カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/09/09 04:58
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、傾斜地に建っている家の「維持費」の話をします。
北区は坂の街です。鈴蘭台、山の街、箕谷、大池、藤原台。平らな土地のほうが少ないくらいで、道路から階段を10段20段と上がって玄関、という家がいくらでもあります。
こういう家をご覧になると、皆さん決まってこうおっしゃいます。
「眺めがいいですね」「日当たりが最高ですね」
ええ、その通りです。私も嘘は申しません。傾斜地の家は、平地の家では絶対に手に入らない景色と光を持っています。
ただ、今日はその裏側の話をします。
眺めのいい家は、何年目に、いくら出ていくのか。その話です。
結論から申し上げます
傾斜地の家は、買ってから「15年目」と「30年目」に、まとまったお金が出ていきます。
そして生涯で見ると、平地の同じような家より、おおよそ「400万円から500万円」余計にかかります。
これは断言できます。
内訳は3つです。外階段、擁壁と土留め、そして排水です。
驚かせるつもりで言っているのではありません。逆です。金額が分かっていれば、傾斜地の家は怖くない。分からないまま買うから、10年後に慌てるのです。
1. 外階段は15年で必ず一度お金がかかります
道路から玄関まで、階段が15段から25段。北区ではごく普通の造りです。
この階段が、ちょうど15年前後で傷みます。
タイル貼りの階段なら、目地が割れて水が入り、下地が浮いてきます。パコパコと音がするようになったら、もう限界です。20段くらいの階段を全部やり直すと、私の見てきた見積りでは「60万円から90万円」です。
手すりも同じ時期に来ます。屋外の鉄の手すりは、15年で根元が錆びます。錆びた手すりを掴んだまま体重をかけて、そのまま倒れた方を、私は知っています。交換で「12万円から18万円」。
そして階段の照明。夜、足元が見えない階段は本当に危ないので、ここは削ってはいけない部分です。
ここで一歩立ち止まってください。
平地の家に、外階段はありません。つまりこの費用は、傾斜地の家だけに乗ってくる「上乗せ分」なのです。
2. 擁壁と土留めは、壊れる前にお金がかかります
擁壁の話は以前もしましたが、今日は「維持」の側から申し上げます。
擁壁で一番はじめに手を入れるのは、実は壁そのものではありません。
水抜き穴です。
擁壁には必ず、直径5センチほどの穴が並んでいます。あれは土の中に溜まった水を逃がすための穴です。ところがこの穴、20年も経つと土や落ち葉や木の根で詰まります。
詰まると、擁壁の裏側に水が溜まります。溜まった水は土を重くして、擁壁を押します。
これが擁壁を壊す一番多い原因です。
水抜き穴の清掃と目地の補修だけなら「20万円から40万円」で済みます。放っておいて擁壁が傾いてから直すと、桁がひとつ変わります。3メートルの擁壁を10メートル分造り直すと「400万円から600万円」の世界です。
土留めも同じです。庭の中の小さな土留めブロック、あれが孕んで(はらんで)くる。見て見ぬふりをすると、隣地との境界ごと動きます。
はっきり申し上げます。
擁壁と土留めは、壊れてから直すものではありません。20年目に一度、点検してお金をかけておくものです。
3. 一番怖いのは排水です
これは意外に思われるかもしれません。
傾斜地の家で、修繕費が一番大きく跳ねるのは排水まわりです。
坂の上の家は、自分の敷地の水だけを流しているわけではありません。上の土地から流れてきた雨水も、道路から入ってきた水も、全部その家の側溝と桝(ます)を通っていきます。
だから傾斜地の側溝は、平地より早く傷みます。
側溝が割れる。桝が沈む。地中の排水管が斜面の動きで折れる。こうなると、掘り返すしかありません。
私が見た中で一番高かったのは、山の街のお宅で「180万円」でした。地中の管が斜面の微妙な動きで抜けていて、庭を半分掘り返しました。
そして、これも申し上げておきます。傾斜地の家は外壁塗装も高くつきます。
平地なら足場が普通に組めますが、斜面では足場の下に土台を組まなければいけません。同じ大きさの家で、平地なら120万円の塗装が、傾斜地では150万円から170万円になります。
12年に一度の塗装で毎回30万円の差。30年で90万円です。
4. 斜面の草と木は、毎年お金を食べます
これは金額としては小さいのですが、じわじわ効いてきます。
斜面の草刈りです。
法面(のりめん)や擁壁の上の斜面は、放っておくと1年で人の背丈になります。ご自分でやれるうちはいいのですが、70歳を過ぎて斜面で草刈り機を持つのは、正直おすすめしません。
業者に頼むと、年2回で「3万円から5万円」。30年で100万円を超えます。
もうひとつ、木です。
斜面に大きな木があるお宅、北区には本当に多い。桜、樫、柿。植えたときは腰の高さだったものが、30年で屋根を越えます。
伐採して処分すると、大きな木1本で「8万円から15万円」。斜面でクレーンが入らない場所だと、もっとかかります。
そして木の根は、擁壁の中に入っていきます。
5. 実例をひとつ、正直にお話しします
鈴蘭台にお住まいだったCさんご夫婦の話です。
Cさんは当時58歳。平成10年築の中古住宅を、平成24年に「2,180万円」でお買いになりました。道路から18段の階段を上がった、眺めの本当にいいお宅でした。
奥様が「ここからの夜景がいい」と大変気に入られて、私も、いいお買い物だと思いました。実際、値段も相場より少し安かった。
問題はここからです。
購入から4年目、階段のタイルが浮きました。見積り「78万円」。同じ年に手すりの根元が錆びて折れかけ、交換で「14万円」。
7年目、擁壁の水抜き穴から濁った水が出るようになりました。業者に見てもらうと、穴が詰まって裏に水が溜まっている。清掃と目地補修、それに合わせて敷地内の排水を引き直して、合わせて「140万円」。
さらに10年目に外壁塗装。斜面の足場代が乗って「163万円」。
10年間で、修繕費だけで「約400万円」です。
Cさんはこうおっしゃいました。「安く買えたと思ったけど、安かった分がそのまま出ていったな」と。
私はこう申し上げました。「Cさん、その通りです。ただ、これは家が悪かったんじゃない。傾斜地の家は、はじめからそういう値段なんです」
Cさんご夫婦は、今もそのお宅にお住まいです。夜景は今も変わらずきれいです。ただ、買う前にこの金額を知っていたら、もう少し違う準備ができたはずなのです。
6. 業界の裏を申し上げます
なぜ、この話を営業マンがしないのか。
理由は単純です。言うと売れないからです。
傾斜地の家を案内するとき、私たちはどうしても「眺望」「日当たり」「静か」の3つを言います。事実ですから、嘘ではありません。
けれど、その裏にある「15年後に階段で80万円」「20年後に擁壁で40万円」の話は、契約が決まってからも、決まった後も、誰も言わないのです。
もうひとつ、査定のカラクリがあります。
傾斜地の土地は、平地に比べて坪単価が安く出ます。これを業者は「お買い得ですよ」と言います。
しかし、安いのには理由があります。
- 有効に使える平らな部分が少ない
- 造成にお金がかかる
- 将来の維持費が読めない
だから安いのです。「お買い得」ではなく「そのぶんの負担が価格に織り込まれている」だけです。
そして売るとき。
傾斜地の家を買取業者に持っていくと、驚くほど安い数字が出ます。彼らは擁壁のやり直し費用と階段の改修費用を、全部引いた金額で買おうとします。実際に直すかどうかは別として、リスクとして最大値を引きます。
これが、傾斜地の家が「買うときは眺望で高く、売るときはリスクで安く」なる仕組みです。
7. デメリットを正直に書きます
ここまで費用の話をしてきましたが、それ以外にも申し上げるべきことがあります。
年を取ると、階段が本当につらくなります。
これは金額の話ではありません。私は77歳ですから、身をもって分かります。18段の階段は、58歳のときと78歳のときとでは、まったく別のものです。
買い物袋を持って上がれなくなる。病院から帰ってきて上がれなくなる。介護が必要になったとき、ヘルパーさんも上がってこられない。
北区で「まだ住めるのに家を手放される」方の理由の何割かは、傾斜と階段です。
それから、車です。
傾斜地の駐車場は、たいてい前面道路との高低差があります。冬に凍ると、本当に危ない。北区は市街地より2度3度低いですから、鈴蘭台や大池のあたりは、朝の坂が凍る日が年に何度もあります。
売るときの流動性も、正直に申し上げます。
同じ築年数、同じ広さでも、平らな土地の家と傾斜地の家では、買い手が付くまでの期間が違います。私の実感では、傾斜地は平均して「2か月から3か月」長くかかります。
8. では、傾斜地は買ってはいけないのか
いいえ、そうは申しません。
50年やってきて分かったことがあります。傾斜地の家で後悔する人と、しない人の違いは、土地の良し悪しではありません。
「先にいくらかかるか知っていたかどうか」です。
だから私は、傾斜地の物件をご案内するとき、必ずこの3つをお伝えします。
- 擁壁がいつ造られたか、検査済証が残っているか
- 階段は何段で、いま何年経っているか
- 敷地の水がどこへ流れているか
この3つが分かれば、あとは「いつ、いくら」の計算ができます。
そして計算ができれば、値段の交渉ができます。
Cさんのように、買ってから400万円かかると分かっていれば、はじめの価格交渉でその一部を織り込めたはずなのです。
まとめ
傾斜地の家は、15年目に階段で「80万円前後」、20年目に擁壁と排水で「40万円から180万円」、12年ごとの塗装で平地より「30万円多く」かかります。
草刈りと庭木で、毎年3万円から5万円。
全部足すと、30年で「400万円から500万円」です。
これは家が悪いのではありません。傾斜地という土地の性格です。
はっきり申し上げます。この金額を知って買えば、傾斜地の家は良い買い物になります。知らずに買うと、10年後に「騙された」と感じることになります。
そして今、傾斜地のお宅を売ろうとしておられる方へ。
隠さないでください。
「階段は5年前に直しました」「擁壁の水抜きは掃除しています」と言える売主さんの家は、買い手が安心して買います。逆に何も分からない状態で売り出すと、買主側の業者に足元を見られます。
正直に出すほうが、結果として高く売れます。これは50年見てきて、間違いありません。
最後に、これだけは申し上げたい
北区の傾斜地の家は、けっして「悪い家」ではありません。
平らな土地には絶対にない光と風と眺めを持っています。私自身、傾斜地のお宅で「ここに住んでよかった」と何十回もお聞きしてきました。
ただ、その景色には維持費という値段が付いています。
いま傾斜地のお宅にお住まいで、階段や擁壁が気になり始めた方。あるいは、傾斜地の物件を買おうか迷っておられる方。
金額の見当だけでも、一度お聞きになってください。私は50年、北区の坂を歩いてきました。図面を見せていただければ、だいたい「あと何年で、いくら」の目安は申し上げられます。
売る売らないの話は、そのあとで結構です。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


