カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/09/01 07:47
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、北区にお住まいの方、これから北区で家を買おうとされている方が必ず一度は不安になる「断層」の話をします。
先週、藤原台の中古戸建てを見に行かれたご夫婦から、夜に電話をいただきました。
「あきちゃんさん、あの家、断層の近くやと聞いたんですけど、やめたほうがいいですか」
奥様の声が、少し震えていました。
お話を聞くと、スマホで活断層の地図を見たそうです。真っ赤な線が、山のふもとを東西にすうっと走っている。その線と、見に行った家の場所が、地図の上ではすぐ近くだった。それで一晩眠れなかったと。
この電話、私は50年で何十回も受けています。そして毎回、同じことを申し上げています。
結論から申し上げます
断層を理由に、北区の家を諦める必要はありません。ですが、断層を知らないまま買うのは、もっといけません。
怖がりすぎるのも、知らんぷりするのも、どちらも損をします。
正しい順番は、位置を知る、確率を知る、そのうえで「断層より先に効くもの」を見る。この3つです。
そして50年やってきて分かったことがあります。北区で実際に家が壊れたのは、断層の真上ではありませんでした。
1. 有馬高槻構造線が、どこを通っているのか
北区の話をするとき、必ず出てくるのが「有馬高槻断層帯」、昔の言い方で「有馬高槻構造線」です。
長さはおよそ55キロ。西の端が神戸市北区、有馬温泉の西のあたり。そこから六甲山地の北側の縁を東へ走り、西宮市の北部、宝塚市を通って、高槻のほうまで抜けていきます。
つまり、北区の「南の縁」を、山にへばりつくように東西に走っている。これが実際の位置関係です。
ここで一歩立ち止まってください。多くの方が誤解しています。「北区イコール断層の上」ではありません。
有馬温泉、道場、山口町のあたりは断層帯に近い。一方で、藤原台、鈴蘭台、それに北の三田寄りのエリアは、断層帯からは離れています。
同じ北区でも、場所によって断層との距離はまったく違います。「北区だから危ない」という言い方は、地図を見ていない人の言い方です。
はっきり申し上げます。ご自身が買おうとしている家について知りたいなら、「北区は危ないか」ではなく、「この住所は断層から何メートルか」を調べてください。国土地理院の活断層図と、神戸市が出している地震ハザードマップ、この2つを住所で見れば、素人の方でも15分で分かります。
2. 「30年でほぼ0パーセント」という数字を、どう読むか
国の地震調査委員会が、この有馬高槻断層帯について長期評価を出しています。
想定される地震の規模はマグニチュード7.5程度。平均的な活動間隔は1000年から2000年。そして今後30年以内に地震が起きる確率は、ほぼ0パーセントから0.04パーセント。
この数字を見て、「なんや、ほぼゼロやないか」と安心する方がいます。半分正解で、半分間違いです。
なぜかというと、この断層帯は1596年、慶長の伏見地震で動いたと考えられているからです。前回動いてから、まだ430年ほどしか経っていない。平均間隔が1000年から2000年なら、次はまだ先、という計算になる。だから確率が低く出ます。
ですが、これは「あなたの家は地震に遭わない」という意味ではありません。
1995年1月17日、阪神淡路大震災。あれは有馬高槻断層帯が動いたのではありません。六甲淡路島断層帯のほうです。
つまり、有馬高槻の確率がほぼゼロでも、北区は揺れました。私の店の壁も割れました。
これは断言できます。断層帯ひとつの確率を見て安心するのは、まったく意味がありません。地震は、あなたが調べた断層以外からも来ます。
3. 業界の裏側。断層は、説明しなくていいことになっている
ここが、今日いちばんお伝えしたいところです。
不動産を売買するとき、宅建業者は「重要事項説明」というものをします。契約の前に、宅建士が書面を読み上げるあれです。
その説明項目に、「この物件は活断層から何メートルの位置にあります」という欄は、ありません。
法律上、活断層との位置関係は、独立した説明義務項目になっていないのです。
2020年8月からは、水害ハザードマップ上の位置を示すことが義務になりました。水害は義務。断層は義務ではない。これが今の実務です。
ですから、あなたが黙っていれば、営業マンも黙っています。
なぜ黙るのか。理由は単純です。言えば売れなくなるからです。
50年見てきて、断層まわりで営業がやることは、だいたい3つに分かれます。
- 何も言わない。聞かれてもいないのに、わざわざ客が怖がる話はしない
- 聞かれたら根拠なしに「大丈夫ですよ」とだけ言う
- 逆に使う。他社物件を落とすために「あちらは断層のすぐ近くですよ」と匂わせる
ふたつめが一番いけないと、私は思っています。みっつめは、同業として恥ずかしい話ですが、実際にあります。
そして買取業者です。
買取の査定で「このあたりは断層がありますからね」と切り出してくる担当者がいます。そう言われると、売主さんは弱くなる。相場3000万円の家が、2400万円まで下がったのを見たことがあります。600万円です。
聞くと、その業者は買い取った後、リフォームして普通に「駅から徒歩12分、南向き」と売り出していました。断層の「だ」の字も書いていません。
値を叩くときだけ断層を持ち出す。売るときは黙る。これが実態です。
4. 断層より先に効くもの。これが本題です
さて、ここからが本当に大事な話です。
50年やってきて分かったことがあります。北区で1995年に実際に家が大きく壊れたのは、断層の真上の家ではありませんでした。
壊れたのは、谷を埋めて造成した「盛土」の上の家、そして古い擁壁の上に建っていた家です。
地形が効くのです。
もともと谷だったところを土で埋めて平らにし、そこに家を建てる。北区の丘陵地では、昭和40年代から50年代にかけて、これがあちこちで行われました。
同じ団地の中で、切土のほうに建っていた家は無傷、盛土のほうに建っていた家は基礎が割れた。道一本はさんで、まったく違った。私はそれを自分の目で見ました。
それから、建物そのものの耐震です。1981年6月に新耐震基準になりました。さらに2000年6月に、木造の基準がもう一段しっかりしました。
築45年の家と、築20年の家では、揺れたときの挙動がまるで違います。
ですから、優先順位をこう考えてください。
- その家がいつ建ったか
- その土地が切土か盛土か
- 擁壁の状態と高さ
- 土砂災害警戒区域や浸水想定に入っていないか
- そして最後に、断層との距離
断層は、五番目です。順番を間違えないでください。
5. 実例。断層を気にして、地盤で失敗したAさん
Aさんご夫婦、ご主人52歳、奥様49歳。お子さんが2人。
藤原台の中古戸建て、築22年、2480万円。日当たりがよく、小学校まで徒歩7分。奥様は「ここがいい」とおっしゃっていました。
ところが契約直前、ご主人がネットで活断層の地図を見つけました。そして怖くなって、白紙になりました。
それから半年後、Aさんは別の物件を買われました。北区の別の団地、築28年、2180万円。300万円安い。私は仲介していません。後から「買いました」と報告に来られたのです。
図面を見せてもらって、私は言葉に詰まりました。
その土地、造成の谷埋め盛土でした。しかも南側に高さ3.5メートルの古い擁壁が乗っている。空石積みに近い、昭和のままの擁壁です。
「これ、擁壁の調査書はありましたか」
「いえ、特に何も」
「断層のことは聞かれましたか」
「そこは大丈夫やと言われました」
断層は大丈夫。擁壁は誰も何も言わない。
Aさんは今、その擁壁の補修見積もりを取っておられます。安いほうで480万円、やり直すなら1200万円と言われたそうです。
300万円安く買って、480万円から1200万円の宿題を背負われた。
はっきり申し上げます。Aさんは、悪くありません。
悪いのは、断層という分かりやすい言葉ばかりが世の中に出回っていて、盛土や擁壁という地味な言葉が誰にも届いていないことです。
6. 断層を理由に値切って、売り止めになったBさん
Bさん、38歳、買主さんです。山口町の中古戸建てを気に入られました。売り出し2680万円。
Bさんは非常に勉強熱心な方で、活断層図も読み込んでこられました。それ自体は立派なことです。
ですが、交渉のときにこうおっしゃった。
「ここ、断層のすぐ近くですよね。500万円引いてもらえませんか」
売主さんは78歳の女性で、その家に48年住んでこられた方でした。ご主人を看取った家です。
その言葉を聞いて、売主さんは黙って席を立たれました。翌日、私に電話が来ました。
「あの方には売りません」
結局その家は、2週間後に別の方が2600万円で買われました。80万円の値引きです。
これは覚えておいてください。断層は、価格交渉のカードにはなりません。実務上、断層を理由に値が下がることは、ほぼありません。近所の相場が同じように断層の近くにあるからです。
そして、売主さんは人間です。48年住んだ家を「断層だから安くしろ」と言われて、気持ちよく売る人はいません。
知識は、自分の判断のために使ってください。人を叩く棒にすると、良い買い物を逃します。
7. デメリットも、正直に申し上げます
ここまで「怖がりすぎるな」と書いてきました。ですが、良いことばかり言うのは不動産屋の悪い癖なので、マイナス面も書きます。
ひとつめ。将来売るとき、買主さんが気にする可能性は、今より高くなります。
私が若い頃、断層を気にする人はほとんどいませんでした。今は違います。スマホで誰でも地図を見ます。10年後、20年後は、もっと気にされるでしょう。断層帯の直上に近い土地は、将来の売却で「一言説明が要る土地」になります。これは事実なので、書いておきます。
ふたつめ。地震保険はお金がかかります。
兵庫県の木造住宅なら、保険金額1000万円あたりで年間2万円台から3万円台が目安です。建物2000万円と家財500万円をつければ、年間で6万円から7万円になることもあります。10年で60万円以上です。
しかも地震保険は、火災保険の保険金額の半分までしか掛けられません。全部は戻りません。
それでも私は「入ってください」と言います。50年見てきて、地震保険に入っていた方と入っていなかった方の、その後の落ち着き方が全然違うからです。
みっつめ。断層の位置は、絶対的なものではありません。
活断層図は調査に基づいた推定です。地下のことですから、線が1本きっちり引けるわけではない。「この線から10メートル外だからセーフ」という読み方はできません。
だから私は「距離」より「地盤と建物」を見なさいと申し上げるのです。
まとめ
もう一度、結論を申し上げます。断層を理由に、北区の家を諦める必要はありません。
有馬高槻断層帯は、北区の南の縁を東西に走っています。今後30年の発生確率は、ほぼ0から0.04パーセントと評価されています。
ですが、確率が低いことは、安心してよい理由にはなりません。1995年に北区を揺らしたのは、別の断層でした。
地震は必ず来ます。問題は「どこで」ではなく、「来たときに、あなたの家が耐えられるか」です。
ですから、見るべきものはこの順番です。
- いつ建った家か。1981年より前か後か、2000年より前か後か
- 切土か、盛土か
- 擁壁はあるか、あるなら高さと状態はどうか
- 土砂災害や浸水の区域に入っていないか
- そして最後に、断層との距離
これは断言できます。断層より、あなたが買おうとしている家の築年数と、その下の土の履歴のほうが、はるかに大事です。
そして、断層のことを聞いても「大丈夫ですよ」としか答えない業者は、信用しないでください。
まともな業者なら、こう答えます。「ハザードマップと活断層図をお持ちしますので、一緒に見ましょう。それより、この土地は造成図を取り寄せたほうがいいです」と。
答え方で、その業者が本当に地元を知っているか分かります。
最後に、これだけは申し上げたい
冒頭のご夫婦は、その後どうされたか。
私は活断層図と神戸市の地震ハザードマップ、それに昭和48年の造成図を取り寄せてお持ちしました。3つを並べて、1時間ほど説明しました。
その家は断層帯から2キロ以上離れていて、切土側で、擁壁もありませんでした。築22年で新耐震です。
奥様は地図を見ながら、「なんや、私、何を怖がってたんやろ」と笑われました。
怖いのは、断層ではありません。何も分からないまま判断することです。分かってしまえば、たいていのことは怖くありません。
北区の土地のこと、地形のこと、造成の履歴のこと、なんでも聞いてください。図面を持ってきていただければ、その場でお調べします。「ここ、どうなんやろ」というだけの、ふわっとした相談で構いません。
売る予定がなくても、買う予定がなくても、私は同じようにお答えします。50年分の記憶は、使ってこそ意味があります。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


