カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/17 08:05
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、有野台と鹿の子台。この二つの住宅団地の「今」と「20年後」についてお話しします。
私はこの二つの団地が、まだ山を削っている段階のころから見てきました。造成中の赤土を見て、「ここに何百軒建つんやろう」と思っていた場所に、実際に家が建ち、子どもが生まれ、その子が独立して、今また空き家になりはじめている。
50年やっていると、団地というものが生まれてから老いるまでを、まるごと一周見ることになります。
有野台にお住まいの方、鹿の子台にお住まいの方。それから、これから買おうと思っている方。今日の話は、少し耳が痛いかもしれません。でも、知らないまま20年経つほうが、はるかに損をします。
結論から申し上げます
有野台と鹿の子台は、20年ずれた同じ道を歩いています。
今の有野台で起きていることが、20年後の鹿の子台で起きます。これは断言できます。
そして、もう一つ申し上げます。同じ団地の中でも、20年後に「普通に売れる家」と「ほとんど値段がつかない家」に、はっきり分かれます。分かれ目は建物ではありません。土地の場所と、坂と、バスです。
1. 有野台と鹿の子台は、20年ずれた双子です
まず、この二つの団地の成り立ちを整理させてください。
有野台は昭和40年代の分譲です。当時は「郊外に庭付きの一戸建て」というのが夢の形でした。三十代の働き盛りのご夫婦が、思い切ってローンを組んで買われた。あのころ、私も何件かお手伝いしました。
その方たちが今、どうなっているか。八十代です。お子さんは大阪や神戸市内、あるいは東京に出て、もう帰ってきません。
鹿の子台は平成に入ってからの分譲です。バブルの余韻がまだあって、「三田や北神の新しい街」として売り出されました。買われたのは、やはり三十代から四十代のご夫婦です。
その方たちが今、六十代から七十代です。お子さんは、やはり独立されています。
つまり、二つの団地は同じ形をしていて、時計だけが20年ずれているのです。有野台の今日は、鹿の子台の20年後です。
有野台で今起きていること。それは、一つの町内で空き家が目に見えて増えたことです。私が最近声をかけていただいたある区画では、10軒並んだ通りのうち、3軒がもう誰も住んでいませんでした。雨戸が閉まりっぱなしで、庭木だけが元気に伸びている。あの光景を見ると、いつも胸が痛みます。
これが20年後の鹿の子台で起きないと思う理由が、私には一つも見当たりません。
2. 20年後の値段を決めるのは、坂とバスです
ここで一歩立ち止まってください。
多くの方が、20年後の家の値段は「建物がどれだけ傷んでいるか」で決まると思っておられます。違います。
はっきり申し上げます。20年後の値段を決めるのは、坂とバスです。
有野台も鹿の子台も、山を削ってつくった団地です。ですから、区画によって高さが全然違います。バス停から平坦に歩ける区画もあれば、バス停から急な坂を5分登る区画もある。分譲当時、この差はほとんど値段に出ませんでした。むしろ「高台で見晴らしがいい」と言って、坂の上のほうが高く売れたくらいです。
ところが50年経つと、まったく逆になります。
買う人の年齢が上がっているからです。今、団地の中古住宅を買われるのは、三十代の子育て世帯だけではありません。五十代、六十代の方も買われます。その方たちは、20年先の自分の足を考えます。坂の上は、真っ先に候補から外れます。
そしてバスです。有野台も鹿の子台も、駅まではバスが前提の区画が多い。このバスの本数が、これから増えることはありません。人が減れば減ります。減れば、また人が減ります。これが一番怖い循環です。
もう一つ、擁壁です。全部がダメとは言いません。けれど、
- 擁壁が古く、高さが2m以上ある
- 道路から3m以上高い、または下にある
- 敷地内に大きな段差がある
- 擁壁に古い空石積みが使われている
こういう区画は、20年後に売るとき必ず値段を引かれます。買主が住宅ローンを組もうとしたときに、金融機関や検査で引っかかることがあるからです。擁壁をやり直すとなれば、規模にもよりますが300万円から場合によっては600万円かかります。その分は、そのまま売値から引かれます。
3. 同じ団地の中で、値段が二つに割れます
50年やってきて分かったことがあります。
団地というのは、老いるときに、まんべんなく老いません。中で二つに割れます。
バス停に近く、平坦で、間口が広く、駐車場が2台とれる区画。ここは20年後もちゃんと売れます。買い手がつきます。
坂の上、間口が狭く、駐車場が1台やっと、擁壁付き。ここは20年後、値段の話ではなく「買い手が現れるかどうか」の話になります。
同じ団地、同じ分譲年、同じ広さでも、この差は倍以上つきます。実際に今の有野台で、私はそれを見ています。
これから鹿の子台で家を買おうという方は、この話を必ず覚えておいてください。今は「新しい街だから」でどの区画もそれなりの値段がつきます。でも20年後、あなたの家を買う人は、街全体ではなく、あなたの区画だけを見ます。
4. 有野台のTさん(79歳)が、1年半売れなかった理由
具体的な話をします。
Tさんは有野台にお住まいだった79歳の男性です。奥様を亡くされて、大阪にいる娘さんのところに移ることになりました。
建物は築48年。土地は65坪あります。庭も広い。Tさんご本人は、この家に大変な誇りを持っておられました。当たり前です。若いころに必死で働いて建てた家ですから。
Tさんは最初、別の会社に相談されました。そこで出てきた売り出し価格が「1,580万円」です。Tさんは喜ばれました。
私はその話を後から聞いて、正直「ああ」と思いました。
その区画は、バス停から坂を4分登ったところにありました。しかも道路から1.8m高く、玄関まで階段が11段あります。駐車場は1台分しかありません。
売り出して3か月、内見ゼロ。半年で1組。1年経って、まだ売れていません。
Tさんが私のところに来られたのは、売り出しから1年3か月経ってからでした。「もう疲れました」と言われました。
その1年3か月、Tさんは大阪から月に1回、電車とバスを乗り継いで草刈りに戻っておられました。固定資産税は年11万円。庭の管理を業者に頼んだ分が年6万円。売れないまま、お金と体力だけが出ていきました。
最終的に、980万円で成約しました。最初の値段から600万円下がっています。
ここで申し上げたいのは、「1,580万円が嘘だった」ということではありません。もっと大事なことです。
最初の3か月を、間違った値段で使ってしまったことが、一番の損だったのです。
家は、売り出した直後が一番よく見られます。北区で家を探している人は、そんなに大勢いません。その限られた人たちが、売り出し初日に「1,580万円、坂の上、階段11段」を見て、そっと閉じてしまった。半年後に値段を下げても、その人たちはもう戻ってきません。これを私たちは「物件が枯れる」と言います。
Tさんの家は、最初から1,180万円で出していれば、おそらく4か月で1,100万円前後で売れていました。600万円下げた最後の値段より、100万円以上高く、1年早く終わっていたはずです。
5. 鹿の子台のMさんご夫婦が、まだ間に合った話
もう一組、ご紹介します。
鹿の子台にお住まいのMさんご夫婦です。ご主人が68歳、奥様が65歳。築29年の家です。
Mさんご夫婦は、まだお元気でした。だからこそ動かれた。「今なら自分たちで選べるうちに動ける」と言われたのが印象に残っています。
Mさんの区画は、バス停から平坦に3分、駐車場2台、擁壁なし。私が見て「これは大丈夫です」と申し上げられる条件でした。
売り出し2,480万円。3か月で、2,380万円で成約しました。買われたのは、三田で借家住まいだった40代のご夫婦とお子さん二人です。
Mさんご夫婦は、その資金で神戸電鉄の駅前のマンションに住み替えられました。今も年賀状をいただきます。「買い物が徒歩3分になりました」と書いてありました。
私がここで言いたいのは、Mさんが得をした、という話ではありません。
Mさんが動かれたのは68歳です。もしMさんが85歳まで待っていたら、そのとき鹿の子台は今の有野台と同じ状態になっています。売れる家と売れない家に割れて、内見に来る人の数そのものが減っている。
団地の家は、あと10年待てば高くなる、ということがありません。これは断言できます。待った分だけ、必ず条件が悪くなります。
6. 業界の裏側を申し上げます
ここからは、同業者に嫌われる話です。それでも書きます。
まず「高預かり」です。
Tさんに1,580万円という値段を出した会社を、私は責める気はありません。ただ、あれには理由があります。
売主さんに媒介契約を結んでもらうためには、他社より高い値段を言うのが一番手っ取り早いのです。売主さんは、高く言ってくれた会社を選びます。人情として当然です。
そして契約を取ったあと、3か月ごとに少しずつ「反響が弱いので」と値下げを提案してくる。これが高預かりです。最初から売れないと分かっている値段で預かって、時間をかけて相場まで落としていく。売主さんは1年かけて疲れ切って、最後に業者の言う値段で売ります。
団地の高齢の売主さんは、この手口の標的になりやすい。ご本人が相場を調べる手段をお持ちでないからです。
次に「囲い込み」です。
自分の会社で買主も見つければ、売主と買主の両方から手数料をもらえます。これを両手と言います。ですから他社から「お客さんを案内したい」と言われても、「今、商談中でして」と断る会社があります。これが囲い込みです。売主さんには「反響がありません」と報告されます。実際には反響はあったのに、です。
有野台や鹿の子台のような団地では、これが特に効きます。買い手の絶対数が少ないので、一組断られただけで数か月遅れるからです。
最後に「買取」です。
高齢の売主さんに「すぐ現金になりますよ」という提案をする会社は多いです。実際、便利な制度ではあります。相続で急いでいる方や、遠方の方には有効な場合もあります。
ただし、値段の中身は知っておいてください。買取業者は、リフォームして転売します。その利益と経費が引かれます。ですから、市場で980万円で売れる家の買取価格は、だいたい600万円から700万円です。
Tさんの家も、途中で買取の話が来ていました。620万円でした。もしあのとき疲れて頷いていたら、360万円失っていたことになります。
「すぐ現金」の代金は、360万円です。それを知ったうえで選ぶなら、私は反対しません。知らないまま選ぶのが、一番いけないのです。
7. デメリットも、正直に申し上げます
ここまで読んで「じゃあ団地の家は買ってはいけないのか」と思われたかもしれません。そうではありません。私は正直に両面を書きます。
有野台と鹿の子台には、はっきりした良さがあります。
- 土地が広い。60坪から70坪あります。市内の建売の倍です
- 道が広く、区画が整っている。生活しやすい
- 学校と公園が近い。子育てには本当に良い環境です
- 今、値段が下がっているので、同じ予算で市内よりずっと広い家に住めます
これは事実です。ですから、「20年後に高く売る」ことを目的にしないのであれば、団地の中古住宅はかなり良い選択です。
ただし、デメリットも同じだけあります。
- 車が2台いる家庭が多く、維持費がかかります
- 坂と階段は、20年後の自分の膝に効いてきます
- バスの本数は、今後増えません
- 築40年を超える建物は、水回りと屋根と外壁で300万円から500万円のリフォームを覚悟してください
- そして一番大きいのは、資産としては目減りする前提で買う必要があるということです
私は、この最後の一つを黙っている業者が多すぎると思っています。「まだまだ価値がありますよ」と言うのは簡単です。でもその言葉で買った方が、20年後に困るのを私は何度も見てきました。
まとめ
もう一度申し上げます。
有野台と鹿の子台は、20年ずれた同じ道を歩いています。今の有野台は、20年後の鹿の子台です。
20年後の値段を決めるのは、建物の綺麗さではありません。坂とバスと擁壁です。
同じ団地の中で、値段は二つに割れます。バス停から平坦で、駐車場が2台とれて、擁壁のない区画は、20年後も売れます。それ以外は、値段ではなく買い手がいるかどうかの勝負になります。
そして、待っても高くはなりません。団地の家は、動ける年齢のうちに動いた人が一番損をしません。Tさんは79歳で動いて1年半苦しみ、Mさんは68歳で動いて3か月で終わりました。この差は、家の差ではなく、動いた時期の差です。
最後に、これだけは申し上げたい
もしあなたが今、有野台や鹿の子台に家をお持ちで、いずれは、と思っておられるなら。
売る売らないは、まだ決めなくて結構です。ただ、今のご自宅がどういう条件で、いくらで、どのくらいの期間で売れる場所なのか。それだけは、一度知っておいてください。
知ったうえで「まだ住む」と決めるのは、まったく問題ありません。私が心配しているのは、知らないまま10年経って、いざ動こうとしたときに選択肢が残っていない、という状況です。
私は50年、この地域だけを見てきました。有野台のどの通りが売れて、鹿の子台のどの区画が強いか、頭に入っています。値段を高く言って喜ばせることはしません。その代わり、本当のことを申し上げます。
お茶を飲みながらの世間話で構いません。お気軽にお声がけください。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


