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古い擁壁で数百万円が飛んだ話
カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報  / 投稿日付:2026/08/30 09:04

こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。

今日は、擁壁(ようへき)の話をします。擁壁というのは、土地の高低差を支えているあのコンクリートや石積みの壁のことです。

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北区にお住まいの方なら、毎日その横を歩いておられるはずです。鈴蘭台、山の街、箕谷、藤原台。北区は坂の街ですから、擁壁のない住宅地を探すほうが難しいくらいです。

ところがこの擁壁、家を売るとき買うときに、数百万円を平気で吹き飛ばします。私はそういう現場を、50年で何十件も見てきました。

結論から申し上げます


擁壁は「あるかないか」ではありません。「いつ造られたか」で価値が決まります。

同じ高さ3メートルの擁壁でも、昭和45年に積まれたものと、平成20年に造られたものでは、土地の値段が数百万円変わります。

これは断言できます。そして怖いのは、売主さんご本人がその違いをまったくご存じないまま、売り出してしまうことです。


1. 造成年代で擁壁の中身がまるで違う


擁壁には世代があります。ざっくり分けると、こうです。

  • 昭和40年代まで … 玉石積み、空石積み、大谷石。鉄筋も水抜き穴もほとんど入っていないものがある
  • 昭和50年代〜平成初期 … ブロック積みや練積み。見た目は立派でも現在の基準に合っていないことがある
  • 平成中期以降 … 鉄筋コンクリート。図面も検査の記録も残っていることが多い

北区の古い住宅地は、昭和40年代から50年代に一気に造成されました。つまり、いま売りに出ている家の擁壁の多くが、一番説明の難しい世代なのです。


2. 「検査済証があるかどうか」がすべてを分ける


宅地造成の規制ができたのは昭和36年です。その後、平成18年に基準が強化され、令和5年からは盛土規制法という新しい法律に切り替わりました。法律が変わるたびに、擁壁に求められる中身は厳しくなってきました。

ここで一歩立ち止まってください。大事なのは「その擁壁が造られたときに、ちゃんと許可を取って、検査を受けているか」です。その証拠が検査済証です。

これが残っている土地は、話が早い。残っていない土地は、そこから交渉が始まります。


3. 買主の銀行が黙っていない


売主さんが一番驚かれるのが、ここです。買主さんが住宅ローンを申し込むと、銀行は担保として土地と建物を評価します。そのとき古い擁壁があると、こうなります。

  • 将来の造り替え費用を差し引いて評価される
  • 融資額が希望より少なくなる
  • 最悪、その物件では融資が下りない

買主さんに買う気があっても、銀行が首を縦に振らない。

50年やってきて分かったことがあります。契約が壊れるときは、買主さんの気持ちが冷めたからではなく、お金の道が塞がれたからです。


4. 直すと本当に数百万円かかる


擁壁のやり直しは、高い工事です。高さと長さと、重機が入れるかどうかで金額が決まります。北区の高台の家は、道が狭くて重機が入らない場所が多い。そうなると人力作業が増えて、費用は跳ね上がります。

擁壁の造り替えだけで数百万円。隣地との調整や土留め、仮設まで含めると、1000万円を超えた現場も見てきました。

しかも、この工事は家の中が一切きれいになりません。お金を払っても、住み心地は何も変わらないのです。


5. 買主が嫌がる本当の理由


買主さんが擁壁を嫌がるのは、修理代が高いからだけではありません。一番の理由は、いつ費用が発生するか誰にも分からないことです。

屋根や給湯器なら、だいたいの寿命が分かります。ところが擁壁は、20年もつかもしれないし、来年の大雨で膨らむかもしれない。北区は雨が降ります。六甲の北側は、思っている以上に降ります。

「よく分からない大きな出費が、いつか来る」。買主さんが背負いたくないのは、金額ではなくこの不安なのです。


Cさんの家で、実際に何が起きたか


鈴蘭台にお住まいだったCさん、当時72歳。築42年の一戸建てで、道路から1メートルほど上がった高台。奥はさらに下がっていて、その境に高さ3メートルほどの石積みの擁壁がありました。昭和45年の造成です。

Cさんは相場を調べて「3,180万円で出したい」とおっしゃいました。近所の売却事例からすれば、決して無茶な値段ではありません。

売り出して1か月半で、40代のご夫婦から買付が入りました。値段もほぼ満額。Cさんは喜んでおられました。

ところが、住宅ローンの本審査で止まりました。銀行の担当者が現地を見て、擁壁を指摘したのです。造成時の図面がない。検査済証もない。高さが3メートルある。

Cさんは市役所と法務局を回りましたが、書類は出てきませんでした。50年以上前の造成です。当時の記録が残っていないことは、珍しくありません。

そこで擁壁の専門業者に見てもらったところ、造り替えの見積もりは480万円。隣地の方との立ち合いも必要でした。

結局どうなったか。Cさんは造り替えをせず、その分を値段から引くことにしました。最終的な成約は2,700万円です。480万円が消えました。

Cさんが私に言われた一言を、今でも覚えています。

「50年住んどったけど、あの壁のこと、一回も考えたことなかったわ」

その通りだと思います。住んでいる間、擁壁は何も言いません。売るときに初めて口を開くのです。


もう一組、買う側の話もしておきます


藤原台で土地を探しておられたDさんご夫婦、40代。同じくらいの広さの土地が2つありました。一方は1,480万円、もう一方は1,180万円。300万円も違います。

Dさんは当然、安いほうに惹かれました。日当たりもよく、駅までの距離も変わりません。私は現地でこう申し上げました。

「この300万円の差は、値引きではありません。南側の擁壁の分です」

安いほうの土地は、南に高さ2.5メートルほどの古いブロック積みがありました。すでに一部が膨らんでいて、水抜き穴からは土が流れ出た跡がありました。

Dさんご夫婦は、高いほうの土地を選ばれました。

「300万円安く買って、10年後に500万円払うんですね」

そう言って笑っておられましたが、まさにそういうことなのです。安い土地には、必ず安い理由があります。


業界の裏側を、正直に申し上げます


はっきり申し上げます。擁壁について、きちんと説明しない業者がいます。

重要事項説明書の片隅に「擁壁あり」と一行だけ書いて、それで終わり。造成年代も調べない。検査済証の有無も確認しない。聞かれなければ言わない。

なぜか。言えば売りにくくなるからです。

査定のときに「この擁壁は将来お金がかかりますよ」と正直に言えば、売主さんは気を悪くされる。他社は何も言わずに高い査定を出してくる。だったら黙っていよう。そういう理屈です。

もうひとつ、買取業者の話もしておきます。擁壁のある土地に対して、買取業者は非常に厳しい値段を出してきます。相場の6割、5割ということもある。彼らは擁壁の怖さを知り尽くしているからです。プロだから、リスクを正確に値段に織り込む。

そして買い取ったあと、擁壁を直して、きちんと書類を揃えて、堂々と再販します。つまり、あの300万円や480万円は、消えてなくなっているわけではありません。誰かが払って、誰かが受け取っているのです。

知らない人が払い、知っている人が受け取る。50年見てきて、これが一番くやしいところです。


デメリットも、正直に書きます


ここまで読まれて「だから調べておくべきだ」と思われたと思います。ただ、正直にお伝えしておきたいことがあります。

調べると、売値は下がります。検査済証がないと分かってしまえば、それを買主さんに伝えなければなりません。伝えれば、値段は下がる方向にしか動きません。知らないふりをしていたほうが、一時的には高く売れます。

調査には時間もかかります。市役所、法務局、造成業者。書類を探して回ると、1か月ほどかかることもあります。急いで売りたい方には、正直しんどい期間です。

そして、直しても全額は返ってきません。480万円かけて擁壁を造り替えても、売値が480万円上がるとは限りません。私の実感では、乗るのは6割か7割です。

それでも私が「先に調べましょう」と申し上げるのは、契約後に発覚するのが一番損だからです。売り出す前に分かっていれば、値段の付け方も、売り出す時期も、買主さんへの伝え方も、こちらで組み立てられます。

契約後に出てくると、選択肢がありません。値引きに応じるか、白紙解約か。それだけです。Cさんの480万円は、まさにそこで消えました。


まとめ


もう一度申し上げます。擁壁は「あるかないか」ではなく「いつ造られたか」で価値が決まります。

昭和40年代から50年代の造成、高さ2メートル超、検査済証が見当たらない。この3つが揃ったら、数百万円が動く可能性があると思ってください。

そして、それは売り出す前に分かっていれば守れるお金で、契約後に出てくれば守れないお金です。

住んでいる間、擁壁は何も言いません。売ると決めたその日から、擁壁はしゃべり始めます。


最後に、これだけは申し上げたい


ご自宅の擁壁が何年に造られたものか、ご存じでしょうか。たいていの方は、ご存じありません。それが普通です。私も自分の家の擁壁の年代を、はっきり答えられる自信はありません。

けれど、売ると決めたなら、話は別です。その壁がいくらの意味を持っているのか、先に知っておいてください。

北区の高台の家を、私は50年見てきました。どのあたりが何年ごろに造成されたか、だいたい頭に入っています。現地を見せていただければ、擁壁の世代の見当はつきます。

「うちの壁、大丈夫やろか」

その一言で結構です。売る売らないは、そのあとで決めてください。

センチュリー21・ハートピア
田中章雄

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