した負担ではないように思えます。ですが、実際にAさんが払い続けたのは、それだけではありませんでした。
- 年2回の草刈りに 4万円
- 台風で飛んだ瓦の修理に 18万円
- 火災保険が空き家扱いになり、掛金が上がって年 4万円
- 月に一度、大阪から車で1時間半かけて見に来る時間
Aさんはこうおっしゃいました。「親父には感謝しています。でも、正直に言うと、この家は僕にとって毎月のしかかってくる宿題なんです」
これが、現実です。
2. 売れる家を残すか、売れない家を残すか
50年やってきて分かったことがあります。子どもさんが本当に助かるのは、「高い不動産」ではありません。「換金できる不動産」です。
たとえば、藤原台や岡場駅の徒歩圏にある家。これは残されても子どもさんは困りません。使わないなら売ればいい。買い手がいます。
一方で、私が「これは残さないほうがいい」と申し上げてきたのは、こういう不動産です。
- 再建築ができない土地
- 前面道路が狭く、車が入らない土地
- 山を切り開いた造成地の奥のほう
- 擁壁が古く、直すのに数百万かかる土地
- 農地や山林で、市街化調整区域にあるもの
- 共有名義になっている土地
こういうものは、価値がゼロなのではありません。売る手段が極端に少ないのです。
不動産で一番怖いのは、値段が安いことではありません。買い手がいないことです。値段が安いだけなら、安く売れば終わります。買い手がいなければ、永久に終わりません。
3. 一番多い失敗は「とりあえず全部残す」です
これは断言できます。相続で子どもさんが苦労するご家庭の大半は、親御さんが「何も決めずに」亡くなられたご家庭です。
悪気があるわけではありません。ただ、「まだ元気だから」「そのうち考える」と後回しにされているうちに、その日が来てしまうのです。
私が担当した中で、一番しんどかったケースをお話しします。三田市にお住まいだったBさん(享年86)のご家庭です。
Bさんが残されたのは、ご自宅と、若い頃に買われた山林、それから昔の同僚と共同で買った土地の持分でした。3つとも不動産です。現金はほとんどありませんでした。
お子さんは2人。長女のCさん(59)と、長男のDさん(56)です。
ご自宅は売れました。ここまでは順調でした。問題は山林と、共同名義の土地です。
山林は、買い手が見つかりませんでした。不動産屋に頼んでも「うちでは扱えません」と断られる。値段の問題ではなく、そもそも市場がないのです。
共同名義の土地は、もっと厄介でした。共同で買った同僚の方もすでに亡くなられていて、その相続人がどこにいるのか誰も知らない。全員の同意がなければ売れません。
結局、この2つは今も、CさんとDさんの名義のまま残っています。Cさんが私におっしゃった言葉を、今でも覚えています。
「父は良かれと思って残してくれたんでしょうけど、これ、私が死んだら子どもに同じことをさせるんですよね」
そのとおりなのです。売れない不動産は、世代を越えて引き継がれていきます。しかも、相続のたびに権利者が増えて、どんどん売りにくくなっていきます。
4. 業界の裏側を、正直にお話しします
不動産会社は、売れる不動産の相談には熱心です。当たり前です。売れれば仲介手数料が入るからです。
ですが、売れない不動産の相談には、本当に冷たい会社があります。「うちでは扱えません」で終わり。ひどいところは、電話にも出なくなります。
それだけならまだいいのですが、もっとよくないのはこういうやり方です。売れる不動産と売れない不動産をセットで持ち込まれたときに、売れるほうだけを先に売って、売れないほうは「また今度考えましょう」と放置する。
ご遺族からすれば、売れるほうが片付いたので、一件落着したような気になります。ですが、本当の問題は何も解決していません。
もう一つ、申し上げておきたいことがあります。近年、「不要な不動産を引き取ります」という業者が増えました。引き取り料として、こちらが数十万円から百万円単位のお金を払って、引き取ってもらう仕組みです。
これ自体は、選択肢として悪いものではありません。本当に処分の道がない不動産なら、お金を払ってでも縁を切るという判断は、ときに正しいです。
ですが、中には、実は普通に売れる不動産まで「これは価値がありませんね」と言って引き取り料を取り、その後で普通に転売している業者もあります。
引き取り業者に渡す前に、必ず一度、まともな不動産屋に「本当に売れないのか」を確認してください。これだけで、数十万円が守られることがあります。
5. デメリットも正直に書きます
ここまで読んで、「じゃあ、生きているうちに売ってしまえばいいのか」と思われたかもしれません。そう単純でもありません。正直にお話しします。
まず、親御さんが生きているうちに売ると、譲渡所得税がかかることがあります。相続してから売ったほうが、税金の面で有利になるケースがあるのです。
相続した空き家を売る場合の「3000万円の特別控除」という制度もあります。要件は細かいのですが、うまく当てはまれば、税負担が大きく変わります。
ですから、「早く売れば必ず正解」ではありません。ここは税理士さんに一度確認していただく必要があります。
それから、もっと大事なことがあります。家を売るというのは、親御さんにとって、住む場所を失うということです。
50年住んだ家です。庭に植えた木があります。柱に子どもの背丈の傷が刻んであります。「税金で得だから売りましょう」と、私は簡単には言えません。
私が申し上げたいのは、売れということではないのです。決めておいてくださいということです。
6. 親が元気なうちに、これだけはやってください
やることは、そう多くありません。
一つ目。持っている不動産を、全部書き出す。
自宅だけではありません。昔買った山林、田んぼ、共有の土地、遠方の別荘地。全部です。ご本人しか知らない不動産が、必ずと言っていいほど出てきます。
二つ目。それぞれについて、「売れるかどうか」を一度確認する。
査定して値段を出すという話ではありません。「これは買い手がいるのか、いないのか」を知るということです。ここが分かるだけで、打つ手が変わります。
三つ目。売れないものは、親御さんが元気なうちに手を打つ。
売れない不動産の処分は、時間がかかります。半年、一年かかることも珍しくありません。しかも、名義人ご本人が動けるうちのほうが、圧倒的にやりやすいのです。亡くなってから相続人が動こうとすると、書類の数が一気に増えます。
四つ目。誰に何を残すのかを、口に出して伝えておく。
遺言があるかどうかで、その後の10年が変わります。
まとめ
50年やってきて分かったことがあります。
子どもさんに本当に喜ばれるのは、大きな不動産ではありません。整理された不動産です。
売れるものは残していい。使ってもらえばいい。売りたければ売ってもらえばいい。売れないものは、親御さんの代で片付けておく。
これができているご家庭のお子さんは、相続のときに「ありがとう」と言います。これができていないご家庭のお子さんは、相続のときに黙り込みます。
私は、その両方を、この目で何十回も見てきました。
最後に、これだけは申し上げたい
「うちの不動産、子どもに残して大丈夫でしょうか」
この相談を、私は一番大事にしています。
売る売らないの話ではありません。あなたが残そうとしているものが、お子さんにとって支えになるのか、荷物になるのか。それを一緒に見ておきたいのです。
値段をつけるだけなら、どこの会社でもできます。私がやりたいのは、その先の話です。
ご自宅の登記簿と、思い当たる不動産をメモしたものだけお持ちください。あとはこちらで調べます。お子さんに、いいものを残しましょう。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


