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家というものは何か
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報  / 投稿日付:2026/08/10 06:13

こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。

今日は、少し大きな話をさせてください。家というものは、いったい何なのか。50年この仕事をやってきて、私がずっと考え続けてきたことです。

家とは

売った家、買っていただいた家、そして壊した家。数えたことはありませんが、何千件と関わってきました。

その中で、一つだけ、はっきりしてきた答えがあります。

結論から申し上げます


家は、資産ではありません。

家は、時間の入れ物です。

ただし、売る日が来た瞬間、家は容赦なく資産に戻ります。

この二つを両方分かっている人だけが、家で損をしません。どちらか片方しか見ていない方は、必ずどこかで泣きます。

これは断言できます。50年見てきて、例外はほとんどありませんでした。


1. 住んでいる間、家に値段はありません


不動産屋がこんなことを言うのは、おかしいと思われるかもしれません。けれど、これは本当のことです。

今日あなたが住んでいる家に、値段はついていません。朝、台所で味噌汁の匂いがして、子どもが階段を駆け下りてきて、玄関でランドセルを引っかける。その家に「2,800万円」という札は下がっていません。

家の柱についた背比べの傷。雨漏りを直したときに残った天井のシミ。ご主人が最後に座っておられた、居間の窓際の場所。

これは、いくらですか。値段はつきません。つけようがありません。

50年やってきて分かったことがあります。人が家に本当に求めているのは、坪単価でも駅からの分数でもありません。そこで過ごした時間が、なかったことにならないという安心です。家というのは、その時間を入れておく箱なのです。


2. けれど、売る日には必ず値段になります


ここで一歩立ち止まってください。ここからが、今日いちばん申し上げたいところです。

家は時間の入れ物ですが、売る日が来た瞬間、その入れ物は市場に出されます。そして市場は、中に入っている時間を一切見ません。

買主が見るのは、立地、面積、築年数、状態だけです。あなたの30年間は、査定書のどこにも書かれません。冷たいと思われるでしょう。私も、若い頃はそう思いました。

けれど、これが現実です。はっきり申し上げます。思い出は一円にもなりません。

ここを分かっていない方が、売却でいちばんつらい思いをされます。「うちの家は大事に住んできたから、もっと高いはずだ」。この気持ちは、痛いほど分かります。分かりますが、値段は動きません。

家は、住んでいる間は時間の入れ物で、手放す日には冷たい商品になる。この切り替わりを、買う前から知っているかどうか。それが、30年後の景色を変えます。


3. Cさんの実家の話をさせてください


去年、74歳の女性、Cさんから相談をいただきました。お母様が施設に入られ、神戸市北区にあるご実家が空き家になったという話です。

築52年の木造二階建てでした。駅から徒歩18分、バス便のある地区です。固定資産税は年に11万円ほど、それとは別に、風を通しに月2回通っておられました。

Cさんは、こうおっしゃいました。「父が建てた家です。できれば残したい」。私は、その気持ちを否定しませんでした。

けれど、数字は正直に申し上げました。

建物にはほぼ価値がありません。土地としての評価です。そのまま売るなら1,450万円前後。解体して更地にすれば1,680万円前後になりますが、解体費用が180万円かかります。さらに、更地にした翌年から固定資産税の住宅用地の軽減がなくなり、税額が数倍に上がります。

Cさんは、しばらく黙っておられました。そして、「父の家が180万円かけて消える話なんですね」と言われました。私は、そうです、と申し上げました。嘘をついても、事実は変わりません。

ここで大事なのは、そのあとです。私はCさんに、売る前に一度、ご家族で家に集まってくださいとお願いしました。写真を撮って、お父様が使っておられた道具を一つだけ持ち帰ってください、と。

半年後、Cさんは売却を決められました。家は解体され、今は若いご夫婦の新しい家が建っています。Cさんは、こう言われました。

「あきちゃん、家は消えたけど、あの日に持ち帰った父の物差しがうちにあるから、大丈夫です」

家というものは何か。私はこの仕事で、この答えに一番近づいた気がしました。家は、時間の入れ物です。そして、入れ物は最後に空にして手放すものです。空にする手続きを飛ばして、いきなり値段の話から入ると、人は納得できないのです。


4. 出口を見てから買った、Dさんご夫婦の話


もう一組、対照的な話をします。38歳と36歳のDさんご夫婦。お子さんが二人、当時5歳と2歳でした。

ご夫婦は最初、3,180万円の新築建売を見ておられました。日当たりもよく、設備もきれいで、営業の方の説明も上手でした。「一生ものの住まいですよ」という言葉も出たそうです。

私は、一つだけ質問しました。

「この家を、20年後に売るとしたら、いくらで売れると思われますか」

ご夫婦は、答えられませんでした。当然です。買う日に出口の話をする人は、ほとんどいません。

その物件は、車がすれ違えない道の奥にありました。前面道路は4mを切っていて、建て替えのときにセットバックが要ります。新築のうちは売れますが、20年経って中古になった瞬間、この立地は極端に弱くなります。

私は、別の土地をお見せしました。値段は2,380万円。建物は少し古く、築15年の中古です。見た目は前の物件に負けます。正直、奥様は最初がっかりされていました。

けれど、駅まで徒歩11分、前面道路は6m、南向き。20年後に売っても、買った値段から大きくは落ちない場所です。

ご夫婦は、こちらを選ばれました。35年ローンで、月々の返済は9万2千円。前の物件より、月々2万円ほど軽くなりました。

それから8年経ちました。去年、下のお子さんが中学に上がるときに、ご夫婦が挨拶に来られました。奥様が笑いながら、「あのとき、あきちゃんに止められてよかった」と。

この8年、ご夫婦はその家で時間を積んでこられました。そして、その家はいざというときに売れる家でもあります。家というものは何か。この両方が成立している状態を、私は良い家と呼んでいます。


5. 業界が「家とは何か」を語らない理由


ここからは、正直に業界の裏側を申し上げます。

不動産の営業は、思い出を売ります。「奥様、ここでお子さんが宿題をされる姿が目に浮かびますね」「一生ものの住まいです」「家族の夢が形になりますね」。

こういう言葉が悪いとは言いません。けれど、はっきり申し上げます。これは、出口の話をさせないための言葉でもあります。

買う日に「20年後この家はいくらですか」と聞かれると、答えにくい物件はたくさんあります。だから、値段の話ではなく、気持ちの話に持っていくのです。契約は気持ちで決まりますから、そのほうが早い。

そして、売る側になった途端、業界の態度は逆になります。

  • 高い査定額で預かって売主を安心させる、いわゆる「高預かり」
  • 他社の問い合わせを「商談中です」と断って自社で買主を探す「囲い込み」
  • 売主と買主の双方から手数料を取る「両手取引」
  • 売れない時間を作り、疲れた頃に「そろそろ下げましょう」と持ちかける値下げ誘導

買うときは思い出を語り、売るときは思い出を無視する。同じ業界が、同じ人に対して、これをやります。私はこれが、50年でいちばん嫌だったことです。

もう一つ。買取査定のカラクリも申し上げておきます。買取業者の提示額が相場の6割から7割になるのは、その業者が悪いからではありません。買い取って、直して、利益を乗せて売るのですから、当然そうなります。

問題は、それを「今すぐ現金化できますよ」という言葉だけで勧める売り方です。急いでいない方が買取を選ぶと、数百万円が消えます。急いでおられる方には、買取は正しい選択です。この違いを説明しない会社が、多すぎます。


6. 正直に、家を持つことのデメリットを申し上げます


いいことばかり書くと、嘘くさくなります。不動産屋がこれを言うのは商売として損ですが、書きます。

家を持つと、身動きが取りにくくなります。転勤、離婚、親の介護、収入の変化。人生の変わり目に、家は必ず足かせになります。

お金も出続けます。固定資産税、火災保険、10年から15年ごとの外壁と屋根、給湯器の交換、シロアリの点検。35年で見れば、建物には数百万円単位で追加のお金がかかります。

そして、これがいちばん申し上げにくいことです。あなたが大事にしてきた家は、いつか、お子さんにとって片づける対象になります。

相続で兄弟が揉めるのは、たいてい現金ではなく家です。分けられないからです。売るか、誰かが住むか、空き家のまま放っておくか。この三択で、家族の関係が壊れる場面を何度も見てきました。

家というものは何か、と考えるときに、この現実からは逃げられません。時間の入れ物は、次の世代にとっては重い荷物にもなります。

ですから私は、家を買われる方にも、持っておられる方にも、同じことを申し上げます。いつか手放す日が来ることを前提に持ってください、と。そのほうが、その家で過ごす時間は、かえって濃くなります。


まとめ


家というものは何か。50年かけて出した私の答えを、もう一度申し上げます。

家は、資産ではありません。時間の入れ物です。けれど、手放す日には、容赦なく資産に戻ります。

ですから、家と付き合うときに見るべきものは、この三つです。

  • その家で、どんな時間を過ごしたいか
  • その家は、20年後に売れる場所にあるか
  • その家を、最後に誰がどう片づけるか

この三つを最初に考えた方は、まず失敗しません。

一つ目しか考えなかった方は、出口で泣きます。二つ目しか考えなかった方は、住んでいる間ずっと落ち着きません。三つ目を考えなかった方は、お子さんの代で揉めます。

これは断言できます。家で幸せになった方は、必ず、この三つを最初に並べておられました。


最後に、これだけは申し上げたい


家の話は、一生に一度か二度のことです。そして、たいていの方は、誰にも相談できないまま迷っておられます。

「実家をどうしたらいいのか、まだ決めていない」「そもそも、うちは家を買うべきなのかどうかが分からない」。その程度の入り口で、まったく構いません。

売らないほうがいいと思えば、そう申し上げます。買わないほうがいいと思えば、正直に止めます。それで私に一円も入らなくても、それが50年やってきた者の仕事だと思っています。

あなたの家に入っている時間を、値段の話だけで終わらせたくないのです。どうぞ、気楽にご相談ください。

センチュリー21・ハートピア
田中章雄

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