カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/21 06:35
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、神戸電鉄三田線の五社駅とその周辺についてお話しします。「岡場の隣なら安くて良いのでは」というご相談が、この二、三年で急に増えました。
理由ははっきりしています。岡場が高くなったからです。岡場で探して予算が届かず、一駅ずらして五社を見る。地図で見れば五社は岡場のすぐ隣、駅と駅の間はわずか1.7キロです。だったら少し安く、ほとんど同じ暮らしができるのではないか。そう思われるのは、まったく自然なことです。
ただ、ここで一歩立ち止まってください。その「一駅」の中身を確かめないまま契約された方を、私は何人も見送ってきました。そして、そのうちの何人かは、5年経ってから私のところへ相談に来られました。
結論から申し上げます
五社は、買っていい場所です。ただし、買っていい人と、買ってはいけない人が、はっきり分かれます。これは断言できます。
分かれ目は、たった一つです。車が生活の中心にある人かどうか。ここだけです。
車で動く暮らしをされる方にとって、五社は北区の中でもかなり良い場所です。阪神高速の出入口が目の前にあって、値段は岡場より安い。土地も広く取れる。悪い話がほとんどありません。
反対に、「駅から歩いて生活する」つもりの方にとって、五社は思っているより厳しい場所です。そして最近私のところに相談に来られるのは、決まって後者の方なのです。
1. まず、五社という駅を正確に押さえてください
「岡場の隣」という言葉だけが独り歩きしているので、事実から整理させてください。
五社駅は神戸電鉄三田線の駅です。新開地から数えて岡場のひとつ手前、三田側から見れば岡場の次にあたります。住所は神戸市北区有野町有野。有野小学校、有野中学校の校区で、近くには五社神社があります。
電車は、日中は普通と準急が中心です。急行は主に朝夕。朝の速い列車の中には、五社を通過するものもあります。新開地までは、乗る列車によりますが35分から45分ほど。三田までは15分から20分ほどです。
ここでもう一つ、大事なことを申し上げます。五社は、神戸方面にも三田方面にも「中途半端に近い」駅です。
これは弱点ではありません。むしろ、五社を語るうえで一番大事な特徴です。神戸市内へ通う人と、三田・宝塚方面へ通う人。両方が住める。共働きで勤務先の方向が違うご夫婦にとっては、これは本当にありがたい立地なのです。
50年やってきて分かったことがあります。夫婦で通勤方向が真逆のご家庭は、ほぼ例外なく「どちらにも中途半端な場所」で家を買っておられます。そして、その選択はたいてい正解です。
2. 「岡場の隣」の値打ちは、たしかにあります
まず良いところから正直に申し上げます。五社には、はっきりした強みが三つあります。
一つ目は、値段です。同じ築年数、同じ広さの中古住宅で比べて、五社は岡場より数百万円安い。私の実感で言えば、300万円から600万円は違います。この差は小さくありません。ローンの月々にすれば、一万円以上変わってきます。
二つ目は、土地の広さです。岡場の駅近くで50坪の土地を買おうとすると、なかなか大変です。五社の周辺なら、60坪、70坪の土地が普通に出てきます。駐車場を2台分取って、それでも庭が残る。これは車社会の北区では大きな価値です。
三つ目は、阪神高速です。阪神高速7号北神戸線の五社出入口が、すぐそこにあります。これは、実際に住んでみるとありがたさが分かります。
三田方面へ買い物に行くのも、神戸市街地へ出るのも、車なら本当に早い。私が知っているある方は、五社から三宮の職場まで、朝の時間帯でも車で40分ほどで通っておられます。電車と大差ありません。
そして「岡場の隣」であること自体も、たしかに値打ちです。岡場にはスーパーも医院も学習塾も揃っています。車で5分。買い物も通院も、岡場に頼れる。この安心感は、たとえば道場や二郎の奥の方とは比べものになりません。
ここまでは、業者の営業マンも同じことを言うでしょう。
3. 落とし穴その一。1.7キロは、歩ける距離ではありません
さて、ここからが本題です。五社と岡場の距離は約1.7キロ。「歩いて20分ちょっとですね」と言われて、なるほどと思う方が多いのですが、はっきり申し上げます。北区の1.7キロと、平野部の1.7キロは、別物です。
理由は、坂です。五社の周辺は、平らな土地ばかりではありません。少し入れば、すぐに上り下りがあります。夏の暑い日に、買い物袋を提げて、坂を含む1.7キロを歩いて帰る。これを毎週やれる方は、そう多くありません。しかも、雨の日があります。冬の朝、路面が凍る日もあります。
ここで業界の話を一つしておきます。不動産の広告で「駅徒歩○分」と書くとき、業界では道のり80メートルを1分として計算する決まりになっています。この計算に入らないものを並べます。
- 坂の上り下り
- 信号待ちの時間
- 手に提げた荷物の重さ
- 真夏の暑さ、真冬の路面
- 歩く人の年齢
つまり、広告に書かれた分数は「若くて元気で手ぶらの人が、平らな道を早足で歩いたとき」の数字です。
これは嘘ではありません。決まりに従って正確に書かれています。けれど、あなたの実際の生活時間ではありません。私は現地を見るとき、必ず自分の足で駅まで歩きます。77歳の足で歩いた時間のほうが、お客様の10年後、20年後の実感に近いからです。
4. 落とし穴その二。買うときより、売るときに効いてきます
これが、今日一番申し上げたいことです。五社の物件は、探されにくいのです。
家を探す方は、まず頭の中に地名を浮かべます。北区で探すなら「藤原台」「岡場」「鈴蘭台」。この三つが圧倒的です。「五社で探そう」と最初から決めて動く方は、ほとんどいません。
これが何を意味するか。あなたが五社の家を売りに出したとき、検索の入り口に立っている人の数が、岡場より少ないということです。買う人が少ないのではありません。あなたの家にたどり着く人が少ないのです。ここは似ているようで、まったく違います。
だから広告では、こういう書き方をされます。「岡場エリア」「岡場駅生活圏」「北神中央エリア」。物件概要をよく見ると、最寄り駅は五社です。しかしキャッチコピーには岡場と書いてある。
これは違法ではありません。物件概要に正しい駅名が書いてあれば、通ります。けれど、買う側から見れば、これは軽い誤解の種です。「岡場エリアの家か」と思って現地に行き、着いてから「あれ、岡場から結構あるな」と気づく。この時点で、心が半歩引きます。
半歩引いた人は、値段を叩きます。50年やっていると、この流れが手に取るように分かります。
5. 実例をお話しします
私が実際に関わった、二つの話をします。まず、五社を選んで正解だったCさんご夫婦です。
ご主人が48歳で三田の会社にお勤め、奥様が45歳で神戸市内の病院にお勤め。お子さんは小学生と中学生でした。ご夫婦の勤務先が真逆でしたから、どちらかに寄せると片方が必ず不幸になる。それで五社になりました。買われたのは築22年の中古住宅、土地68坪、2,180万円。駐車場は2台。
ご主人は毎日、阪神高速の五社出入口から三田へ。奥様は五社駅から電車で市内へ。買い物は週末にまとめて岡場のスーパーへ車で。5年経ちましたが、ご夫婦とも「これで良かった」とおっしゃいます。
なぜ良かったか。最初から車で暮らす前提で選ばれたからです。駅から歩く生活を、そもそも計算に入れていなかった。だから誤算が起きようがなかったのです。
次に、誤算が出たAさんご夫婦です。ご主人が52歳、奥様が50歳。もともと岡場で探しておられました。予算は2,300万円。ところが岡場で気に入った家は2,780万円で、どうしても届かない。
そこで営業マンが「一駅隣ならご予算内で出ますよ」と持ってきたのが、五社の築28年の家でした。2,180万円。土地は岡場の物件より15坪広い。ご夫婦は喜んで契約されました。ここまでは、悪い話ではありません。
問題は、そのあとです。Aさんのお宅は、駅まで徒歩13分と広告に書いてありました。実際に歩くと、後半に坂があります。そして奥様は車の運転をされません。
最初の1年は、頑張って歩いておられました。2年目から、駅までご主人が送るようになりました。3年目、ご主人が出張の日は、奥様は買い物に出られなくなりました。
Aさんが私のところに来られたのは、購入から6年目です。「駅前のマンションに移りたい」というご相談でした。
損をされたわけではありません。売却も無事に済みました。ただ、6年で買い替えれば、諸費用だけで200万円以上が消えます。この200万円は、最初に「奥様が運転しない」という一点を計算に入れていれば、払わずに済んだお金でした。
6. 業界の裏側。五社の家に「岡場の値段」がつく理由
Bさんは78歳。五社の家を相続で受け継がれて、売却を考えておられました。ある会社に査定を頼んだところ、3,180万円という数字が出てきました。
Bさんは驚かれたそうです。「そんなに高く売れるのか」と。そして、その会社に専任媒介を預けられました。
はっきり申し上げます。この3,180万円という数字には、からくりがあります。査定書に載っていた比較事例を、私はあとで見せていただきました。三件のうち二件が、岡場駅徒歩圏の成約事例でした。
これが、業界でよくある「高預かり」というやり方です。売主さんに一番喜ばれる数字を出して、まず媒介契約を取る。相場より高いことは、査定した本人が一番よく分かっています。
どうなるか。決まりません。2か月経ちます。3か月経ちます。すると営業マンが来て、こう言います。「反響はあるんですが、あと一歩なんです。少し価格を見直しませんか」
3,180万円が2,880万円になりました。それでも決まりません。半年後、2,680万円になりました。最終的にBさんの家が売れたのは、1年2か月後、2,480万円でした。
ここで一番怖いのは、価格が下がったことではありません。物件が枯れたことです。
不動産の広告は、出した最初の2週間が一番見られます。そこで動かず、値段だけがじりじり下がっていく物件は、業界の人間から見れば「何かある物件」に見えます。買う側の業者も「もっと下がるだろう」と待ちに入ります。
つまり、最初の一枚の査定書が高すぎたせいで、Bさんは1年2か月と、おそらく200万円以上を失ったのです。最初から2,650万円くらいで出していれば、3か月以内に決まっていた。これは断言できます。
そして買取査定の話も一言添えておきます。この手の流れで疲れ果てた売主さんに、最後に「うちで買い取りましょうか」と出てくる金額は、相場の7割前後です。Bさんは踏みとどまられましたが、踏みとどまれない方も見てきました。
7. デメリットを正直に申し上げます
良いことばかり言う不動産屋を、信用しないでください。五社の弱点を並べます。
- 駅前に商業施設がほとんどない。コンビニも車
- 日中は普通と準急が中心。朝の速い列車は通過するものがある
- 平坦ではない。同じ徒歩15分でも坂の有無で価値が変わる
- 周辺に農地が混ざり、隣地の将来が読みにくい
- 土地が広い割に、価格が伸びない
順に補足します。まず、岡場のような商業の集まりは、五社にはありません。「駅前で夕飯の買い物をして帰る」という暮らし方は、五社では成立しません。
電車の種別も、毎日のことですから小さくありません。岡場から乗れば座れて速い電車が、五社では選べない時間帯があります。
坂については、同じ「五社駅徒歩15分」でも、平らな15分と坂を含む15分では、20年後の価値がまったく違います。
農地は良し悪しです。景色が良く、風が通る。けれど、隣が農地だと将来そこに何が建つか読みにくい。日当たりや通風が、10年後に変わる可能性があります。私は必ず、隣地の地目まで確認するようにしています。
そして最後が一番大事です。70坪の土地に立派な家を建てても、売るときは「五社の相場」で評価されます。建物にお金をかけた分は、ほぼ戻ってきません。住むために買うなら、まったく問題ありません。けれど「資産として増える」と期待して買うなら、五社は違います。
まとめ
もう一度、結論を申し上げます。
五社は、車で暮らす人には良い場所です。値段が安く、土地が広く、高速が近く、岡場が使える。
五社は、駅から歩いて暮らす人には厳しい場所です。1.7キロは歩けません。坂があります。駅前に店がありません。
そして売るときには、「岡場」ではなく「五社」として評価されます。ここを最初に受け入れておけるかどうかで、10年後の満足度がまるで変わります。
50年やってきて分かったことがあります。土地で後悔する人は、買うときの値段だけを見ています。後悔しない人は、20年後に自分がその坂を歩けるかどうかを見ています。
最後に、これだけは申し上げたい
五社を見に行かれるなら、一つだけお願いがあります。平日の朝と、雨の日に、その家から駅まで歩いてみてください。
晴れた日曜の昼に、車で見に行ってはいけません。それは、あなたが実際に暮らす条件と違いすぎます。
そして、査定書を受け取ったら、比較事例の欄を必ず見てください。そこに岡場の物件が並んでいたら、その数字は少し疑ってかかってください。
私は、お客様に嫌われても本当のことを申し上げます。売ることより、損をさせないことのほうが大事だからです。
五社の家のことでも、岡場との違いのことでも、査定書の見方でも構いません。売る予定がなくても結構です。まずは一度、聞かせてください。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


