カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/10/01 07:16
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
前回は、北区の空き家が今どうなっているのかをお話ししました。今日はその続きです。
「とりあえず、しばらくはこのままで」と閉めた実家が、5年のあいだにどう変わっていくのか。家の傷み、出ていくお金、そして売るときの値段。この3つを、1年目から5年目まで順番に追いかけてみます。
「まだ決められない」というお気持ちは、よく分かります。
親が暮らした家です。片付けるにも気力がいりますし、兄弟で話し合う時間もなかなか取れません。
ただ、決めないでいる間にも、家は1日ずつ確実に変わっていきます。そのことだけは、先に知っておいていただきたいのです。
結論から申し上げます
実家を空き家のまま5年置くと、家の値段は大きく下がり、そのうえ維持費で100万円を超えるお金が消えていきます。
しかも、それは5年目に突然起きるのではありません。1年目から少しずつ、目に見えないところで進んでいきます。
- 家の傷み
- 出ていくお金
- 売るときの値段
この3つは、別々に悪くなるのではなく、互いに足を引っぱり合いながら一緒に悪くなっていきます。
だからこそ、「いつか考える」ではなく「いつまでに決める」を持っていただきたいのです。
1. 半年から1年目:外からは分からない傷みが始まる
人が住まなくなった家で、最初に起きるのは「空気が動かなくなる」ことです。
窓も雨戸も閉めきりになると、家の中の湿気が逃げません。北区は山あいで、六甲の北側は冬場の冷え込みも湿気も強い土地柄です。梅雨を1回越すだけで、押し入れの中や畳の裏にカビが出てくることが珍しくありません。
もう1つ、あまり知られていないのが水回りのにおいです。
台所やお風呂の排水口には、下水のにおいを止めるために水がたまる仕組みがあります。ところが誰も水を流さないと、半年ほどでこの水が乾いてしまいます。すると下水のにおいが家中に上がってきて、虫も入ってきます。
久しぶりに実家の玄関を開けた方が「なんや、このにおい」と驚かれるのは、たいていこれが原因です。
外から見ると、1年目の家はまだきれいです。郵便受けにチラシが少したまり、庭の草がひざくらいまで伸びている程度です。
けれど、家の中ではもう傷みが始まっています。
2. 2年目から3年目:目に見えて傷み、お金と手間が増える
2年目に入ると、傷みが目に見えるようになってきます。
屋根の瓦が1枚ずれていても、住んでいれば雨じみですぐに気づきます。空き家では誰も気づきません。気づかないまま雨が入り続け、天井板にしみが広がり、柱や床の下地まで湿っていきます。
庭木も待ってくれません。
2年も手を入れなければ、枝はお隣の敷地や道路にはみ出します。落ち葉が隣の家の雨どいを詰まらせて、苦情のお電話が遠方のご家族に入る。これも現場ではよくある話です。
北区は斜面の住宅地が多いですから、草や木が擁壁の上から張り出していると、下の道を通る人にも迷惑がかかります。
そして3年目。ここで、多くの方が見落としている大事な期限がやってきます。
親から相続した家を売ったとき、一定の条件を満たせば、売却の利益から最大3,000万円を差し引ける特例があります。いわゆる「空き家の3,000万円控除」です。
この特例は、相続が始まってから3年を経過する日が属する年の12月31日までに売らなければ使えません。
昭和56年5月31日以前に建てられた家であることなど、ほかにも細かい条件がありますので、実際に使えるかどうかは税理士さんに確かめていただく必要があります。それでも、3年目を過ぎた時点で、使えたはずの特例を逃してしまう方が実際にいらっしゃいます。
もう1つ、令和6年4月から相続登記が義務になりました。
相続で不動産を取得したと知った日から3年以内に名義を変えなければ、10万円以下の過料の対象になります。「名義はお父さんのまま」という空き家は、北区にもまだたくさんあります。
3. 4年目から5年目:家が「建物」から「解体費」に変わる
4年目、5年目になると、傷みは構造にまで及んでいきます。
湿った床下には白アリが入りやすくなります。床を踏むとふわっと沈む。ふすまが閉まらない。こうなると、もう「少し手を入れれば住める家」ではありません。
50年やってきて分かったことがあります。
家の値段が本当に下がるのは、古くなったときではありません。「このまま住めない」と買う人に思われたときです。
その瞬間に、査定の中身が変わります。建物に値段がつくのではなく、建物を壊すお金を土地の値段から差し引く計算になるのです。つまり、家が「財産」から「解体費」に変わるわけです。
さらに、放置がひどくなると、行政から指導を受けることがあります。
令和5年の法改正で、倒壊の危険があるほど傷んでいなくても、管理が行き届いていない空き家は「管理不全空家」として指導や勧告の対象になりました。勧告を受けると、土地にかかる固定資産税の軽減が外れ、税額が数倍に跳ね上がることがあります。
「住んでいないのに、税金だけは上がった」ということが、本当に起こり得るのです。
4. 実例:5年待ったBさんと、1年半で決めたCさんご夫婦
ここからは、実際にご相談を受けた2つのご家族のお話をします。お名前と細かいところは少し変えています。
まずBさんです。
Bさんは62歳。大阪の吹田にお住まいで、北区星和台のご実家は、お母様が亡くなられてから空き家になりました。昭和54年に建った木造2階建て、土地は55坪ほどです。
お母様が亡くなられた直後、1年目に私が拝見したときの査定は1,280万円でした。古い家ですが、雨漏りもなく、少し手を入れれば若いご家族が住める状態でした。
けれどBさんは「まだ片付けもできていないし、兄とも話せていないので」と、そのまま閉められました。
それから5年です。
Bさんから「そろそろ売りたい」とお電話をいただいて伺うと、2階の天井に大きな雨じみがあり、北側の和室は床が沈んでいました。床下を見てもらうと、白アリの被害も出ていました。
このときの査定は750万円です。建物はほぼ価値がなく、解体費として170万円ほどを見込んだ土地の値段でした。5年で530万円下がったことになります。
出ていったお金も数えてみました。
- 固定資産税:年9万円ほどで5年で45万円
- 草刈り(年2回):5年で30万円
- 空き家の火災保険:年4万円ほどで5年で20万円
- 電気と水道の基本料金:5年で15万円
- 大阪から様子を見に来る交通費:5年で20万円
合わせて130万円です。
値下がりの530万円と足すと、Bさんは5年で660万円ほどを失ったことになります。
しかも3年目の年末を過ぎていたため、空き家の3,000万円控除は使えませんでした。売却の利益にかかる税金として、およそ130万円を納めることになりました。
Bさんがぽつりとおっしゃった言葉を、今でも覚えています。
「何もしてへんのに、こんなに減るもんなんですね」
次に、Cさんご夫婦です。
ご主人が58歳、奥様が55歳。東京にお住まいで、北区ひよどり台のご実家を相続されました。やはり昭和50年代の家です。
Cさんご夫婦は、相続から半年で一度だけ私のところに来られて、こうおっしゃいました。
「すぐには決められません。でも、いつまでに決めるかだけは決めておきたいんです」
そこで3,000万円控除の期限を一緒に確認し、「1年半を目安に結論を出しましょう」とお約束しました。その間、月に1回は近所に住む親戚の方に窓を開けて水を流していただき、庭木は最初に一度だけ思い切って切りました。
1年4か月後、ご家族で話がまとまり、1,150万円で売却されました。控除も使えて、税金はほとんどかかりませんでした。
BさんとCさんの違いは、家の良し悪しではありません。
「いつまでに決めるか」を持っていたかどうか。違いはそこだけです。
5. 業界の裏側:空き家の持ち主が狙われていること
はっきり申し上げます。
長く放置された空き家の持ち主は、業者から見ると「話が早いお客さん」です。
まず、「空き家、高く買います」というチラシや電話です。
こうした買取業者さんの多くは、傷んだ家を安く仕入れて、手直しして売ることで利益を出しています。家が傷んでいればいるほど、持ち主さんは「こんな家、どうせ売れない」と弱気になります。そこで相場の6割、7割の値段を出されても、「引き取ってもらえるだけありがたい」と判を押してしまわれるのです。
買取そのものが悪いわけではありません。ただ、仲介で売った場合の値段と比べずに決めるのは、損をする典型です。
次に、空き家の管理サービスです。
月に1万円前後で見回りをしてくれるところが増えました。中には丁寧なところもあります。ただ、契約書をよく読むと「外から見て写真を撮るだけ」という内容のものもあります。窓を開けて空気を入れ替えることも、水を流すことも入っていない。それでは家の傷みは止まりません。
年に12万円払って、5年で60万円。それで家が守られていなかった、というご相談を実際に受けたことがあります。
もう1つ、売却を任されたときの「値付け」です。
5年も放置した家を持っている方には、「今は安いですから、もう少し待ちましょう」と言う業者がいます。
待っても空き家は良くなりません。これは断言できます。
にもかかわらずそう言うのは、売主さんとの縁をつないでおきたいからか、あるいは解体業者さんやリフォーム業者さんを紹介して、そちらから紹介料をもらうためか。そういう話を、この業界で私は何度も見てきました。
6. デメリット:早く決めることにも、損はあります
ここまで「早く決めてください」とお話ししてきましたが、早く動くことにもマイナス面はあります。正直にお伝えします。
1つ目は、気持ちの整理が追いつかないことです。
親が亡くなって1年もたたないうちに家を売ると、あとで「もう少しあの家にいたかった」と後悔される方がいます。特に、遺品の整理を業者さんに一気に任せてしまうと、手紙や写真まで処分されてしまうことがあります。これは、お金では取り戻せません。
2つ目は、兄弟の話し合いが不十分なまま進むことです。
誰か1人が急いで決めると、あとで「勝手に売った」と揉めることがあります。家族の関係にひびが入るくらいなら、1年、2年かけて話し合ったほうがいい場合もあります。
3つ目は、早く売っても高く売れるとは限らないことです。
北区の古い団地の家は、元気なうちに売っても、そもそも大きな値段がつかないことがあります。「早く売れば1,000万円以上になる」とは、私は申し上げられません。
それでも、私がお伝えしたいのは「すぐ売れ」ではありません。
売るか、貸すか、しばらく持つか。そのどれを選ぶにしても、「いつまでに決めるか」だけは先に決めておいてください、ということです。
そして、持つと決めたなら、月に1回は窓を開け、水を流し、年に1回は屋根と庭を見る。それだけで、5年後の家はまったく違うものになります。
まとめ
もう一度、申し上げます。
実家を空き家のまま5年置くと、家の値段は下がり、維持費で100万円を超えるお金が出ていき、使えたはずの特例も期限を過ぎてしまいます。Bさんの場合、それが合わせて600万円を超えました。
1年目は、外から見ればきれいです。だからこそ「まだ大丈夫」と思ってしまいます。
けれど家の中では、湿気とにおいと傷みが、もう始まっています。
決められなくてもかまいません。
ただ、「いつまでに決めるか」だけは、今日決めてください。
最後に、これだけは申し上げたい
「売るつもりはないけど、今の値段だけ知りたい」
「兄弟で話す前に、何を確かめておけばいいか教えてほしい」
「3,000万円控除の期限が、うちはいつなのか分からない」
こういうご相談で、まったくかまいません。
遠方にお住まいの方でしたら、私が先に実家を見に行って、屋根や床下、庭の様子を写真でお送りすることもできます。
決めるのは、ご家族です。私は、決めるための材料をそろえるお手伝いをいたします。
5年たってから「もっと早く相談しておけばよかった」とおっしゃる方を、私はもうこれ以上増やしたくないのです。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


