カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/31 07:57
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、ハザードマップの話をします。市役所のホームページを開けば、誰でもタダで見られる、あの色分けされた地図のことです。
家を買うとき、あるいは家を売るとき、この地図を見たか見なかったかで、数百万円が動きます。
これは大げさな話ではありません。私は50年、神戸市北区で坂と山と谷の街を歩き回ってきました。その現場で、実際に何度も見てきたことです。
結論から申し上げます
ハザードマップは「災害から命を守るための地図」だと思われています。もちろんそのとおりです。けれど、不動産の世界では、もう一つの顔があります。
ハザードマップは、値段と売却期間を決める地図でもあるのです。
はっきり申し上げます。土砂災害警戒区域に指定されているかどうかで、同じような家が、300万円変わることがあります。売れるまでの期間も、2倍3倍に伸びることがあります。
そしてもっと怖いのは、ご自宅がその区域に入っていることを、売主さんご自身がまったくご存じないケースが本当に多いということです。
1. イエローとレッドは、まったくの別物です
まずここを整理させてください。ここを混同しておられる方が、非常に多い。土砂災害の警戒区域には、2種類あります。
- 土砂災害警戒区域(通称イエローゾーン)
- 土砂災害特別警戒区域(通称レッドゾーン)
名前が似ているので同じようなものだと思われがちですが、法律上の意味がまるで違います。
イエローゾーンは「土砂災害の恐れがある区域」です。避難体制を整えましょう、という区域です。区域に指定されたからといって、家が建てられなくなるわけではありません。
問題はレッドゾーンです。土砂災害が起きたときに、建物が壊れて、そこにいる人に著しい危害が生じる恐れがある区域です。ここに指定されると、居室のある建物を建てるときに、構造の安全性についての建築確認が必要になります。宅地を分譲するような開発行為には、都道府県知事の許可が要ります。
つまりレッドゾーンは、「気をつけてください」ではなく「規制します」の区域なのです。
これは覚えておいてください。同じ町内でも、道一本、崖からの距離が数メートル違うだけで、イエローとレッドが分かれます。
2. 北区は「無関係でいられない街」です
神戸市北区にお住まいの方に、正直に申し上げます。北区は、山の街です。六甲の北側の斜面、有馬の谷筋、道場や大沢の川沿い。平らに見える住宅地でも、一歩裏に回れば崖と谷があります。
昭和40年代から50年代にかけて、北区の住宅地は一気に造成されました。当時は今のような区域指定の制度そのものがありませんでした。土砂災害防止法ができたのは平成13年です。区域の指定が本格的に進んだのは、そのあとです。
ここで一歩立ち止まってください。つまり、家を建てたときには何の指定もなかった土地が、あとから指定された。これが北区で一番多いパターンです。
「うちは30年住んでるけど、そんな話は聞いたことがない」
そうおっしゃる方は珍しくありません。けれど、指定は所有者の同意で決まるものではありません。地形と傾斜と高さで、機械的に決まります。知らないうちに、地図の色が変わっているのです。
3. Aさんの家で、300万円が消えた話
具体的な話をします。北区の高台にお住まいだったAさん(72歳)のケースです。奥様を亡くされて、大阪のお嬢さんの近くへ移りたいというご相談でした。
築38年の木造2階建て。土地は50坪。南向きで日当たりがよく、裏は雑木林。Aさんは家をとても大事にされていて、水回りも10年前にリフォーム済みでした。
「近所のBさんの家が2,480万円で売れたそうだから、うちも同じくらいでしょう」
Aさんはそうおっしゃいました。実際、間取りも面積も築年数も、Bさんの家とほとんど同じです。
ところが、私が神戸市のハザードマップで確認すると、Aさんの敷地の裏側、雑木林に接する部分が、レッドゾーンに入っていました。建物の位置そのものはぎりぎりイエローでしたが、敷地の一部がレッドにかかっている。Bさんの家は、同じ町内でも道の反対側で、まったくの区域外でした。
この差は、売り出してすぐに出ました。
まず、内見に来られた若いご夫婦が、その場でスマホを開いて調べられました。今はそういう時代です。市のハザードマップは誰でもすぐに見られます。翌日にお断りの連絡が来ました。
次に来られた方は、気に入ってくださいました。ところが銀行の事前審査で、担保評価が下がりました。「区域指定を踏まえた評価になります」と言われ、希望額まで融資が伸びなかった。
3組目でようやくまとまりましたが、成約価格は2,180万円でした。Bさんの家より300万円安い。そして売れるまでにかかった期間は、Bさんの家が2か月だったのに対し、Aさんは7か月かかりました。
Aさんは、契約のあとでこうおっしゃいました。
「知っていたら、もっと早くから覚悟して動いたのに」
これなんです。損をしたのは値段だけではありません。7か月分の固定資産税と、光熱費の基本料金と、草刈りと、なにより「まだ売れないのか」と気を揉んだ時間です。
4. 業界の裏側を正直に申し上げます
ここからは、同業者に嫌われる話をします。
不動産業者は、土砂災害警戒区域に入っているかどうかを、契約前に必ず説明しなければなりません。これは宅地建物取引業法で決まっています。平成18年4月から、重要事項説明の対象です。水害のハザードマップについても、令和2年8月28日から、対象物件のおおよその位置を地図の上で示して説明することが義務になりました。
ここまでは、どの業者もやります。やらなければ法律違反ですから。問題は、いつ言うか、です。
はっきり申し上げます。「重要事項説明のときに初めて言う」業者が、いまだにいます。
重要事項説明は、契約の直前に行います。買主さんはもう住宅ローンの事前審査も通って、引っ越しの段取りも考えて、気持ちが完全に固まっている。その場で「実はこの土地、土砂災害特別警戒区域です」と言われる。
法律上は、これで問題ありません。義務は果たしています。けれど私は、これは不誠実だと思っています。
なぜ早く言わないか。理由は単純です。早く言うと、買主が逃げるからです。チラシに書かない。ネット広告に書かない。案内のときに触れない。聞かれたら答える。最後にまとめて説明する。
売主さんの側も、同じ構図に置かれます。査定のときに「区域指定がありますので、相場より下がります」と正直に言う業者と、何も言わずに高い査定額を出す業者。売主さんは、たいてい高いほうを選ばれます。そして3か月後に「反応がないので値下げしましょう」と言われる。区域指定を黙って高値を出す業者は、はじめから値下げする前提で預かっているのです。
もう一つ、買取業者の話もしておきます。区域指定のある物件を、買取業者はむしろ好みます。「災害リスクがありますから」という一言で、相場の6割、7割まで値段を落とす口実になるからです。売主さんは不安になっているので、その説明を受け入れてしまう。
50年やってきて分かったことがあります。売主さんが一番弱くなるのは、自分の家の弱点を、相手から先に教えられたときです。
5. デメリットも正直に書きます
ここまで読んで、「ではレッドゾーンの家は絶望的なのか」と思われたかもしれません。正直に、マイナス面から申し上げます。レッドゾーンの物件は、確かに不利です。
- 買主が見つかるまでの期間が長くなる
- 銀行の担保評価が下がり、融資が付きにくいことがある
- フラット35が使えない場合がある
- 建て替えのときに構造の制約と追加費用がかかる
- 将来また売るときも、同じ説明が必要になる
特に4つ目は重い。レッドゾーンで建て替える場合、土砂の力に耐える構造にしなければなりません。壁を厚くする、待受け擁壁を造る。この費用が数百万円単位で乗ってきます。買主さんは、そこまで含めて計算します。
また、令和4年4月からは、都市計画法の改正で、市街化調整区域における災害レッドゾーンでの開発が原則として認められない方向に強化されました。土地としての将来の使い道が、はっきり狭まったということです。これらは事実です。隠しても仕方がありません。
ただ、もう一つの事実も申し上げます。イエローゾーンは、レッドゾーンほど深刻ではありません。実際、北区でイエローゾーンに入っている住宅地は相当な面積があります。すべてが売れないわけではありません。相場から極端に下がるわけでもありません。
そしてレッドゾーンでも、売れないわけではないのです。Aさんの家は、7か月かかりましたが売れました。大事なのは、正しく知って、正しく値付けして、正しく待つことです。
6. では、どうすればいいか
具体的な行動を4つ申し上げます。
一つ目。今すぐ調べてください。
神戸市のホームページで、ハザードマップは無料で見られます。ご自宅の住所を入れれば、色が分かります。兵庫県の土砂災害警戒区域の情報も公開されています。5分で終わります。
売る予定がなくても、見ておいてください。イエローなのかレッドなのか、それとも区域外なのか。この3つのどれかを知っているだけで、あとの判断がまったく変わります。
二つ目。土砂だけでなく、水も見てください。
洪水、内水、高潮、津波。北区は海から遠いので津波は関係ありませんが、川沿いの地域は洪水の浸水想定が入っています。有野川、山田川、志染川の流域です。
三つ目。売却を考えるなら、査定のときに自分から言ってください。
「うちは土砂災害警戒区域に入っています。それを踏まえた査定をしてください」
こう先に言うと、業者の対応がはっきり分かれます。きちんと調べて根拠のある数字を出してくる業者と、そこを飛ばして高い数字を出してくる業者。見分けるのに、これほど簡単な質問はありません。
四つ目。買う側なら、契約の前ではなく、内見の前に聞いてください。
「この物件のハザードマップ上の位置を教えてください」
この一言で聞けます。まともな業者なら、その場で地図を出してきます。渋る業者は、その時点で候補から外していい。
7. 地図の色より、地形を見てください
最後にもう一つだけ、50年の現場から申し上げたいことがあります。ハザードマップは万能ではありません。
区域の指定は、地形と傾斜のデータで機械的に引かれます。だから、実際の危険と完全に一致するわけではありません。指定されていないけれど水の集まりやすい土地は、北区にもあります。逆に、指定はされているけれど、上の斜面がしっかり対策工事されている土地もあります。
だから私は、お客様と一緒に必ず現地を歩きます。
- 雨の日の水の流れを見る
- 道路の側溝の向きを見る
- 擁壁の水抜き穴から水が出ているか見る
- 近所の古い家の基礎に、水のあとがないか見る
- そこに20年30年住んでおられる方に話を聞く
地図には出てこない情報が、いくらでもあります。「この道は台風のとき必ず川になる」「あの角の家は一度床下まで来た」。こういう話は、地元の人しか知りません。
擁壁とハザードマップは、実はつながっています。古い擁壁が崩れることを前提に区域が引かれている場所もあれば、擁壁の対策工事によって指定が見直された場所もあります。地図の色だけを見て判断すると、この関係を見落とします。
まとめ
もう一度、結論を申し上げます。ハザードマップは、命を守る地図であり、同時に値段を決める地図です。
イエローゾーンとレッドゾーンは別物です。レッドゾーンは建築と開発に規制がかかり、価格と売却期間に実際の影響が出ます。
北区は、家を建てたあとから指定された土地が非常に多い街です。「昔は何もなかった」は通用しません。
業者は法律上、契約前に説明する義務があります。けれど義務を果たすのと、誠実に伝えるのは別のことです。契約直前まで黙っている業者がいます。
そして、区域指定があっても売れないわけではありません。正しく知って、正しく値付けをすれば、買ってくださる方はいます。
損をするのは、区域に入っている人ではありません。区域に入っていることを知らないまま動き出した人です。
最後に、これだけは申し上げたい
ご自宅の住所を入れて地図を開くのは、少し勇気が要ります。色がついていたらどうしよう。値段が下がると言われたらどうしよう。そう思って、見ないまま何年も過ごしておられる方を、私は何人も知っています。
けれど、見ないでいる間も、地図の色は変わりません。変わるのは、あなたが選べる手の数だけです。早く知れば、対策工事という選択肢もある。時間をかけて売るという選択肢もある。子どもさんに相続させる前に整理するという選択肢もある。契約の3日前に知らされたら、選べるのは「やめる」か「飲む」かだけです。
もし色を見てしまって不安になられたら、そのままお持ちください。地図を印刷して持ってきていただいてもいいですし、住所を教えていただければこちらで確認します。売る売らないは、そのあとで決めていただければいい。
私は50年、この北区の坂道を歩いてきました。地図の色の裏側にある本当の話を、正直にお伝えします。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


