カテゴリ:あきちゃんの不動産お役立ち情報 / 投稿日付:2026/08/22 06:41
こんにちは。神戸市北区で50年、不動産屋をやっております田中章雄、通称あきちゃんです。
今日は、私の地元である神戸市北区の中でも、いちばん有名な場所の話をします。有馬温泉です。
有馬の不動産は、年に何度か「買いたい」というご相談をいただきます。大阪や東京の方からです。
「有馬に別荘を持ちたい」「古い旅館を買って宿をやりたい」「温泉付きの家を安く買えると聞いた」。
お気持ちはよく分かります。有馬は日本最古の温泉と言われる場所で、名前だけで人が集まる力があります。神戸の三宮から30分ちょっと。大阪からでも1時間かかりません。山の中なのに都会から近い。こんな場所は全国でもそう多くありません。
けれど、私はこの50年で、有馬の物件で泣いた人を何人も見てきました。
結論から申し上げます
有馬温泉の不動産は、不動産の素人が手を出していい場所ではありません。
理由は3つです。温泉が引けるかどうかが物件では決まらないこと。宿をやるには買った後に大きなお金がかかること。そして、売りたいときに買い手がいないことです。
はっきり申し上げます。有馬の物件が安いのは、お買い得だからではありません。安くしないと誰も買わないからです。
1. 「温泉が付いている」と「温泉が引ける」はまったく別の話
これがいちばん多い誤解です。
有馬の物件情報に「温泉権付き」「温泉引込可」と書いてあるのを見て、買えば蛇口をひねれば温泉が出ると思われる方がいます。
そうではありません。
有馬の温泉は、源泉の数が非常に限られています。金の湯、銀の湯と言われる湯を、湯元から配管で各施設に分けて配っている。この「分けてもらう」権利のことを、現場では分湯とか配湯と呼びます。
ここで覚えておいてほしいことが3つあります。
- その権利が土地に付いてくるのか、建物や事業者に付いているのか
- 権利を引き継ぐのに承認や名義変更の手続きがいるのか
- 毎月いくら払うのか(給湯料は月に数万円という単位です)
「温泉権付き」と書いてあっても、実際に組合や湯元に確認したら「その権利はもう休止扱いになっている」「復活させるには新たに手続きと費用が必要」という話が出てくることがあります。
これは断言できます。有馬で温泉を当てにして買うなら、契約する前に、必ずご自身で温泉の管理をしている先に確認してください。仲介の説明を鵜呑みにしてはいけません。
新しく源泉を掘って自分で温泉を出す、というのは有馬では現実的ではないとお考えください。
2. 旅館・簡易宿所は、買った瞬間に消防と保健所が待っている
「古い旅館が安く出ている。買って自分で宿をやりたい」
これも本当によくあるご相談です。
宿をやるには、旅館業法の許可がいります。民宿のような形なら簡易宿所営業という区分になります。ここで問題になるのが、建物です。
50年やってきて分かったことがあります。有馬の古い旅館というのは、たいてい建てられた当時のルールで建っています。当時は合法でも、今の消防法や建築基準法の基準には合っていないことが多い。いわゆる既存不適格という状態です。
宿として営業を再開しようとした瞬間、消防署から自動火災報知設備、誘導灯、避難経路、防炎カーテンといった指摘が入ります。木造の3階建てなら、なおさら厳しい。保健所からは、客室と厨房と浴室の構造、洗面設備、換気の話が出ます。
さらに、もし建物を別の用途に変えるなら、建築確認の手続きが必要になる場合があります。今の制度では、変更する部分の床面積が200平方メートルを超えると用途変更の確認申請が要ります。設計事務所への費用も、工事費も、ここから積み上がっていきます。
そして、有馬は山の中です。坂道で、道が狭く、大型の工事車両が入りにくい場所がたくさんあります。同じ工事でも、平地の物件より運搬と足場と人件費で1.2倍から1.5倍かかることが珍しくありません。
「建物が安い」と喜んで買って、直す見積もりを取ったら建物の値段の倍だった。こういう話を、私は何度も聞いています。
3. 別荘地は、道と水道で足を取られる
有馬とその周辺には、昭和の時代に開発された別荘地があります。土地が広くて、値段が驚くほど安い。180坪で数百万円という物件も出てきます。
これを見て「土地が180坪で400万円台なら安い」と思われる。分かります。私も数字だけ見れば安いと思います。
けれど、こういう土地で必ず確認しないといけないことがあります。
- 道が公道か私道か。私道なら誰の名義で、通行と掘削の承諾は取れるのか
- 上水道が市の水道か、地区の給水組合の水か。組合なら加入金と分担金はいくらか
- 排水は下水道か浄化槽か。浄化槽なら設置費用と保守点検費用がかかる
- 別荘地の管理組合があるなら、管理費は年にいくらか。滞納分を引き継がないか
- 冬に凍結や積雪で車が入れなくなる場所ではないか
北区の山手は、真冬に路面が凍る場所があります。有馬の高いところも同じです。年に数回でも、車が上がれない日があるということです。
そして、こういう土地は固定資産税が安い代わりに、維持費が毎年出ていきます。使っても使わなくても出ていく。ここを計算に入れていない方が本当に多い。
4. 有馬は「観光地の値段」で売られている
これも正直に申し上げます。有馬の物件は、周辺の北区の相場とは違う値段が付いています。
同じ神戸市北区でも、藤原台や岡場の住宅地は、駅からの距離と築年数で相場がだいたい決まります。売れる値段の説明がつく。
ところが有馬は「有馬だから」という理由で値段が上乗せされます。売る側も「有馬ですから」と言う。買う側も「有馬なら」と思ってしまう。
はっきり申し上げます。この上乗せ分は、あなたが売るときには返ってきません。
なぜなら、有馬の物件を買う人は、有馬に思い入れがある人か、事業として計算できる人か、そのどちらかしかいないからです。
思い入れで買う人は、いつも市場にいるわけではありません。事業で計算できる人は、上乗せされた値段では買いません。だから、買うときは高く、売るときは安い。
これは、観光地の不動産に共通する話です。軽井沢でも、白浜でも、同じことが起きています。
5. 実際にあった話をします
大阪市内にお住まいだったAさん、64歳。会社を役員で退かれた方でした。
Aさんは、有馬の温泉街から少し外れたところにある元旅館を見つけてこられました。木造3階建て、築52年、部屋数は8室。売り出し価格は4,800万円でした。
「ここを小さな宿にして、老後の生きがいにしたい」
そうおっしゃっていました。私のところには、買う前のセカンドオピニオンとして相談に来られたんです。
私はまず「見積もりを取ってから決めてください」とだけ申し上げました。結果です。
- 消防設備の一式で約1,100万円
- 屋根と外壁で約1,400万円
- 給排水と浴室の全面やり直しで約2,600万円
- 客室の内装と空調で約1,900万円
- 厨房と保健所対応で約700万円
- 設計と各種申請で約500万円
合わせて8,200万円という数字が出ました。物件が4,800万円、工事が8,200万円。合わせて1億3,000万円です。
Aさんは、この数字を見て買うのをやめられました。
その後、この物件がどうなったかというと、2年ほど売れ残って、最終的に2,900万円まで下がって業者が買いました。買ったのは、宿泊事業を何棟もやっている会社です。
ここに、この話の本質があります。素人が4,800万円で買おうとしていた物件を、プロは2,900万円でしか買わない。プロは工事費を先に計算しているからです。
Aさんは、私にこう言われました。「あの時止めてもらってなかったら、退職金が全部消えてました」
もう一つ、売る側の話もします。
北区にお住まいのCさん、70歳。お父様が有馬で小さな貸間をやっておられて、それを相続された方です。建物は木造2階建て、築60年近く、部屋は4つ。
Cさんは最初、1,800万円で売りに出されました。1年経って問い合わせゼロ。980万円に下げました。それでも半年、内見が2件だけ。最後は680万円で、地元の工務店が買いました。
Cさんは、毎年の固定資産税と、火災保険と、草刈りと、台風のたびの見回りに、3年間で100万円近く使っておられます。
有馬の建物は、放っておくと本当に売れなくなります。
6. 業界の裏側を申し上げます
なぜ、有馬の難しい物件が、遠方の素人の方のところに回ってくるのか。
理由ははっきりしています。地元のプロが買わないからです。
地元の業者は、有馬の物件の中身を知っています。どの区画の温泉権が生きていて、どこが休止しているか。どの道が私道で、誰の承諾がいるか。どの旅館が何年前にどんな指摘を受けたか。だいたい把握しています。
だから、地元で回している間に、良い物件は地元で消えます。
残ったものが、ポータルサイトに出ます。そして「有馬温泉 温泉権付き 4,800万円」という見出しで、遠方の方の目に留まる。
このとき、売る側の営業トークは決まっています。
- 「有馬は今インバウンドで宿泊需要が伸びています」
- 「温泉付きの物件はもう出ません」
- 「他にも検討されている方がいます」
3つ目は特に気をつけてください。2年売れ残っている物件で「他にも検討中の方が」と言われたら、それは急がせるための言葉です。
もう一つ、業界の話をします。有馬の物件を扱う業者の中には、買った後の工事まで自分のところでやる会社があります。物件の仲介手数料と、リフォーム工事の利益と、両方取る形です。
これ自体が悪いわけではありません。ただ、そういう立場の会社に「この物件、いくらで直りますか」と聞いても、正直な数字が出てくるとは限りません。安く見せて売って、着工してから追加が出る。よくある話です。
工事の見積もりは、必ず、その物件の仲介と関係のない業者からも取ってください。これだけは守っていただきたい。
7. それでも「あり」な場合はあります
ここまで散々申し上げましたが、有馬が絶対にダメだとは言いません。私が「これならあり」と思うのは、次のような場合です。
一つ目。現金で買えて、その金額が無くなっても生活が変わらない場合。
つまり、収益を計算せずに「趣味」として持てる方です。年に何度か行って、ご自身とご家族が温泉に入る。それだけで元が取れたと思える方。この場合、出口の話はほとんど関係なくなります。
二つ目。宿泊事業をすでにやっていて、運営の仕組みがある場合。
清掃の手配、予約サイトの管理、価格の調整、クレーム対応。これを回せる体制がある方なら、有馬という立地は強い武器になります。人が来る場所であることは間違いないんです。
三つ目。もともと有馬に縁があって、地元に相談できる相手がいる場合。
親戚がいる、昔から知っている工務店がある、組合に話が通る人がいる。有馬は、そういう横のつながりで動く部分が今もあります。地元に一人でも味方がいるかどうかで、話の通りやすさが変わります。
逆に言えば、この3つのどれにも当てはまらないなら、私はおすすめしません。
8. デメリットも正直に書きます
ここまで読んで「あきちゃんは有馬を否定している」と思われたかもしれません。私の意見にもデメリットがあります。正直に書きます。
まず、私は慎重すぎるところがあります。50年この仕事をやって、失敗した人ばかりを見てきたからです。うまくいった人は、わざわざ不動産屋に報告に来ません。だから私の頭の中には、失敗例が偏って溜まっています。
実際、有馬で宿を始めて、きちんと利益を出しておられる方はいます。私が知っている範囲でも何組かおられます。共通しているのは、買う前に半年以上かけて調べていることと、運営を人任せにしていないことです。
もう一つ。私が「やめておきなさい」と言うことで、機会を逃す方もおられるはずです。
有馬という場所の力は、本物です。日本最古の温泉という看板は、他では作れません。三宮から30分という距離も、代わりが効きません。その価値を、私の慎重さが見えなくしてしまうことはあると思います。
だから、私は「買うな」とは言いません。「素人のまま買うな」と言っているんです。
半年勉強して、地元に足を運んで、複数の業者から見積もりを取って、温泉組合に自分で確認して、それでもやりたいと思うなら。そのときはもう、あなたは素人ではありません。
まとめ
有馬温泉の不動産について、もう一度申し上げます。
- 温泉権は物件に付いているとは限らない。契約前に自分で確認する
- 古い旅館は、買った後に物件価格の1倍から2倍の費用が積み上がる
- 別荘地は、道と水道と管理費で毎年お金が出ていく。使わない年も出ていく
- 有馬の値段には「有馬だから」の上乗せが乗っていて、売るときに返ってこない
そして、いちばん大事なこと。
出口を先に考えてください。買う話ではなく、売る話を先にするんです。「10年後、これを誰がいくらで買うか」。この問いに自分の言葉で答えられないなら、買ってはいけません。
これは断言できます。有馬に限らず、不動産で失敗する人は全員、入口だけ見て出口を見ていません。
最後に、これだけは申し上げたい
私は神戸市北区で50年、この仕事をやってきました。有馬は、私にとって隣町のような場所です。
だからこそ、遠くから来られた方が有馬の物件で痛い目に遭われるのを見るのが、いちばんつらいんです。
有馬の物件を検討しておられる方。買う前に、一度お話を聞かせてください。
「この物件、どう思いますか」
それだけで結構です。私は、その物件を売る立場ではありません。だから、正直な話ができます。止めた方がいい物件なら止めますし、良い話なら良いと申し上げます。
有馬に土地や建物をお持ちで、どうしようか迷っておられる方も同じです。放っておくと売れなくなる場所です。動くなら早い方がいい。
相談だけなら、お金はいただきません。
センチュリー21・ハートピア
田中章雄


