カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/24 08:27
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、少し言いにくい話をします。北区で一番売りにくい立地はどこか、という話です。
50年もこの仕事をしていますと、「売ってください」と頼まれた瞬間に、正直、胃のあたりが重くなる物件があります。
家が悪いわけではありません。持ち主さんに落ち度があるわけでもありません。手入れも行き届いている。ご家族の思い出も詰まっている。
それでも、立地だけで決まってしまうことがあるのです。
普通、不動産屋はこの話をしません。
「大丈夫ですよ、きっと売れますよ」と言って媒介契約だけ先に取って、3か月経ってから「そろそろ値段を考えましょうか」と切り出す。そのほうが仕事になるからです。
私はそれをやりません。先に申し上げます。
結論から申し上げます
北区で一番売りにくいのは、バス便で、坂の上にあって、玄関まで階段を上がる家です。
この3つが重なった物件。これが断トツで苦労します。
はっきり申し上げます。この3つがそろっていると、同じ広さ、同じ築年数の駅近物件と比べて、成約価格で3割から4割は違ってきます。
「そんなに違うのか」と思われるでしょう。違うのです。私が過去に苦労した物件を思い出して並べてみたら、判で押したように同じ条件でした。
なぜそうなるのか、順番にお話しします。
1. バス便であること
北区は広いです。駅から歩ける範囲に住んでいる方のほうが、実は少ないくらいです。
だからバス便そのものが悪いとは言いません。私自身、バス便のエリアで何百件と売買をまとめてきました。
問題は、買う側の見え方です。
不動産のポータルサイトで家を探すとき、買主さんはまず「駅からの距離」で絞り込みます。「徒歩15分以内」にチェックを入れる。この瞬間に、バス便の物件は画面から消えます。
存在すら知られないのです。
もうひとつ。バスの本数です。
私が今扱っているエリアでも、20年前は日中に1時間4本あった路線が、今は2本になっているところがあります。土日はもっと減る。
買主さんは意外とここを調べます。スマホで時刻表を見て、「これは無理だ」と判断されて終わりです。内覧にすら来ません。
ここで一歩立ち止まってください。
「うちはバス停まで3分だから大丈夫」とおっしゃる方がいます。バス停までの距離ではありません。バスが何時まで走っているか、朝の通勤時間に座れるか、雨の日はどうか。買主さんが見ているのはそこです。
2. 坂の上にあること
北区は坂の街です。これはもう仕方がありません。
ただ、坂にも売れる坂と売れない坂があります。
売れる坂は、車で上がりきったところに家があって、家の前が平らになっている坂です。フラットな駐車場が取れていれば、買主さんは「まあ車生活だから」と納得します。
売れない坂は、上がった先の道がさらに狭くて、家の前で車の切り返しが必要な坂です。
以前、鈴蘭台の高台にある物件をお預かりしました。
道幅が3.6メートル。上り坂の途中で、家の前で一度切り返さないと駐車場に入らない。
内覧に来られたご夫婦、旦那さんはすごく気に入ってくださいました。ところが奥さんが「私、この道を毎日運転する自信がありません」と。
その一言で終わりました。
これは覚えておいてください。家を実際に選ぶのは、多くの場合、毎日運転する側の方です。
3. 玄関まで階段を上がること
これが、私の経験では一番効きます。
道路から玄関まで、階段を10段、15段、ときには20段以上上がる家。北区にはたくさんあります。
昭和50年代から60年代にかけて、山を削って造成した住宅地です。当時は「見晴らしがいい」「静かで最高だ」と、むしろ人気だった。
50年経ちました。当時30代で買われた方が、今80代です。
はっきり申し上げます。階段のある家は、今、買主さんが一番嫌がる条件です。
理由は3つあります。
- 若い子育て世帯は、ベビーカーと荷物を持って上がれないと考える
- 中高年の買い替え層は、自分が10年後に上がれるかを考える
- 売主さん自身が、上がれなくなって売りに出している
つまり、売る側も買う側も、同じ理由で階段を避けているのです。
需要が構造的に細っている。これは価格でしか埋められません。
4. 擁壁が高く、古いこと
これは表に出にくいのですが、実務では非常に大きな問題です。
坂の上の家は、たいてい擁壁の上に建っています。この擁壁が、高さ2メートルを超えていて、しかも古い間知石積みやブロック積みだと、買主さんの住宅ローンで問題が出ることがあります。
金融機関によっては担保評価を落とします。「擁壁の安全性が確認できない」という理由です。
現金で買える方なら関係ありません。しかし、家を買う方の9割は住宅ローンです。
以前、有野台の物件で、契約直前に買主さんの銀行から「擁壁の状況について資料を出してほしい」と連絡が来たことがあります。
築45年、擁壁の高さは3メートル近くありました。造成時の検査済証が見つからない。
結局その方は融資が通らず、白紙解約になりました。売主さんに事情をご説明したときの、あの空気は今でも覚えています。
もし擁壁のある家をお持ちなら、造成時の書類が家のどこかに残っていないか、今のうちに探してみてください。あるとないとでは、まったく話が違います。
5. 同じ条件の家が、近所に何軒も出ていること
これが最後で、そして案外見落とされます。
北区の高台の団地は、同じ年代に一斉に開発されました。ということは、住んでいる方の年齢層も一斉に上がります。
そして同じ時期に、一斉に売りに出るのです。
ある団地では、200戸ほどの中で、売り物件が同時に7件出ていたことがありました。
間取りも似ている。築年数も似ている。条件も似ている。
こうなると、買主さんは何を見るか。値段しか見ません。
一番安い物件が売れて、残りの6件はそのまま残ります。そして残った売主さんが焦って値下げをする。またその一番安いのが売れる。この繰り返しです。
これは断言できます。同じ団地に売り物件が5件以上並んでいるときは、売り出しのタイミングそのものを考え直したほうがいいです。
Aさんの話をします
藤原台にお住まいだったAさんご夫婦、当時72歳でした。
昭和60年に建てられた家です。土地50坪、建物35坪。眺めは本当に素晴らしい家でした。晴れた日には遠くまで見渡せる。
条件は、今日申し上げた通りでした。最寄りのバス停まで徒歩6分、坂の上、道路から玄関まで階段が18段。
Aさんは最初、別の不動産会社に相談されました。
そこの担当者が出してきた査定額が「2,480万円」。
Aさんは喜ばれました。「思ったより高い」と。
半年経ちました。内覧は3件。申し込みはゼロ。
そこで「2,280万円に下げましょう」と言われた。さらに半年、内覧2件。またゼロ。
「1,980万円で」。
結局、2年半かかって、成約価格は1,780万円でした。
私のところに来られたのは、その1年目が終わったあたりでした。
最初にお話ししたのは、査定額の話ではありません。「なぜ2,480万円という数字が出たと思われますか」という話です。
50年やってきて分かったことがあります。最初に高い数字を出す会社は、その物件を売る算段がついているのではなく、契約を取る算段がついているだけのことが多いのです。
もしAさんが最初から1,900万円台で出していたら。
私の見立てでは、8か月から10か月で決まっていました。値下げを3回繰り返した物件には、「何か問題があるのでは」という空気がついて回ります。
この空気のことを、私たちは「物件が枯れる」と言います。一度枯れると、値段を下げても戻りません。
業界の裏側を申し上げます
売りにくい立地の物件に、なぜ高い査定額がつくのか。
からくりは単純です。
ひとつ目。専任媒介契約を取ってしまえば、3か月間はその会社が独占できます。売れなくても損はしません。むしろ、その物件を見て問い合わせてきたお客さんに、別の物件を紹介できる。物件は「客寄せ」として機能するのです。
ふたつ目。値下げは、売主さんが自分で決めたことになります。「お客様のご判断で価格を改定しました」と記録に残る。会社の責任にはなりません。
三つ目。ここが一番申し上げにくいところです。時間をかけて売主さんを疲れさせてから、最後に「もう買取にしませんか」と持ちかける会社があります。
買取価格は、相場の6割から7割です。
2年半さまよって疲れ切った売主さんは、その提案に乗ってしまいます。「もういい、早く終わらせたい」と。
そして買い取った業者は、少し手を入れて、また市場に出します。
はっきり申し上げます。私は、この流れを何度も見てきました。
もうひとつ、「囲い込み」の話もしておきます。
売りにくい物件ほど、囲い込みは起きにくいと思われがちですが、逆です。売りにくいからこそ、少ない問い合わせを自社で抱え込みたくなる。
他社から「あの物件を紹介したい」と連絡が来ても、「今、商談中でして」と断ってしまう。両手で決めたいからです。
ただでさえ買い手が少ない立地なのに、そこからさらに窓口を狭められる。売主さんにとってこれほど不利なことはありません。
正直に、デメリットも申し上げます
ここまで読まれて、「じゃあ待てばいいのか」と思われた方がいるかもしれません。
待っても上がりません。むしろ下がります。
北区の高台の団地は、これから10年で、売り物件がさらに増えます。これは人口構成を見れば明らかです。
今、その団地に住んでいる方の年齢を思い浮かべてみてください。10年後に、その方々はどうされているか。
それから、私自身の話も正直に申し上げます。
こういう立地の物件は、私が扱っても苦労します。魔法はありません。半年から1年はかかります。
「あきちゃんに頼めばすぐ売れる」と思って来られると、がっかりさせてしまいます。そういう物件ではないのです。
私にできるのは、最初から現実的な数字をお伝えして、無駄な1年を作らないこと。それだけです。
それでも売れる道はあります
暗い話ばかりして終わるのは私の趣味ではありませんので、実際に効いた方法をお伝えします。
ひとつ。売り出し価格を、最初から相場の下限に置くこと。
これが一番効きます。値下げを繰り返す物件より、最初から手頃な物件のほうが早く決まります。結果として手取りも多くなることが、実によくあります。
ふたつ。売り出す時期を選ぶこと。
北区の戸建てが一番動くのは、1月から3月です。転勤と入学が重なるからです。逆に、夏場に高台の物件を出しても反応は鈍い。実際に坂を上がってもらうので、暑い時期は不利なのです。
三つ。隣の家に声をかけること。
これは意外と知られていません。高台の団地で、隣地が同時に売りに出ているケース。この場合、隣の方に「一緒に売りませんか」または「うちの土地を買いませんか」と打診すると、話が動くことがあります。
2区画まとめて、平らに造成し直せば、階段の問題が解消することがあるからです。買主が業者になりますが、それでも1年さまようよりはるかにいい。
四つ。階段だけでも直すこと。
18段の階段に、しっかりした手すりを片側つける。工事費は20万円から30万円ほどです。
たったこれだけで、内覧されたご年配の買主さんの表情が変わります。私は実際に、これで決まった物件を知っています。
まとめ
北区で一番売りにくいのは、バス便で、坂の上で、玄関まで階段を上がる家です。
そして擁壁が高く古いこと、同じ団地に売り物件が並んでいること。この2つが加わると、さらに難しくなります。
ただし、売れないわけではありません。
正しい値段と、正しい時期と、正しい説明があれば、決まります。
一番いけないのは、高い査定額に気持ちよくなって、2年も3年もさまようことです。
その間に、その家はどんどん「枯れて」いきます。
最後に、これだけは申し上げたい
この記事を読んで、「うちのことだ」と思われた方がいらっしゃるかもしれません。
落ち込まないでください。北区にはそういう家がたくさんあります。そして、その一軒一軒がきちんと売れていっています。
大事なのは、最初に本当のことを聞くことです。
もし査定を取られるなら、必ず「なぜその金額なのか」を聞いてください。根拠を具体的に説明できない会社は、たぶん説明できるだけの調べ方をしていません。
うちに聞いていただいても構いませんし、他社さんでも構いません。とにかく、数字の大きさではなく、数字の根拠で選んでください。
それだけで、失う1年が減ります。
ご相談はいつでもどうぞ。売る売らないは決めていなくても結構です。「うちの立地はどうなんだろう」という段階のお話が、私は一番好きです。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


